yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

Another World 完【後】

2017-04-18 17:15:00 | Another World






予定がだいぶ変わってしまってすみませんでした💦
これで本当におしまいです。







その場所にたどり着くとあの日と同じように
デッキチェアを海岸の街に向け、くつろぎながら
タバコを吸っている姿が見えた。


そして時折灰皿に手を持っていくその綺麗な手。
そしてそこから見える小さな海岸の街並みと
果てしなく広がる海。


やっとここに辿り着いた。


そう思った。






でも。


また拒否されるだろうか。
来ないでと言ったのにと怒るだろうか。
泣きそうな顔で帰ってと訴えるだろうか。


あの日の事を思い出しながら、その姿をじっと見つめた。
そしてあの日言われた言葉を思い出していた。


ずっと後悔していた。
そしてもう二度と会えないと思っていた。
会ってはいけないと思っていた。


あれほどまでに苦しい思いをさせてしまって、
また会う資格なんてないと思っていた。


許してもらえるなんて思ってない。
到底許される事じゃないこともわかっている。
でももう後悔したくはなかった。


あの時とは状況が違う。
何年もかけ地道に準備してきた。
彼女とも何度も何度も話し合いをし、そして全てを手放した。











智くんがあの日と同じように振り返った。


「来たよ」

「何 で?」


驚いた顔をしているけど、あの時とは違う。


「会いたかったから」

「違う」


違うと首を振って不安げな視線で見つめてくる。


「……?」

「ずっとやりたかった事がやっとできたのに、何 で…」


今までの地位を確立するまでどれほど大変だったのか
わかっているからだろう。
智くんが必死に訴えるようにそう言った。


「知ってたんだ?」

「……」


智くんが小さく頷く。


「そう、だからもう何にもなくなっちゃった」

「何 で?」


そして心配そうに何で、何でと繰り返す。


こういうところが智くんらしいなとも思う。
心配性でいつも自分の事よりメンバーの心配ばかりしていた。
今の自分の状況を知っているのならなおさらだろう。


「そうしないと智くんには会えないと思ったから。
会ってはいけないと思ったから」

「何 言ってんの?」


智くんが言う。


「ふふっそうだね。今まで築きあげてきたもの全てなくなちゃった」

「……」


そう言うと途端に不安そうな顔を浮かべる。


「でもそれ以上に智くんが必要だって気付いたから」

「……バカじゃないの」


でも気にせずそのまま話し続けた。


「ふふっそうだね。でも仕事よりもお金よりも家よりも家族よりも
俺にとっては智くんの方が大事みたいなんだよね」

「……」

「……」

「大丈夫なの?」


その言葉に、じっと黙って見つめたかと思ったら
また不安そうな顔になって瞳がゆらゆらと揺れる。


でも。


確かにこの世界を知っている智くんからすれば
心配になるのも不安にもなるのも仕方ないとも思った。


「でも、不思議と何だか晴れ晴れとした気分」

「……」


これは、本当だった。


全てを失ってしまったけど何だか気持ちはスッキリしていた。
でもそれを智くんが心配そうに見つめた。










「……」

「……」

「あのさ、俺全てを渡してしまって何にも残っていないし
こんな事言えるような分際でもないけど、智くんと一緒にいてもいいかな?」

