メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

マイルス・デイビス自叙伝

2007-11-02 22:43:46 | 本と雑誌
「マイルス・デイビス自叙伝Ⅰ、Ⅱ」(マイルス・デイビス、クインシー・トループ、訳:中山康樹)(宝島社文庫)
Miles:The Autobiography   by Miles Davis with QuincyTroupe
マイルス・デイビス(1926-1991)がクインシー・トループのインタビューにこたえたものから作られた自叙伝で、発表は死の2年前である。
大変な分量で、しかも詳細を極めているが、これがマイルスの記憶力によるものなのか、トループがかなり準備してマイルスがそれを認めたのかわからないが、どちらにしてもマイルスの記憶力は相当なものである。
 
読むきっかけになったのはNHK「知るを楽しむ 私のこだわり人物伝」で菊地成孔がマイルスを語ったこと。 ここで注意をひかれたマイルスの、黒人の中で上層階級の出身、父親の強い影響、クラシックを含めた音楽的教養、次から次へと音楽を革新していき同じところにとどまらない、などはここでもその通りである。
 
クラシック系統で彼が聴いたり楽譜を読んだりしていた作曲家が、ラベル、シェーンベルク、ベルク、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ハチャトリアン、バルトーク、シュトックハウゼン、、、とくると驚く。これはジュリアード中退だからというわけではない。
 
マイルスの音楽についてはリアルタイムで追っかけていたわけではなくて、「クールの誕生」から「カインド・オブ・ブルー」までの数枚を名作LPとして聴いたのが「ビッチェズ・ブリュー」(1969)のころからであり、しかも「ビッチェズ・ブリュー」自体を聴いたのは最近という、なんとも自叙伝をの読者としてはあまりふさわしくない。
 
それでも、マイルスの音楽への対し方、新しいということの押さえかたは、とても説得力があり、そして一緒に音楽をやった人たちに対するコメントは実に落ち着いていて、冷静に評価はするが、悪口をいうことはまずなく、それは非常に気持ちよい。これはなかなかないことである。中で、ドラムスのマックス・ローチ、トニー・ウイリアムスについての評価は予想通りで納得。
 
ただこの中で彼の麻薬への耽溺とその脱却への闘いの記述が、同じく麻薬をやっていた仲間の記述とともに詳細に延々と続くのは、読み続けるのに苦労する。しかし、これを書いたことによって全体の重み、信憑性は確保されたのだろう。これがあってそこから脱却したからえらいとか音楽に何か反映されたとか、そういうことは何も語らず、言い訳もしていないのには感心した
 
「ビッチェズ・ブリュー」以降の録音をこれから積極的に聴きたくなってきた。

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