『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  二つの引き金  45

2007-05-19 08:11:00 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 夜が深くなった。パリスは、黒い衣服を身にまとい、石の廊下を裸足で歩く、足音はしない。ヘレンの寝室へと漆黒の廊下を、闇に身を隠して、歩を進めた。
 寝室の扉の前に立ち、音をはばかって扉を叩いた。扉は、内から開けられた。ヘレンは、まだ、寝ついてはいなかった。パリスは、ヘレンの前に立ちはだかり、じりっと、圧した。そのまま、ヘレンをじりっ、じりっと、ベッドまで圧した。ヘレンは、抗いながらあとじさった。抗いが弱い。パリスの欲望の力が、ヘレンを圧倒した。パリスは、ヘレンの身体を彼なりに優しく扱った。だが、執拗にヘレンに迫った。ヘレンの身体は、抗いながらも何かを欲しがっていた。ヘレンは眼を閉じたまま、身体を開いていった。

第1章  二つの引き金  44

2007-05-18 08:03:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘレンの掠奪に関して、ギリシアとトロイでは、結婚についての考え方に差異があった。ギリシアにおいては、一夫一婦制であるのに、トロイでは、小アジアの慣習である、一夫多妻制であったことである。メネラオスやパリスの考え方が、これをどのように、考えていたか。また、ヘレンも、そのことをどのように考えていたか。今の私たちが、推考してもわからないと思われる。しかし、トロイ戦争の末期には、ヘレンは、パリスに愛想が尽きていたことは考えられるのである。

 パリスは、従者の報告を受けた。
 『パリス様、ヘレン様の寝室への行き方が判りました。行かれるときは、私を起こしてください。案内します。貴方を守ることも、私の役目ですから。』
 パリスは、うなずくと、従者の労をねぎらった。

第1章  二つの引き金  43

2007-05-17 08:25:36 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パリスは、寝室に案内された。パリスは、従者の一人に、ヘレンに気づかれずに、ヘレンの寝室がどこにあるかを探るように言いつけておいた。

 この時代、女性に対する考え方が、すこぶる野蛮な時代である。女性が生娘であろうが、人妻であろうが、その女性を欲しいと思ったら自分のものにする。欲しい女性であれば、掠奪、誘拐する。そうすることが当たり前と考え、問題があれば力で解決するという野蛮な時代であった。また、この時代、男も、女も、身に着けているものといえば、一枚の布である。ほとんど無防備の着衣状態である。布の向こうには欲しいものがある。SEXの行為に及ぶのに手間の要らない時代でもあった。
 倫理的な罪の意識も希薄であったろうと思われる。しかし、嫉妬心については、気をつけていないと復讐される時代でもあった。

第1章  二つの引き金  42

2007-05-16 08:03:23 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 館内の遠くから、撃剣の打ち合う音と掛け声が聞こえてくる。パリスは、応接の間にいて、スパルタの強さの秘密を垣間、のぞいたような気になって、歓迎の宴までの時間を過ごした。
 夕刻となって、広間にて、歓迎の宴が開かれた。数々の料理、果物、そして、口当たりの良いぶどう酒と、パリスは、異国の料理に舌鼓を打って堪能した。パリスの花を咲かせて語る異国の話に、ヘレンをはじめ宴席の皆が耳を傾けた。パリスはヘレンに見とれて目線をからませながら話すのであった。ヘレンは、異国の王子の若さと目の輝きに心惹かれるものがあった。ヘレンは、心の片隅がときめき、ざわつくのを感じたが、終宴の時には、もう忘れていた。

第1章  二つの引き金  41

2007-05-15 08:01:52 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 歓迎の飲み物として、冷えたぶどう酒が供された。挨拶を受けたパリスは、挨拶を返した。
 『私は、トロイ、プリアモスの二番目の息子のパリスです。よろしくお願いします。こちらへの訪問は、エーゲ海、南の各諸島への旅での立ち寄りです。お気遣いないようお願いいたします。それにしても、奥方は、お美しい!風の便りには聞いていました。それ以上に、お美しい!私、感動の極みです。』
 パリスは、感じたままを言葉にした。挨拶を交わし終え、メネラオスの側近三人とも、言葉を交わし歓談した。そして、夜のパーテイに、パリスを招待したのである。
 『ようこそ、立ち寄って下さいました。今夕、貴方様の歓迎パーテイを準備しています。是非、くつろいで、話に花をと思っています。よろしく、従者の方もご一緒下さい。』

