久々に家でまったりと過ごす時間。
ZEROが変わったんだね、なんて他愛のない話をしながら
ゆったりとした時間が流れていく。
「……」
「……」
「…藤子不二雄A先生に、絵、贈ったんだってね?」
「見たの?」
そう言えば、とネットで見たのを思い出し智くんにそう話しかけると
智くんはびっくりしたような表情を浮かべた。
「うん、見た。凄く智くんらしくて、凄く先生らしい絵だった」
「俺らしくて、先生らしい絵?」
「うん、凄く良かったよ。素敵だった」
「……」
そう言うと何かを考えるような顔をして、じっと見つめてくる。
「ん?」
「いつも翔くんはそう言って褒めてくれるよね」
「いや、だって本当にそう思ったから。ダメだった?」
「ううん、ありがと」
何か思うところがあったのか。
それとも少し不安を感じていたのだろうか。
そう言うと、少し安心したようにふっと笑みを浮かべた。
「それに、もともと俺は智くんの絵が凄く好きだし…」
「ふふっよく俺が描いているといつも隣に座ってきてずっと見てたよね?」
「うん、多分うざかったと思うけど」
そう、昔から。ジュニアの時から、智くんが描いている姿を見るのも、
描いている作品を見るのも好きだった。
その綺麗な手から魔法の様に次々と描かれていく絵。
それがどんな絵になっていくのか、どんな作品に仕上がっていくのかといつもワクワクしながら見ていた。
そしてそれは今も変わらない。
俺にとって重要なもの。
重要な事。
そして。
智くんにとって、とても重要なもの。
でも。
この人にとって絵を描くことが。
絵を描いている時間が。
絵の事を考えている瞬間が。
何よりも重要だってことを知っていたけど。
知っていたけど。
知っていたから。
ずっと、描けない。
描いていない、という言葉を聞くたびに心配していた。
智くんの生活の一部でもある絵。
精神的にも重要な作用を持っていて、そして自分自身を切り替えるためにも
そして自身を保つためにも重要な、絵を描くという作業。
それはきっと子供のころからずっと変わらずそうであっただろう、大切な作業。
でも、それができないと。
できていないと言っていたその姿が、なんだか苦しそうでずっと心配していた。
心配でたまらなかった。
だから今回、藤子不二雄A先生に描いて贈ったと聞いて
そしてその贈られた絵を実際に見る事が出来て
描いていたんだ、と。
もしかしたら断続的なのかもしれないけど、描けるようになったんだ、と凄く嬉しかった。
そして。
それが。
智くんが子供の時から好きだった藤子不二雄A先生の絵だと知って。
そして思い入れのある怪物くんの衣装を着た先生の絵を見て。
そしてなによりも智くんらしさが溢れた絵だと知って嬉しかった。
「よかった…」
「え?」
「いや、何でもない」
でもそれを言ってしまったら、何だか智くんが負担になってしまうような気がして。
だから何でもないといって誤魔化すと、不思議そうな顔をして見つめる智くんの唇に、
ちゅっと触れるだけのキスをして
心の中でもう一度“良かったね”と小さくつぶやいて
そして、
その唇にもう一度キスをした。
『大野くんの事を抱きしめたくなりました』
『大野くんにずっとオファーしている』
『大野さんの為に船舶2級の免許を取りました』
ダンス、歌、性格、芸術的なこと、字の上手さ…
この人の凄い所はたくさんあるけど
でも本当に凄い所は実はこういう所なんじゃないかなと思う時がある。
普通でいるのに。
普通でいるはずなのに。
愛されようと努力しているわけでもなく
マメでも物凄く気が利くわけでもなく、媚びを売るわけでもなく、自分からアピールする訳でもなく
ただ自然で。
自然体でいるだけで、愛される人。
それは本当の智くんの姿を知っているから。
そして裏では考えられない位の努力をしているしているのを知っているから、というのもあるのだろうけど。
でも普通、男の人が男の人に対して抱きしめたくなるなんて、言葉に出しては言わない気がする。
でもそう言わしめてしまう不思議な人。
それもここ最近だけでも大物の著名人だったり監督だったり。
智くんに対して何気なく発せられた言葉一つ一つをとってもそう感じざるを得ない。
そしてそれ以外にも先輩や後輩、そして共演者スタッフ。
そう言えば、一緒に携わった芸術家の方々にもことごとく愛されていたっけ。
「これって、週刊誌?」
「ああ、これ智くんのこと書いているあったから見せたいと思って持って来たんだった」
