ワーグナー:楽劇「さまよえるオランダ人」
指揮:ワレリー・ゲルギエフ、演出:フランソワ・ジラール
エフゲニー・ニキティン(オランダ人)、アニヤ・カンペ(ゼンタ)、フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ(ダーラント)、藤村実穂子(マリー)、セルゲイ・スコロホドフ(エリック)、デイヴィッド・ポルティッヨ(舵取り)
2020年3月10日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2021年6月 WOWOW
2月にもオランダ人をファビオ・ルイージ指揮フィレンツェ五月祭で見ている。こう続くと多少よく気がつくところがある。その時、さまよえるオランダ人が結婚出来れば救われるとしたダーラントの娘ゼンタがかなり大柄だった。歌唱は特にどうということもなかったが、今回のアニヤ・カンペは同じく大柄、最初からたいへん強い歌唱で、どうしても救ってあげたいという意志が前に出ている。
オランダ人はゼンタを以前から好いているエリックとのやりとりを気づいたからか、これは放浪を続けざるを得ないと言い渡すのだが、ゼンタは身をひるがえして死を選び、オランダ人を救う。
今回のアニヤ・カンペのゼンタを聴いて初めて、これは純粋な愛情などというものではない、なにしろ会う前から伝説を描いた絵を見て、憧れというか妄想をもっていたわけで、ヒューマンな要素はまずないのである。
なんと言ったらいいか、先験的な破滅による救済とでも言ったらいいだろうか。作曲家はこの初期の作品で、すでにこういう概念を持っていたのだろうか。カンペで見、聴くともうブリュンヒルデに通じるものを感じてしまう。
オランダ人、ダーラントは力もあり堅実、マリーの藤村実穂子は日本人で初めてメトデビューということで話題になった。よく知らなかったが昨年、エッシェンバッハ指揮N響のマーラー「復活」で評判を知った。歌唱はこの場に合ったものだが、もう少し声量がほしい。舵取りのポルティッヨは若々しいきれいな声で、この暗い背景の中アクセントになっている。
演出のジラールは映画出身で評価が高いらしい。ダーラントの家の糸より工場の場面は、上から垂れた縄を使ったイメージ演出で面白いが、上述の別公演で近代の小さい工場のリアルな雰囲気を出していたものの方が、あの場面の意味がよく出ていたように思う。
全体にオランダ人の船や船員たちもあまり荒々しく描かれていない。メトの合唱とゲルギエフが指揮するオケがあれば、ということでもないだろうが。
そこはルイージ・フィレンツェの方が印象強かったと言える。もう少し歌手のレベルが高ければさらによかったが。
この作品、全体としていかにもゲルギエフ向きといえるが、それだからか割合堅実淡々と指揮しているといえる。それは間違っていないが、ワーグナーではむしろ他の作品でこの人ならではの表出を聴きたいところだ。
指揮:ワレリー・ゲルギエフ、演出:フランソワ・ジラール
エフゲニー・ニキティン(オランダ人)、アニヤ・カンペ(ゼンタ)、フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ(ダーラント)、藤村実穂子(マリー)、セルゲイ・スコロホドフ(エリック)、デイヴィッド・ポルティッヨ(舵取り)
2020年3月10日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2021年6月 WOWOW
2月にもオランダ人をファビオ・ルイージ指揮フィレンツェ五月祭で見ている。こう続くと多少よく気がつくところがある。その時、さまよえるオランダ人が結婚出来れば救われるとしたダーラントの娘ゼンタがかなり大柄だった。歌唱は特にどうということもなかったが、今回のアニヤ・カンペは同じく大柄、最初からたいへん強い歌唱で、どうしても救ってあげたいという意志が前に出ている。
オランダ人はゼンタを以前から好いているエリックとのやりとりを気づいたからか、これは放浪を続けざるを得ないと言い渡すのだが、ゼンタは身をひるがえして死を選び、オランダ人を救う。
今回のアニヤ・カンペのゼンタを聴いて初めて、これは純粋な愛情などというものではない、なにしろ会う前から伝説を描いた絵を見て、憧れというか妄想をもっていたわけで、ヒューマンな要素はまずないのである。
なんと言ったらいいか、先験的な破滅による救済とでも言ったらいいだろうか。作曲家はこの初期の作品で、すでにこういう概念を持っていたのだろうか。カンペで見、聴くともうブリュンヒルデに通じるものを感じてしまう。
オランダ人、ダーラントは力もあり堅実、マリーの藤村実穂子は日本人で初めてメトデビューということで話題になった。よく知らなかったが昨年、エッシェンバッハ指揮N響のマーラー「復活」で評判を知った。歌唱はこの場に合ったものだが、もう少し声量がほしい。舵取りのポルティッヨは若々しいきれいな声で、この暗い背景の中アクセントになっている。
演出のジラールは映画出身で評価が高いらしい。ダーラントの家の糸より工場の場面は、上から垂れた縄を使ったイメージ演出で面白いが、上述の別公演で近代の小さい工場のリアルな雰囲気を出していたものの方が、あの場面の意味がよく出ていたように思う。
全体にオランダ人の船や船員たちもあまり荒々しく描かれていない。メトの合唱とゲルギエフが指揮するオケがあれば、ということでもないだろうが。
そこはルイージ・フィレンツェの方が印象強かったと言える。もう少し歌手のレベルが高ければさらによかったが。
この作品、全体としていかにもゲルギエフ向きといえるが、それだからか割合堅実淡々と指揮しているといえる。それは間違っていないが、ワーグナーではむしろ他の作品でこの人ならではの表出を聴きたいところだ。