yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

Another World 中

2017-03-24 22:57:50 | Another World







早めにアップ予定が花粉にやられていました。
しかも前後編のはずが入りきらなかったのと力尽きたのとで前中後編に💦
色々とすみません。







ずっと会いたいと思ってきた。



ずっとその顔を見たいと願ってきた。



でも今は。



会いたかったその人を目の前に、何を言えばいいのかわからない。



どうしたらいいのかもわからない。



今にも泣きそうな顔で訴えるその人の顔を



ただ、バカみたいに見つめることしかできない。







その人は。



零れ落ちそうな涙を見せまいと、必死に耐え我慢している。



その身体を昔の時と同じように



自分がいるから大丈夫だと、



そう言って強く抱きしめたかった。





でも。





今の自分にはその言葉をかけることも



その人に少しでもふれる事も



許されないような気がした。













「翔さん」


呆然とその場に立ち尽くしていたら、後ろから名前を呼ばれたような気がした。


「……どうして、ここに?」


後ろを振り向くとそこにはニノがいた。


「タイムアウトです」


ニノは質問には答えず静かにそう言った。


「……タイム アウト?」


もしかしてずっと話を聞いてた?


「すみません。翔さんの休みを調べて、先回りして、話を聞いてしまいました」

「……休みを 調べて?」

「俺、誰にも言わないって約束していたのに言ってしまったから」

「……」


ニノの言葉に絶句しているとニノが説明するようにそう言った。






そして。





「大野さん、ごめんなさい」


ニノは智くんの方に目をやると、今にも泣きだしそうな顔になって
智くんに駆け寄った。


その姿を見つめる。


「……ニノ」


智くんも泣きそうな顔をしていた。


ニノはそのまま智くんの身体を包み込むように抱きしめた。
智くんはそのままニノに身体を任している。
それを呆然としたまま見つめる事しかできない。


「俺、一生かけて償うから」

「ニノ」


ニノが智くんを抱きしめたままそう言うと
智くんの腕がそっとニノの背中にまわる。



二人がそっと優しく抱き合った。







本当は。


いや、昔は。


自分がその身体を何かあるたびにいつも抱きしめていた。


大丈夫だよと言ってその華奢な身体を抱きしめていた。


でも、今はその身体に少しでもふれる事はできない。





「風も出てきたみたいだから、もう家に入りましょう」


しばらく二人は静かに抱き合った後、
ニノが優しく智くんにそう言った。


そしてこくりと頷いた智くんを優しく立ち上がらせると、
まるで大切なものを守るかのように肩を抱きしめ家の中へと歩いていった。
それをやっぱり何もできず、そして何もいう事ができず見つめた。


