第２章 トラキアへ ２７０

　熊の肉の切り取りを終えた一行が、程なく宿営地に着いた。辺り一帯の草は刈り取られ、野宿のしとねに、そして、夕食の準備も整えられ、食材の到着を待っていた。熊肉を刺す串も準備され、焚き火は赤々と燃え盛っていた。全員参加で食材は調理され、岩塩をまぶし、焼いた。香ばしい匂いが彼らのすきっ腹を刺激した。
　『さあ～、皆っ！食事を始めよう』
　トリタスの音頭で食事が始まった。
　焼きあがった熊肉に一斉に噛みついた。
　『おう、うまいっ！』『これは、いける。』『うん、いけるじゃないか』　で始まり酒を酌み交わし、胃袋を満たした。ウス腹の肉は脂もたっぷりあり、うまかった。キノンは、語った。
　『熊肉のうまい季節ではないが、味はまずまずですな。イリオネスさん、どうですか』
　『熊もうまい。肉としては一番好い部位なのに少々硬い、この季節だ、こらえるとして、しかし、うまかった。俺の胃袋がやっとおちついた』　
　『ギアス、どうだ。恨みをはらしたか』
　『え～え、まあ～』
　熊肉談義で夜は更けていった。