前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

赤江瀑さん逝去

2012-06-18 21:31:05 | そのほか
去る6月8日、作家の赤江瀑さんが逝去されたそうです。

主に文庫で読んでいただけで新刊を買ったりはしていませんでしたが、
大変好きな作家の一人でした。

彼の手にかかると、普段は見慣れた風景や予期せぬもの、
草木の騒めきから蜜蜂の羽音までが、怪し気な色香を放ちます。

 バレエ、歌舞伎、能、陶芸、香水、刀剣、刺青、熱帯魚・・・

それらはただ美しいだけではなく、人々を惑わせ破滅させる「魔性の美」です。
ある人は、その「美」を手に入れたがために、周りの人々の人生を狂わせ、
ある人は、その「美」を手に入れようと身悶えし自滅していきます。


能を観たいと思ったのは、赤江瀑さんの『禽獣の門』、『阿修羅花伝』
という作品を読んだからです。

人々を狂わせるほどの美の世界、その一端でも目にすることができるだろうか?



  春睦は、呼吸を整えながら出の位置についた。すると後見職の雪政の眼が、自分の背後で、
  静かにたたずまいを正すのがはっきりとわかった。久しく忘れていた充実感が、俄に甦って
  身内をふきのぼってくるのを春睦は感じた。

  「お前、舞えるな」

  と、春睦は正面を見込んだままのその姿勢で、静かに言った。

  「終まで行けなんだら、あとは頼むで。この能だけは、しまいまできっかりと舞わなあかん。
  わしが倒れたら、お前が舞うてや」

  「心得てま」

  雪政の、しっかりとした、冷静な声が応えた。
  揚幕がはねあがり、低い小鼓が鳴り出した。
  (赤江瀑『禽獣の門』)

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