『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  635

2015-10-16 04:47:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『テカリオンどの、そのようなことも考えられますか』
 『これは、毎日食するパンと違って、保存がきくと考えられる。入れ物について工夫をすれば、1か月くらいの期間の保存食に出来ると考えられますな。そうなると商品とすることができる。今の段階ではここまでです、考えてください。向こう5日間は、キドニアにいます』
 『判りました。やってみましょう』
 『ところで、オロンテス殿、小麦の量はどのようになっていますかな』
 『そうですな、思いのほか費消しています。8割方使ってしまっています、そろそろ仕入れについて考えようとしていたところです』
 『そうですか。それはいいタイミングでこちらへ来たというものです』
 『テカリオンどの、小麦の決済の件もあります。軍団長に話をしなければなりません。そちらへ行きましょうや』
 『判りました。そういたしましょう。堅パンの件よろしく一考してください。私の想いは是非とも仕入してしていきたい。そのように考えています』
 『テカリオンどの、その要望に応えると約束しましょう』
 『それはうれしい!これについては、品物を受け取った時に、即、決済いたします。宜しくお願いします』
 『判りました』
 オロンテスは、焼いた堅パンを数個小袋に入れて、テカリオンらとともにイリオネスの宿舎の方へ向かった。イリオネスは在舎していた。彼らの姿を見とめたイリオネスが声をかける。
 『おう!テカリオンにオロンテス、どうした?』
 この問いかけにオロンテスが応えた。
 『軍団長、今、よろしいですか。前もって連絡を入れておくべきでしたが、テカリオン方と小麦の仕入れと決済の件があるのですが、よろしいですか?』
 『おう、いいぞ。すぐやっていい。話し合おう』
 『軍団長、用件は三件あります。小麦の仕入れの件、決済の件、それと新商品の件です』
 『おう、仕入れの件から説明してくれ。この前に仕入れした小麦の消化の方はどのような状況かな?』
 『はい、パンの販売が思いのほか好調に推移したと考えられます。消化予定を少々上回って費消しています。小麦は8割方費消しています』
 『ほう、そうか。状況、結果と売り上げは順調であったと思われるな。仕入れの件、了解。決済の件はあとにして、新商品について聞こう』
 オロンテスは、うなずいて持参した小袋の中から、焼きあげた堅パンを取り出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  634

2015-10-15 06:47:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンが今日、予定しているのはオロンテスと小麦の件についての打合せと決済を受けること、そして、小麦の納品と荷下ろしの事である。彼の心境は事の一切を決めてかかることであった。
 パリヌルスが去ったあと考えをまとめて、オロンテスが取り仕切っているパン工房へと足を向けた。彼は歩みながら考えた。
 『しかし、こいつら大したもんだ。俺の投げた一石でこれだけの営みをしている。パン事業に始まり、漁業、造船と、、、。まあ~、所帯がでかいこともある。そのうえ、一族を率いる統領、軍団長の力量も見上げたものだ。全く感心する』
 傍らを歩む者が、主人テカリオンの独り言を耳にして声をかけた。
 『ご主人、何か言われましたか?』
 『おう、何か聞こえたか。何でもない、独り言だ、気にするな。ただ、このトロイの者たちの事を考えていたのだ』
 彼らはパン工房に着いた。
 『あ~、オロンテス殿はいられますかな?』
 『はい、棟梁は、格納庫の方ですが』
 『テカリオンが来たと伝えていただきたいのだが』
 『判りました。お待ちください』
 テカリオンは、工房の内部を見渡した。程なくオロンテスが姿を見せた。
 『おう、テカリオンどの、おはようございます。アサイチの用件は私の方ですかな』
 『そうです。工房の方、サマになりましたな。まさに、うまいパンを焼くにふさわしい工房になっていますな。感心して見入っております』
 『そうですか、毎日、2000個を超すパンを焼くのです。それなりの工房になりました。テカリオンどの、私らあなたに感謝しています。まあ~、立ち話もなんです、掛けてください』
 オロンテスは傍らの丸太イスをすすめた。
 『お~い、これへ、今朝焼いた堅パンを持ってきてくれ』
 『ほう、これは何です?』
 『いやいや、これはですな、パン焼きの失敗作から、ヒントを得て焼いた堅パンです。食べてみてください』
 テカリオンはひとつをつまんで口に運び、噛みついて砕いた。口中に広がるそのうまさに舌を巻いて驚いた。
 羊乳、蜂蜜、オリーブ油の味が相まって味覚に届いた。
 『いや~、これは驚いた。これはうまい!特上の味だ。このようにうまい堅パンを口にしたのは初めてだ。お前も食べてみろ!』
 テカリオンに従ってきた者にも勧めた。
 テカリオンはオロンテスに声をかけた。
 『オロンテス殿、これは長旅の航海にも持っていける堅パンですな。これはいい。商品化を考えられてもいいのではないかと思います。そして一品に限らず、塩味の物とか、二、三品考えられるといいのでは』
 テカリオンは思いつくままを口にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  633

