「評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」」 横田増生 著
2014年6月 朝日文庫
この本はナンシー関が2002年に39歳で亡くなって10年後に書かれ、最近文庫化されたものである。
ナンシー関の文章と消しゴム版画は、週刊文春の連載「ナンシー関のテレビ消灯時間」でなじんでいた。他のものは、生前はよく知らない。
この関係者への詳細なインタビューにもとづく評伝を読むと、やはり彼女の本領はテレビ・ウォッチングに基づく人物評であったようだ。
テレビによく登場する、タレント、キャスター、歌手、俳優などなど、それをある意味虚心に、しつこく見る眼が飛びぬけていて、対象となっている本人がうっかりしている、気づかない意図、魂胆など、その役割から本質的に離れたところでの変な思惑、それらがナンシーから逃れることは困難だったようで、それを指摘し「それでいいんかい」、その脇に添えられた絶妙な消しゴム版画とともに、こちらは黙ってうなづく、そういうものだった。
彼女がいなくなってから、テレビの世界を、またそれなりの人はテレビに登場することが多いからそういう人たちを、そういう目で見て書くということは稀少になってしまった。
この評伝を読んでいると、彼女の書いていたことを想い返し、膝をうつことが何回かあったが、それと同時に、読者としての自分もそうではないだろうかと自らを省みさせる効果もあった。
評伝の中に随時出てくる消しゴム版画の選定も的確で、楽しい。