「翔さんはそこで少し待っていてもらえますか」

「……え?」

「駅まで送ります」


ニノはそう言うとそのまま智くんを抱え込むようにして
部屋の中へと入っていった。













「翔さんはずっと知っていたのに黙っていたと思っているでしょうね?」

「……」


車の中。


ニノがまっすぐ前を向いたままそう言った。






智くんは。


智くんはあのまま姿を見せなかった。


流れる外の景色を眺めながら頭に浮かんで来るのは
智くんの今にも泣き出しそうな顔とその言葉。


どうして喜んでもらえると思ったのだろうか。
どうして今までどんな気持ちで智くんが生きてきたかを
考えてこなかったのか。


後悔と


後悔と


後悔。






「でも、違いますよ」

「……」


何も言えないでいたらニノがまっすぐ前を見たまま
そう言って話を続けた。


「みんなで探しまわっていた時、俺も大野さんがどこにいるのかわからなかったんです」

「……」

「でも、どの位たってからだったかな…」

「……」


ニノが遠い記憶を手繰り寄せるように少し考えるような表情をした。
それを黙ったままじっと見つめる。


「夜中に大野さんが泣きながら電話してきたんです」

「泣きながら…?」

「そう、辛くて眠れないって言って」

「……」


昔から自分の弱いところを絶対見せない智くんだった。
その智くんが夜中に泣きながらニノに電話した。


その言葉に、
そしてさっきまでの智くんの顔を思い出して
胸が苦しくなる。


「だから今どこにいるんだって言って、車ふっ飛ばしてさ」

「……」

「久々に会ったらむちゃくちゃ痩せてんだよ。だから何やってんだよって言って怒って…」

「……」

「でも、あの人…」

「……」


そこまで言うとニノがぐっと悔しさを堪えるような表情をした。


「辛くて眠れないしか言わねえの」

「……」

「どんなに理由を聞いてもただ首を振るだけで絶対言わねえの」

「……」

「だからもう詮索するのはやめて、ただこの人のそばに一緒にいようって決めたの」

「……」

「……」

「……」


そこまで言うとニノは押し黙った。


「……よっぽど何か言えない事情があるんだなって思ってたけど、
まさかその原因が翔さんだったとはね」


そしてぽつりとそう言うとぎゅっと唇をかみしめた。










かつて俺たちは恋人同士のような存在だった。


でも。


お互い男同士だったから。


普通の恋人同士と違ったから。


だから将来の約束なんてできるはずもなく


お互いその話は避けていた。


ずっと一緒にいたかったけど。
智くんの事が大好きだったけど。
離れる事なんて考えられなかったけど。


でも怖くて話せなかった。


でもそのうち女の人と一緒にいる姿をとられたり
将来の夢で孫が遊びに来ることなんて言ったりして
そんな一つ一つの事がお互い傷つけているという事も
離れる原因となってしまう事も気付かず過ごしていた。



そして、あの日。


あの日から智くんはあからさまに自分と距離を取るようになった。


だからそれがお互いの道を進んでいこうという合図だと思った。


だからその合図に従った。







でも違った。


あの自分の発した言葉を智くんはずっと気にしていたのだ。


だからあの日から智くんは距離を置いたのだ。
自分が遠慮して言えなかったように
智くんもまた自分に対して遠慮して
そして自分から身を引いたのだ。















「ね、翔さん。大野さんはあんな事言ってたけど、時計が止まったままなのは大野さん自身なんだよ」

「……」


ニノが運転しながら静かに言った。


「……」

「俺は、どうしたらいい?」

「どうもしなくていいです」

「そんな…」

「だってどうにもできないでしょう?」

「……」

「中途半端に手を差し伸べたって大野さんが苦しむだけです。
だったら大野さんの為にもう一切関わらない方が大野さんの為なんです」


ニノが前を向いたまま淡々とそう言った。
その言葉が重く胸に突き刺さる。


「それって…」

「翔さんは大野さんの事は忘れて、今の生活を大事にしてください」

「でも…」





智くんの事を忘れるなんてはたしてできるのだろうか。
ずっと憧れていて大好きだった人。


ステージを見ればその圧倒的なパフォーマンスに魅了され
歌を聞けばその美しい歌声に何度だって聞き惚れた。


あれだけ毎回心が揺さぶられるようなステージは
智くん以外まだ出会えていない。









いつも。


どんなステージを見ても智くんと重ねて見ていた。


ステージだけじゃない。


ただテレビを見ているだけでも


誰かと会話している時でも


普段の何気ない生活でも


声も、身体も、手も、唇も、腕も、


いつも何かと


誰かと重ねて、智くんを見ていた。


その智くんを忘れるなんてできるのだろうか。





そんな事を考えていたら




「俺ね、大野さんから電話もらって嬉しかったんです」

「……」

「知ってるでしょ? 俺がずっとあの人に憧れていて好きだったこと。
グループでいた時は年上二人の間には特別なものがあって
とても入り込めなかったけど今は違う。でしょ?」

「……」

「俺、東京とこことの二重生活も全然苦じゃないし。
翔さんの代わりに俺が大野さんの事は守っていきます。
ずっと俺が大野さんと一緒にいます」





ニノはそれだけ言って口を固く閉ざした。





Another World 前

2017-03-10 21:46:50 | Another World





これは、別の世界の話。






今回の件にふれた内容です。


しかも結婚や解散などのワードも出てきますので、閲覧注意です。
前後編で後編はなるべく早くアップしたいな、と思っています。
これが終わったらまた元に戻ります。










都会を抜けると、高い建物がだんだんと少なくなってくる。
そして少しづつ自然の景色が増えてきて、
山がゆっくりと近づいてくる。


しばらくすると、左側には大海原が見えてきて
隣を見ると並行するように国道が走っている。


そしてトンネルをいくつかくぐると、そこはもう海岸の街。





この街にあの人がいる。






もうどの位たつのだろうか?





