『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  16

2011-02-14 08:25:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 自分の思いを伝えたアエネアスは、一同と目線を合わせた。互いの目線は、対手の頭の中をのぞき見るような目線であった。
 伝えたようにいってしまえば建国の事業なんて至極簡単なようなものである。だが、彼と彼らに艱難と辛苦を与えるのは、大自然であったのである。彼は、これを抜いて思いを語ったのである。
 『君たちは、俺の思いを聞いてくれた。ここをわかるように説明してほしいと思うところがあれば聞いてくれ。質問に答える。この建国のために俺は、これまでの俺を捨てて心命をかける。このために尽くす道にあらざる行為は正義として対処していく、君たちはこの俺についてきてくれるか、意を決してほしい。では、質問してくれたまえ』
 ここまで言って、席に腰を下ろした。
 『統領、統領の話は判りやすい、これといって質問はありません。念を押しておきたいことは、これからやる調査次第によって、この事業に起ち上がることを取りやめると言うことがあるかと言うことです』
 イリオネスが訊ねる。
 『それはない。今の俺には、今の決断しかない。今が千載一遇のチャンスなのである。この事業に起ち上がるのは、今をおいてない、二度とこのときは我々に訪れて来ることはない。調査の結果によって俺の決意が変わることはない。調査はことをやるための手続きであって、それ以上の何ものでもない。これを知って己を知る、事を成就する要の決まりだ。この説明で判ってくれただろうか。イリオネス、そして、一同もだ』
 イリオネスを含めた一同は、アエネアスの固い決断を知った。

第3章  踏み出す  15

2011-02-11 12:39:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『次に考えることは、事を為すに当たって、我々のもっている能力について考えなければならない。我々がこのトラキアに来たときには、トロイが長い歴史の中で培ってきた、そして、身につけた礼と謙虚、そして、平和な民族性でもって、先住している土地の者たちに接して根を下ろした。そのような形であったが、これからは違う。発生する事情に対応して処理していく能力である。策を立案する能力、計画する能力、これらを実現する能力、遂行を阻む者との戦闘能力を含めて考えなければならない。それは、何事も全てが平和に解決されることではないからである。いいか、要するにだ、ひと言で『国家100年の大計』というが考えてみれば判るだろう。まず、子作りに始まって、その子供たちが大人社会の構成員となるのに15年から20年、その子供たちが子供を作って育てて、またまた、15年から20年、短く見積もって30年から40年、我々が力を尽くす時間だ。よく考えてみてくれ、建国はこのように時間を必要としているのだ。判ってくれるな。この大事業に皆が力を尽くしてくれることを、このアエネアス、心から皆にお願いしたい。このためにところを選び、このために持てる力を尽くす、そのために踏み出す準備を整えて、前へ踏み出そう。以上だ。このことについて、一同、鋭意検討、考えてほしい』
 彼は、話を締めくくった。

第3章  踏み出す  14

2011-02-10 09:09:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君!私は、今の砦の状態を眺めてみた。そして、考えた。考えたことは、二つ、その二つのことによって、俺たちは未来に向かって、何をしなければならないかということだ。まず、一番目だ。砦の衆、者たちを見て、俺たちが目指している建国と言う事業を見つめたとき、俺たち持っていないものは何かを考えた。それは『未来を託する者』を持っていないことだ。それは子供たちだ。二番目は、このトラキアの地は、俺たちが建国するところではないことだ。俺たちが探し求めている建国の最適の地は、この二つを一挙に達成できるところなのだ。このところを発見し、国としての理念、理性を明確にして、目的、手段、政策を実行していく。そして、俺たちが目標としている建国の事業を推し進める。準備に約1ヶ月余りの時日をかけて、冬の訪れる前にこの地から旅立ちたい。これが私の思いであり、決意したことなのだ。この事について、一同の考え、思惑を聞きたい。そして、この事について話し合おう。そのように考えている』
 アエネアスの言葉は、熱を帯びて一同に迫った。傾聴している一同は、鬼気迫るものを感じていた。
 アエネアスの話は続いた。
 『俺たちは世界を知らなければいけない。このエーゲ海、そして、この海につながる地中海の島々、沿岸の陸地、それらのカタチはどうか。それらを知るためにどうするかに取り組む。次に、トロイ戦役後のエーゲ海の諸事情をも知らなければならない。それらを知った上で、俺たちは、どこを目指すかを考える。また、、、、、』
 ここでアエネアスは、話したことを振り返った。