「……」


智くんが何も言わずじっと真っ直ぐな視線で見つめる。


「……ダメ かな?」

「……」


そんな勝手な事、やっぱり許されないだろうか。
不安を覚えながら智くんを見ると
智くんの瞳がまたゆらゆらと揺れた。


「……」

「ダメ じゃないけど…」


そして智くんが躊躇いながら小さく答える。
多分自分の事や、ニノの事
そして俺の状況や、相手の事を考えてしまっているのだろう。


「いいの?」

「……」


確認するように聞くとまた黙ったまま見つめる。


本当は自信なんてない。
自分たちだけの事じゃない。
周りの事を考えたら躊躇うのはわかりきっていた。


それにあんな辛い思いをさせて許されるとも思ってはいない。
全てを手放したと言ってもそれはただの自己満足だ。


それでも。









「今まで本当にたくさんの人を傷つけてきて、
そんな資格なんてないってわかってる。
でもそれでも智くんとここで一緒にいたいんだ」

「……ここでって言っても都会育ちの翔くんにはきっとつまらないよ」


智くんが少し考えるような顔をして言った。


「でも俺には智くんがいる。
都会にいても智くんがいなければ意味がない。
俺にできることをここで見つけていく」

「翔くんにできる事…」


そう言うと、また少し考えるような顔をして小さくつぶやいた。


「それにここから東京まで2時間ちょいなんだよね。
また一から始めてもいいかなとも思ってる」

「俺は別にここでなくったって東京に住んでもいいんだけど…」

「……!」


そう智くんがつぶやく。


でも、それって。


それって、俺と暮らしてもいいって言う意味だろうか?
そう捉えてもいいのだろうか。










「いやここがいい。智くんがいて智くんの大好きな海があって。
最初に来た時にもここに住みたいって思ってた」

「翔くんが?」


智くんが意外って顔をする。
確かに東京で生まれ育ってきた。


でも。


「うん、ここで智くんと一緒に生きていきたいって思ってた。
でもあの時はそれは許されないと思っていた」


あの時の帰ってと泣きそうになりながら訴えていた顔を思い出す。
そしてボロボロになりながらも生きてきた智くんのこれまでの思いを
思うと胸が苦しくなる。


「……」

「……」


智くんが黙ったまま俯く。


「……」

「それに」

「……」

「多分、智くんは家族の事とかを心配していると思うけど
俺の家族は、ずっと俺が智くんの事好きだったの知っていたから
智くんのところに行くって言った時、仕方ないなって顔してた」

「……!」


智くんがその言葉に俯いていた顔を上げる。


「うちの家族ってなぜかみんな智くんのファンなんだよね」

「ファンて。もう芸能人じゃないけど…」


そして戸惑った表情を浮かべる。


「なんかね一緒にずっとやってたっていうのもあるけど、智くんの事は特別みたいで…
だからって全てを認めてくれたって訳じゃないけどね」

「……」

「でも、どんなに批判されても自分たちだけは息子を信じてるって。
だから俺のやりたいように、生きたいように生きなさいって言われた」

「そう、なんだ」


多分家族を大事にしている智くんだから、それが一番気がかりだったのだろう。
初めて少し安心したような表情を見た気がした。


「だから回り道をたくさんしてしまったけど、俺は智くんと一緒にいたい」


辛い思いをたくさんさせてしまった。
眠れない程辛い思いもたくさんさせてしまった。
そしてたくさん泣かせてしまった。
食事ができないほどの辛い思いもさせてしまった。


