屯田物語

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検温器の憂鬱・起き上がる

2019年12月20日 | 春を呼ぶ朝
大村正次著「春を呼ぶ朝」―御手―
  検温器の憂鬱

 祈るがごと
 恐ろしきごと
 検温器をのぞきこむ母の顔
 今日も青白く曇れる

 吾すこし快しとて母の誠に背き
 抜け出でて秋の濱風にあたり
 盛り返したる病熱は
 痩身の體に喰ひ入りて
 今日もとれじ

  起き上がる

 おゝ母を思へば
 かなしめる母を思へば
 石にしがみついても生きねばならぬと
 家の中
 握りこぶしをかため
 ふと真夜中に起ちあがりたる。

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