『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  331

2014-08-05 07:06:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 洋上のニケは、恵まれた航海条件の海を東へと駆けている。パノルモスの集落も過ぎた。イラクリオンの船だまりへ残す距離が34~5キロといったところである。パノルモスの沖合いを通過した頃合いは、今様時間で午後1時を過ぎたころである。
 スダヌスは、アレテスとクリテスを呼び寄せた。傍らにはイリオネスがいる。スダヌスが三人を見つめて口を開いた。
 『航海はとてもとても順調だ。これ以上の航海があろうかと思われるくらいに順調だ。いうことがない!そこでだ、ガイド役のクリテスに尋ねるが、お前の考えるところ、イラクリオンの船だまりに着くのは今日のいつ頃だと考えている』
 『はい、私の考えでは、日没前には到着すると考えていますが』
 『お前、考えがあまい。今は太陽がこの位置だが、今は一年中で日の長さが一番短いころだ。昼を過ぎて今頃から太陽がつるべ落としの速さで落ちていく。ガイドする者に不正確な読みは許されんのだ。判るな。ここでは、経験がものを言う。イラクリオンの船だまりに着くのは、宵闇があたりを暗くする頃だ。アレテス、クリテス、それを踏まえて、今日のこれからの計画を練られてはどうだろうと、私のちょっとした知恵だ』
 『判りました。ありがとうございます』
 アレテスとクリテスは一礼して持ち場に戻った。
 『イリオネス、そういうわけだ。そのあとのことは、二人で話しておきましょうや。そのうえで一同に指示を出してください』
 スダヌスは、声のトーンを落として話を続けた。
 『お~、そうか、それは心強い。スダヌス、よろしく頼む。この季節、冷える夜をしのげる、ありがたいことだ』
 『その様に言われると、俺として、とてもうれしい。イリオネス、お前と俺、一心同体感を感じるな。打てば響く、響いて感じる、互いに考える寸前が一致する。考えることも大事だが、感じて動く、それがとてつもない好感といったところだ』
 スダヌスは心情を吐露した。 
 ニケが波を割る、飛沫が風に飛ぶ、顔に当たる、眠気が飛び去る、心地よい陽ざしが初冬を感じさせない。小春日和の洋上を風に押されて進んだ。