シェアハウスの話をと思っていたのですが
こちらの話が先にできあがったので先にこちらをアップです。
ALLの智さんの卒業式の日の話です。
ケーキもOK。
花も用意した。
って、男の子相手にケーキも花もおかしいか。
今日は卒業式。
準備したケーキと花束を見て
自分自身に苦笑いした。
インターホンが鳴る
来た!
待ってましたとばかりにドアを開けると
制服姿のままの智が立っていて
照れくさそうに来たよと言って笑った。
「制服のまま?」
「うん、そのまま来ちゃった」
「ご両親は?」
「友梨佳がいるし帰った」
そっか、赤ちゃんがいると
卒業式とか何かと大変だよね。
「ふふっボタン全部なくなってる」
そんな事を思いながら部屋に一緒に入り
改めて智の姿を見ると制服の前ボタンも
袖のボタンもなくなっていた。
「あ~何か知んないけど思い出に欲しいんだって」
智は興味なさそうにそう言う。
「モテモテだなぁ」
「モテモテなのは翔でしょ?
いつも女の人に話しかけられてたし
いかにももてそうな顔してるもん」
「へ?」
「あ、ケーキだ」
そんな話をしていたらいつの間にか
智の興味は目の前にあるホールケーキに移っていた。
「ああ、だって卒業でしょ? だからおめでとうの意味で」
「ホントだ。プレートに卒業おめでとうって書いてある」
智はケーキを見ながら嬉しそうに言う。
「あと、これも」
「……俺、男だけど」
智に花束を差し出すと智が戸惑った顔をして
男なんだけどと言った。
まあ確かに男が男に花っていうのも変だよね。
「ホントは時計とかって思ってたんだけどさ
高価なものとか嫌がるでしょ?」
「うん、やだ」
智はんふふって笑って花束を両手で抱え
そして花を見つめ匂いをかいだ。
その可愛らしい姿に思わず笑みが浮かぶ。
まさかこんな風に智の卒業を一緒に祝えるなんて
思ってもみなかった。
見ているだけでも嫌がられて
目が合うとにらまれて
挙句の果てには見ないでと言われた事もあった。
でもその智と今こうして一緒に過ごしている。
それがとても不思議で嬉しくて幸せで
何とも言えない気持ちになる。
「ハラ減っちゃった」
「じゃあなんかお祝いに食べに行く?」
「うーん。ここでいい」
そんなこちらの思いとは裏腹に
智がお腹をポンポンしながら無邪気に言う。
「え~焼きそばくらいしかないよ?」
「焼きそば食べたい」
「じゃ、ちょっと作るから待てて?」
「俺も手伝う」
そう言うと智も立ち上がり一緒に焼きそばを作り始めた。
「おっ手際いいね」
「まあ、いつもつくってたから」
智は手際がいいだけじゃなく包丁づかいも上手だった。
ずっと熱が出ても一人でいたと言っていたから
もしかしたら長い休みとかは一人でご飯作って
一人で食べていたのかも知れない。
自分自身両親共に忙しい人だったけど
中学まで母は家にいたしそれに弟や妹もいた。
無邪気にそう言って笑う智に胸がチクっと傷んだ。
「友達と卒業旅行とか行くの?」
「ううん、別に」
「そうなんだ。じゃあどこか卒業旅行にでも行く?」
「え?」
智が食べていた手を止めびっくりした表情で
顔を上にあげた。
「どこか行きたいとことかない?」
「……」
「……?」
「……海」
そう言うと智はしばらく考えて
小さく海とつぶやいた。
「海?」
「うん、今まで学校で行っただけでじっくり見た事なかったから」
「そっか。じゃあ行く? 海」
「うん」
その言葉に智はうんと小さく頷く。
学校で行っただけという
その言葉にまた胸がチクっと傷んだ。
「何だか眠くなっちゃった」
智は焼きそばとケーキを食べるとお腹がいっぱいになったのか
睡魔が押し寄せてきたみたいで
そのままラグの上にゴロンと横になった。
「ほら制服のまま寝るとしわになるぞ」
「翔ってばお母さんみたい。
それにもう卒業だからしわになってもいいんだもん」
智が寝ながらクスクス笑う。
そうだった。
今日は智の高校の卒業式。
智は高校生だった。
あの日。
始発を待っていたら制服姿の智がいて
高校生だったのかと驚愕した。
高校生のくせに手慣れた様子でそこにいて
そして当たり前のようにダンスを踊っていた。
でも、高校生と知った時から
いや、高校生と知る前から
その姿に目が離せなくて
どうしようもなく惹きつけられた。
智がすうすうと寝息を立て始める。
卒業式で疲れ、そしておなかが満たされ
眠くなったのだろう。
その無邪気で子供みたいに眠る智の姿を見つめた。
無防備で子供みたいに可愛らしい寝顔。
夜の顔とは全然違う。
形の良いその小さな唇はプルプルで赤ちゃんの唇みたいだ。