それでも。


智くんと一緒にいたい。


一緒に生きていきたい。


そう思いながら智くんを見つめると


智くんが小さくうんと、うなずいた。












「ここって波の音が聞こえるんだね」


二人でベッドに入って天井を眺めていると波の音がした。


「そう、昼間は聞こえないんだけどね、夜になるとかすかに聞こえるの」


智くんが言う。


「星も見える」


開け離れた窓からは満天の星が見えた。





「ね、キスしていい?」

「そう言えばしてなかったね」


智くんがそう言ってくすっと笑った。


「うん」

「昔はあんなにしていたのにね」


そう言ってくすくすと笑っている可愛らしい唇に
身体を起こしチュッと触れるだけのキスをした。
久々にするキスは凄くドキドキした。
そしてまた二人で天井を見上げた。


「……翔くんは回り道をしてしまったって言ってたけど、
俺は回り道してよかったと思ってる」


そして智くんが天井を見つめながらそう小さくつぶやいた。


「だって子供が孫がって後悔されたくないじゃん。 だから…」


その言葉にやっぱりずっと気にしていたんだなと思う。


「俺は智くんと離れて後悔しまくりだったよ」

「そうなの?」

「最初は確かに舞い上がって周りが見えなくなってたかも知れないけど
落ち着いたらいつも智くんの事思いだしていた」

「……」


智くんが身体をこちら側に向け見つめる。


「毎日何を見ても何を聞いても智くんに重ねてた」

「……」

「智くんの手はこういう手だったなとか
智くんはこういう風に笑ってたなとか
智くんだったらこう言う場面でこう言っただろうなとか
いつもいつも重ねて思い出していた」

「へんなの」


そう言うと少し照れくさそうに変なのと言ってまたくすくすと笑った。
でも本当だった。


「一日たりとも忘れたことはなかった」

「……」

「愛してる。何もなくてもこうして一緒にいられるだけで幸せ。
これ以上のものはもういらない」

「だったら  もう離さないで」

「うん、もう絶対に離さない」


そう言ってお互い身体を寄せ合うとぎゅっと抱きしめあった。









あの時はもうその肌に触れられないと思っていた。
もうその姿を見る事さえ許されないと思っていた。


でも今こうして一緒にいられるだけで
こうして抱き合っているだけで
こうしてキスをするだけで


何とも言えない幸福感に包まれる。


「愛している」


身体を起こし上からそうつぶやくと智くんが見上げる。


視線が合う。


ああ、大好きだった人の顔だと思う。


その眼差しも、唇も、頬も、額も
大好きだった。
そして今も大好きな人。

そう思いながら前髪を上にかき上げ額に、頬にと唇を落とす。
そして唇にもチュッとキスを落とした。


智くんの唇だと思った。
大好きだったその唇。
そしてそのまま首に、鎖骨にとまたキスを落としていく。


「好きすぎて苦しい」

「んふふっ」


そして顔を上げ視線が合いそう言うと、智くんがふふっと笑った。


「大袈裟っていうんでしょ」

「うん」


智くんが可愛らしくくすくすと笑い続けている。


「でも本当なんだもん。触れるだけで電流が走って、好きだって思う」


ずっとその肌にふれたいと思っていた
あの拒否された時、どんなに辛かったか。
でもそれ以上に智くんは辛い思いをしてきたんだよね
そう思いながら痩せてしまったそのわき腹を指でなぞる。


「こんなに痩せさせてしまって  ごめん」

「んー俺もびっくり。こんなにも翔くんが好きだったんだなって」

「……」


そう言って細くなってしまった自分の腕を眺めている。
その姿を見つめながら辛くて眠れないとニノに電話をしていた事を思い出し
また胸が苦しくなる。


「そんな顔しないで」


それを察したのか、智くんがそう言いながら優しく手を伸ばし頬を包み込む。


でも。


「俺は大丈夫だから。それにいい経験をしたと思ってる。
こんなにも人って好きになれるんものなんだなって」

「……」


その言葉に嬉しさと苦しさと申し訳なさが
まじりあって何も言えなくなる。


「でももう離さないで」

「二度と離さない」


そしてまたそう言いあってぎゅっと抱きしめあった。


そしてキスをして


また見つめあって


角度を変えてまたキスをして。


唇を何度か重ねると智くんの口が小さく開いていく。


それを合図に深いキスをした。


そして背中に智くんの腕が回ってきて


甘い吐息が聞こえてきて


その手にぎゅっと力がこめられる。


そしてまた見つめあうと


切なさと嬉しさと苦しさがまざりあった


何とも言えない気持ちになった。


それを押し殺すようにまた額に、頬に、唇に、首に 鎖骨に、わき腹にと


キスを落とした。











「あ、すみません」


たくさんの資料をもって歩いていたら
前がよく見えず誰かとぶつかってしまい謝った。


「それって下っ端の仕事じゃねえの?」


当たってしまったのはどうやらニノだったらしく
ニノが自分の状況を見て不思議そうに聞いた。


普通こんな場面で偶然でも出会うだろうか?