第3章  踏み出す  13

2011-02-09 08:26:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、ユールスに揺り起こされた。彼は、ユールスにうながされるままに朝の行事に浜に向かった。海に身を浸して目が覚めた。
 『おっ!ユールス、今日はお前に起こされたな、蚊もいなくなって来た。よく眠れる。お前はどうだ。よく眠れるか』
 『うん、グッスリ寝ていますよ。お父さん』
 『朝夕のこの凛とした気持ちよさがいい。お前はどうだ。ユールス、今日も天気がいいぞ。今日は、祖父さんと遊べよ。アレテスもオキテスも忙しいからな。ハイ、返事』
 『わかりました』
 ユールスは元気に返事を返した。
 朝食を終えた7人が顔をそろえた。
 『おう、おはよう』
 アレテスは会議の場を作っていた。
 『アレテス、いいじゃないか。これだと皆と話しやすい』
 全員が席について、イリオネスが皆を促して朝の挨拶をした。
 『統領、おはようございます』
 『おう、おはよう。では、会議を始めよう。ところで聞くが、一同、体の具合は快調かな。アーモンドの収穫を終えて、気持ちが落ち着いたかな』
 アエネアスはひと呼吸いれて、皆を見回した。どの顔も気の締まった表情をしていた。彼は、『これなら往ける』と一歩、踏み出すことの自信を深めた。

第3章  踏み出す  12

2011-02-08 08:27:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼が闇の中に描いた影が、アエネアスの生涯に離れず寄り添い、彼の思考や決断を誤らせず、彼を守り、進路を示し、思いの実現に組した潜在意識の影であった。
 アエネアスの描いた『国』なるものは、どんな国であったろうか。
 彼が描いた国のカタチは、この時代『ポリス』と呼ばれていた都市スケールの『国』であったろうと想像される。彼が住んでいたトロイも都市国家である。彼の考えている建国もトロイを範として、想像、構想した『国』であろうと考えられる。
 彼が民族を統率していくについて考えられることは、彼が持っている理念、理性、イコール、国家理念であり、国家理性であり、そのコントロールは、どうあるべきかについて考えた。
 彼が政を行っていく上で、よく考えなければいけないことであった。
 彼は、目を閉じた。いつしか深い眠りに落ちていった。

第3章  踏み出す  11

2011-02-07 08:09:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、床に就いた。夜の闇は自分のものであった。澄んで地上を照らす月が思い出された。にわか造りのあばらな館であったが月の輝きはさえぎられていた。頭は冴えてくる、閉じたまぶたを開く、もののカタチが見えない漆黒の闇である。彼は、この闇が好きであった。頭の中を思考が飛び交った。
 彼の思考は、わが息子のあどけない姿からスタートした。
 それは我々民族が育まなければならない『未来を託せる者』の存在に思考が思い至った。
 建国の礎は、この『未来を託せる者』がいるか、いないか。そして、この『未来を託せる者』を育みそだて、生きていく為のところである。この二つの問題解決を一事で以って解決する。彼は、これを『明日の事実』とすることを急がず、迷わず、確実に成し遂げることを、時間をかけて意に決した。
 彼は、このことを確実に成し遂げることの出来るところが、この広い世界のどこかにあると信じて疑わなかった。
 建国は必ずできる。それは、まぎれもない『明日の事実』である。と、新しく建国した土の上に起っている己の姿を鮮明に漆黒の闇の中に描いた。
 彼は、欲張りでもあった。彼は、この日が一日でも早く、この身に訪れるよう乞い願った。いや、そのようになってくれるように、漆黒の闇の中の得体の知れない、つかまえどころのない、己自身の姿に似た浮遊する塊に謙虚に祈りあげた。

第3章  踏み出す  10

2011-02-04 07:58:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 次は、オロンテスが担当している畑作物の話になった。
 砦の者たちが乏しい知恵と勘働きで取り組んでいる畑作物の収穫時期が近づいている。少々遅れはしたが、あと一ヶ月ぐらいで麦の収穫ができるところまでにこぎつけていた。収量は多くは期待していないが、ガックリくるか、雀躍して喜ぶか、それなりを望んでいた。オロンテスの表情には不安がなかった。そのことをうまく表現して皆を明るくした。
 『オロンテス、そんな風に言って、俺たちをがっかりさせるなよ。ワッ八ッハ』
 一同笑って話を締めくくった。
 『おい、皆、どうだった。久方ぶりによく飲み、よく食べた。腹は満腹したか。ところで伝えておく。明朝、朝食を終えたら、会議を開く、打ち合わせではない。先ほどのパリヌルスの話もある。以上だ。いい夢を見ろよ』
 アエネアスから伝わる感じで一同は気を引き締めた。広間をあとにする、夜が明るい、彼らは空を見上げた。そこには、澄んで輝く月が地上を照らしていた。

