第２章 トラキアへ ２７２

　『それから、イリオネスが皆に話したい事があるそうだ、聞いてくれ、便利な道具の話だ』
　イリオネスが皆に声をかけた。
　『皆に見せたいものがある。まあ～、これを見てくれ。小さな板の真ん中に棒を立てたものとフシギな鉄の棒だが、昨日、使ってみた。ちょっぴりだが重宝した。一つ余分に作ってきてある、トリタス、君に一つ渡す。このヒモのついている鉄の棒は、フシギな鉄の棒なのだ。こうして吊り下げると、一方が北を指す、すれば、その反対は南だ。この二つの道具があれば、陽が照ってさえいれば大体の時と方角がわかる。使い方はこうだ。この板は、太陽の陽射しが作る影を見る板だ。このヒモをつまんで吊り下げる、この鉄の棒が自然に動いて南北を指し示す。この板に立っている棒がヒモの真下に来るようにする。太陽が南中したときは、棒の影が、この筋に合致する。そのときが昼飯のときだ。まあ、今日、使ってみてくれ。夜使えば、この鉄の棒の一方は、確実に星座の『荷車』を指し示す、使い慣れると便利だぞ』
　トリタスは、そのフシギな鉄の棒と真ん中に棒の立っている板を受け取った。彼は、首を傾げながら、フシギに思ったことを質問した。
　イリオネスは、日のあたる場所に移って使い方を念入りに説明した。トリタスは、首を傾げながらも納得したようであった。