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山コンビ大好き。

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きらり

山 短編8 (シェアハウス) その後4

2016-03-31 17:35:20 | 短編





遅くなりました。
風邪をひいたり花粉症だったりで
近いうちにと言っていたのですが
あっという間に一か月が過ぎてしまいました。
書けない時はどうにもダメですね。
すみません。









兄ちゃんと大野さんが一緒に暮らし始めて


もうすぐ2年がたつ。


二人の住むシェアハウスは


とても居心地がよくて大好きな空間だ。


兄ちゃんと一緒に暮らしている大野さんは


男の人だけど綺麗と言う言葉がぴったりで


目が合うとドキドキしてしまう。


そんな大野さんと兄ちゃんの間には


見えない絆のようなものが感じられて


何だかちょっと妬けてしまうけど


ここの空間も大野さんのことも大好きで


兄ちゃんに嫌がられてもウザがられても


毎週のようにこの場所にきていた。




大好きな人。


大好きな場所。




ここに来ればそれがずっとあるものだと思っていた。




そう。




あの時まではこの大好きな空間が




なくなってしまうなんて




思いもしなかった。
















春休みに入った日曜の午後
父さんが兄ちゃんを家に呼び出した。
こんなことは今までなかったので何だろうと思いながら
陰からこっそりと様子をうかがう。


父さんの機嫌はあまりよくないようだ。
その父さんの顔を見ているだけでも
何を言われるのだろうとこちらまでドキドキしてしまう。


兄ちゃんも何を言われるのだろうと
緊張しながら父さんの顔を見つめている。
父さんは兄ちゃんを正面のソファに座らせると
ゆっくりと口を開いた。











「……!」


って、今、もしかして家に戻って来なさいって言った?
嘘だろと思いながら二人の会話に耳をすます。


兄ちゃんは、何で今更そんな事を言うのかとか
せっかく慣れてきて上手くやってるのにとか
一生懸命訴えてるようだけど父さんは
一切聞く耳を持たないようだ。


そして父さんは兄ちゃんの顔をじっと見たと思ったら
兄ちゃんたちの暮らすシェアハウスが
最近たまり場と化していているのではないかと言った。


そしてそのせいで日常生活が乱れることや
大学生活にも影響が出てくることが
心配なのだと言った。


たまり場?
大学生活に影響?


確かに最近あのシェアハウスには兄ちゃんの友達が
毎週のようにやってきて盛り上がっている……気がする。
それが父さんに伝わってしまって
シェアハウスを解消するように言われてしまっているのだろうか。


兄ちゃんは何とか弁明し継続させてもらえるように
頼んでいるみたいだったけど父さんは
兄ちゃんに春休み中にシェアハウスは解消し
家に戻ってくるようにと告げそこで話は終わってしまった。


兄ちゃんは悔しさからかじっと前を見つめたまま
ぐっとこぶしを握り締めていた。







この家では父さんの意見はいつでも絶対だ。


父さんがこうと決めた事には皆それに従わなくてはならない。
という事は、あのシェアハウスが
なくなってしまうってことなのだろうか。


そしたらもう大野さんには会えないって事?
そんなの嫌だ。


いや、違う。大野さんに会う事は出来る。
でもあのシェアハウスでの大野さんに
会えなくなってしまうのが嫌なのだ。


シェアハウスでの大野さんは綺麗で優しくて
いつもソファでのんびりとくつろいでいて
話しかけると、なあに?と言って優しく微笑んでくれる。


リビングで勉強をしていて分からなくなると
俺なんかより翔くんに聞けばいいのにと言いながらも
一生懸命一緒に考えてくれる。


優しい日差しが差し込むあの部屋の中で
まったりとしながら一緒に飲み物を飲んだり食べたり
ソファに並んで座りながらゆっくりテレビを見たり
時には一緒にテレビゲームをしてくれたり
そんなシェアハウスで見る大野さんが好きだった。


そして何よりも


兄ちゃんと大野さんの2人の間に流れる
優しくほんわかした空気に一緒に包まれ
自分までゆったりとした気分になれるのが
すごく好きだった。


その空間がなくなってしまう?


そんなの絶対嫌だ。













「兄ちゃん」


父さんとの話が終えシェアハウスに帰ろうとする
兄ちゃんを呼び止めた。
兄ちゃんはぐったりとしていて顔色が悪い。


「俺、あの場所がなくなっちゃうだなんて嫌だ」

「俺だってヤダよ」

「でも、どうするの?」

「どうするって…」


この家では父さんの意見がいつだって絶対だ。
父さんがシェアハウスを解消し家に戻って来いと
言われたのならそれに従うしかない。
そんなことわかってる。
でも嫌なんだ。