「だって下っ端だもん」


そう思いながらも答える。


「マジで?」

「そうだよ」

「翔さんが?」


信じられないって顔。


「ま、気長にやるさ」


でも本当の事だからそう言って笑いかけた。



たくさん人を傷つけてきた。
智くんも、彼女も、彼女の家族も、自分の家族も
そしてニノも。


「俺にのには一生頭が上がらないわ」

「そうですか? でもそんな事言って、また一気にスターダムにのし上がるんでしょ?」


ニノが笑いながら言う。


「そんな簡単なもんじゃねえよ」

「ふふっそうですか」


そう言ってニノはいたずらっ子みたいな顔をして笑った。





受け止める。


現在の自分の立場も仕事も地位も。


全てを受け止める。


そしてどんな非難も、中傷も全て。


その覚悟はとうにできている。


この業界に戻ってきた時からそう決意していた。









「俺もまた戻ろっかな」


ベッドで二人並んで横になっていると隣で智くんがぽつりとそうつぶやいた。


「へ?」

「芸能界」


意味が分からず聞き返す。


「嘘でしょ?」

「何か歌をやりたくなっちゃった。ダンスも」

「マジで?」


信じられなかった。
あんなに未練も何もなさそうだったのに。


「嬉しいけど、信じられない」

「芝居もね、あんなに面倒くさくて嫌だったのに
不思議と今はやってみたいって思うんだよね」

「いいじゃん、きっとファンの子は喜ぶよ」


突然のその言葉にびっくりしたけど
また智くんの歌やダンスや芝居が見られると思うだけで
やりたいと思ってもらえるだけで嬉しかった。


「ま、ファンもまだいてくれてんのかもよくわかんねえし、
ブランクもあるし、そんな甘い世界じゃないってこともわかってるけどね。
でも、やってみたいんだ」


智くんがしっかりとした口調でそう言った。


「応援する」

「んふふっ翔くん人の事応援している場合?」

「そうでした、俺も頑張んなきゃ」

「そうだよ、一緒に頑張ろ?」


そう二人で言い合って、見つめあって、そして笑いあった。
智くんと二人だったらどんなことも乗り越えていける。


「愛している」

「俺も愛してる」


ずっと好きだった。


ずっと見つめ続けてきた。


もう二度とこの手を離さない。


離したくはない。





「これから先もずっと一緒に生きていこう」


「うん、一緒にずっと生きていく」



そしてまた


そう二人で言いあって


見つめあって


笑いあって



そして



満天の星空の下。



ベッドの中で、二人だけの誓いのキスをした。







おわり



Another World 完【前】

2017-04-17 18:38:50 | Another World




( ;∀;) 終わる予定が入りきらなかったのでした💦 とりあえず完の前編をUPです。





ずっと



ずっと




出口のない暗いトンネルの中にいた。











「……何 で?」



また、だ。


これでいくつ減った?



答えのでることのない疑問と不安が、ぐるぐると頭の中を回った。













「どうしたんですか?」


突然、テレビを見ていた大野さんが、何で? と小さく声をあげたので
片づけをしていた手を休め、テレビを見ている大野さんの隣に座った。


あの日から。


どういう心境の変化があったのかはわからないが
大野さんはそれまで全く見なかったテレビを
見るようになった。


それはまるで外界との接触を拒否しているかのようだったのに
今は、違う。


そんな事を思いながら大野さんを見つめ、そしてテレビを見た。


テレビにはバラエティ番組が映し出されていた。


それを少し考えるような顔でじっと見つめている。
そんな考えるような場面でもないのに。
そう思いながらその顔をまた見つめる。


しばらく隣に座って一緒にそのバラエティ番組を見ていたらCMに入った。


CMは流れるように次々と移り変わる。






「……あっ」


その中の一つのCMに目がとまった。


このCM。


翔さんが長年やっていたCM。
でも、翔さんじゃなくなったんだ。


「……」


いや、違う。


これだけじゃない。


思い返せばあの飲料水のCMも、あの電化製品のCMも
そして美容系のあのCMも、あのCMも…


最近翔さんの出ているCMを最近あまり見かけなくなったとは
思っていたけど、それはただ自分の見るタイミングが合わなかったり
契約期間が終わった位にしか思ってはいなかった。


でも違う。


以前に比べると格段に翔さんのCMの本数は減っていた。


何か問題があったわけでもない。
スキャンダルがあったわけでもない。
いや、それよりも家庭的なイメージも加わり
そういう関係のCMも増えていた。


それなのになぜ?