第1章  二つの引き金  40

2007-05-14 08:08:08 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パリスは、メネラオスの館に一歩を進めた。夏の草花が、華麗を競って咲いている中庭を右側に見ながら、長い廊下を歩き、応接の間に通された。トロイのプリアモスの城館に比べて、負けず劣らずの館の出来栄えである。館の中には、快い涼感が漂っていた。スパルタのメネラオスの館は、誇りと心を鼓舞する武威の空間であった。
 パリスと従者は、椅子にくつろいだ。へレンが戸口にあらわれた、小者を従えている。パリスは、目を見張った。何という美しさであろう。その美しさにうたれて、パリスは鳥肌がたった。
 『ようこそ。遠いところにお訪ねくださいました。今、主人メネラオスは、春から旅に出て、まだ帰国していません。私、家内のヘレンです。貴方様の滞在中に帰国すればお会いすることが出来ると思いますが無理だと思います。御了承下さい。どうぞ、ゆっくりくつろいで、ご滞在下さい。只今、側近が参ります。ご歓談下さい。私はこれで失礼いたします。』

第1章  二つの引き金  39

2007-05-12 13:52:38 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 もう8月もなかばを過ぎた。今日もぬけるような澄明の青空から、ふりそそぐ夏の陽射しが暑い。北よりの風、エアシテイの吹く季節も、あと一ヶ月で終わろうという時期である。春の風、シロッコに押されて旅立った、夫メネラオスの帰りがまだである。妻のヘレンも、娘のヘルミオネも、今日か、明日かと、父であり、夫であるメネラオスの帰りを待っている。今日の機織も終えた午後のことである。
 一人の青年が3人の従者をつれて、門口に立っていた。夫の留守に訪ねてくる者は、誰だろうといぶかしんだ。小者は、ヘレンに、来訪者のことを告げた。
 『トロイのプリアモスの第二王子、パリスと名のっていますが、どのようにはからいましょうか。』
 遠方からの来訪者である。小者はヘレンの返事を待った。
 『そうね。どうしようかしら。用件は、私が伺いましょう。応接の部屋へお通し、して下さい。』

第1章  二つの引き金  38

2007-05-11 07:22:00 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスも、メネラオスも、このたびのトロイ訪問は、都市国家の領主としての個性をいつわり、こらえがたきをこらえて、対外接渉を行ってきた。果たすべき用件はほかにあったのである。帰国の途上にある今も、その姿勢を崩してはいない。抗し難い敵中にあっては、身の安全を第一として過ごしてきた。
 ペレスポントス海峡の通航料の話し合いにかこつけて、トロイ城市とその周辺の都市国家の情勢を詳しく調べ上げていたのである。
 ここにおいて、二人は、やるべきミッションの全てをやり終えて、帰国の途についたと言っていいのである。
 あとは、帰国の上、如何にして、軍を起こすかということである。
 この船上は、まだ敵地といっていいと二人は思っている。とにかく、今は、ミレトスへなのだ。
 
 この頃、スパルタのメネラオスの館には、トロイからの客が訪れていたのである。

第1章  二つの引き金  37

2007-05-10 07:47:56 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 古代ギリシアの建築、芸術、学術及び学芸等は、賞賛して余りがある。それは一面であって、都市国家の特権市民は、労働を避けて、余暇を優雅に過ごし、資源を浪費する経済であったらしい。資源が不足してくると、侵略はやる、略奪戦争を行う、その戦利を分け合う社会であったと思われるのである。
 その社会経済を、特権市民のみの合意で行う政治でやるという、民主制、奴隷制、そして、領主、王制という帝国化の三位一体で成り立たせていたのであろうと思われる。
 この時代のギリシア人の熟達した技術といえば、軍事の技術であり、造船技術と航海術であった。また、有する海軍力といえば、エーゲ海沿岸の諸都市国家が有する海軍力に比べて抜群の海軍力であったのである。それはのちに、トロイ攻略に動員する軍船の数で推察することが出来る。この時代のギリシアの都市国家が保有する海軍力には、目を見張るものがあるのである。

第1章  二つの引き金  36

2007-05-09 09:51:54 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスとメネラオスの乗った船の船長は17メートルくらいと思われる、真っ黒で、船幅はやや細めの丸い船である。多くの荷物を運ぶ目的で船倉作りになっている交易船である。船の推進は、漕帆両方法であり漕ぎ座は片舷9座で両舷で18座である。真っ黒なのは、防水目的に天然の瀝青(アスファルト類)が塗られていた。メソポタミアとの交易で得た、死海で採掘された天然瀝青ではないかと思われる。
 この時代の国富に関する考え方が、交易という名のほぼ略奪と思われるような交易であり、都市国家の持っている軍事力が、都市国家力の差であった。ギリシアのように平野部の少ない地勢の都市国家であっては、なおさらのことである。ギリシアの都市国家間の交通は、陸上交通よりも海上交通のほうが、諸事にとって便利であったのである。