「何とかしてよ」


思わず兄ちゃんにそうつぶやいた。











「おかえり」


家に帰ると智くんがリビングのソファに座って
お帰りと言ってにっこりと笑って迎えてくれる。


いつもの風景。


いつもの智くん。


「ただいま」

「……」


だからいつもと同じように答えたはずなのに
智くんが何かを感じたのかじっと見つめてくる。


何でもないふりをしたのに
いつものようにふるまったつもりなのに
バレてしまったのだろうか心配そうな顔をしている。


「何か言われた?」

「……ううん」


本当は智くんに告げなくてはいけないのだ。
この春休み中にシェアハウスを解消し
自宅に戻らなくてはいけなくなったと。


智くんの顔を見るといつものように智くんが優しく見つめ返す。
そんな事言えるわけなかった。
智くんは何か言いたそうな顔をしていたけど
そっかと言ってそのまま何も言わなかった。












手を洗い着替えをしリビングに戻るとソファに座った。


静かな時間が流れていく。


この時間が大好きだ。


お互いがお互いの気配を感じながら一緒に過ごす時間。
一緒に何かをするわけでもない
一緒にテレビを見て笑ったりするわけでもない
一緒にゲームをする訳でもない。


ただ同じ空間にいてお互いがお互いの気配を感じながら
課題をやったり好きなことをしながら静かな時間が流れていく。
この時間がたまらなく好きだ。


その生活が終わる?


そして実家に戻って家族と一緒に暮らす?


智くんがいない生活にはたして自分は耐えられるのだろうか。










夜になるとそろそろ寝よっかと言っていつものように
簡単にかたずけをして二階に行く準備をする。


いつもと変わらない光景。


いつもと変わらない智くん。


でも。


ベッドに入るといつものように智くんが
一緒に入ってきて猫みたいにくっついて眠る。


いつの頃からだっただろうか。


最初の頃は緊張して身体が触れないようにと
気を遣いながら寝ていたから全身がカチコチになって
起きたら身体中が痛かった。


でも今では身体が触れても自分のではない寝息が聞こえても
それが当たり前になってしまってなくてはならないものになっている。










「……お父さんに何か言われた?」

「……え?」


そんな事を思っていたら智くんが上を見つめたまま
静かにそう聞いてきた。


「今日帰ってきてからずっと暗い顔しているから」

「……」

「もしかして家に帰って来いって言われた?」

「……!」

「やっぱそうじゃないかと思った」

「……え?」

「俺も考えていた事だったから」


驚いて何も言えないでいたら
智くんが天井を見つめたままそう言った。










「いつまでも厚意に甘えていたままじゃ
いけないんじゃないかって思ってたんだよね」


そう言って顔をこちら側に向ける。
その顔は何か決意したような顔をしていた。


「つい翔くんとの生活が楽しくって幸せで
先延ばし先延ばししてきちゃったんだけど
ここは翔くんのお父さんとお母さんのご厚意で
できていた生活なんだよね。
だから甘えたままじゃだめだったんだよね」


智くんの楽しくって幸せという言葉に
胸がジンと熱くなる。


でも。


でも、違うのだと。



「甘えるって言ってもここのお金はずっと
お姉さんが毎月払ってくれてるんだよ」

「そうなの?」

「そう、うちの親はいいと言ったらしいんだけど
海外暮らしの時はもちろんお姉さんが帰国してからは
毎月毎月自宅までわざわざ持ってきてくれてるって」

「そうなんだ」

「だから父としては余計俺の友達が入り浸って
智くんに迷惑がかかってしまっているんじゃないかって
申し訳ないみたいで、それで…」


そう言うと智くんはそんなの全然気にしてないのにねと言って笑った。


そうなのだ。
こうなってしまった根源は自身のせいなのだ。
自分がちゃんとしなかったせいでこうして
智くんにまで迷惑がかかってしまっている。


「俺はずっとここで智くんと一緒に暮らしたいと思ってる」

「……」

「いや別にここでじゃなくってもいい。
智くんとこのままずっと一緒に暮らしていきたい」

「……」


智くんが何も言わずじっと見つめてくる。
思わず自分自身の言ってしまった言葉に恥ずかしくなって
赤面していると智くんが目を見つめたまま
ゆっくりと手を伸ばしてきた。
そしてゆっくり優しく頬に触れると俺もだよと言ってふふって笑った。













いつものようにベッドに一緒に入って
おやすみと言ってその可愛らしい唇にキスをする。


そしてお互い天井を見ながら話をしていると
だんだん智くんの返事が緩やかになってきて
静かな寝息が聞こえ始めてくる。


その静かな寝息を聞きながら
自分自身も深い深い眠りへと落ちていく。
そんな毎日。


そんな智くんとの生活を失いたくない。









智くんが両手で頬を包み込んできて
智くんの方から唇を重ねてくる。


唇が、顔が、身体が熱くなる。
唇が重なって、智くんの存在を感じて
愛おしくて切なくて泣きそうになる。


唇がゆっくり離れる。
唇に智くんの唇の余韻が残る。


失いたくない
智くんも
智くんとの一緒に過ごすこの時間も
この場所も。


そう思いながら角度を変え今度は自分からキスをする。
お互いがお互いを求めあって
そして何度もキスを繰り返す。


きつく抱きしめ合って
見つめ合って
またキスを交わして


もう智くんと一緒でない生活なんて
考えられなくなってしまっている。








そうだ。父に伝えよう。
たとえ聞いてくれなくても頼んでみよう、何度でも。
何で最初から諦めてしまっていたのだろう。
この生活を失わないために、絶対諦めない。


智くんにその思いが伝わったのか
翔くんに任せるからと言って背中に腕を回してきて
顔をうずめぎゅっと抱きついてきた。
だから大丈夫だからと、そう言って
その華奢な身体をきつく抱きしめ返した。








