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山コンビ大好き。

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きらり

山 短編8 シェアハウス完結編

2017-09-23 21:22:35 | 短編








長い間ありがとうございました~。










智くんのいない家。







僕はさびしくて、さびしくて


いつも家の中を探している。


リビング。


智くんの部屋。


キッチン。


洗面所。


俺の部屋。


バスルーム。


玄関。









そして。


外に出ると、街の雑踏の中。


お店で。


電車で。


図書館で。


自転車で。


いつも、


どこにいても


その姿を探している。










智くんはニューヨークにいた。











こちらでの智くんの生活が安定した事を確信したお姉さん夫婦は、
夏からまた海外勤務へと戻り、ニューヨークで生活をしていた。


そしてそのお姉さん夫婦の間にこの秋、赤ちゃんが生まれたため
その赤ちゃんに会いに智くんは2週間の予定で旅立っていった。





だから。


智くんは2週間たてば戻ってくる。


この家に。
この部屋に。


智くんは、帰ってくる。
だけど、智くんのいない生活にとうに限界は越えていた。
この智くんのいない家の中を毎日、探し求める。


智くんがいつもゆったりとくつろいでいたソファを見つめ
一緒に食事をしたり飲んだりしていたテーブルを眺め
一緒に食事を作っていたキッチンを見つめた。










智くんと初めて会ったのは、大学に入学して間もない時だった。


突然父からこの家で智くんと一緒に暮らすようにと言われ
このシェアハウスで暮らすことになった。
でも最初は名前も顔も知らない人と一緒に暮らすことなんてとてもできないと
父に対して反発心しかなかった。


だからすぐにシェアハウスは解消し、家に戻ってこようと思っていた。
あの時は他人と一緒に暮らせるはずなんてないと。
父の命令でも到底無理だと、そう思っていた。


でも智くんと会った瞬間。
そんな考えは一気に吹き飛んだ。
智くんとだったらうまくやっていけると思った。
そして話をしていくにつれ、それは確信へと変わっていった。


それは掃除の間隔や寝る時間、食事の時間などの
タイミングが合うといのもあったし
好きなものや食べたいものが似ているという事もあった。


だから二人で一緒にいる空間が全然苦じゃなかった。










そして、お互いがお互いに慣れてきた、ある日。


智くんが眠れないから一緒に寝て欲しいと言った。


その時は訳も分からず、いいよと答えたものの
てっきり別の布団で寝るとばかり思っていた。
でもなぜか智くんは俺のベッドの中に入ってきて
そして一緒の布団で眠った。


そのあまりの状況に緊張し過ぎて翌朝
全身がカチコチに固まってしまって歩くのさえ大変だった。
でも不思議と嫌じゃなかった。
だから自分の方からこれからも一緒に寝ていいよと言った。
その言葉に智くんは嬉しそうに笑った。


そして。


その日から毎日。


智くんは猫みたいに俺のベッドの中に潜り込んできて一緒に眠った。
そして最初はカチコチだった身体は次第にその状態に慣れていって
そしていつの間にか俺の身体は智くんの気配を感じないと
眠れなくなってしまうようになった。











4月からは新しい生活が始まる。


父からはもうシェアハウスは解消し帰ってくるようにと言われていた。
でももう智くんなしの生活は考えられなっていた。
だからこの父の持ち物であるシェアハウスを出て
二人だけで新しい家に引っ越す事を決めていた。
その為に二人で頑張ってお金を貯めた。


父に反対されるのは覚悟の上だった。
反対されない訳がなかった。
でも、意を決し父にそのことを告げると
父はじっと目を見つめて、そうかとだけ言った。


そのあまりのあっさりとした反応に拍子抜けしていたら
新しい部屋に住むなら保証人が必要だろうから
いつでもサインをしてやると言った。


あの父が。


信じられなかった。


確かに智くんと一緒に住むきっかけを作ったのは父だ。


でも。


これからも一緒にいるという意味を父ははたしてわかっているのだろうか。
父の真意が全く読めなくて戸惑い動揺を隠せずにいると
父は、別にあのままあの家に住んでいても構わなかったのにと
小さな声でつぶやいた。