そう思いながら大野さんを見ると、
大野さんはじっとテレビ画面を食い入るように見つめて
難しい顔をしていた。


「……」


もしかしたら大野さんもその事に気づいたのかも知れない。
だからさっき驚いて声をあげたのかも知れないと思った。










いつもの時間。
いつものニュース番組。
そこにはいつもと変わらない翔さんが映し出されていて
いつもと同じように番組は進んでいく。


そして番組の最後になると、いつもと同じように


『それでは、また明日』


と、そう言ってにっこり笑って頭を下げた。
テレビ画面にはいつもと変わらない翔さんがいる。


「……」


CMは減ったような気がしたけどそれ以外の露出は
大して変わらないような気もした。




もしかして気のせいだったのだろうか。










大野さんと二人だけの時間が静かに流れていく。


俺はゲームをして、そしてその横で大野さんは
テレビを見たりスマホを見たり時には絵を描いたりして過ごす。


そののんびりと過ごす姿を見るだけで、何だか凄くほっとした。


やっと穏やかな生活が送れるようになったのだ。


あの時のような思いは2度としたくはない。
あんな辛そうな大野さんの姿をもう見たくはない。
大野さんには幸せでいて欲しい。






あの後。


翔さんと会って少し元気がなく何かを考えているようだったけど
数日が過ぎるといつもの大野さんに戻った。
そして何かが吹っ切れたみたいに今まで見なかったテレビを見たり、
絵を描いたりするようになった。


それを、ただ、見守った。







この人の事を。




この人の事を、初めて会った時からずっと好きだった。
理由なんてない。


出会った瞬間から好きだった。
自分以外の人の事なんて全然興味がなかったのに
大野さんだけは別だった。
会った瞬間から惹かれていた。


見つめて
話しかけて
くっついて
手を握って。


だから、大野さんが京都に行くと聞いた時のショックは今でも覚えている。


毎日、ウザいくらいに京都に行くのかと確認し、
大野さんが困るのも承知で、行かないでと訴え
そして行く事が決まった事を知った時には、
早く帰ってきてと会うたびに懇願した。


それを大野さんは少し困った顔でうんうんと頷いて聞いてくれた。
今思えばそれが大野さんの精一杯の優しさだったのだろうと思う。


そして大野さんが京都に行っていた時は
毎日その声が聴きたくて何度も電話をして
長い休みになると会いに行った。


そして大野さんが東京に戻ってからはまた


話しかけて
その姿を見つめて
その綺麗な手を握って
その身体にぎゅっとくっついた。


それを大野さんはいつも仕方がないなって顔をして
笑って受け入れてくれた。
それが凄く嬉しかった。
3歳下の自分から見て大野さんは凄く大人に見えた。


そして同じグループでデビューできると聞いた時の
嬉しさはとても言葉に表現できない。


本当はデビューなんて全然考えていなかったけど
大野さんと一緒なら話は別だった。
これからずっと一緒にいられる。
そう思うだけで嬉しくて仕方がなかった。


でも。


せっかく一緒のグループになれてデビューできたのに
せっかくずっと一緒にいられるのに
その人の目はいつも違うところに向けられていた。










その翔さんの結婚が決まった。



そして。



グループの解散とともに、大野さんが姿を消した。




あれから一切大野さんが姿を見せる事はなかった。
どこを探しても見つからない。
連絡も取れない。
もう完全にお手上げ状態だった。


会いたくて会いたくてたまらないけど、
もうその願いは一生叶わないかもしれない。


そう諦めかけていた時。
大野さんから自分に助けを求める電話が入った。


『辛くて、眠れない』と。


それがどんな理由であったとしても、会えるだけで嬉しかった。


どうしてもその理由は教えてはもらえなかったけど
ただ、大野さんに必要とされている事が嬉しかった。
だから一緒にいようと思った。


東京での仕事も続け、こことの2重生活となったけど
全然苦じゃなかった。
大野さんのこの苦しみと辛さから救い出してあげたい。
ただ、それだけだった。









そうこうしているうちに翔さんとの対談の話が持ち上がった。


その対談が終わった後、久々にゆっくりと翔さんと話をした。
その話の流れから自然と大野さんの話になった。
その中で翔さんはちょっとした言葉から大野さんと自分が
接点があるという事を見抜いた。


