副島隆彦氏と佐藤優氏が対談しています。
第一人者同士の対談からは、真剣勝負の緊張感が伝わってきます。
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アメリカ大統領選の行方と金融支配層の実力
●世界を陰で操っているのは誰か?
副島隆彦VS佐藤 優
「サイゾー」(2008年9月号)
「ロックフェラー金融財閥に操られるオバマ次期大統領」
佐藤 アメリカの民主党大統領候補選に関し、副島さんが2007年4月時点で「バラク・オバマ氏が民主党大統領候補となる」と決め打ちしたことには驚きました。日本で一番早い予測ではなかったかと思います。しかも、なおかつ「私には見えるのです」という言葉は凄いですね。こういうのが「インテリジェンス能力」というものです。
現実の情勢を分析する際に、なにより重要なのは正確に見通すということで、副島さんの今回のオバマ民主党大統領候補勝利に関する的確な予測は、他の人がいろいろな理由をつけるなかで、非常に突出していました。
副島 バラク・オバマが民主党大統領候補に選ばれるということは、もう4年前から私にはわかっていました。彼を抜擢したのはディヴィッド・ロックフェラーです。彼らニューヨークの金融・世界財界人の筆頭の意向が大きく働いて、これでいくぞと4年前に決められたからです。大統領選挙といっても、親分衆が「今度は誰を立てるか」によって決まります。その承認がなければ無理でしょうという話です。これからの8年間は、共和党ではなくて、民主党に政権をつくらせる、という始めからの筋書きなのです。アメリカのデモクラシーも形だけです。
ヒラリー・クリントン候補が08年6月までなかなか撤退しなかったのは、背後にネオコン派やイスラエル・ロビーが必死に支援していたからです。そして、今年の11月4日に実施される大統領選挙の本選挙でも、共和党のジョン・マケイン上院議員が当選することはないと予測します。
佐藤 ところで、11月には米国大統領が確定しますが、オバマが大統領に選ばれたら今後のアメリカはどうなるでしょうか。
副島 アメリカ経済はこれからリセッション、そして大不況に突入します。貧困層による暴動も起こるでしょう。そのときの貧民の多くは有色人種です。暴動を阻止するのにもっとも効果を発揮するのはオバマの“肌の色”ということになります。黒人大統領が飢えた米国人に向かって、平静と団結を呼びかけることになる。
そこで、オバマが大統領になったら何をやるかというと、まず大規模な公共事業をやるでしょう。ニューヨークの金融・財界人たちもそれをやれと賛成しています。オバマ政権は財政出動をし、減税を行ない、景気浮揚策をとります。「ドルの切り下げ」宣言もやるでしょう。大規模な公共事業をやり、福祉政策を行ないます。
また、オバマ政権はサブプライムではない健全な住宅ローンであるプライムローンを払えなくなった人たちが、差し押さえを受けるのを阻止するために、5兆ドル(500兆円)の巨額の財政資金をつぎ込むでしょう。あれこれ更にこの4倍を出すでしょう。
そうすると、アメリカの連邦政府は巨額の借金をさらに積み増していくことになります。国家借金証書である米国債をものすごい勢いで発行します。それをFRB(連邦中央銀行)が引き受けます。FRBがドルというお札を刷ってアメリカ財務省に与える。これを大銀行の救済に回したり、公共事業や福祉政策を行なうとドルがものすごい勢いで市中に増えます。ドルはジャブジャブ状態になる。ドルの価値は大きく下落し、1ドルが30円くらいというところまで落ち込む。ニューヨークのダウは1万ドルを割って7000ドル台まで下落していくでしょう。
今のベン・バーナンキFRB議長はその日のために計画的に選ばれた人物です。彼は“ヘリコプター・ベン”と呼ばれ、ヘリコプターからドルのお札を撒き散らかすかのように、いざという時のためにドルを大放出する通貨政策を実行します。世界大恐慌の突入を阻止するために、特別に育てられた“戦争(ウォー)(実戦用)将軍(ジェネラル)”です。
私の予測では、2012年には、アメリカの大銀行や証券・保険会社が30ほど潰れて、現在の「IMF世界銀行体制(金・ドル体制)」が終結すると思います。