2015-10-14 06:03:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人は持ち場に向かう、パリヌルスは、テカリオンの船に出向いた。
 『おう、テカリオン、来たぞ!俺だ。おはよう』
 船べりに立って声をかけた。
 『おう、おはよう、パリヌルス。今日は何となくすっきりしない天気模様だ。お前ら、アサイチの会議を終えたのか』
 『おう、それは終えた。新艇価格の件だが見当の方はどうだ?』
 『おう、それはついている。言っていいか、どうか迷っている。お前の顔を逆なでする、そんなように思えてならない』
 『何故だ?』
 『おう、それはだな』と言って一拍の間をおいた。
 『船は船だ。用材がAランクだから、この価格ということがあると思うな。船はよくできていて当たり前なのだ。帆をあげる、風に押されて、船は進む。出来が頑丈であるか否かなのだ。問題は出来あがった売れ先であり、買い人だ。ピレウスあたりで造られる船の売れ先と、クレタで造られた船の売れ先とそれを買う買い人と、その者たちの住んでいるところが違うのだ。それと造り手の持っているこれまでが関係してくる』
 『お前の言うことは解る。だからといって腰を引いてこの仕事をするわけにはいかん』
 『結構、気が強いではないか。その姿勢はいいとしてだな。考えてみろ。今、言ったことが根本的に売り方の姿勢を決めるのだ。結論を言う、お前らは船を造ることに徹する。売りは集散所に任せることだ。お前らは、造り手として過大な利益を望まない、損失を出さない、それがお前たちの利益になる。それのなぜは、お前らがやっている仕事がでっかいからだ。いうなれば、規模の利益ということだ。この俺も1艇は買おうと考えている。また、価格次第では2艇でもと考えている。俺もお前らがやる売りの仕組みで買うと約束する。でないとあぶはち取らずになるからだ。俺の言うことが判るな』
 『判った。今なら、お前の言う売りの仕組みづくりができるというのだな。俺なりに考えてみる。やるやらないは一同に計っての上での実行となる』
 『それでいいではないか。キドニアの集散所とは俺も取引がある。集散所はお前らが考えている以上の力を持っている。結果はよかったとなる。それでもって注力するのだ。今、あの大きさの船は売り手に追い風が吹いている。そう考えると、お前らラッキーであったと言える』
 『そうか、お前の言おうとしていることが、よ~く解った』
 『それともう一つ、お前に言っておく。今、取引の形態が大きく変わろうとしている。この取引の形態が将来この形態になることに間違いない。時間はかかるだろうが、それが未来だ』
 『今、お前の言った船の売り方の仕組みだが、俺の考える仕組みでいいのかどうか、今夜、話し合おう。お前の船に俺が来る』
 『判った、話し合おう。夕めしは俺の船で食べろ。わかったな』
 パリヌルスは、テカリオンの船をあとにして、アレテスのところへと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  632

2015-10-13 05:44:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンは、目と鼻の先に浮かぶ自分の船へと帰った。
 明けた朝の天気模様は、昨日と打って変わって雲が低く垂れこめている、風はない、荒れは予想されない、雨が降る懸念があった。
 オロンテスは、キドニア行きの一行に告げた。
 『この雲いきでは雨の心配だな。ギアスにセレストス、それに気を配ってい行ってくれ』
 『判りました』
 『帰りは荒れに注意を怠るでないぞ』
 『では、出ます』
 彼らは出航した。
 『注意は怠らん、嵐を恐れない、船はヘルメス、万難よりつかずだ』
 『おいおい、ギアス、強気だな。オロンテス隊長の言葉を肝に、注意怠りなくいこうぜ!』
 『解ってるって!』
 彼らは気に掛けた雨に会うことなくキドニアについて業務をこなした。
 