そして接点があるとわかると、大野さんの行方を必死な顔で聞いてくる。


それに、答えてしまった。


翔さんだったから、


答えてしまった。









でも後で無性に心配になって、翔さんが会いに行くであろう日に
先に行って待ち伏せをした。
そしてその時に初めて、自分が思っていた以上に
この二人は繋がっていたのだと知った。


でも。


だからこそ。


生半可な気持ちで会うのは大野さんを苦しめるだけだから
会わないように翔さんに告げた。
もう大野さんをこれ以上苦しませたくはなかった。


でも、それは今の翔さんの状況から考えても
相手の立場や状況を考えてもかなり難しい事だと思った。
そして翔さんが今の生活を手放せるはずもないと思った。


そして大野さんもそれを感じていたはずだ。
だからこそ大野さんはあんなに苦しんでいたのだ。
だから大野さんを守れるのは自分しかいない。


そう、思っていた。


















『今日で私サクライ ショウは最後となります。今まで本当にありがとうございました』




でも、違った。




翔さんはあれから密かに計画を立て実行していたのだ。
覚悟を決め、長期的な計画をたて、着々と水面下で動いていた。
そして確実に計画を遂行していた。


番組の評判が悪かったわけでもない
視聴率が悪かったわけでもない。


自分から最後を決めたのだと思った。


前々から準備を周到にし、そしてついにこの日が来たのだと思った。






そして。




それから間もなく、翔さんが別れたという報道が出て、




翔さんは完全にテレビ画面から姿を消した。


















「ニノ、俺、大野さんのところに行く」

「そうですか」


だから翔さんにそう話しかけられた時
全く驚かなかった。


「ふふっ驚かないんだね?」

「想定内です」

「そっか、そうだよね」


そう言って、翔さんはその端正な顔でくすっと笑った。
相変わらずこの人はカッコいいなと思う。


「でも大丈夫なんですか? もうこの世界に戻ってこれないかもしれないですよ?」


翔さんの今の状況、そして相手や相手の親の状況。
この世界は甘くはないってことをお互い嫌って程知っている。
でもそう言わずには入れなかった。
翔さんだって嵐という看板がなくなったあと
現在までの地位を築き上げるには相当な努力をしてきた事だろう。


「覚悟している」

「そっか」


でもそんなの言われなくたって頭のいい翔さんにはすべてお見通しだろう。
その揺るがない視線に相当の覚悟がうかがえた。


「でも…ニノには申し訳ないと思ってる」

「……別に?」


あの日、翔さんに伝えてしまったのは紛れもなく自分自身。
そして伝えてしまった以上こうなる事は、予想がついていた。
あの時の翔さんの必死な顔。
そしてその前までの翔さんの全然幸せそうじゃない顔。
こうなる事は想定内だった。


