「プリンセス・トヨトミ」 万城目学 著(2009年3月、文藝春秋社)
「鴨川ホルモー」、「鹿男あをによし」に続く3作目の小説である。
それぞれ、映画、連続TVドラマで見た。原作を読むのは今回が始めてである。
物語は、大阪には、大坂夏の陣の後、もう一つの大坂、大坂城が存在し、それは明治になっても、今まで続いている、というとてつもない設定。それが今の行政機構に寄生しているという見地から、三権分立から独立している会計検査院の個性ある3人組が追及を進めていく。私は会計検査院のことを比較的知っているほうだが、一般には珍しい設定だろう。
この大阪(大坂)が、あまりにも多くの人が共有するミステリー、というところにこの小説の途方もないところがあって、それが最後まで読み進めさせる所以となっている。
大阪側の人たちは想像の範囲に近いが、会計検査院の3人について作者は相当凝っている。公務員キャリア試験のトップにもかかわらず希望して会計検査院に入ったリーダーの松平、小心者だが結果としてミラクルを起こす小柄な鳥居、日仏混血でモデルまがいの若いエリート女性ゲンズブール・旭。東京の人間としては、この3人の描写は楽しい。旭は偽名としてシャルロットと書くことがある。持ってるカバンは当然バーキンだろう。
現実のゲンズブール夫婦と娘に作者はよほど興味があったのだろう。もし映画になるとしたら、旭に扮するのは、「鴨川ホルモー」では不細工なメイクだったが、栗山千明がまさにぴったりだ。
難を言えば、クライマックスがすこしヒューマンというか、家族の情愛に傾きすぎたきらいがあって、もう少しミステリーのまま残して欲しかった。
主人公の一人である大阪の少年の父親はお好み焼きやの主人、この人は野球が好きいつもスポーツ新聞を読んでいるのだが、当然タイガースファンと思いきやそうではなくて、広島カープそれも前田智徳のファン。あの背番号1は前田の背中にこそふさわしい、という。この作者、おぬし、なかなかやるな、である。