 イリオネスは、アサイチ会議を招集する。オキテスの報告から会議は始まった。
 『-----。ということです。事の成り行きを予想して、派生する事態に対処していきます』
 『おう、一同、解ったな』
 テカリオンとの用談についても打ち合わせをした。
 『よし、いいだろう。各自、よろしく実行するのだ。いいな。君らが知っての通り、今、我々はこれだけの事業を営んでいる、しくじることなく事を運ぶのだ、いいな。三人力を合わせて事に当たってくれ。事をしくじらない。それは、未来が読めるか読めないかにかかっている、充分に心してかかるのだ。以上だ!』
 イリオネスは強い言葉で会議を締めくくった。
 『了解しました』
 新艇の価格決定に関する段取りを一同が共有する。それを踏まえて当面の業務遂行の段取りを組みあげた。
 テカリオンとの話の詰めはパリヌルスが担当する。それを三人が把握して事に当たる。そのうえで五人が、その情報を共有して対処するとした。
 『おう、パリヌルス、テカリオンが算出する新艇の価格の事だが、その算出基礎、背景についてもそれとなく探っておいてくれ。奴の言うピレウスとクレタは違う、そのあたりの推測だ』
 『解った。次に試乗会の事だが、それについては、ギアスともよく話し合って催行の段取りをする。また、スダヌスとも話し合って試乗会の催行を考える。オロンテスの方はどうだ?小麦の事とか用件があるだろう。それからだが、アレテスに魚の加工品の事について事情を聞いてみようと考えている。品物がさばけているのか、いないのかについて確かめる。何かあれば、それについての対応を打ち合わせで話し合う。これは俺が担当しようと考えている』
 『判った。ところでだ、テカリオンは新艇を買うか買わないか、どのように考えているか、それについて探りを入れてみてくれ』
 一同は互いの用件を肩に担いで場を閉じた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  631

2015-10-12 05:20:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽が海に没しようとしている、夕焼けがやけに美しい。
 キドニアからヘルメスが帰ってきた。オキテスらが帰ってきた。パリヌルスと顔を合わせる、互いに気にしていることが口をついて出てくる。
 『おう、どうであった?オキテス』
 『おう、予想していたところに話が落ち着いたと言える。あの船はテカリオンか?』
 『そうだ』
 『軍団長に報告する。パリヌルス、一緒に行こう』
 オキテスはオロンテスに声をかける。
 『俺たち、軍団長のところへ行く』
 『用事を済ませたら俺もそちらへ行く』
 『おう、では先に行くぞ』
 パリヌルス、オキテスの二人はイリオネスの宿舎に向かって歩を進めた。
 『パリヌルス、今日の夕焼けだが、やけに美しいな。天候が変わるのかな』
 『かもしれんな』
 『今日の会合にスダヌスは欠席していた。何か急用があったらしい。集散所からは二人の出席で四人での話し合いであった』
 『そうか』
 ほどなく二人は、イリオネスの宿舎の前に立った。戸口に立って声をかける、間をおかずにイリオネスが顔を見せる。
 『軍団長、只今、帰りました。話は価格決め作業の段取りとそれの何故でした。詳細の報告はどうしましょうか?』
 『ご苦労であった。明日、アサイチ会議といくか。それから、テカリオンが来ている、夕食は統領も一緒することになっている。お~、オロンテスも来たではないか、お前ら三人も同席しろ。オロンテス、ご苦労。オキテスから報告は聞いた。明朝、アサイチ会議だ。そこで詳細を聞く。いいな』
 『判りました』
 『あ~あ、夕食は統領の宿舎の前でやる』
 『判りました。夕食の準備の方は?』
 『そのことはセレストスに伝えてある』
 『判りました。もう頃合いになります。私ら用件を済ませてきます』
 『おうっ!』
 テカリオンを迎えての夕食会は、テカリオンと従者、アヱネアスら五人が臨席して場を囲んだ。
 テカリオンは、見聞話に花を咲かせる。イリオネスは、イデー山山行話でにぎわいを盛り上がらせた。
 テカリオンは山行話に興味津々といった風情で聞き入った。彼の未体験話である。彼が考えていたイデー山との大変な差異に驚いた。山頂から地中海世界を望み見たこと、彼が考え及ばない山頂の寒さの話、その異次元の話に耳を傾けた。
 彼はイデー山に登る暇のないことを嘆いた。しかし、俺もいつかは登ると望みを胸に抱いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  630