「感謝もしてる」

「そ?」


俺に悪いと思っているのだろう、
翔さんが神妙な顔で言う。


「智くんをずっと守ってきてくれてきてくれた事。
本当に感謝してもしきれないほど、感謝してる」

「大野さんの事が好きですから」

「そうだよね。にのは中学の時からずっと智くんの事…」


そう言うと、また申し訳ないって顔をする。


「まあ。でも、翔さんにはすべてを清算したら、大野さんの事は譲ると言ったから仕方ないですね」

「でも…」

「まさか本当に実行に移すとは思いませんでしたけど、ね」


本当は想定内なんて嘘だ。


心のどこかでは無理なんじゃないかと思っていた。


だから自分がずっと大野さんの事は守り抜いて見せると思っていた。


でも、違った。


それだけ翔さんは本気だったという事だ。
だから、大野さんを任せようと思った。
大野さんが本当に必要としているこの人に。















「でも、もし…」

「……?」


ニノが少し考えるような顔をして言う。
だから何だろうとその顔を見た。


「今後大野さんが悲しい思いをするような事があったら
その時はもう絶対に譲りませんから」

「うん、わかってる」


そして意を決したように強い口調でそう言った。


今まで智くんを守り支えてくれていた人。
智くんの事をずっと大好きだった人。
それを、今、自分は奪い取ろうとしている。


「俺、大野さんには幸せでいてもらいたいんです」

「ニノ…」

「でも悔しいけどそれにはやっぱり翔さんじゃないとダメみたいだから」

「……」


そう思うと何も言えなかった。


「俺の方がずっといい男なのにな」

「……ごめん」


ニノがぼそっとそう呟いた。
でも、本当にそう思った。ニノの方がいい男だ。
なのに…。
だから謝る事しかできない。


でも、だからこそ本当にこれでいいのかと何度も何度も自問自答した。
本当にこれが正しい答えなのかと。
人を傷つけるだけの行為なのではないかと。


「大野さん、翔さんの事ずっと待っていますよ」

「だといいんだけど…」


でもその胸の内を読んだようにニノがいたずらっ子みたいな笑顔を見せそう言った。


「翔さん?」

「ん?」

「ずっと暗いトンネルに入ったまま出れない大野さんを出してあげてください。
そして眠るのが大好きなあの人をそろそろ熟睡させてあげてください。
時計の針を動かせるのは翔さんあなたしかいないのですから」

「……約束する」


そして真っ直ぐな視線で自分の事を見ると、意志を持った強い口調でそう言った。


多分、それがニノの答え。


そのニノの言葉を聞いて胸がぎゅっと痛くなった。












彼女は今、世界を飛び回っている。


テレビ画面で映し出される彼女は、


相変わらずキラキラ輝いていて綺麗だなと思った。


そのテレビ画面に向かって、さようならと言って


テレビを消し、最小限の自分の荷物だけを持って家を出た。










Another World 後

2017-04-04 20:21:08 | Another World




このAnother Worldですが、私の見通しが甘過ぎたせいで前後編どころか
前→ 中→ 後→ 完 となってしまいました💦下書きは1枚だったのに💦
すみません。。
次回で終わります。










家に着いた時には日も落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。





「ただいま」



誰もいない部屋に向かって独り言のようにつぶやく。


部屋の中はいつもと変わらずうす暗くて、少し肌寒い。


照明をつけながら部屋の中へと入っていく。


そしてお風呂のスイッチを入れ


ポットでお湯を沸かし


ふうっとため息を一つついた。








そしてまたあの人の事を思い出す。


いや、違う。


帰りの道中でも、


電車の中でも、歩いていても、タクシーの中でも


ずっとあの人の事を考えていた。


あの人の訴えるような言葉。


今にも涙が溢れだしそうなのを堪えている顔。




ずっと


ずっと頭から離れなかった。




コーヒーを入れ部屋の窓から外を眺める。


そこには見慣れた東京の煌びやかで美しい夜景が広がっていた。


それを見ながらコーヒーを一口、そしてもう一口と口に運ぶ。


そして一息つくと、自分の家の中の雑然とした部屋を見た。




もうこの生活がどのくらいになるだろうか。


あれから、数年。







お互い早く子供ができる事を望み
暫く家庭に入っていた彼女だったけど
その願いはなかなか叶わなかった。


どちらに原因がある訳でもない。
それでも、いつまでたっても叶わぬ思い。
こういう場合、原因のない時の方がかえって難しいのだと医師は言った。
それでもありとあらゆる方法を試す。


だんだんと自分の存在がその目的のためだけにいるような
そんな気分になってくる。
そんな日々が続き、本当に好きだったのかどうかさえ
分からなくなってきていた。


確かに年齢の事もある。
周りからの大きなプレッシャーもある。
無期限でないってこともわかっている。


でも。


どうにもならない苛立ちと焦り。
それを、お互いどこにぶつけていいのかわからず
いつしか二人の間には大きな溝ができてしまっていた。


多分、彼女もそれを感じていたのだろう。
家にこもっているとその事だけしか考えられなくなって
お互い余裕がなくなり、息が詰まるような毎日。


もう、ダメだと。


お互いがもう、許容範囲を超え、爆発寸前だという時。


彼女は外に出た。


以前活躍していた場所に、救いを求めた。





そしてそれはいつしか大きな割合を占めるようになった。


家庭よりも、


そして自分よりも。


そしてそれは皮肉なことに、家庭にいる時よりも


数十倍キラキラして輝いて見えた。



そしてその状態に、なぜだか凄くほっとした。






『こんばんは、サクライ ショウです』


いつもの時間。
いつもの日常。


ここには必死に築きあげてきたものがある。
全てを知り尽くしたプロデューサー。
気の合うスタッフ、そして共演者。


ここは、とても居心地のいい空間だ。


でも。


ここまで来るにはそれ相応の時間や労力がかかったことも事実だ。
小さな事から少しづつやりたい事をやらせてもらえるようになって
そして今は本当にやりたい事だけをやらせてもらえるようになった。