「俺の事が?」
「そうアツヒロさんが語ってたんだけど読む?」
「うん、読む読む」
そういって持ってきた女性週刊誌を静かに読み始める智くんのその姿を見つめる。
そこには事務所の大先輩であるアツヒロさんが見た、大野さんの姿が描かれている。
『嵐がデビューしてまだ3~4年のころかな。
プーシリーズを見に行ったら、あまりにも大ちゃんが良かったから、びっくりしました。
立ち回りや芝居、立ち姿がいいなって』
『人は見かけによらない、っていうけど、大ちゃんはまさにそう。
普段は眠そうにしているけど、本番になったらめっちゃ力を出すんです。
そのギャップが凄い。絶対、陰で練習していると思います。そうでないとできない』
『大ちゃんはやっぱり、ふだんはボーっとしてるんだけど、ステージに立つとスイッチが入る。
それを見てみんなもスイッチが入る。オーラも凄かったです』
「何かいつも周りからすごく愛されるよね、智くんて」
「え~そう? でも俺には翔くんみたいにアニキ会とかないし」
「いやいやあれは…」
「凄くみんな翔くんの事アニキアニキって慕ってくれてるじゃん。面倒見もいいし、さすが翔くんて思うもん。おれには絶対できない」
「いや智くんだって加藤くんとかに慕われてんじゃん。そう言えば、いつの間に船舶2級も取ったんだか…」
テレビで初めて知って本当にびっくりしたんだよね。
しかもプライベートでなんて。
「ね~」
「ね~ってあなた知ってたでしょう?」
みんなは驚いていたけど、智くんは前から知っていたようだった。
全然驚いていなかったし。照れくさそうにしてたし。
「え?」
「え? じゃないよ、バレバレなんだよ。それに何か凄く嬉しそうじゃなかった?」
「え、そっかな?」
「そうだよ。しかも何だか妙に照れくさそうな顔してたし」
後から見てもあれは何だか嬉しさを堪えているようにしか見えなかった。
それが。
「そんな事ねーよ」
「そんな事あるよ」
それが、何だか無性にムカついた。
「も~いいじゃん加藤の話は」
「よくない。ね、そんなに嬉しかった?」
「いや、別に?」
「正直に。」
「まあちょっとは、ね。ちょっとだよ?」
そう言って胡麻化しているけど本当は相当嬉しかったんじゃないかと思う。
「くそ~加藤くんめ抜け駆けして~」
「ぬけがけって」
そう言ってクスクス笑っているけど。
でもその為にプライベートの時間を割いて
自分の為に船舶2級を取りに行ってくれて。
嬉しくないはずはないだろう。
「いや、メンバーならまだしも加藤に先を越されるとは」
「んふふっ」
「笑ってる場合じゃないよ、俺は悔しいんだよ。先を越されたこともそうだけど、あの加藤君の行動力にも、それに対して凄く嬉しそうな智くんにも」
「いやそんな大げさな」
「大袈裟じゃないよ」
そりゃあ一緒に乗って撮影なんかしていたら自分も取って助けたいって思うのは当たり前の感情かも知れない。
でもあの嬉しそうな顔。
やっぱり、悔しい。
「俺も取る、船舶2級」
「ええぇ? 翔くんが? そんな暇あるの?」
「わかんない」
「わかんないって」
確かに今日明日とすぐにできないことなんてわかりきっている。
でも。
「でもとるって言ったら、とる」
「まあ翔くんだったら頭的には問題ないだろうけど…。でも問題は時間だよね、翔くん忙しいしそんな時間…」
「いや必ず、とる。とるったら、とる」
「んふふっわかった。待ってる」
そう言ってこちらの気持ちを知らない智くんは可愛らしくクスクス笑い続けている。
「うん、待ってて?」
「うん」
「ふふっそしたらこんどは朝活とコラボだな。朝、俺と智くんと船に乗って交代で運転してさ。
で、市場とかにいってそこで新鮮な魚食べたりして…」
「翔くんはどうせ貝でしょ?」
「おっ貝いいね。採れたてのサザエなんかをつぼ焼きにしたらいいよね。醤油とかかけてさ」
忙しいけど、もし船舶2級が取れたら、と夢がどんどん膨らんでくる。
「んふふっそうだね」
「ってバカにしてるでしょ?」
それなのに。
「してないよ」
「今、笑った」
「んふふっ笑ったけどさ」
智くんてば他人事のような顔をして笑ってるし。
「ひどいっ俺の夢を笑うなんて」
「いや…夢って」
「あ、今度はめんどくさいって顔した」
「してないよ、もう」
そんな事を言い合っていたらめんどくさくなったのか、
智くんが俺をソファの上に押し倒してきてそのまま身体の上にのった。
「何でたまに子供みたいになるの?」
「子供⁉」