2015-10-10 06:15:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 キドニアにおいてオキテスら二人は、集散所の一室でハニタスらとテーブルと思しき台を囲んで、新艇の価格決めの第一回会合の話し合いを始めていた。
 ハニタスが会合の司会進行役を務めている。ハニタスは話し方がうまい、訥々とした話し方であるがところどころに念押しの言葉をいれ、それにふさわしいニューアンスで話しかけ、四人の意思疎通を促すようにこれからの作業の段取りを話した。
 集散所側では、クレタにおける造船事業の事例から導き出した価格事例を参考にして、価格の算出をすることがオキテスらに話された。
 用材の価格については、用材の質等を検討した結果、A,B.CランクのAランクに該当することが伝えられ、すでにその旨をガリダ方に伝え、交渉に入ったことが伝えられた。
 『ガリダ方との折衝は、10日以内に決着すると考えています。そのうえで新艇一艇あたりの価格が試算算出となります。次回会合には試算算出した価格の提示ができる、その様に段取りしています。オキテス殿、オロンテス殿、ご両人の意向はいかがでしょうかな?』
 『それで結構です。次回の会合は半月後くらいになりますかな』
 『それについてはきちっと決めておきましょう。今日から数えて15日後ということにします。ほかに何か要望とかありましたら言ってください』
 『それでよろしいです。了解いたしました。私らの要望ですが、オロンテスがこちらへは、たまに来ない日がありますが、ほとんど毎日、売り場の方へ来ております。価格の件についての連絡事項があり次第、伝えていただければ幸いと考えています』
 『いいでしょう、その件、了承しました』
 ハニタスは三人と目を合わせて言葉を継いだ。
 『ところで昨日の試乗会の事ですが、話題になっています。オキテス殿、試乗会の開催を考えてくだされば、いいと思うのですが』
 『その件、了解しました。試乗会の開催を考えます。日程についてはお任せいただきたい。また、新艇購入を希望される方の試乗は、申し出があり次第いつなりとも応じることにします』
 『それはいいですね。是非、その様に図ってください。我が方として願ってもないことです』
 『試乗会のその件については決定ということです』
 『今日の会合は、ここまでということでこれで終わります。では15日後、第2回会合ということになります。皆さん、いいですね』
 ハニタスは、次回会合の念を押して、今日の会合を終えた。

『トロイからの落人』   FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  629

2015-10-09 05:44:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうだな、テカリオン。お前の心情がよ~くわかる。健在であること、それは大切なことだ』
 二人はアヱネアスとイリオネスのいる近くに来た。アヱネアスら二人がそれに気づいた。
 『おうっ!』
 『あっ!統領に軍団長。ご健在で何よりです。今日、御地にまいりました。健在な姿を見て安堵いたしました』
 『おう、テカリオン、久しぶりだのう。お前も健在なりだな。何より、何よりだ』
 アヱネアスが声をかける。イリオネスも声をかける。
 『テカリオン、お前なかなか元気だな。互いに元気で会う。それはこのうえなくいいことだ。その元気なら商いの方も繁盛このうえなしといったところかな。そうでなくてはいかん』
 『軍団長、それは何故です?』
 『テカリオン、それを知りたいか』
 『知りたいですな』
 『それはだな、言おうか言おうまいかといったところだ。だが、言おう。人間、元気がない、身体の具合がよくないと考えることもよくないことを考えるということだ。考え方のバランスが狂うのだ。商いの利益の獲り方のバランスが崩れて、トラブルの連鎖が発生する、結果、利益を失うのだ。利益は金だけではない、客を持つということも利益なのだ』
 『いわれる通りです。健やかな体に正しい判断をする心が宿っている。このテカリオン、これからもそれでものごとを処していきます。宜しくお願いいたします』
 『お~お、そうでなくてはいかん。ハッハッハ』
 会話はアヱネアスのハッハッハで一拍をおいて続く。
 『昨日、キドニアで新艇に乗せていただきました。いい船だと感じています。そして、今日、パリヌルスが新艇建造の場を案内してくれました。いやあ~、驚きました。仕事が壮大に展開しているではありませんか、皆さん、やられることがでっかい。何よりと感じ入っております』
 『そうか、テカリオン、新艇を試乗してくれたのか、それはよかった。ところで、今度の予定は?』
 『はい、今日、明日、明後日とこちらに滞在する予定です』
 『そうか、ゆっくりしてくれ。オロンテスもオキテスも今日は不在だ。何かと用談があるやもしれん。夕めしは一緒しよう』
 『ありがとうございます。では、のちほどに』
 二人に挨拶を終えたテカリオンはパリヌルスとともに浜へと下った。
 『おう、パリヌルス、これで落ち着いた。ではあとでな』
 『おう、判った。頼んだ件よろしく頼む』
 『判っている。任せておけ。おい、俺をハシケで船まで頼む』
 パリヌルスはテカリオンを彼の船まで送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  628