智の身体にそっとブランケットをかけると
その寝ている横に座ってその姿を見つめた。
智は眠っていて起きる気配は全くない。
その寝ている姿を見つめた。
その姿を見つめゆっくりと顔を近づけていく。
そしてそのままその唇にちゅっと触れるだけのキスをした。
眠っていたと思っていた智が目を開けた。
「起きたの?」
「うん」
「……」
「……」
お互い無言のまま見つめ合う。
キスしたのを気付かれていただろうか。
「もっと」
「……え?」
そう思いながら智を見ると智が誘うようにそう言った。
「もっと、して?」
その瞳に目がそらせないでいると
智がもっとしてと言う。
その何とも言えない智の表情に
その瞳に
その言葉に
何も言えなくなる。
智がまっすぐ目をそらすこともなく見つめる。
まいったな。
高校生相手に心臓はドキドキして鳴りやまない。
「もう、俺、高校卒業したよ?」
「……」
こちらの思いをまるで見透かしたみたいに
智がそう言ってクスリと笑った。
その言葉にやっぱり何も言えなくなる。
確かに今日は智の高校の卒業式だった。
でも、と。
今日まで高校生だった智に躊躇いの気持ちもある。
高校を卒業したとはいえまだ18歳だ。
智が仰向けになったまま腕を首に回してくる。
えっと思った瞬間、そのまま顔を引き寄せられる。
一気に顔と身体が近づいて顔と身体がカッと熱くなる。
智の綺麗な顔がすぐ目の前にある。
智がまっすぐな目で見つめてくる。
その綺麗な顔
色白の肌
柔らかそうな茶色の髪の毛
長い睫毛
形の良い小さな唇。
その顔を見ると心臓の音が高鳴り止まらない。
高校生だからと我慢してたけど、無理。
可愛くて、愛おしい。
その目を見つめながら吸い寄せられるように
唇に唇を近づけていくとそっと重ねる。
智の首に回していた腕に力がこめられ
唇が小さく開いた。
躊躇いの心と
持っていかれる心。
やっぱり、無理。
そのままその小さな口に舌を差し入れると
深いキスをした。
智が飽きることなくずっと海をみている。
その横顔はとても綺麗だ。
その姿を飽きることなく見ていた。
「……」
「どうしたの?」
ずっと海を見ていた智が振り向いた。
その顔は今にも泣きそうな顔をしていた。
「昔、お父さんに連れてきてもらった事ある」
「お父さんに?」
「ずっと忘れてたけど今思い出した。
3歳か4歳ごろお父さんに連れてきてもらって
こうやって海を見ていた」
海岸に波が押し寄せている。
小さな泡が生まれては消えていって
また新しい波が押し寄せると
新しい小さな泡が生まれそして消えていく。
智はそれだけ言ってまた前を真っ直ぐ見つめ海を見た。
「もうすぐ日が暮れるね」
「うん」
智は海を見つめながら答える。
「ホントはそこの水族館に行こうかと思ってたんだけど
海見ただけで終わっちゃったね」
「うん」
「こんなんでよかったのかな?」
「……」
「……?」
智が無言で見つめる。
「お父さんに手を引かれて海岸を歩いて
海を眺めて、貝殻拾って
波と追いかけっこして
母ちゃんが後ろで嬉しそうに見てた。
何で忘れてたんだろう」
「3歳くらいの時の話でしょ? 仕方ないよ」
智が小さくつぶやく。
その表情があまりにも悔しそうで悲しそうだったから
思わずそのその肩を抱きそう言った。
太陽が海に沈んでいく。
「綺麗だね」
「うん」
あの空間で見ていた時も思っていた。
綺麗な子だと。
でも海に沈んでいく太陽を見つめるその横顔は
綺麗でとても神秘的だ。
「日が沈んでいく」
智が海を見つめながらつぶやいた。
「そうだね。もう帰らないと」
「もう?」
「うん遅くなっちゃうとご両親も心配されるだろうから。
中華街でもよって食べて帰ろっか?」
「ううん、翔の家がいい」
そう言うと智は首をふる。
本当に家が好きなんだよね。
そう思いながらクスリと心の中で笑った。
「翔、好き」
「俺も好きだよ」
家に帰ると智がそう言ってぎゅっと抱きついてくる。
その身体を抱きしめ返すと智は顔を上げじっと見つめる。
その頬に
その額にちゅっとキスをして
またぎゅっとその身体を抱きしめた。
可愛くて、愛おしい。
儚くて、泣きそうになる。
愛おしくて、胸が苦しくなる。
こんなに一緒にいるのにね。
そう思いながら自分自身に苦笑いをしていると
智が不思議そうに見つめてくる。
だから何でもないよと言ってその唇にちゅっとキスをした。
そして智が今までできなかった家族旅行や
思い出をたくさん作っていこうねと
そう心の中でつぶやき
その身体をぎゅっと抱きしめた。