「アメリカに頭が上がらないアメリカンスクールの外交官」
副島 佐藤さんは日ロ平和協定と北方領土返還交渉でいろいろ苦労なさった。それなのに2002年5月に「背任と偽計業務妨害」という容疑で逮捕されました。2001年に鈴木宗男・衆議院議員が危なくなって、一緒に国策捜査された東郷文彦外務相欧亜局長(当時)と共に弾圧されました。プリマコフ外相(当時)の意思の背景には、アメリカがある。佐藤さんの上司だった渡辺幸治駐ロシア大使が態度を豹変させた。さすがの佐藤さんもそのことはあまりお書きにならない。
私はアメリカが佐藤さんたちの北方領土返還の努力を叩き潰したと思っています。佐藤さんは確かにイスラエルの知識人や外交官たちとお付き合いがありました。その背後にもっと大きなグローバリストたちがいて、イスラエルの動きさえも牽制していたわけでしょう。
佐藤 イスラエルのなかで私が付き合っていたのはシオニストです。グローバリストでくくられるコスモポリタニストとは別の流れの人たちです。
副島 そうですよね。イスラエルの外交官や学者たちはあくまでナショナリスト(愛国者)であり、グローバリストには守るべき自分の国や愛国心はない。グローバリストですから世界中を均質にしたいし、今で言えばアメリカのような国にしてしまいたい。地球を支配しようとしています。
佐藤 要するに彼らは覇権主義をともなった普遍主義なのです。
副島 そうです。佐藤さんは日本の外交官として、ロシアのもっともインテリで頭の良い、かつ権力も握っているパワーエリートたちと対等に付き合えた。なぜなら日本はロシアとは対等である。劣等感を持つこともない。日本はロシアの属国ではない。日本の外交官のいわゆるチャイナ・スクール(中国派)の人たちも、同様に中国人とは真裸で付き合えて、一緒にお風呂に入る対等な関係です。ところがアメリカに対してはそうではない。ワシントン・スクールの外務官僚たちはアメリカ帝国とは絶対に対等な関係にはなれないのです。
佐藤さんは酷い目にあって苦労をなさいました。それでも佐藤さんにとって幸せだったのは、ロシア人のもっとも優秀な人たちと対等に付き合えて、対等に渡り合えたということです。日本人でアメリカ研究をやっているような人たちは子ども扱いです。
佐藤 確かにご指摘のとおりと思います。たとえばアメリカの日本大使館員でまともに上院議員に会える人は誰もいません。アメリカの日本大使館員は180人くらいいますが、共和党・民主党を合わせアメリカの内政問題を担当している大使館員はわずか2人です。それから日本外務省全体でアメリカの調査をやっている人間、内政・外政・軍事を行なっている職員はわずか3人です。それから防衛省の情報本部のアメリカ分析官ではゼロです。アメリカを調査するセクションが存在しないからです。
副島 日本語で「火傷(やけど)をする」という言葉があります。政治家や官僚が国益を考えて本気になったら必ず火傷をする。審議官クラスもアメリカと交渉の窓口になる。日本の財務省であれば財務官(事務方の副大臣)が必ず火傷をするのです。火傷をするにも火傷の仕方があって、愛国(国益重視)を貫くとアメリカの怒りを買って切り捨てられるのですが、そうなりたくなければアメリカの家来になって言うことを聞いて上手に生きる。言うことを聞かなければ左遷されるか、追い詰められるのです。
佐藤 私がなぜこんな形、「起訴休職外務官」という肩書きで頑張っているかというと、それは僕なりの戦いで、後輩を守っているからです。外交の最前線に出てくると絶対に事故が起きます。そのときに中堅くらいの官僚がトカゲの尻尾切りにされることはよくある。これに打ち勝つための方法がなにかというと、尻尾を切ってもうまく切れず、そこから毒が体内に回って敗血症になって外務省自体に毒が回るということを何回かしておけば、その経験から、外務省は僕の後輩たちに対しては同じようなことをできなくなります。
副島 修羅場を漕ぐってここまで生き延びてこられた佐藤さんは偉い。2000年から2002年の頃が恐らく人生の地獄だったのではないでしょうか。
佐藤 そうでもなかったです。格好つけるわけでもありませんが、私は捕まってホッとしました。鈴木宗男さんを売り渡せばいつでも出してもらえたのですが、512泊、513日間、勾留されました。しかし、もうこういう仕事はしないで済むのかと思ったらホッとしました。
