メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

バビ・ヤール

2006-08-27 16:19:35 | オーケストラ
ショスタコーヴィチ「交響曲第13番作品113《バビ・ヤール》」(1963)
キリル・コンドラシン指揮バイエルン放送交響楽団・男声合唱団、ジョン・シャーリーー=カーク(バス)
1980年12月18日、19日ミュンヘン ヘルクレス・ザール(ライブ) (PHILIPS) タワー・レコード企画の復刻(1000円)
 
1962年の同じ12月18日にこの曲を初演し、この録音の3ヶ月後に世を去ったコンドラシンよる演奏。第13番はショスタコーヴィチの交響曲の中での評価は高くないようだ。もちろん奥手の当方は例のバルシャイ指揮全曲(3000円!)で対訳なしに一回聴いただけだが、今回は対訳つきということもあるし、なにやらいろいろ背景がある曲とのこで、試した次第。
 
歌詞を追い、聴いてみて、音響のわりにずしりとくるものがなく、またここから想像が広がるということもなかった。
 
エフトシェンコによる歌詞とCD解説の一端を読むと、この「バビ・ヤール」とはキエフ郊外の谷で、第2次世界大戦中ドイツ軍がここで約10万人のユダヤ人、ウクライナ人を虐殺したといわれている。またこの詩はソ連によるユダヤ人迫害への抗議であるとも言われている。これが第一楽章でかなり長い。そして第2楽章~第5楽章まで、やはりエフトシェンコの歌詞が続き、圧制に対抗するユーモア、生活する女達の知恵、密告の恐怖、出世主義などが描かれる。
ほぼ全体に声楽がからんでいる。
 
歌詞があまりに具体的、詳細であり、それに音楽が寄り添っているから、それだけで1時間弱続いてはインパクトが薄くなる。
解説によると1956年のスターリン批判から始まった「雪解け」の中でエフトシェンコが1961年にこの詩を発表した。
以前であれば、こんなに具体的な表現で体制批判できなかったであろう。だから、ここには暗喩、隠喩というべきものは少なく、ストレスに欠けているともいえる。ショスタコーヴィチの作曲はこの詩人に対する支持の表明以上になっていない、聴くものに想像の広がりを刺激するというまでには至らない、ということだろうか。
 
もっともこのすぐ後、あまりにはっきりした体制批判に注文が出、その後それほど演奏されなかったそうである。それはこの曲の悲劇だが、だからといってその価値が高まるというものでもない。もとは作りやすい環境で出来た曲なのである。
 
その後のショスタコーヴィチを、堕落した作曲家と呼ぶ向きもあるようだが、これだけの人が何も意識しなかったはずはない。晩年のいくつか、今後注意して聴いてみようと思っている。

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