お元気でしょうか。
せめて、緑の風を送ります。
・・・・・
風流の初やおくの田植うた 芭蕉
世の人の見付ぬ花や軒の栗 芭蕉
涼しさやほの三か月の羽黒山 芭蕉
・・・・・・
(ときには宮澤賢治を思い出さないと大好きな怠惰な生活に流れてしまいます。「無声慟哭は妹トシの死を歌った詩です。岩手県で暮らしていたとき、岩手山や物見山などに出かけました。そのような雄大な風景と宮澤賢治を重ねて、賢治の世界を楽しみました。それはそれはスケールの大きい風景でしたね。そして、「永訣の朝」と合わせて、この詩を読みました。賢治は生の音声を意識して作ったのですね。岩手弁でこの詩の朗読したのを聴いたことがありますが、独特の世界がありましたね。)
無声慟哭
宮澤賢治
こんなにみんなにみまもられながら
おまへはまだここでくるしまなければならないか
ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ
また純粋やちいさな徳性のかずをうしなひ
わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき
おまへはじぶんにさだめられたみちを
ひとりさびしく往かうとするか
信仰を一つにするたったひとりのみちづれのわたくしが
あかるくつめたい精進〔じゃうしん〕のみちからかなしくつかれてゐて
毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ
(おら、おかないふしてらべ)
何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら
またわたくしのどんなちいさな表情も
けっして見遁さないやうにしながら
おまへはけなげに母に訊〔き〕くのだ
(うんにゃ ずゐぶん立派だぢゃい
けふはほんとに立派だぢゃい)
ほんたうにさうだ
髪だっていっさうくろいし
まるでこどもの苹果の頬だ
どうかきれいな頬をして
あたらしく天にうまれてくれ
(それでもからだがくさえがべ?)
(うんにゃ いっかう)
ほんたうにそんなことはない
かへってここはなつののはらの
ちいさな白い花の匂でいっぱいだから
ただわたくしはそれをいま言へないのだ
(わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
ああそんなに
かなしく眼をそらしてはいけない
・・・・・・
せめて、緑の風を送ります。
・・・・・
風流の初やおくの田植うた 芭蕉
世の人の見付ぬ花や軒の栗 芭蕉
涼しさやほの三か月の羽黒山 芭蕉
・・・・・・
(ときには宮澤賢治を思い出さないと大好きな怠惰な生活に流れてしまいます。「無声慟哭は妹トシの死を歌った詩です。岩手県で暮らしていたとき、岩手山や物見山などに出かけました。そのような雄大な風景と宮澤賢治を重ねて、賢治の世界を楽しみました。それはそれはスケールの大きい風景でしたね。そして、「永訣の朝」と合わせて、この詩を読みました。賢治は生の音声を意識して作ったのですね。岩手弁でこの詩の朗読したのを聴いたことがありますが、独特の世界がありましたね。)
無声慟哭
宮澤賢治
こんなにみんなにみまもられながら
おまへはまだここでくるしまなければならないか
ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ
また純粋やちいさな徳性のかずをうしなひ
わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき
おまへはじぶんにさだめられたみちを
ひとりさびしく往かうとするか
信仰を一つにするたったひとりのみちづれのわたくしが
あかるくつめたい精進〔じゃうしん〕のみちからかなしくつかれてゐて
毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ
(おら、おかないふしてらべ)
何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら
またわたくしのどんなちいさな表情も
けっして見遁さないやうにしながら
おまへはけなげに母に訊〔き〕くのだ
(うんにゃ ずゐぶん立派だぢゃい
けふはほんとに立派だぢゃい)
ほんたうにさうだ
髪だっていっさうくろいし
まるでこどもの苹果の頬だ
どうかきれいな頬をして
あたらしく天にうまれてくれ
(それでもからだがくさえがべ?)
(うんにゃ いっかう)
ほんたうにそんなことはない
かへってここはなつののはらの
ちいさな白い花の匂でいっぱいだから
ただわたくしはそれをいま言へないのだ
(わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
ああそんなに
かなしく眼をそらしてはいけない
・・・・・・