あれから。


一度もあの人に会うことなく今日まで来てしまった。
あれほどずっと一緒にいた人なのに。
あんなに大好きな人だったのに。


あの日から会っていない。





なぜなら


どこにいるのかも、どうしているのかも
連絡を一切断って去ってしまったあの人の行方を
誰一人知る者はいなかったから。











あれから数年後、俺たちのグループは解散した。
各自進みたい道に進んで行く為の前向きな解散
というのが主な名目だったけど実際は年齢や人気。
そして家庭を持ちたいというメンバーが出てきたのが一番の理由だ。


先輩達の中には、そうなりながらも続けているグループも
何組かあったけど自分達はそうしなかった。
あの人がそれでは意味がないと、頑なにそれを拒否したためだ。


そして5人はバラバラになり、4人はそのまま芸能界に残り
あの人だけはこの世界から何の躊躇もなく去っていった。
それからその人の消息は全く掴めなくなった。


海外へ行ったらしいという噂もあった。
南の島で暮らしているという噂もあった。
でも誰一人本当の事はわからなかった。


それから数年。


必死にその人の行方を探したけど見つけることはできなかった。
誰に聞いても確かなことはわからず、
どんな細かな情報でも必死にかき集めたけど
それでも見つけ出すことはできなかった。
だからどんなに会いたいと願ってもその願いは叶わなかった。











でも。


ニノだけは知っていたんだ。



誰もその人の行方はわからないと、そう思っていたのに
ニノとだけは連絡を取っていたんだ。


でもそれを知ったのは、



ずっと後の事。







あの日。


自分がつとめるメーンキャスターの対談で久々にニノと会った。
解散してから、今まで以上に頑張らなくてはいけないと
お互い切磋琢磨しながら仕事をこなす毎日だったから
ゆっくりと会う事も話す事もなかった。


だから本当にそれは久々だった。


懐かしいね、なんて当たり障りのない話をして
その会話の流れから智くんの話になった。


解散直後は一緒になってお互い情報交換しながら
智くんを探し回っていたけどいつまでたっても見つからない。
そのうちお互い忙しくなっていつしかそう言う機会もなくなっていた。










でもそのちょっとした言動から、ふとニノは智くんの事を
知っているのではないかと思った。
ニノは必死に誤魔化そうとしたけど確信した。
長年一緒にいたからわかる。ニノは知っている、と。


あれだけ一緒に探し回って情報をかき集め
手当たり次第に交友関係を当たり必死に探していたけど、
実はニノは知っていたんだ。


知ってて隠し通したんだ。


よくここまでバレなかったなと、そう感心すると共に
だからこそ。
そう言うニノだからこそ、智くんはニノとだけは
連絡を取っていたんだなとも思った。


そして自分の今までの愚行を思い出し、思わず笑ってしまう。
あんなに死に物狂いで探していたのを知っていたのにも拘らず
ニノは黙っていたのだと。


でもなぜずっと教えてくれなかったのかと、怒りを覚えつつも
でもそれはまたとないチャンスだとも思った。
このチャンスを逃す手はない。
しつこくニノに迫った。
でもニノは固い口を閉ざしたままだった。