副島 鈴(注①)木宗男事件は、多分アメリカに、北方領土返還を「弄(いじ)らせない。返還させない。日本とロシアを絶対に仲良くさせない」という意思がはっきりあって、犠牲になったのではないか。北方領土問題は敗戦時にアメリカの外交官(のちに国務長官)のジョン・フォスター・ダレスが初めから仕組んでつくったのです。
佐藤 僕はこういう感じです。アメリカという表象を使った人が外務省にいたことは間違いありません。ただし赤坂のアメリカ大使館の誰かから命じられて、「鈴木を打ってこい」などということはなかったと思います。多分、アメリカの意向を過剰忖(そん)度(たく)した外務官僚が自発的にそうしたことを行なったのでしょう。
副島 しかし官僚というのはお奉行様階級です。政治家=実質の外務大臣だった鈴木宗男さんは幕閣(老中)です。外国との正式の交渉は幕閣(政治家)がやる。しかし、実質のところはお奉行である官僚たちがやる。佐藤さんは外務省の組織のなかにいた人だから、外国奉行(官僚)たちの下にいた人だ。幕閣(政治家)に責任はないとおっしゃいますが、それは甘いと思います。
佐藤 いいえ。全然甘くない。
副島 いえ。一番上のところの決断は幕閣がやっていますよ。意識的に計画的にやっています。私は「帝国―属国関係」の研究家であり、歴史研究をしていますからこのことがよくわかります。
佐藤 アメリカの名を騙(かた)り、過剰忖(そん)度(たく)をする連中の姿を明らかにすることが重要と思います。
副島 アメリカの意をそれとなく体現して、「共謀共同正犯(コンスピラシー?)」になることを行なう人たちです。親分が、「今日は天気が悪いな」と言うと、その一言で相手を刺しに行く。
佐藤さんはこれまでの著書の中で、そうした組織の構図をすべて鋭く暴いているから凄いですよね。
メドベージェフ体制で北方領土返還は実現するか?
副島 ロシア情勢に精通されている佐藤さんに是非、お聞きしたいのです。就任したメドベージェフ大統領が、最近、「北方領土問題は元々、2国間協議であり、6国間協議のようなものではない」と言明しました。つまりアメリカは邪魔するなということでしょう。
佐藤 プーチン首相とメドベージェフ大統領はまったく一緒の路線を歩んでいます。北方領土問題は部分的に動くと思います。
どういうことかというと、日ロの関係で一番進んだのは、森喜朗総理とプーチン大統領(当時)が、2001年3月25日、イルクーツクの会談で出した声明です。それは、1993年の日ロ関係に関する東(注②)京宣言と1956年の日ソ共同宣言の双方を初めて明示的に記した外交文書だからです。
1956年の日ソ共同宣言で平和条約が結ばれた後、2島を引き渡す、1993年の東京宣言で4島の帰属交渉を明記しますが、その両方を認めた文章は今までなかったのです。プーチン政権の最後のぎりぎりの今年の4月26日の福田・プーチン会談でイルクーツク声明が確認され、その確認をすぐメドベージェフ次期大統領にも取ったのです。
ただここのところで、4島一括返還でなければ絶対ダメだと言って、拳を振り上げる連中がまた出てきて、潰そうとするでしょう。そういう流れになると思います。
副島さんは英語の文法にも詳しいですからご存知と思いますが、ロシア人は「所有」に関して独特の感覚があります。ロシア人は所有の概念であるhaveという動詞を使いません。By me(私のそば)と表現します。「私のそばにある」ということがロシア人が「持つ」ということなのです。「所有」の概念が希薄で、「占有」なのです。
だから、北方領土の問題を考えるとき、ロシア人は所有感覚というものをわかっていれば取り返す可能性があります。占有していれば安心で、所有しなくても大丈夫なのです。所有という言葉は本来は区別できない、別のカテゴリーなのです。その感覚をつかんでおかないと日本はロシアと勝負できません。
ところで、世界経済の話に戻りますが、副島さんは、最近騒がれている「スタグフレーション(不況期の物価上昇)」についてはどう思いますか。
