古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

児童文学で動物愛護を考えたことがありました。

2011年08月17日 02時23分35秒 | 古希からの田舎暮らし 80歳から
 いまの住いに引っ越してあと4ヶ月で5年になります。田舎暮らしを始めて2年目に、動物愛護の児童文学に応募しようと物語を書いたことを思い出しました。人目にふれることはありませんでしたがいまでも同じ気持ちなので、このブログにアップします。
 長い物語ですが読んでいただけたらうれしいです。原稿用紙55枚の物語なので5回に分けます。児童文学なのでなるべく漢字の使用を避け、漢字にはルビを打っているのですがこの原稿ではルビを省略します。物語をつくるにあたっては多少の取材をしましたが、実在の人物とは関係なく、すべてフィクションです。

                    
                  千子の夏休み

 さかみちをのぼったところに、おじいさんの家はあった。車の音をききつけて、おばあさんが出てきた。
「千子ちゃん、よくきてくれたね。さー、あがって。かばんはおじいちゃんがはこんでくれるから」
 千子は車をおりて、家のまわりをながめた。
 家はあたらしい。家のうらはなだらかな小山になって、竹やぶがしげっている。家のまえは小川がながれ、そのむこうに田んぼがひろがっている。
 ミンミンぜみの声にまじって、小鳥がないている。
 おかあさんは車をおりると、りょう手をつきあげて大きくのびをした。
「空気がおいしいわ。ここなら千子のぜんそくもきっとよくなるわよ」
 おじいさんはてい年で会社をやめてから、いなかぐらしをしたいといいだした。このいなかに家をたてて、まちからひっこしたのは、2年まえのことだ。
 千子とおかあさんがこの家にきたのははじめてだが、思っていたよりいいところだ。
 おばあさんが、大きな皿にキュウリとトマトを山もりにして、テーブルにどんとおいた。
「これがおやつ。うちの畑でつくったやさいは、あじがちがうわよ。食べてみて」
 おじいさんもあがってきて、キュウリを食べながらいった。
「やさいは、土づくりがだいじだからな。レンゲをまいたり、おちばを入れたりして、ことしはふかふかの、いい土になった。キュウリは、ほうちょうで切ったりしないで、まるかじりするのがいちばんうまい。食べてみなさい」
 おかあさんが、キュウリをぽりっとひとくち食べた。
「うん、これよ。キュウリってこんなあじだったのを、思い出すわ」
 千子はトマトにかぶりついた。
「おひさまのあじがする」
「おひさまのあじか。千子ちゃんはうまいこというな」
 千子は大きなトマトを食べてしまうと、キュウリも二本食べた。食べているうちにまた手が出てしまった。
 おじいさんは畑仕事のふくにきがえて、おばあさんと出ていった。
 千子は夏休みの三週間をいなかのおじいさんの家ですごすことにして、大きなかばんににもつをつめてきた。おかあさんに手つだってもらい、かばんからしゅくだいや本やきがえを出して、机やタンスにしまった。
 おじいさんが、いちりん車にスイカ二つとトウモロコシをつんで、畑からかえってきた。
 千子がはずんだ声でいった。
「おじいちゃん、スイカもつくってるの」
「そうだ。きょう食べるスイカは、ひやしてある。うらの井戸からとってきてやる」
 おじいさんがスイカをかかえてくると、おばあさんが、大きなほうちょうでスイカを切りはじめた。
「えっ! ひとつまるまる食べるの」
「スイカなんて水をのんでるみたいなものだ。これくらい、ペロッと食べてしまうよ」
「もったいない! 千子はスイカが大好きだから、うちでは三日に一回、六分の一に切ったスイカを買うことにしてるのよ」
 おっかあさんは、スイカが大好きで、よく買うくせに、千子のためにスイカを買ってくるような口ぶりだ。
「それをきいてたから、ことしは千子ちゃんに、まいにちスイカを食べさせてやろうって、いっしょうけんめいつくったのよ。ね、おじいちゃん」
 おばあさんにいわれて、おじいさんがてれたように、にこっとした。
「あまい!」
 ひとくちスイカにかぶりついて、千子がさけんだ。
「シャキシャキして、あまさもさいこう!」
 おかあさんが、がぶがぶ食べる。千子もまけずにがぶがぶ食べる。
