メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

若草の萌えるころ

2011-10-17 16:22:54 | 映画
「若草の萌えるころ」 (Tante Zita、1968仏、94分)
監督:ロベール・アンリコ、原作:リュシエンヌ・アモン、脚本:ロベール・アンリコ他、音楽:フランソワ・ド・ルーベ
ジョアンナ・シムカス(アニー)、カティーナ・パクシヌー(ジタ)、ホセ・マリア・フロタッツ(シモン)、ベルナール・フレッソン(ボニ)、ポール・クローシェ(医師ベルナール)、シュザンヌ・フロン(母)
(2011年9月、BS-TBSで放送されたもの)
 
大学で中国語を学んでいるアニーは母と伯母(ジタ)と住んでいる。パリの中流階級のなかなかしゃれたアパルトマン。子どもにピアノを教えている伯母が脳卒中で倒れ、アニーが一晩外で過ごす羽目になる間に死んでしまう。その一晩の、彼女が大人になる体験と幻想をおりまぜた映画である。
 
製作年1968ということは、実質的に作られたのは五月革命直前だろうか。中国語の教室、毛沢東の話を説く第三世界の学生、しかしパリの夜はまだ若者が楽しそうに遊んでいて、風俗的には一番楽しかったころだろうか。アニーが着ているものもこのころのデザインが反映したもののようだ。
 
回想で出てくる伯母の話によると、弟すなわち主人公の父はスペイン内乱時に伯母とともに共和国派を支援していて、何度かつかまり、最後は消息不明、おそらく死んでいる。
親の世代のスペイン内乱、主人公の世代における対抗文化への予感、そういうものと、パリの夜の若者の風俗を、ロベール・アンリコの頭の中にあるわまざまなイメージを織り交ぜながらコラージュした、ものだろうか。
 
もっとも話しの大筋は、甘酸っぱい青春もので、あまり正面切って主張を表に出すことがきらいなのかも知れない。音楽はそれほど目立たないが、映画としては「アメリカングラフィティ」のパリ版といってもよい。
 
またアンリコからすると、あの名作「冒険者たち」(Les Aventuriers, 1967)のあと、ジョアンナ・シムカスを使ってデザートを作ろうという気はなかったか。 
「冒険者たち」は、ちょっと世の中からはずれたリノ・ヴァンチュラ、アラン・ドロン、ジョアンナ・シムカスというそれぞれの世代を代表する三人の一勝負、その美しくも悲痛な崩壊を描いた青春映画の傑作だが、ジョアンナ・シムカスだけがちょっと出番不足の感があったから、これは製作サイドから考えれば当然かもしれない。
 
シムカスはカナダ出身でフランスの主演女優のなかでは長身、ボーイッシュだが、あの世代で得難いスターになると思った。しかしその後はあまり出てくることなく、シドニー・ポワチエと結婚したらしい。その後、フランスでアイドル的な女優はあまりいない。
 
さて、伯母のジタを演じているカティーナ・パクシヌー、どこかできいた名前と思ったら、「誰がために鐘は鳴る」(1943)で山岳ゲリラの仕切り役になり印象的な演技をしていた。伯母の回想によると彼女の弟(アニーの父)はスペインで橋を爆破したという。「誰がために鐘は鳴る」では彼女のグループと主人公(ゲイリー・クーパー)が橋を爆破する。この連想は偶然ではなく意識的なものだろう。
 

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