そして俺を上から見つめながら、くすくすと笑ってそう言った。
「ま、そんな翔くん嫌いじゃないけど」
「子供じゃねえしっ」
「うん、知ってる。子供相手にこんなことしないでしょ?」
そして、そう言ってにっこり笑ったかと思うと
ゆっくりと顔を近づいてきて唇にちゅっとキスをしてくる。
「今度は翔くんの持ってるクルーザーでいこうよ」
「持ってねーよクルーザーなんて!」
そして可愛いらしく笑うと、そんな事を言ってくる。
「え? そうだっけ?」
「当たり前でしょう~。ま、ちょっと考えちゃったけどさ」
「ほんと⁉」
その言葉に途端に智くんの目がキラキラと光り出す。
いや、キラキラなんて可愛らしいものではなくメラメラ、か。
「いや考えただけ、本当にちょっとだけ頭の中をかすめただけで、買うわけじゃ…」
「翔くん~」
でも燃え上がった智くんには一切届くことはないようで、嬉しそうに抱きついてくる。
まあ、嬉しいんだけどね。
「翔くんなら買えるよ。お仕事頑張ってるし」
「いや、あなたも頑張ってるでしょ? それに中村監督からもずっとオファーされ続けてるって聞いたよ?」
「中村監督? 」
「聞いてないの?」
「うん、知らない。だから、翔くん~」
いや知らないって。確かに大野君には届いていないかもしれないけどと監督は言ってだけど。
でも、だからって、だから翔くん~じゃねえし。
船だよ?
クルーザーだよ?
「考えて? 考えて? たくさん考えて?」
「う、うん。考えるだけね。まだ買うとか何とかじゃなくて…ちょっと頭の中をかすめただけで…」
「うん、わかってる、わ~ってる」
「本当に?」
でもそんな俺の思いは一切届くことなんてなくて
本当に分かってる? 何だか最後わ~ってるなんて言っちゃてるけど本当に大丈夫?
何だかとんでもなく妄想に走ってない?
もしかしてもう船長さんになった気分になってない?と心配になってくる。
「翔くん大好き」
「俺も好きだけどさ」
でもそんな心配をよそに智くんは頬を染め、嬉しそうにぎゅうぎゅう抱き着いてくる。
嬉しいし、可愛いんだけどね?
でもやっぱりもうちょっとだけ考えさせて欲しい。
ほんとにちょっとだけ頭の中をかすめただけなんだから。
なんて話は当然智くんの耳に届くはずもなく俺の上にのっかたままぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
「考えるだけね?」
だから、仕方なくそう言ってその智くんの背中に優しく手を回すと
負けじとその身体をぎゅうっと抱きしめる。
「んふふっわかってる」
そして。
身体をゆっくり離すと、いたずらっこみたいな無邪気な顔でクスっと笑って、わかってると言う。
わかってるって、わかってるって? どういうこと?
そう思っていたら、そのまま俺の顔を両手で包みこむように優しく触れると
そのまま唇に唇を重ね深くキスをしてくる。
だからそのキスに応えるように下を絡ませ背中に腕を回す。
そして。
「んふふっ冗談だよ」
「え? 冗談?」
そして、長いキスが終わって唇が離れると智くんは冗談だよと言って笑った。
「もし欲しかったら自分で買うからそんなに心配しないで」
「え?」
「んふふっ翔くん好き」
そう言うと、智くんはにっこり笑ってまた唇にちゅっとキスをすると
ぎゅっと身体に抱きついた。
余談
『大野さんと僕』すごく素敵でした。
絵が描けるって本当に素敵です。
絵で表現できるって凄い才能です。
本当に、本当に、羨ましいです。
私はほとんど漫画で育ってきたようなものなので。本と漫画1対9くらい💦
なので本当はここのブログも漫画で描きたかった。
でも全然才能がなくて。思えば美術の成績も散々でした。
でもたまにここの場面を絵で表現できたらもっとわかりやすいだろうなあって
描いてはみるのですが、やっぱりできなくて撃沈という感じで。
本当に絵で表現できる方って凄いです。羨ましいです。
でもまたまたやっぱり大野さんと僕を見て懲りずにちょっと描きたくなったので
ちょっとまねて描いてみました。
でもやっぱりまねてかくことは、かろうじてかけたとしても
自分で考えて顔がかけない。姿が描けない。構図が考えられない。
そしてこんなことをしているからなかなかUPもできない💦って感じで
この短編の2個目の話とか天神祭の話とかをどうにか漫画で、と無茶な事を考えていたのですが、諦めました(当たり前)。
でもいつか本当に本になって発売してくれたら嬉しいな。