副島 私はスタグフレーションStagflationという言葉をあまり使いません。「スタグネーションstagnation、停滞する景気。デフレ(不況)のままインフレになるという言葉を使いたい。デフレ、不景気なのに原油の値上がりが起きて引きずられて、すべての物価が上がる。それはなぜなのかと問い詰めても、経済学者たちには答えられない。ノーベル賞クラスの経済学者たちにも解けないということがわかりました。
なぜ、スタグフレーションに陥るのか、その理由を簡単に言えば、「お札とか国債(債券)とかの紙切れを刷り過ぎる」ということです。すべての問題はドルの過剰流動性に起因しており、これがスタグフレーション(スタグネーション)を招く。お札と国債の刷り過ぎと過剰発行によって、米ドルはやがて大暴落するに決まっています。その際に金融工学という統計学から派生した数学理論を巨大に膨らませて、「レ(注③)イシオ」(強欲)の思想を全開にしたのです。
佐藤 最初から数値モデルにするところで、今のアメリカ市場経済はひとつの宗教のようなものになったわけですね。
副島 そうです。それをミ(注④)ルトン・フリードマンが金融の先物市場の理論をつくって、実際に各種のデリバティブという金融商品の取引を行なったのです。シカゴにあるC(シー)M(エム)E(イー)(シカゴ・マーカンタイル取引所)が総本山であり、そこのレオ・メラメッドという人が巨大な世界的金融バブルの元凶です。彼はフリードマンの弟子です。「想定元本」とか「予想収益率」、「期待利益率」などといったもので計算します。
全速力で逆方向、後ろに向かって走っているようなものです。前のほうはきれいに見える、つまり美しく説明できますが、走り去った後ろで何が起こるかはわかりません。それが「想定元本、期待利益率」です。ほんとうのところは巨大な八百長市場でしょう。
佐藤 わかります。インテリジェンスの世界でも、どの政権の安定度がどのくらいかというとき、専門家が心象風景に基づいた数字を入れてきます。しかし、最後のところはその道の「神様」といわれる専門家たちが談合で適当な数字を入れて決めますから(笑)。
副島 こんなものは本来の公平で透明な市場でもなんでもありません。それでもなお、アメリカのロックフェラー家やロスチャイルド家などの国際金融資本家(インターナショナルバンカーズ)たちが、来年からあとの世界の金融はオバマ大統領を巧妙に操っていくと思います。
(了)
(欄外の注です)
注①鈴木宗男事件 あっせん収賄容疑で、鈴木宗男衆議院議員が2002年6月に逮捕された。その後、鈴木氏は受託収賄、議員証言法違反などでも起訴され、一審で懲役2年、追徴金1100万円を言い渡された。現在、上告中。
注②東京宣言 エリツィン・ロシア大統領が細川護(もり)煕(ひろ)首相と東京で署名した文書。択(えと)捉(ろふ)島(とう)、国(くな)後(しり)島(とう)、色(しこ)丹(たん)島(とう)、歯(はぼ)舞(まい)群島の帰属に関する問題を「両国間で合意の上、作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結する」と記している。
注③レイシオ レイシオ=ラチオ(ratio)とは、元々は「分割すること、分けること、比例配分する」という意味。「ラチオratio=合理」と「リーズンreason=理性」は同じものだ。突きつめて言うと強欲と拝金の思想である。これらがユダヤ思想の根本であるという副島が解明した理論。
注④ミルトン・フリードマン(1912~ 2006年)ニューヨーク生まれの経済学者。20世紀後半の保守派経済学者の代表的存在。ケインズに対抗し、貨幣数量説であるマネタリズムを甦らせ、今日の経済に多大な影響を与えた。アメリカのレーガノミックス(レーガン政権)やイギリスのサッチャー政権の経済政策の理論的支柱となった。小泉純一郎政権の構造改革にも、大きな影響を与えた。
以上、雑誌『サイゾー』(2008年9月号)の記事
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第一人者同士の対談からは、真剣勝負の緊張感が伝わってきます。
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アメリカ大統領選の行方と金融支配層の実力
●世界を陰で操っているのは誰か?
