その日は快晴で雲一つない青空が広がっていた。
“こんな日にお墓参りだなんてもったいないなー”
この日は家族揃ってのお墓参りに参加できなかったので
両親から一人でするよう言われていた。
めんどくさいと思ったが
大切な事であるのは分かりきっていたので
渋々ではあったが先祖代々が眠るお墓に向かう。
祖父母らが眠るお墓は住宅街を見下ろす高台にあった。
その場所にはまだ自然がたくさん残っていて
そこから眺める景色が昔から好きだった。
愚痴を言っていても仕方ないと準備を始めようとすると
若い男の人がお墓の前で手を合わせている姿が目に入った。
見かけない顔だな、と思う。
ここの住人というわけではなかったが
子供の頃から何度も来ていたので古くから来ている人かそうでないか
何となくわかっていた。
その日は平日で人も少なかったので余計にその姿が目立った。
何気なくその人を見つめる。
その人は座ったまま暫く手を合わせていたが
それが終わると目の前にある墓石をじっと見つめた。
その一つ一つの所作が妙に美しくてつい見つめてしまう。
そしてお参りを終えたらしいその人は
出入り口付近にいる自分の方に向かって歩いてきた。
その顔を見ると遠くから見ても分かる位綺麗な顔立ちをしていた。
しばらくその姿から目が離せず見つめる。
その人は下向きながら歩いていたので
自分が見つめていることに全く気づかない。
そして1メートル程そばまで近づいた時
自分の気配に気づいたのかゆっくりと顔をあげた。
間近で見るその顔は相手が男の人だと分かってはいても
綺麗という表現がぴったりな顔立ちをしていた。
その人は視線に気づいたのかこちらに目線を向けた。
視線と視線が合う。
その綺麗な顔に目を離す事ができず
そのまま見つめたままでいるとその人はニコッと笑った。
その顔は先程までの綺麗な顔とはまた違って
幼くとても可愛らしい顔をしていた。
そして軽く会釈をすると何事もなかったかのように
そのまま横を通り過ぎていってしまった。
ズキューンと打ち抜かれるとはこういう事を言うのか。
未だかつてない衝撃に暫く動く事ができずそのまま立ち尽くす。
そしてはっと我にかえりその後を目で追おうとしたが
既にその人の姿はどこにもなかった。
誰だ? 誰だ? 誰だ?
答えが出るはずもない言葉が頭の中をぐるぐるまわる。
暫くその状況にボーゼンと立ち尽くす。
しかし考えたところで何も進む訳がないとその人のいたお墓の前に立ってみた。
そこは比較的新しい区画で2年前に22歳で
亡くなったらしい男の人の名前が書かれていた。
どういう関係だろう。
兄弟? 親戚? それとも友達だろうか。
それよりなによりもう一度あの人に会いたいと思った。
そうは思っても名前もどこに住んでいるかもわからない
その人にもう一度会うのは至難の業だと思われた。
なぜあの時、話しかけなかったのか。
とは言っても突然話しかけられても不審がられただろうとも思う。
それに何と声を掛けていいのかもわからない。
今までだって会えなかったのにそう簡単に会えるはずなんてないという気持ちと
またここに来るはずだからいつかは会えるという気持ちが交差する。
その日から諦めきれず何度となくその場に向かった。