『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  640

2015-10-23 04:26:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長殿、新艇の事ですがよろしいでしょうか』
 『おう、聞こう』
 『私が1艇ですが、真剣に買うことを検討いたします。お約束します。新艇の構造、使用について注文があります。それについてはパリヌルス、オキテスのご両人と話し合います。何卒宜しくお願いします』
 『おう、判った。宜しく頼む』
 決済事を終えた一同はイリオネスの宿舎を辞した。
 イリオネスは、何といえばよいか解らぬ精神的圧力の一つを身から取り除いた感に浸った。彼は、この精神的圧力を分析した。
 前門のトラ、後門のオオカミ、前門のトラは退けた。残るは後門のオオカミか。
 ガリダ方への決済が心に圧力をかけている。戦場における命のやり取りとは異質の重圧に感じる。しかし、集散所が中間に介在することでその重圧を緩衝してくれている。
 『まあ~、なるようにしかならぬ』と結論して肩の荷を軽くした。心を圧してくる圧力が少々ゆるんだと感じた。
 『よしっ!行こうか』と腰をあげた。
 テカリオンに対する決済を終えた彼は、撃剣訓練の場へと足を向けた。
 そこでは、幼いユールスが父アヱネアスと対峙している。彼はそれを眺める、そのほほえましい風景に見とれた。
 父の優しい声が飛ぶ、打ち込むユールス、幼い剣。
 訓練場のリナウスの造った防具を身にまとい、木剣をふるう幼い剣士、その剣に打たれ、負けを演じるアヱネアス、そこに父と子があった。
 『おおっ!やってますな』と声をかけるイリオネス、ちらっと見るアヱネアス、声をかけるアカテス。
 『ユールス!いまだ!打ち込め!』
 その一声でユールスの木剣は右腕を打った、ポーズを大きく演じてうずくまるアヱネアス、感じる痛さで知る我が子の成長、その光景にイリオネスは目を細めた。イリオネスは父と子とはこういうものなのかと感じ取った。
 イリオネスは、瞬時、自分の幼き日を思い起こす、俺にもこのような日が訪れるかなと思いをはせた。と同時に、こんな風景を多くの者たちにつくってやらねばと、ねばの必然と実現を心の片隅で想いやった。
 『おう、アカテス、ユールスの相手を頼む』
 『はい』
 アヱネアスがイリオネスに声をかけてくる。
 『おう、来てくれたのか』
 彼が語り掛けてくる。
 『おう、イリオネス、今日この頃だが、頻繁に想うことがある。イリオネス、聞いてくれるか。山行から帰ってきてから、毎日、数度となくそれを想う』
 『統領、その想いとは何です?』