副島隆彦VS佐藤 優
「サイゾー」(2008年9月号)
「ロックフェラー金融財閥に操られるオバマ次期大統領」
佐藤 アメリカの民主党大統領候補選に関し、副島さんが2007年4月時点で「バラク・オバマ氏が民主党大統領候補となる」と決め打ちしたことには驚きました。日本で一番早い予測ではなかったかと思います。しかも、なおかつ「私には見えるのです」という言葉は凄いですね。こういうのが「インテリジェンス能力」というものです。
現実の情勢を分析する際に、なにより重要なのは正確に見通すということで、副島さんの今回のオバマ民主党大統領候補勝利に関する的確な予測は、他の人がいろいろな理由をつけるなかで、非常に突出していました。
副島 バラク・オバマが民主党大統領候補に選ばれるということは、もう4年前から私にはわかっていました。彼を抜擢したのはディヴィッド・ロックフェラーです。彼らニューヨークの金融・世界財界人の筆頭の意向が大きく働いて、これでいくぞと4年前に決められたからです。大統領選挙といっても、親分衆が「今度は誰を立てるか」によって決まります。その承認がなければ無理でしょうという話です。これからの8年間は、共和党ではなくて、民主党に政権をつくらせる、という始めからの筋書きなのです。アメリカのデモクラシーも形だけです。
ヒラリー・クリントン候補が08年6月までなかなか撤退しなかったのは、背後にネオコン派やイスラエル・ロビーが必死に支援していたからです。そして、今年の11月4日に実施される大統領選挙の本選挙でも、共和党のジョン・マケイン上院議員が当選することはないと予測します。
佐藤 ところで、11月には米国大統領が確定しますが、オバマが大統領に選ばれたら今後のアメリカはどうなるでしょうか。
副島 アメリカ経済はこれからリセッション、そして大不況に突入します。貧困層による暴動も起こるでしょう。そのときの貧民の多くは有色人種です。暴動を阻止するのにもっとも効果を発揮するのはオバマの“肌の色”ということになります。黒人大統領が飢えた米国人に向かって、平静と団結を呼びかけることになる。
そこで、オバマが大統領になったら何をやるかというと、まず大規模な公共事業をやるでしょう。ニューヨークの金融・財界人たちもそれをやれと賛成しています。オバマ政権は財政出動をし、減税を行ない、景気浮揚策をとります。「ドルの切り下げ」宣言もやるでしょう。大規模な公共事業をやり、福祉政策を行ないます。
また、オバマ政権はサブプライムではない健全な住宅ローンであるプライムローンを払えなくなった人たちが、差し押さえを受けるのを阻止するために、5兆ドル(500兆円)の巨額の財政資金をつぎ込むでしょう。あれこれ更にこの4倍を出すでしょう。
そうすると、アメリカの連邦政府は巨額の借金をさらに積み増していくことになります。国家借金証書である米国債をものすごい勢いで発行します。それをFRB(連邦中央銀行)が引き受けます。FRBがドルというお札を刷ってアメリカ財務省に与える。これを大銀行の救済に回したり、公共事業や福祉政策を行なうとドルがものすごい勢いで市中に増えます。ドルはジャブジャブ状態になる。ドルの価値は大きく下落し、1ドルが30円くらいというところまで落ち込む。ニューヨークのダウは1万ドルを割って7000ドル台まで下落していくでしょう。
今のベン・バーナンキFRB議長はその日のために計画的に選ばれた人物です。彼は“ヘリコプター・ベン”と呼ばれ、ヘリコプターからドルのお札を撒き散らかすかのように、いざという時のためにドルを大放出する通貨政策を実行します。世界大恐慌の突入を阻止するために、特別に育てられた“戦争(ウォー)(実戦用)将軍(ジェネラル)”です。
私の予測では、2012年には、アメリカの大銀行や証券・保険会社が30ほど潰れて、現在の「IMF世界銀行体制(金・ドル体制)」が終結すると思います。
「アメリカに頭が上がらないアメリカンスクールの外交官」