2015-10-08 17:00:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、やっているな!なかなかの風景だ。建造の場が五つもあるとはな。これは壮観だ。このようにやっているお前たちがうらやましい。パリヌルス、これは本音だ、包みもせず、隠しもしない俺の本音だ』
 新艇建造の場の風景を目にしたテカリオンの偽らざる言葉であった。
 『そうか、そんなに驚くことはないだろうが』
 『船の建造はたいていの場合、一船づつというところだ、5船同時建造なんてありゃせん』
 『そうかな』
 首をかしげてうなずくパリヌルス。
 『それにしても壮観な眺めだ。お前ら、やることがでっかい!この俺が驚いている。なあ~、パリヌルス、アテネのだな、ピレウスあたりの交易船、軍船などの造船の場と比べるのは適当とは思わない。そして、このクレタの地でだな、このように船を建造する場はここ以外にない。クレタにおける造船の歴史はかなり古い。東地区には多数の造船の場があったのだが、今は、ところどころにといった状態だ。東地区には造船に使用する材木がないのだ』
 二人は話をしながら造船の用材の置き場に来た。
 テカリオンは用材を注意深く見つめて、パリヌルスに声をかけた。
 『お~お,この用材、なかなかの良材ではないか。これなら、いい船ができる』
 『お前、用材を見て、その良し悪しが解るとは、なかなかの眼力だな、見上げたもんだ』
 『これでも、俺が取り扱っている品目は数々ある。木材もその中の一つだ』
 『そうか、俺はお前を見直したぜ。何を見てもそれの良否を判別するとは大したものだ』
 『考えてみろ!俺の仕事が仕事だ。よろずの物に水準の目利きができて、判別するだけの知識がないと仕事が成り立たないのだ。パリヌルス、見たところ大体のところが解った。あの用材で試乗した船を造るのだな。詳しい根拠は別にして、おおよそのところを算出する。それでいいか?』
 『おう、それでいい』
 『少々時間をくれ。夕方くらいまでに答えを出す』
 『解った。承知!』
 『統領、軍団長に挨拶をする。一緒に行こう』
 『おうっ!』
 二人は、アヱネアスとイリオネスの宿舎の方へ歩み始めた。広場への坂を登っていく、林間から二人の声が聞こえてくる。
 『ご両人、健在にお過ごしのようだな。それは重畳というものだ』
 『二人とも元気そのものだ』
 『なあ~、パリヌルス。俺は、いつもこのように考えている。仕事をする俺たちは、人に会ってなんぼの仕事をしている。人に会って話をする、話し相手もこの俺も互いに健やかでないと正しい判断に基づく商いができない。健全な商談で、商談がまとまらないと必ずトラブルに見舞われる。それが俺の心の底の想いだ。お前もそうは思わないか』
 パリヌルスは、テカリオンの想いに同調した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  627