当たり前だ。


今までだってみんなで一緒に散々探してきて、その中にニノもいたのだ。
本当にニノは名役者だなと思う。
その名演技にずっと騙されてきた。


でもそれは智くんの為でもあったからだろう。


智くんの為であったらニノは何でもするし
智くんに頼まれたのなら絶対に守り通すという事は容易に想像できた。


でも知ってしまったからには、それを逃すわけにはいかなかった。
そしてあまりのしつこさに根負けしたニノがとうとう口を開いた。















その人がいるという場所は意外な場所だった。


もう日本にはいないかもしれないと
いたとしても南のどこか遠い島にでもいるのかもしれないと
ずっとそう思って半ば諦めていたところもあった。


でも、違った。


あの人が昔から好きだったこの場所。


海があって釣りができて東京からもほど近くて
少しでも時間があるといっていた場所。
智くんらしいと言えば智くんらしいなとも思った。











ニノから聞き出すと、いてもたってもいられなくて休みになると
地図を片手にあの人がいる場所へと向かった。
特急を使えば2時間ちょっとの距離。


まさかこんな近くにあの人が住んでいたなんて思いもしなかった。
ネットでも目撃情報があればどんな場所でも探しに行っていた。
でもその場所にここは入っていなかった。


でもそんな事はもうどうでもよかった。
早くあの人に会いたかった。


何年ぶりになるのだろうか。


あれほど会いたかったのに
ずっと一緒にいた人なのに、
今は心臓が飛び出しそうなほど緊張している。






2時間ちょっと特急に乗ってその駅に降りると、そこは海岸の街だった。


そこから地図を見ながら海とは逆に山の方に向かって坂を上っていく。


ここに智くんがいる。


あれほどずっと会いたいと願っていた智くんがいる。










上ってきた坂を振り返ると海岸の町が見渡せた。
そしてその先には青く果てしなく続く海が見えた。


小高い丘には小さな家が建っている。


その小さな家を見上げた。
ここに智くんがいる。
あれほど会いたいと願っていた智くんがここで暮らしている。


緊張しながらチャイムを押した。


どんな顔をするだろうか。
喜んでくれるだろうか。
手土産を持ってきたけどこれでよかっただろうか。
ここでどんな暮らしをしているのだろうか。


そんな事を思いながらドキドキしながら応答を待つ。








「……」


返事がない。


留守なのだろうか。


でもどうしてもあきらめきれず、
ちょっと失礼しますと言って庭の方に回った。


いた!


庭のデッキチェアでくつろいでいる人の姿。
後ろ姿だったけどすぐに分かった。
それがその人だと。


煙草をふかしているのかゆらゆらと煙が宙を舞っている。
そして時折灰皿に手をやる姿。
その綺麗な手を見つめながらあの人の手だと思った。


デッキチェアは眼下に広がる海岸の街に向けられていて
そこからは街や海が一望できるようになっていた。
そしてそこから見える景色はとても綺麗で
そこにいる智くんも景色も絵みたいだった。