副島 佐藤さんは日ロ平和協定と北方領土返還交渉でいろいろ苦労なさった。それなのに2002年5月に「背任と偽計業務妨害」という容疑で逮捕されました。2001年に鈴木宗男・衆議院議員が危なくなって、一緒に国策捜査された東郷文彦外務相欧亜局長(当時)と共に弾圧されました。プリマコフ外相(当時)の意思の背景には、アメリカがある。佐藤さんの上司だった渡辺幸治駐ロシア大使が態度を豹変させた。さすがの佐藤さんもそのことはあまりお書きにならない。
私はアメリカが佐藤さんたちの北方領土返還の努力を叩き潰したと思っています。佐藤さんは確かにイスラエルの知識人や外交官たちとお付き合いがありました。その背後にもっと大きなグローバリストたちがいて、イスラエルの動きさえも牽制していたわけでしょう。
佐藤 イスラエルのなかで私が付き合っていたのはシオニストです。グローバリストでくくられるコスモポリタニストとは別の流れの人たちです。
副島 そうですよね。イスラエルの外交官や学者たちはあくまでナショナリスト(愛国者)であり、グローバリストには守るべき自分の国や愛国心はない。グローバリストですから世界中を均質にしたいし、今で言えばアメリカのような国にしてしまいたい。地球を支配しようとしています。
佐藤 要するに彼らは覇権主義をともなった普遍主義なのです。
副島 そうです。佐藤さんは日本の外交官として、ロシアのもっともインテリで頭の良い、かつ権力も握っているパワーエリートたちと対等に付き合えた。なぜなら日本はロシアとは対等である。劣等感を持つこともない。日本はロシアの属国ではない。日本の外交官のいわゆるチャイナ・スクール(中国派)の人たちも、同様に中国人とは真裸で付き合えて、一緒にお風呂に入る対等な関係です。ところがアメリカに対してはそうではない。ワシントン・スクールの外務官僚たちはアメリカ帝国とは絶対に対等な関係にはなれないのです。
佐藤さんは酷い目にあって苦労をなさいました。それでも佐藤さんにとって幸せだったのは、ロシア人のもっとも優秀な人たちと対等に付き合えて、対等に渡り合えたということです。日本人でアメリカ研究をやっているような人たちは子ども扱いです。
佐藤 確かにご指摘のとおりと思います。たとえばアメリカの日本大使館員でまともに上院議員に会える人は誰もいません。アメリカの日本大使館員は180人くらいいますが、共和党・民主党を合わせアメリカの内政問題を担当している大使館員はわずか2人です。それから日本外務省全体でアメリカの調査をやっている人間、内政・外政・軍事を行なっている職員はわずか3人です。それから防衛省の情報本部のアメリカ分析官ではゼロです。アメリカを調査するセクションが存在しないからです。
副島 日本語で「火傷(やけど)をする」という言葉があります。政治家や官僚が国益を考えて本気になったら必ず火傷をする。審議官クラスもアメリカと交渉の窓口になる。日本の財務省であれば財務官(事務方の副大臣)が必ず火傷をするのです。火傷をするにも火傷の仕方があって、愛国(国益重視)を貫くとアメリカの怒りを買って切り捨てられるのですが、そうなりたくなければアメリカの家来になって言うことを聞いて上手に生きる。言うことを聞かなければ左遷されるか、追い詰められるのです。
佐藤 私がなぜこんな形、「起訴休職外務官」という肩書きで頑張っているかというと、それは僕なりの戦いで、後輩を守っているからです。外交の最前線に出てくると絶対に事故が起きます。そのときに中堅くらいの官僚がトカゲの尻尾切りにされることはよくある。これに打ち勝つための方法がなにかというと、尻尾を切ってもうまく切れず、そこから毒が体内に回って敗血症になって外務省自体に毒が回るということを何回かしておけば、その経験から、外務省は僕の後輩たちに対しては同じようなことをできなくなります。
副島 修羅場を漕ぐってここまで生き延びてこられた佐藤さんは偉い。2000年から2002年の頃が恐らく人生の地獄だったのではないでしょうか。
佐藤 そうでもなかったです。格好つけるわけでもありませんが、私は捕まってホッとしました。鈴木宗男さんを売り渡せばいつでも出してもらえたのですが、512泊、513日間、勾留されました。しかし、もうこういう仕事はしないで済むのかと思ったらホッとしました。