2015-10-07 06:07:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人が知り合ったきっかけは、パリヌルスが担当するアヱネアスの海事軍団が入用とする品の取引からである。二人には年の差はないといっても差し支えがない、あっても二年の年の差である、二人は気が合った。互いに職務に取り組む、一歩では友情のきずなを年を重ねるにしたがって親密となって今日に至っている。二人は、『おい!』『お前』の仲である。
 パリヌルスは、待っていた。頭のなかで懸案を幾度なく呼び起こし、答えに到るまでを描きながら待っていた。
 見張り番がパリヌルスに駆け寄る。
 『パリヌルス隊長!待ちかねた船が来たようです』
 『おう、そうか、ごくろう』
 彼は立ちあがり渚へと向かう、沖を見つめる。テカリオンの船が波を割って近づいてくる。互いを見とめるまでには少々間がある。彼は右往左往して待つ、指呼の距離までに来た。
 テカリオンが両の手を上げて振っているのが目にとまる、パリヌルスも手を振って、これに答える。パリヌルスは傍らの従卒に指示を出す。
 『おう、ハシケを頼む!』
 彼は、テカリオンの船の停船地点へと急いだ。船が止まる、テカリオンがハシケに乗り移る、二人はハシケの上で互いの肩を抱いて歓喜した。二人の再会は昨日であり、今日もである。二人は目を合わせる、互いの気持ちを読む。『そうかそうか』交わす言葉がない、互いの心中を読み取った。
 『おう、テカリオン!昼食は終えたのか?』
 『おう、終わっている。それにしてもだ、うまいパンを焼くようになったな』
 『そうかそうか、うまかったか。彼らも今ではパン焼きの一端のプロだ、見上げた者たちと言える』
 『お前らの焼くパンは、一級品と言っていい、立派なパンだ。そのお前らが今度は船だと、全く恐れ入ったぜ!パリヌルス、造船の場へ案内してくれ』
 『すぐ行くのか』
 『統領、軍団長に会う前に、お前との話を終えておきたい』
 『判った、行こうか』
 歩き始める二人、新艇建造の場へと向かった。歩きながら言葉を交わした。
 『昨日、あれから思案を巡らせた。しかし、俺とて船に関して玄人ではない、本業ではないが船に関する知識はそれなりにある。それなりの判断で許せ』
 『おう、心得た。俺たちが必要としている判断の手がかりでよしとする。俺としての目途が持てればいいと考えている。おまえから聞くと心強い!そういうことだ』
 『判った』
 新艇建造の場に着いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  626

2015-10-05 10:35:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クレタのこの季節、風が休む日はないといっていい。晴れの日は多い、天候の落ち着いた日が続いている。
 日は替わった。キドニア行の第一便が浜を出ていく、風は途絶えている、海は凪いでいた。
 ヘルメスは、凪の海を泡立てる、白い航跡を引いて、展帆することなく漕走でキドニアへと向かった。
 艇上では、オキテスとオロンテスが何事かを話し合っていた。
 『お~お、オキテス、それでいい。原価の算定に目途が着かない限り、とんでもない、価格の算定なんてできるわけがない。俺の考えているところでは、段取りの日程だ。価格の決定までに一カ月くらいといったところだな。それだけの時間をかけて慎重に事が運ばれると覚悟している』 
 『オロンテスよ、俺らの都合として、いつまでに決まればいいと考えている?俺らとしての意向を決めておく必要がある』
 『今日の会合では、そこまでは到底、到達しない。価格決定の作業工程を見極めて、私らも打ち合わせをして、新艇建造の作業の進捗、行事予定を考えて、価格決定の作業工程を立てて会合に臨もうではないか。そのようにして決めていく。オキテス、これが俺の考えだが』
 『オロンテス、解った。今、お前の言ったことに留意して、事に対して慎重に当たっていく。それでいいかな』
 『お前と俺、考えを同じくして会合に参画していく』
 『おうっ!』
 話し合いは終わった。
 ヘルメスはキドニアの船だまりに艇体を付けた。オキテスもオロンテスの作業に手を貸す。パン売り場は朝からにぎわった。
 テカリオンが顔を見せる、新しい蜂蜜ミルクパンの味を褒めて、10個買い求めた。。
 『オキテス殿、今日はこのあと、ここでの用事を済ませてあなたたちの浜へと行きます。今日、明日と予定しています。都合次第で明後日までの逗留を予定しています。では』と言ってテカリオンは、パン売り場を去っていった。
 テカリオンの船は、外洋へ出て、ニューキドニアの浜へと向かっていく。彼の船はゆっくりと海上を進んでいく。テカリオンは甲板に立って、落ち着いている海、そして、目にするクレタ島の風景を楽しみながら、ふと思い浮かべることは、知り合った頃のパリヌルスの事であった。
 彼とテカリオンとのなれそめは、5年前に始まる。そのころのパリヌルスは、アヱネアス軍団の海事軍団の担当隊長役を務めていた。
 アヱネアス海事軍団は、エドレミト湾の最奥の船だまりを母港として、8艘の軍船をもって編成されていた。兵の総数はというと450人余りである。彼は海事について明るく、航海術も心得ていた。
 一方テカリオンはというと、エドレミトの船だまりから西方60キロ余りにあるレスボス島のミチリーニの港を母港として、エーゲ海における交易を生業としている船主であった。