あまりにも見つめていたせいか気配に気付いた
智くんが振り返った。


ドキッとする。


数年ぶりに見るその顔。


全然変わっていない。



「……何 で?」


智くんが驚いた顔をする。


「突然ごめん。ニノに、ここにいるって聞いたから」

「ニノが…」

「あ、違う。俺が無理やりニノから聞き出して来たんだ。
でもチャイムならしたんだけど誰も出なかったから…」

「……」


智くんが驚いた顔のまま無言で見つめる。


でもその時まで、智くんの気持ちなんて
これっぽっちもわかってはいなかったんだ。


「突然、連絡もせず来てしまってごめん」

「帰って」

「……え?」


そう言い終わるか終わらないかのうちに発せられた智くんのその言葉。
その言葉に一瞬耳を疑った。


「帰って」

「でも…」

「帰って」

「……」


想像もしていなかったその人からの拒絶の言葉。
その言葉に何も言えなくなる。










「ごめん、突然何も言わず来て。でも智くんの居場所を聞いていてもたってもいられなくて」

「帰って」

「ずっと会いたかったから…」

「俺は会いたくないから、帰って」

「そんな、せっかく会えたのに…。どれだけ今まで会いたかったか」

「……」


拒絶されても何でも伝えたかったその言葉。
その言葉に智くんは明らかに戸惑いの表情を浮かべた。


「お願い、5分でいいから」

「……」

「お願い、5分だけ」


あまりの俺の必死さが伝わったのか
智くんは静かにうなずいた。










「……」

「……」


智くんに促されるように智くんの座っている隣の椅子に座る。


真正面には小さな町。
その奥には青い海が広がっている。


「いい眺めだね」

「うん」


本当にここからの眺めは最高だ。
ずっと忙しく過ごしていたせいかここから見える景色は
別世界のように美しくて儚くて夢のようでふわふわした感じがした。


「元気だった?」

「うん」

「ずっと、ここに一人で住んでるの?」

「うん」


智くんが俯いたまま小さく答える。
こんなに会いたかった人なのに
数年ぶりにやっと出会えたのに、その智くんの反応が悲しい。


「これからも、ここで暮らしていくの?」

「そんなの、わかんない」


そう小さく答える智くんがなぜかひどく寂しげに見えた。


「寂しくは ない?」

「もう、そんな気持ちとっくに忘れた」

「……」


だから心配になってそう聞くと、ぽつりと智くんがつぶやく。
その表情に、その言葉に何も言えなくなる。


「もう5分経ったでしょ、帰って」

「え、嘘っ。ホントに? じゃあまたここに会いに来てもいい?」

「ダメ」


そして、また拒絶の言葉。


ずっと智くんに会いたかったのに智くんは違ったのだろうか。









「何で?」

「何でも」

「何でもって、それじゃわからないよ」


智くんの気持ちが全然わからなくてそう訴えるように言うと
智くんの表情が変わった。


「翔くん俺がどれほど苦しんだか、全然わかってないでしょ?」

「え?」


そして智くんが視線をこちらに向け静かにそう言った。


「俺がどんな気持ちで今まで生きてきたかなんて、全くわかってないでしょ?」

「……」


その口調は何だか責めているようだった。
でも、苦しんだって、どんな気持ちで生きてきたって、どういう意味だろうか。


「なのに、のこのこ突然現れて、一体どういうつもり?」

「……」


そして今までの気持ちを吐き出すかのようにそう言った。


でも。


確かに考えた事なんてなかった。
智くんが突然いなくなってしまった意味も
智くんが何を考え生きてきたのかも。


ただ、どこに行ってしまったのかと
そしてただただ、会いたいと、それだけだった。









「もう二度とこないで」

「待って、そんな事言われたら余計帰れないよ。俺がどんな気持ちでってどういう意味?」

「翔くんって頭いい癖に全然わかってないんだね。
あの時どんな気持ちで俺が身を引いたと思ってんの」


智くんが今にも泣きそうな顔で言った。


「……え? 身を引いた って?」

「翔くんの夢の為でしょ? 翔くんの夢がおじいちゃんになって孫が
遊びに来ることだって言ってたから、その夢をかなえるためには
俺は身を引くしかないじゃん」


まさか。


あの時の事を言ってるのか。


あの後、智くんが急に冷たくなって
ろくに口も利かなくなった。


でもそれは怒っているせいだと思っていた。
でも自分だってその前に騒動を起こしていたのに
お互い様だろと思ってこっちも意地になって
まともに話すこともなくそのまま解散を迎えてしまった。



でもそれは違ったってこと?


それには理由があったという事?


そしてそれは俺のために 身を引いた ということ?








「俺は、智くんが怒っているのかとばかり思っていたから…」

「怒るも何も、ただ翔くんの夢を応援しようと思っただけ。
でも、そこに俺がいたら翔くん邪魔でしょ?」

「……」


俺の夢を 応援って?


「だって、俺じゃ子供も孫も見せてあげることはできないから、応援するしかないじゃん」

「……」


子供 孫?
確かにそんな話をテレビか雑誌かで語ったことはあった。


「でも以前のような関係でいたら、邪魔になると思って
目の前からいなくなったのに、何今さらのこの現れてんの?」

「……」

「もう帰って」

「……でも」


まさか自分の語った事が智くんにこんなにも
影響を与えていたなんて、全然わかっていなかった。


智くんの想いを初めて知って何とも言えない気持ちになる。



後悔と


後悔と


後悔。









「翔くん一刻一刻と時は刻み続けているんだよ?」

「え?」


そんな俺の気持ちを読んだかのように智くんが静かに話し出した。


「あの日、俺は涙が枯れ果てるまで泣いて、このままもう
死んでしまうんじゃないかと思ったけど、でも今こうして生きている」

「……」

「もう2度と笑う事なんてできないとずっと思っていたけど
でも面白い事があれば自然と笑ってる」

「……」

「ご飯が食べられなくて、ガリガリになるまで痩せたけど
今は釣った魚をさばいて食べてる。時が経つってそう言う事でしょ?」

「……」


智くんが真っ直ぐな視線を向けたまま言った。


「生きる屍みたいに、ただ息をしているだけの日もあったけど
でも今は好きな釣りをしたり絵を描いたりできるようになった」

「……」

「自暴自棄になって遊びまくって身体を壊しそうになった時もあったけど
でも今は朝起きて、夜寝て、普通の生活が送れるようになった」

「……」

「でもそれはやっとなの。
やっと、穏やかな生活が送れるようになったの。
だからそれを乱さないで。もう、邪魔しないで」

「……」






そう、今にも泣きそうな顔をして訴えるその人の事を



ただ、バカみたいに見つめる事しかできない。



何も、言えない。



何とも、言えない。



でも。



でも、目の前にいるその人の事を、



ずっと、好きだった。



結婚してからも



ずっと、



その人の事を愛していた。









あの時。



自分の状況



相手の状況



そして周りの状況から、もう後には引けなかった。





もう進むしかなかった。