副島 鈴(注①)木宗男事件は、多分アメリカに、北方領土返還を「弄(いじ)らせない。返還させない。日本とロシアを絶対に仲良くさせない」という意思がはっきりあって、犠牲になったのではないか。北方領土問題は敗戦時にアメリカの外交官(のちに国務長官)のジョン・フォスター・ダレスが初めから仕組んでつくったのです。
佐藤 僕はこういう感じです。アメリカという表象を使った人が外務省にいたことは間違いありません。ただし赤坂のアメリカ大使館の誰かから命じられて、「鈴木を打ってこい」などということはなかったと思います。多分、アメリカの意向を過剰忖(そん)度(たく)した外務官僚が自発的にそうしたことを行なったのでしょう。
副島 しかし官僚というのはお奉行様階級です。政治家=実質の外務大臣だった鈴木宗男さんは幕閣(老中)です。外国との正式の交渉は幕閣(政治家)がやる。しかし、実質のところはお奉行である官僚たちがやる。佐藤さんは外務省の組織のなかにいた人だから、外国奉行(官僚)たちの下にいた人だ。幕閣(政治家)に責任はないとおっしゃいますが、それは甘いと思います。
佐藤 いいえ。全然甘くない。
副島 いえ。一番上のところの決断は幕閣がやっていますよ。意識的に計画的にやっています。私は「帝国―属国関係」の研究家であり、歴史研究をしていますからこのことがよくわかります。
佐藤 アメリカの名を騙(かた)り、過剰忖(そん)度(たく)をする連中の姿を明らかにすることが重要と思います。
副島 アメリカの意をそれとなく体現して、「共謀共同正犯(コンスピラシー?)」になることを行なう人たちです。親分が、「今日は天気が悪いな」と言うと、その一言で相手を刺しに行く。
佐藤さんはこれまでの著書の中で、そうした組織の構図をすべて鋭く暴いているから凄いですよね。
メドベージェフ体制で北方領土返還は実現するか?
副島 ロシア情勢に精通されている佐藤さんに是非、お聞きしたいのです。就任したメドベージェフ大統領が、最近、「北方領土問題は元々、2国間協議であり、6国間協議のようなものではない」と言明しました。つまりアメリカは邪魔するなということでしょう。
佐藤 プーチン首相とメドベージェフ大統領はまったく一緒の路線を歩んでいます。北方領土問題は部分的に動くと思います。
どういうことかというと、日ロの関係で一番進んだのは、森喜朗総理とプーチン大統領(当時)が、2001年3月25日、イルクーツクの会談で出した声明です。それは、1993年の日ロ関係に関する東(注②)京宣言と1956年の日ソ共同宣言の双方を初めて明示的に記した外交文書だからです。
1956年の日ソ共同宣言で平和条約が結ばれた後、2島を引き渡す、1993年の東京宣言で4島の帰属交渉を明記しますが、その両方を認めた文章は今までなかったのです。プーチン政権の最後のぎりぎりの今年の4月26日の福田・プーチン会談でイルクーツク声明が確認され、その確認をすぐメドベージェフ次期大統領にも取ったのです。
ただここのところで、4島一括返還でなければ絶対ダメだと言って、拳を振り上げる連中がまた出てきて、潰そうとするでしょう。そういう流れになると思います。
副島さんは英語の文法にも詳しいですからご存知と思いますが、ロシア人は「所有」に関して独特の感覚があります。ロシア人は所有の概念であるhaveという動詞を使いません。By me(私のそば)と表現します。「私のそばにある」ということがロシア人が「持つ」ということなのです。「所有」の概念が希薄で、「占有」なのです。
だから、北方領土の問題を考えるとき、ロシア人は所有感覚というものをわかっていれば取り返す可能性があります。占有していれば安心で、所有しなくても大丈夫なのです。所有という言葉は本来は区別できない、別のカテゴリーなのです。その感覚をつかんでおかないと日本はロシアと勝負できません。
ところで、世界経済の話に戻りますが、副島さんは、最近騒がれている「スタグフレーション(不況期の物価上昇)」についてはどう思いますか。