精力的に取材をし、調べ上げてきた事を伝え、それ相応の評価を得る。
自分の望んできた世界がここにある。
そして家に帰れば、同じように第一線で働く妻がいる。


内外共に充実した幸せな生活。


そして羨望の眼差し。



それが周りから見た自分の姿。





「……」


けど、実情は家に帰ってもすれ違いで誰もいない家。
お互い忙しくて、家の中まで構っている暇もなく雑然としていく部屋。
すでに家庭としての役割は破たんしていた。


こんなはずじゃなかったんだけどな。


そうは思ったが、もう元には戻れない。


自分の事


相手の事


自分の築き上げてきたもの。
仕事、地位、信用、知識、財産、友達…
そして相手の立場、家族、地位、権力…


もし二人の間に何かあれば、全てを失ってしまうだろう。


だからこのまま突き進むしかないのだ。
この話が周りを固められ、自分の意思とは関係なく
進んでしまった時の様に。


昔から自分自身漠然とした夢があった。
思い描いていた人生の設計図があった。


そして。


そんな中でもその人生設計図にちゃんとのっかっていると思っていた。
でも現実は違った。


付き合い始めの勢いだけで、ここまできてしまった。
本当に好きだったかどうかなんてもうわからない。


けど突き進むしかなかった。









いつも智くんの笑顔を見ているのが好きだった。
他の人には真似できないくらいの圧倒的な
ダンスパフォーマンスにいつも夢中になった。
透き通るような歌声を聞くたびに聞き惚れていた。


バラエティ番組での言動にドキドキしながらも
その姿を見るのが好きだった。
時にはハラハラしながら心配したり、笑ったり、見つめ合ったり。


大好きだった。


5人で一緒にいる時も。
二人でまったりと過ごす時間も。


テレビ番組や雑誌の企画で数え切れない位色々やらせてもらったけど。
でもそれだけじゃない。
テレビを見ながらサッカーや野球を見て盛り上がったり
一緒に笑って、泣いて、お酒を酌み交わして、ご飯を食べて。


そして


キスして
手をつないで
抱き合って
一緒に眠って。


自分の人生で、これほど夢中になれた人に今まで出会えていない。


あの人を超える人はまだいない。


愛していた。


なのになぜ、手を離してしまったのだろう。











いつも一人になるとあの頃の映像を眺めていた。


あの頃の自分を思い出していた。


あの日。


車を降りるまで、ニノは押し黙ったままだった。


「もし、全てを清算するのなら大野さんの事、譲ってもいいよ」


そして車を降りる直前、ニノはそう言った。


でも、何も言えなかった。


「でもそんな事、翔さんにはできっこないよね。
でも安心して? 俺が大野さんの事は守り抜いて見せるから」


そう言って、ニノは真っ直ぐな目で見つめ、そしてニコッと笑った。












『それでは今日の新しいニュースからお伝えします』


いつもの時間。
いつもの日常。


自分の築き上げてきた世界がここにある。


自分の人生設計。
気の合うスタッフ。
何不自由ない暮らし。


思い描いていた人生。


でもその為に手離してしまった



大切なもの。





帰宅しても誰もいない家。


薄暗い部屋。


一人の食事。


雑然とした部屋。


一人で見るテレビ。


一人で過ごす時間。


一人で寝るベッド。





そして部屋の中には十分過ぎるほどの高価な装飾品。





でもずっと何かが足りなかった。





テレビの中での彼女は世界中を飛び回っていた。


その姿を見ながらいい笑顔をしているなと思った。


家にいる時よりもキラキラ輝いていて生き生きとしている。





その姿を見つめながら





自分がいなくても、この人は十分に生きていけると







そう思った。