「雨・赤毛 - モーム短編集Ⅰ- 」(サマセット・モーム、中野好夫訳)(新潮文庫)
随分前に同じ文庫で読んでいる。おそらくモーム(1874-1965)の作品で最初に読んだものだろう。
「雨」、「赤毛」、「ホノルル」と1921年に発表された短編集「木の葉のそよぎ(The Trembling of a Leaf)」に収録されているもので、いずれも短編としては少し長めである。訳者もいうように「南海もの」といってよい。
記憶が残っているのは「雨」だけで、再読して後の評価と一致する。これに比べると「赤毛」も「ホノルル」も、女というものは、男と女の仲というものは、という枠の中の「落ち」にとどまっている。ただこの「雨」も、最初に読んだときには、この島の、鬱陶しく降り続く、止まない雨が、人の神経を、本能を、官能をなで、かきたて、この場合は原罪を呼び覚まし、といったところが終結に向かう通奏低音になっていた。
そういうことがすでに頭にあるせいか、今度はそんなに感じない。思ったより雨の記述が少ないようだ。二回読んでどうか、ということは難しい問題である。
それから、最初昭和15年に出されたこの翻訳、訳者には失礼だが、文章の流れがよどみないとはいいがたく、読んでいてリズムが乱れるところが少なくない。一回目はこの小説の世界に魅入られて気にならなくても、再読するとそうでもないのだろう。