副島 私はスタグフレーションStagflationという言葉をあまり使いません。「スタグネーションstagnation、停滞する景気。デフレ(不況)のままインフレになるという言葉を使いたい。デフレ、不景気なのに原油の値上がりが起きて引きずられて、すべての物価が上がる。それはなぜなのかと問い詰めても、経済学者たちには答えられない。ノーベル賞クラスの経済学者たちにも解けないということがわかりました。
なぜ、スタグフレーションに陥るのか、その理由を簡単に言えば、「お札とか国債(債券)とかの紙切れを刷り過ぎる」ということです。すべての問題はドルの過剰流動性に起因しており、これがスタグフレーション(スタグネーション)を招く。お札と国債の刷り過ぎと過剰発行によって、米ドルはやがて大暴落するに決まっています。その際に金融工学という統計学から派生した数学理論を巨大に膨らませて、「レ(注③)イシオ」(強欲)の思想を全開にしたのです。
佐藤 最初から数値モデルにするところで、今のアメリカ市場経済はひとつの宗教のようなものになったわけですね。
副島 そうです。それをミ(注④)ルトン・フリードマンが金融の先物市場の理論をつくって、実際に各種のデリバティブという金融商品の取引を行なったのです。シカゴにあるC(シー)M(エム)E(イー)(シカゴ・マーカンタイル取引所)が総本山であり、そこのレオ・メラメッドという人が巨大な世界的金融バブルの元凶です。彼はフリードマンの弟子です。「想定元本」とか「予想収益率」、「期待利益率」などといったもので計算します。
全速力で逆方向、後ろに向かって走っているようなものです。前のほうはきれいに見える、つまり美しく説明できますが、走り去った後ろで何が起こるかはわかりません。それが「想定元本、期待利益率」です。ほんとうのところは巨大な八百長市場でしょう。
佐藤 わかります。インテリジェンスの世界でも、どの政権の安定度がどのくらいかというとき、専門家が心象風景に基づいた数字を入れてきます。しかし、最後のところはその道の「神様」といわれる専門家たちが談合で適当な数字を入れて決めますから(笑)。
副島 こんなものは本来の公平で透明な市場でもなんでもありません。それでもなお、アメリカのロックフェラー家やロスチャイルド家などの国際金融資本家(インターナショナルバンカーズ)たちが、来年からあとの世界の金融はオバマ大統領を巧妙に操っていくと思います。
(了)
(欄外の注です)
注①鈴木宗男事件 あっせん収賄容疑で、鈴木宗男衆議院議員が2002年6月に逮捕された。その後、鈴木氏は受託収賄、議員証言法違反などでも起訴され、一審で懲役2年、追徴金1100万円を言い渡された。現在、上告中。
注②東京宣言 エリツィン・ロシア大統領が細川護(もり)煕(ひろ)首相と東京で署名した文書。択(えと)捉(ろふ)島(とう)、国(くな)後(しり)島(とう)、色(しこ)丹(たん)島(とう)、歯(はぼ)舞(まい)群島の帰属に関する問題を「両国間で合意の上、作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結する」と記している。
注③レイシオ レイシオ=ラチオ(ratio)とは、元々は「分割すること、分けること、比例配分する」という意味。「ラチオratio=合理」と「リーズンreason=理性」は同じものだ。突きつめて言うと強欲と拝金の思想である。これらがユダヤ思想の根本であるという副島が解明した理論。
注④ミルトン・フリードマン(1912~ 2006年)ニューヨーク生まれの経済学者。20世紀後半の保守派経済学者の代表的存在。ケインズに対抗し、貨幣数量説であるマネタリズムを甦らせ、今日の経済に多大な影響を与えた。アメリカのレーガノミックス(レーガン政権)やイギリスのサッチャー政権の経済政策の理論的支柱となった。小泉純一郎政権の構造改革にも、大きな影響を与えた。
以上、雑誌『サイゾー』(2008年9月号)の記事
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