それから。


何度も実家に帰り父に頼んだ。


父の表情は相変わらず固い。


そう、この人はいつだってこうと決めたことは
曲げない人なのだ。
だからうんと首を縦に振らないのは百も承知だ。


でも。


毎日父が帰ってくる時間に実家に帰り
父に話をした。


今までの生活を改め二度とあの場所で飲み会はしないと。
そして以前から言われていた院への進学をし
そして取っておいた方が言われていた
資格も必ず取ると約束した。


父の意見はいつだってこの家では絶対で
家族みんながそれに従ってきた。


だから多分父の意見をきかなかったのは
この時が初めてだったと思う。


でもこれだけは譲れない。






あまりにもしつこく頼んだせいか


必死さが伝わったせいなのか


とうとう父が


半年の期限付きで折れた。











「お帰り」


いつもの風景。


いつものように智くんがそう言って迎えてくれる。


「うまくいった」

「ホント?」

「半年の期限付きだけど」

「半年…」


そう言うと智くんの顔が曇った。


「いや半年で結果を出せって意味」

「前期の成績とか?」

「そう。だからこれから死ぬもの狂いで頑張る」

「そっか。大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。それに親父も一緒に暮らせって言ったり
帰ってこいって言ったりさすがに自分でも
勝手すぎると思ったんじゃねえの
意外とあっさり引き下がってくれたから」

「ふふっあんなに毎日通ってあっさり?」


智くんがクスクス笑う。


「あの親父にしてはあっさりのほうだよ」

「翔くんのお父さんって頑固?」

「そう昭和の頑固おやじ」


その頑固親父を納得させるため
そしてこの生活が続くためだったらトップにだってなる。
何も言わせないくらいの状況をつくってやる。


「でもここでの宴会はできなくなってしまうけどね」


そう言うと智くんは俺はいいけど相葉ちゃんは
泣いちゃうかも知れないねと言った。
でもここは仕方がない。
みんな言えば絶対わかってくれる。









「こんにちは~」

「って、何またお前来てんだよ」

「なに~?」

「なに~? じゃねえよあの兄ちゃんの
必死な訴えを聞いてなかったのかよ」

「へ?」

「へ? じゃねえよ。もうここでは遊ばないの」

「でも俺は弟だし勉強しに来てるわけだから関係ないもん」

「は? って何ニコニコ笑ってんだよ」

「だって嬉しいんだもん」

「……?」


知らないでしょ?


ここが俺にとってもどんなに大切で重要な場所なのかって。
兄ちゃんと大野さんがここで暮らせるようになって
どんなに嬉しいか兄ちゃんわかってないでしょ?


そのために俺だって父ちゃんに散々訴えたんだよ?
せっかく慣れてきたのにかわいそうだとか
家を離れてすごく優しくて頼もしくなったとか
勉強も見てくれるようになって成績が上がったとか
掃除や洗濯も料理もちゃんとしてるって。


「って、何、お前智くんの手ぇ握ってんだよ」

「大野さん、兄ちゃんが出ていかされたら
俺が一緒に暮らしてあげる」

「は? 何言ってんだよ、何で俺が出ていかされるんだよ?
しかも何でお前が一緒に暮らすんだよ」

「いいじゃん」

「よくねえよ。もうお前帰れよ」

「今来たばっかでしょ~」


兄ちゃんは知らないだろうけど父さんに
散々兄ちゃんの事を褒め倒してここで暮らせるよう
応戦してたんだぞ。


大野さんが俺たち二人の言い合ってる姿を
おかしそうにクスクス笑いながら見ている。


その大野さんの笑った顔を見て何だか嬉しくなる。


大野さんが好き。


大野さんの笑った顔が好き。


でもそれより何より二人の間に流れる


優しくて甘い雰囲気の中に一緒にいるのが好き。


二人のシェアハウスが続いてよかった。









ベッドに入ると智くんが見つめてくる。


「……ん?」

「やっぱここで翔くんと暮らせることになってよかったなって」

「ふふっ俺もだよ。
でもさ、今思うと親父ははめを外しすぎるなよって
くぎを刺しただけだったのかなって思うんだよな」

「そうなの?」

「うん、あんなにあっさり引き下がったし。
親父にとって智くんは大切な人の息子さんだから
大事にしろって言いたかったんじゃないかなって思うんだよね」

「んふふっそんなもんですか? 
全然あっさりには見えませんでしたけど」

「ふふっそんなもんです。あれでも」


そう言ってお互い顔を見合わせながら笑った。








身体を起こし上から智くんを見つめる。


下にいる智くんと目が合う。


「智くん好き」

「俺も、好き」


二人でいつものように


お互い言いあって


見つめあって


笑いあって


そして




キスをした。










おわり。