第3章  踏み出す 9

2011-02-03 08:11:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスの交易船の話が、夕食の席に緊張をもたらした。
 『おう、硬い話になったな。この話は、また、明日、会議の席で話し合おう。今日は硬い話は抜きだ。ワイガヤの夕めしに戻そう。オキテス、ところで、あの魚、え~とっ、干した魚のことだ、うまくいったか。あれは旨いっ!』
 『統領、いいとこついてきますね。干し魚を作る、乾燥方法を改良して、出来上がりが美しく、保存性も、これまでより、はるかに良くしました。交易にも出せます。また、魚のジャーキーつくりもうまくいっています。明日、食卓に乗せましょう。燻しに使う木を探し当てるのに骨が折れました』
 『おっ!そうか、それは楽しみだ
 酒もすすみ、よく食べた。食べっぷりも豪快に食事をにぎわした。
 『アレテス聞くが、お前の目から見たユールスはどうだ。ほめ話はだめだ。シビアな目線でみたユールスについて話してくれないか』
 『ユールスは成長していますよ、統領。まだ、幼いから技は問えません。撃ち込みの力が強くなってきています。それと、剣の振り方に知恵を使うようになってきています。上手下手はまだ問えません。いいですか』
 『ふ~ん、そうか。子が育つのに時間がかかるのだな。まあ~、よろしく頼む』

第3章  踏み出す  8

2011-02-02 08:38:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうっ!皆、そろったか。お前たち、ヒマをもてあましているといった感じだな。そう言う俺もそうなのだが、今日は、皆で夕めしを食おうと思ってな。オロンテス、畑地の作物の具合はどうだ。畑で奮闘しているお前の姿を見たからな。ところでオキテス、今日の漁はどうだった。とにかく、俺は元気なお前たちの顔を見る、声をかけ、とりとめない話をするそれが何よりうれしいのだ。ところで砦の者たち皆に変わりはないか、イリオネスどうだ。皆に変わりなく健やかであってこそ、このアエネダナエが元気なのだ。うれしい知らせがあれば聞かせてほしい』
 『統領、うれしい知らせがひとつあります。テンダスの家内が腹に子を宿したようです』
 イリオネスが目じりを下げて言った。パリヌルスが続く、
 『統領、明後日、交易の船が来ます。話は聞いてみないと判りませんが。その船主には私が一、二度、接したことがあるのではないかと思いますが、ミレトスから来ます』
 『ほう、それは耳寄りな話だ。ここにいる皆で会おうか、どうだ。交易の話については、パリヌルス、お前と、イリオネス、オロンテスの三人で当たれ。皆で会うのは、情報の収集だ。エーゲ海南部と沿岸諸国の情況について聞きたい。それと注意したいのは、相手は、俺のことを知っているか、知っていないのかだ。それによって俺は同席を考える。それでいいな』
 『それがいいですね。判りました』
 パリヌルスは、情報の持つ秘密性を認識した。

第3章  踏み出す  7

2011-02-01 08:34:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは回廊に姿を見せた。いつものしぐさである、空を見上げた。たれこめていた雲がなくなりつつある、雲間から見せる太陽の光が、ギラギラしていた夏の日に比べて白くなっている、秋の訪れが近いと感じた。
 回廊に歩を進める、建国をやる者として、一同を統率し、その業を為せるか。それを思ったとき双肩に重みを感じた。気のせいかと思い、歩きながらひとりごとを言っていた。
 『まあ~いいか、時間はある、俺は変わる!』
 彼は従卒に指示した。
 『イリオネス、パリヌルス、アレテス、オキテス、それにギアスだ。この五人に広間に集まるように伝えてくれ』
 これを言ってから伝言をつけ加えた。
 『あ~あ、急ぎではない。夕めしを一緒に食べる。それにオロンテスにも来るよう伝えてくれ』
 陽が西に傾きつつあるとはいえ、夕めし時にはまだ間があった。自分の歩みの足音を聞きながら回廊をゆっくりと歩いた。
 オキテスは今日も部下を連れて漁に出ていたらしい、彼の視野の中に浜から砦に向かっている彼の姿があった。
 アレテスは西門前の広場で、ユールスに撃剣の打ち込みをさせていた。オロンテスはというと北門から北へと広がっている畑地の中にいた。あれこれ周りの者に指示している様子である。
 『ほう、これでも、皆の日常、結構、忙しいのか』
 彼は見とれた。しばし、目にとめた風景であった。