「千子、よかったね。こんなスイカが、まいにち、思いっきり食べられるのよ」
「千子、しあわせ」
 千子はつぎのスイカに手をのばした。
 つぎのあさ、千子はおじいさんの畑についれていってもらった。
 ひろい畑だった。おじいさんは、トウモロコシのひげをゆびさした。
「千子ちゃん、これがちゃ色になったら食べごろだ。とってみなさい」
「これだったら、トウモロコシ、まいにち食べられるね」
「そのつもりでつくったんだ。畑にきて、食べたいだけとっていいよ」
 トマト、キュウリ、ナスビなどのむこうが、スイカ畑になっていた。いくつかのスイカが見える。
 千子はスイカをかぞえてみた。
「八こもある!」
「いや、きのうかぞえたら、十七こあった。はっぱのかげになっているんだよ」
 おじいさんは、スイカをもちあげて、わらのざぶとんをなおした。それからてのひらで、スイカをかるくたたいて、みみをすました。
「おじいちゃん、なにしているの」
「スイカの食べごろを、音でしらべてる。ポンとすんだ音のするスイカがいい。ほら、きいてみなさい」
 千子はおじいさんのまねをして、ポンとたたいて音をきいてみた。たしかにスイカによって音はちがう。でも、どのスイカが食べごろかわからなかった。
 おかあさんはつとめがあるのでまちのマンションに帰ってしまい、千子のいなかの夏休みがはじまった。
 まいにちおやつに、スイカやトウモロコシを、たっぷり食べられるのがうれしかった。
 いなかにきて三日目のあさ、千子は家のまわりをあるいてみた。
 竹やぶのまがりくねった小道をとおりぬけるときは、このさきになにがあるかと、どきどきした。小道をぬけると、ひらけたところに出た。
 大きな田んぼの稲が、かぜになみうつようにゆれている。そのさきには、つくってない田んぼがあり、草が刈ってある。まんなかに、しまのように草のはえたところがある。
 そのむこうは池になっていて、池のむこうに、わら屋根の家が二けん見える。家のまえは畑で、うしろは小さな森になっている。
 夏休みのしゅくだいの絵は、ここをかこう、と千子は思った。
 しまのようになった草むらで、なにかがうごいた。
 千子は草のしまに、行ってみた。
 しまは、クローバーがもりあがるようにはえているところで、千子のへやくらいのひろさがある。
 またクローバーがうごいた。
 千子は、クローバーの草むらに入っていった。
 なにかいる。
 白にちゃ色と黒の、まるいかたまりがうごいている。
 うさぎだろうか。
 うさぎにしてはみみが小さい。クローバーをもぐもぐ食べている。ハムスターにしては大きすぎる。なんというどうぶつだろう。
 千子はしゃがんで、どうぶつのせなかをなでた。毛がふわふわしてきもちがいい。りょう手ですくいあげて、むねにだいた。
 いやがったり、おこったりしない。だかれたままじっとしている。
 だいていると、かわいくて、いいきもちだ。
「ぼくがもらったモルモットやで」
 うしろで声がした。
 ふりかえると、青いティーシャツにジーパンをはいた、千子とおなじくらいの男の子がちかよってくる。
 男の子は、千子のだいているモルモットを、りょう手でかかえた。
「どこの子や」
「おじいちゃんのうちにきたばっかり」
「千子ちゃんか。おじいさんが、くるっていうとった。5年生か」
 千子がうなずくと、男の子は池のむこうのわら屋根の家をゆびさした。
「あれ、ぼくのうちや。名前はゲン。6年生。ばあちゃんと二人ですんでるんや」
「モルモット飼ってるの」
「うん。飼ってるっていうか、となりのじいちゃんにもらったばっかりや。モルモット、まだいっぱいおるで。見にいくか」
 千子はうなずいた。
 ゲンはモルモットをだいて歩きだした。千子はゲンについていった。
 わら屋根の家についた。
 ゲンは板をよせてつくったかこいに、モルモットをおろした。
「このすきまから出てしまったんやな」
 ゲンはにわを見まわし、石をひろってきて、かこいのすきまにおいた。
「ちゃんとしたかこい、まだつくってないんや。ばあちゃんが、モルモット飼うのをゆるしてくれへんから」
 
                                      明日につづく 

   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする