古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

動物児童文学  『千子の夏休み』 (3)

2011年08月19日 02時31分31秒 | 古希からの田舎暮らし 80歳から
 ゲンと千子がモルモットのせわをするようになって5日目、モルモットのせわをするのを見たい、とおじいさんが千子についてきた。
 千子とゲンは、小屋のわらをかえ、畑からとってきたやさいと水をやった。
「ゲンちゃんのモルモット、名前つけたの?」
 千子にきかれて、ゲンがいった。
「名前はつけへん。モルモットはモルモット。にんげんに名前つけられても、モルモットはよろこばへんと思うし」
 おじいさんがいった。
「そうか。ゲンちゃんのいうとおりかもしれん。名前をつけて、ふたりだけの世界にはまってしまうのは、わたしも好きでない。だったら、ゲンちゃんは、どうしてモルモットを飼いたいんだ」
 ゲンは、ちょっとかんがえてからいった。
「モルモットをだいてると、むねがきもちいい。ぬいぐるみをだいても、いいきもちにならへん」
「どうしてだと思う?」
「モルモットは、いのちがあるから」
「いのちってどんなものだろう」
「目に見えん、ふしぎなもんや。そのいのちにふれたいから、飼うんや」
「ぬいぐるみみたいに、ほっとけないよ」
「とめきちさんのすることを見てきたから、せわがしんどいのはわかる。ぼくは、いのちにさわりたいんや」
「そうか。ゲンちゃんは、なかなかかんがえてるな。もしおばあさんが飼わせてくれなかったら、わたしのうちにおいてもいいよ」
「ありがとう。でも、ばあちゃんのてつだいをいっしょうけんめいして、うちで飼えるように、じぶんでたのむから」 
 ゲンのおばあさんが、とめきちさんの家から出てきた。
「ゲン。とめきちさんが、はなしがあるって。千子ちゃんもおじいさんも、いっしょにきいてください」
 とめきちさんは、ふとんにおきあがっていた。
「ゲン。モルモットのせわしてもらって、すまんな。お医者さんに注射してもらったし、もう4、5日したらそとに出られる。それまでたのむわな」
 とめきちさんの声は小さくて、みんな顔をちかづけて、みみをすませてきいた。
「25年まえ、まごが、モルモットのせわをせんようになったとき、わしはモルモットを、そのへんにすてようと思った。ふくろに入れて、すてにいったけど、すてられなんだ。もってかえって、ずーっと飼うことになってしまった。よかったかわるかったかわからんけど」
「とめきちさんだからできたことです」
 千子のおじいさんが、いった。
「よかろうとわるかろうと、とめきちさんの生きかたで、ほかのものにはまねのできんことです。ながいこと、ようせわしてこられましたなあ」
 ゲンのおばあさんが、いった。
 ゲンと千子は、だまったまま、とめきちさんの手をにぎった。とめきちさんは、ゲンと千子の手をにぎりかえし、ひとつ大きくうなずいて、よこになった。
 ゲンと千子は、まいあさ、モルモットのせわをした。死んでうごかなくなったモルモットがいると、とめきちさんのつくったはかにうめて、花をそなえた。
 4、5日したら、またそとに出られる、といったとめきちさんは、おきあがることができなくなった。
 ゲンと千子は、モルモットのせわをしたあと、いっしょにすごすことがよくあった。千子がゲンにしゅくだいをおしえてもらったり、村の神社につれて行ってもらって、せみをつかまえたり、ゆうがたにはカブトムシをつかまえたりした。水田さんの店にあそびに行って、どこかの畑がアライグマにやられたとはなしをきくと、水田さんについて畑を見にいった。
 8月10日には、千子のおとうさんとおかあさんが、おぼんやすみになって、やってきた。
 おかあさんは、スイカがアライグマにやられてしまった、ときいて、しきりにざんねんがった。
 おじいさんのつくったスイカは、世界でいちばんおいしい。
 おとうさんに、さんざんじまんしたのに、しょうこをみせられなくなった。
 おぼんやすみで、あちこちの家に、はかまいりにかえってきた人があって、村がにぎやかになった。
 とめきちさんのまごで、ひこうきのパイロットをしている光(ヒカル)さんも、かえってきた。ゲンのおばあさんが、とめきちさんのぐあいがわるい、とれんらくしたのだ。
 光さんがこの村にかえってきたのは23年ぶりだ。光さんのかぞくは、夏休みをがいこくですごしていて、ひとりかえってきたとう。
 せがたかく、りっぱにみえるおじさんで、子どものころいっしょにあそんだ村の人たちが、家にきて、光さんとなつかしそうにはなしていた。光さんが、モルモットのせわは自分がするというので、ゲンと千子は、とめきちさんの家に行かなくなった。

 8月11日には、村の公民館で、アライグマをつかまえるためのはなしあいがあった。千子のうちは、おじいさんだけでなく、アライグマのしたことにはらをたてている、おかあさんとおとうさんも、はなしあいに顔を出した。
 畑をアライグマにやられたよそのうちでも、どうにかしてアライグマをやっつけたい、というきもちがつよく、一人でなく、二人きているうちがあった。
 光さんもはなしあいに顔をだした。光さんは、アライグマをつかまえるはなしをきくというより、村のみんなの顔を見たいために出てきたのだった。
 ゲンや千子だけでなく、村の子どもたちも、やってきた。あちこちに、おしゃべりのわができて、公民館のへやはにぎやかだった。
 はなしあいのせわ役をする水田さんが、役所の人をしょうかいした。
 ほほからあごにかけて、くろぐろとひげをはやした、せのたかい、こわそうな顔の人が、出てきた。
 みんなきんちょうして、まえを見た。
「アライグマの係をしている、荒井熊雄です」
 みんながどっとわらった。
 荒井さんは、笑顔でみんなをみまわして、シーッとひとさしゆびを口にあてた。
 みんながしずかになると、
「荒井熊雄は、わたしのほんとの名前です。でも、アライグマの兄弟ではありません」
 といい、またみんながわらった。
 きんちょうがほぐれたところで、荒井さんは、みんなにはなしかけた。
「いまこの村に、おす50匹、めす50匹のアライグマがいるとしましょう。もし、このアライグマが、人間につかまえられずに生きていくと、12年後には、何匹になるでしょう」
 みんな、がやがやはなしていたが、まえにすわっているおじさんがいった。
「10倍の1000匹! いや3000匹」
 えーっ! と声があがり、またがやがやとにぎやかになった。
 荒井さんは、シーッと、ゆびをくちにあてた。
「ざんねんでした。ちょっとはずれましたね。せいかいは、12年で、11500匹になる、でした」
「うそっ!」
「そんなことになったら、むちゃくちゃやがな」
 また、荒井さんが、シーッとゆびを口にあてた。
「アライグマは、春に4匹から8匹くらいの子どもをうみます。いま日本のあちこちで、どんどんふえているのです。では、アライグマがどんなことをするか、見てみましょう」
 荒井さんは、あかりをけして、パソコンをさわった。
 アライグマに食いちらかされた畑が、スクリーンにうつし出された。
 りっぱなスイカにあながあけられ、食べられている。トウモロコシがたおされて、食いちらかされている。ブドウだなにぶらさがったブドウが、ぜんぶやられている。
「アライグマの手は、ゆびがながく、木のぼりがじょうずです。たかい金あみでものりこえてしまいます。アライグマに食べられないようにスイカをつくろうと思えば、動物園にあるような、がんじょうな金あみのおりのなかでつくるしかありません」
 どこかのおじさんが、たちあがった。
「まあ、きいてください。わたしは、となり村のものですが、去年スイカを70こ、ぜんぶアライグマにやられました。はらがたってしかたがないので、ことしはぜったいにやられないように、がんじょうなパイプでかこいをつくり、めがこまかく、ふといロープのあみですっぽりおおいました。」
「スイカはだいじょうぶでしたか」
「いいえ、スイカはだめでした。かぜがとおらなくて、スイカのなえがそだちませんでした」
 べつのおじさんが、たちあがった。
「うちの村では、神社のてんじょううらに、アライグマがすみついていました。てんじょううらはあんぜんだし、あき家はあちこちにあるし、なんぼでもすむところがあります」
「ほんとにこまりますねえ。では、みなさん。アライグマはけしかあん、と思っている人は、ちょっと手をあげてみてください」
 荒井さんにいわれて、千子はさっと手をあげ、まわりを見た。たくさんの人が手をあげていた。
「わかりました。ではアライグマを見たことのある人はいますか」
 千子は見たことがない。まわりを見たけど、手をあげた人は、2、3人だった。
「アライグマは、ひるはねて、よるうごきまわります。だから見た人が少ないのです。どんなどうぶつでしょう」
 スクリーンに、アライグマの写真がうつし出された。たぬきとよくにた顔で、しっぽにしまのもようがついている。かわいい! とあちこちから声があがった。  




 


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