広辞苑によると…
音痴とは
【生理的欠陥によって正しい音の認識と記憶や発声ができないこと。また、そういう人】
昔、ドリフターズの「もしもシリーズ」というのがありました。
もしもこんなお医者さんがいたら…
もしもこんな仲居さんがいたら…
もしもこんなおまわりさんがいたら…
ありそうでありえないからコントなんです。
さて、もしも音痴なオペラ歌手がいたら…
ありえませんよね。
ところが、誰が聞いても音痴なのに、たくさんのファンに愛されたソプラノ歌手が、アメリカにいたそうです。
彼女のステージを見損なった人は「そんな面白いステージを見られなくて返す返すも残念」と地団駄踏んだ…とか。それくらい度外れた音痴は妙な可笑しさがあるようです。
これにヒントを得てできたのが「偉大なるマルグリット」という映画です。
誰でもが、はじめて聞いたマグリットの度外れた歌にあっけにとられますが、いつしか、その大らかさの虜になります。
マルグリットは男爵夫人で大富豪。取りまきは、失笑し偽りの喝采をおくる貴族たち。また巧妙なお世辞で、陰謀を企てる若い芸術家。
でも純粋なマルグリットは誰も疑わず子どものように無邪気。いつしか悪人たちまで彼女のファンに…
音痴であることを知らないのはマルグリット本人だけ…。
夫は妻の親友と浮気をしていて、マルグリットには無関心。ある時、彼は愛人に言います。
「妻には女としての魅力を感じない」と。
マルグリットは夫の浮気をはじめは知りませんでした。
愛しているのに愛されていないという寂しさ。その寂しさから逃れるため、オペラに夢中になっていました。
邸宅で客を招いて音楽会を開いているうちはまだ良かったのですが、こともあろうに彼女はエキサイトしてリサイタルを開く計画を立てます。
世間に恥をさらしてしまう…と危惧する夫。
夫は愛人に呟きます。
「なぜ妻は歌うんだろう」と。
真剣に悩む彼に、寂しそうに愛人は答えます。
「あなたの関心をひくためよ。その点では成功のようね」
このやりとりが、夫と愛人の別離を仄めかしています。
いつしか夫の心は、ひどい音痴なのに多くの観衆の前で歌いたがる妻のことで一杯になっていました。
リサイタルに向け、今は落ちぶれているとはいえ、かつては実力と人気を誇っていたプロの歌手が教師としてマルグリットに猛特訓します。しかし、あまりの音痴に呆れ果て、ついに教師はキレてしまう。
しかし、マルグリットはメゲるどころか、どんどん輝いていく。
何としてでもリサイタルは止めさせなくては…
夫はハラハラしながらも一途な彼女に段々引っ張られていきます。
妻を傷つけたくない夫はマルグリットが音痴であることをとうとう言うことができません。
ついに、リサイタルがやってきました。
いよいよ猛特訓の成果を披露する日です。
劇場は満席。
美しい衣装に身を包んだマルグリットは静々と舞台中央に…。
シーンとした会場に彼女の熱唱の第一声。
会場は爆笑の渦。
私もオペラを聞いて、声を出して笑ったのは生まれてはじめてでした。
マルグリットは皆が笑うほど喜んでくれている…と悦に入るわけです。
熱唱のあまり、吐血して舞台で倒れるマルグリット。
ここでシーンは変わります。
入院しているマルグリットはついに心が壊れはじめます。
ドクターは、荒療治を提案します。
それは、マルグリットに自分の歌を聞かせること。気づかせること。
そうでもしなければ彼女の妄想(オペラ病)は治りません。
1920年頃のお話ですから録音も大変な時代。
そして、ついにその荒療治がはじまります。
マルグリットは期待に胸躍らせながら自分の歌を聞くことに…
そして…
卒倒します。
卒倒した妻を抱き上げる夫。
これで映画は終わります。
歌によって取り戻した愛。
人並みはずれた歌唱力を持っていると錯覚している主人公の自信。
錯覚が引き起こす自信は何とも滑稽でした。
演じた女優さんはとっても魅力的でした。
私のキールタンは微妙に音程がはずれます(笑)
ん?はずれてるな!
と気づいています。
どうせはずれるなら笑いを取るくらいが魅力的かも…(笑)
ちょっと花冷えですね。風邪などひかれませんように…(荻山貴美子)