前回の訳で「 Il sifflait 」の箇所を口笛を吹いていた
と訳しましたが、「歌う」としている訳本もあります
のでご報告します.先になぜ、私が「口笛を吹く」
の線で訳したかと言うと、entre ses dents [歯の間から
吹く]ということで「口笛」としたのですが、そうで
ないとされている先生方もいらっしゃいます.
歌を口ずさんでいた............旺文社文庫
口の中で何か口ずさんでいた... 角川文庫
曲を口笛で吹いていた......... 岩波文庫
口笛を吹いていました......... 講談社
なにやら口笛を吹いていた......パロル舎
何やら口笛を吹いていた........みすず書房
さすらいの青春(465)
𝓛𝓮 𝓖𝓻𝓪𝓷𝓭 𝓜𝓮𝓪𝓾𝓵𝓷𝓮𝓼
———————【465】————————————
Un instant, au milieu de sa promenade
agitée, il s'arrêta et se pencha sur la
table, chercha dans une boîte, en sortit
plusieurs feuilles de papier... Meaulnes vit,
de profil, dans la lueur de la bougie, un
très fin très aquilin visage sans moustache
sous une abondante chevelure que parta-
geait une raie de côté. Il avait cessé de
siffler. Très pâle, les lèvres entr'ouverts,
il paraissait à bout de souffle, comme s'il
avait reçu au cœur un coup violent.
.————————(訳)—————————————
不安歩きの真っ最中、男は一瞬立ち止まった.
テーブルに体を傾け、箱の中から何やら探し出し
そこから幾つかの書類を取り出した...モーヌは
その男の横顔について蝋燭の光の中で、横分けに
した豊富な髪の毛の下に、か細い顔と髭のない鷲
鼻顔を見たのだった.男はもう口笛をやめていた.
とても青白い唇を半ば開いたまま、激しい一撃
を胸にくらったかのように、男は息を切らせた
みたいだった.
.———————⦅語句⦆————————————
agité, e:(形) 動揺した、不安な、興奮した
mer agitée / 荒れた海
mener une vie agitée / 波乱に富んだ生涯を送る
chercha:(直単過/3単) < chercher (他) 探す
chercher は他動詞なのですが、本文のように、
しばしば目的語なしで使われます.
chercher dans ses poches / ポケットの中を探す.
なので、自動詞としての項目を立てている
辞書もあります.
fin:(形) か細い、ほっそりした、きゃしゃな
aquilin:[アキラン](形)(m) nez aquilin / 鷲鼻
abondant, e:(形) 多量の、豊富な.< abonder
abonder:(自) 多量にある、豊かにある
chevelure:[シュヴリュー] (f) 髪、豊かな髪
partageait:(直半過/3単) < partager (他)
partager:(他) ❶分ける、分割する、分配する
❷分担する、❸共有する、
raie:[レ] (f) ❶縞、ストライプ;
❷(髪の)分け目
côté:(m) ❶脇腹、❷側、側面、物の側面;
de côté:斜めに、脇に、横に
raie de côté:(頭髪の)横分け
cessé:(p.passé) < cesser (自/他)
cesser:❶(自) 終わる、やむ、❷(他) やめる、
終える、中止する
siffler:(自/他) 口笛を吹く、(曲などを)口笛で吹く、
pâle:(形) (顔、唇などについて) 青ざめた
lèvre:(f) 唇、(上下あるので通例複数で用いる)
entr'ouvert, e:entrouvert, e の古い綴り
entrouvert, e:(形) (窓、目などが) 半ば開いた.
dormir la bouche entrouverte. / 口を開けて眠る
laisser la porte entrouverte. / 扉を半ば開けておく
il paraissait:このil は指示詞ではなく人称代名詞、
若い男のこと、「彼は~にみえた」
à bout de:~の限界に、の終わりに、の果てに;
Elle est à bout de souffle. /
彼女は息を切らしている.
souffle:(m) (吐く)息
comme s'il avait reçu:彼は受けたかのように見えた.
au cœur:心に、胸に、心臓に
coup:一撃
violent:激しい
——————≪本日のテスト≫————————————
Meaulnes vit,:(直単過/3単) モーヌは見た < voir (他)
モーヌは見た、何を見たのでしょうか?
この問題の意図はvoir は他動詞なので、目的語がある
はずなので、それを示して下さい、というものです.
何ですか? de profil ですか ? 80点差し上げます.
でもね、それならなぜ le profil と定冠詞をつけな
いのでしょう? de profil は「横顔について」と訳す
べき副詞句です.つまり、de は主題や判断を表す前
置詞で、「横顔について」、「横顔で判断して」.
答は、voir の目的格補語は、un très fin très aquilin visage
です.「とてもか細い顔、すごい鷲鼻の顔」です.
un がvisage の冠詞です.不定冠詞ですね.
実はle visage に形容詞が前につけば、名詞は不定冠詞
を伴うようになります.visage に限らず、どの名詞でも
その前に形容詞が来ると不定冠詞がつくようになります.
これの文法的な説明は私には専門的知識がないので出来
ませんが、形容詞がつくということは、「顔」は
いろいろあるという前提が生まれるのです.
le visage にfin をつけて「細い顔」というとle fin visage
ではなくun fin visage になる.つまり、細い顔もあれば
太い顔もある、という前提が生まれるからです.
ただし勿論、レポートなどでは「定冠詞+ 形容詞+名詞」
のままで作文します.論文やレポートでは曖昧さが
あってはなりませんから.