やっぱり父の真意がわからなかった。










ただ。


父から言われた通りの成績を残し
とるように言われていた資格を死に物狂いで取り
父に勧められていた仕事にも就いた。
何一つ文句は言わせないと必死だった。


それでも智くんとこれからもずっと一緒に生きていくという事を。
その覚悟を伝えた事を父はどう受け止めたのだろうか。


父の顔を見ても真意はやっぱりわからない。














智くんからは毎日短い文と一緒に画像が送られてきた。


セントラルパークで鳥たちと戯れる智くん。
マンハッタンの夜景。
ハドソン川の畔でホットドックを食べている姿。
タイムズスクエアでとったショット。
なぜか街の中でニューヨーカーらしき人たちと一緒に撮っている写真。
そして、赤ちゃんとのツーショットの写真。


そのどれもが笑顔で輝いていて会いたいと思った。


本当は智くんに一緒に行こうと誘われていたニューヨーク。
でも家族水入らずの時間を邪魔してもいけないと思って断っていた。
でもその事を智くんが旅立った日にすでに後悔していた。
もう智くんなしの生活なんて考えられなかった。


夜一人で眠るベッド。


昔は一人にならないと眠れなかったはずなのに
今は智くんの気配がないと眠れなくなってしまっていた。
智くんの寝息が聞こえないと深く眠れなくなってしまっていた。










だから智くんのいない今。


僕は不眠症だ。


それはどんなに酒を飲んでもきかない。
どんなに疲れきっていても。
どんなに眠れない日が続いていても。
もうどの位まともに眠っていないのだろう。


そんな事を思いながら、送られてきた画像が入っているスマホを握りしめ
布団の中へと潜りこんだ。









本当は出会う事のなかった人。
でも今はその出会う事のなかったはずの智くんの姿をいつも探している。


家の中で。
街の中で。




あと10日。



あと一週間。



指折り数えて待っている。





あと4日。




あと2日。



あと1日。








もう、限界だと思った時。
智くんが帰ってきた。


やっとこの家に。
この部屋に。


でもきっと。


どんなにあなたの事を待ち続けていたか
どんなにあなたの事を探し求めていたか
あなたは知らないでしょう。


自分にはどれだけ大きな存在であるか。
自分にとってなくてはならない存在であるか
あなたはきっと気付いていないでしょう。


コーヒーを入れリビングに戻ると
手洗いを終えすっかり着替え終わって
のんびりといつものようにソファでくつろいでいる智くんがいた。


智くんが帰ってきた。


この家に。
この部屋に。


智くんが帰ってきた。


そのいつもの智くんのいる光景に
いつもの智くんの雰囲気に、
心の底からほっと安心した。










「俺ずっと不眠症だったんだ」

「え?」


いつものようにベッドに一緒に入って、天井を眺めながら話をする。


「智くんは寝れた?」

「んふふっまあね」


そう言って智くんは可愛らしく笑う。
いつもの智くんだと思った。


「俺はダメだった…」

「……」

「智くんがいなくて眠れなかった」

「ごめん」


そう言うと、智くんは真剣な顔をして謝る。


「違う」

「……?」


でも、それは責めている訳じゃない。


「俺にはやっぱり智くんがいないとダメだって思った」

「……」


ただ、智くんに知っていてもらいたかっただけだ。


「寝れねえし、食生活は悪くなるし、何も手につかないし」

「翔くんが」


智くんが意外って顔をする。
きっとあなたがどれほど自分に必要かってことを分かってはいない。


「うんもう完全にダメ人間と化してた」


あなたがいないとダメだってことを。













「ふふっでもおれも同じだよ」

「え?」


その言葉に智くんが小さく笑ってそう言った。
でも意味がわからなくて聞き返す。


「何かね、翔くんをいつも求めてるの。この手も身体も」

「……」


そう言って智くんは自分の手を上げて眺める。


「綺麗な景色を見ていても、おいしいものを食べていても
不思議と翔くんと一緒じゃないと楽しくないの。おいしく感じられないの」

「……」

「だからいつも思い出してた」


そう言ってじっと俺の事を見つめてくる。
その瞳に吸い寄せられるようにそっとその唇にキスをした。


「翔くんのこの唇も、この手も」


唇が離れると、そっと俺の手を掴みそう言って手の甲をちゅっとキスをした。


「この髪も、頬も」


そう言って両手で髪をなで、そして頬を優しく包み込んだ。
そしてそのままお互い求めあうようにまたキスをした。


そうか。


智くんも一緒だったんだ。


俺だけが寂しいと思っていた。
俺だけが智くんを必要としていると思っていた。
でも智くんもさびしく思っていてくれた。
智くんも俺を必要としてくれていた。


そう思いながら智くんの額、頬、首筋にとキスを落とす。
そしてそれまでの思いをぶつけるかのように何度も抱きしめあって深いキスをする。


「俺も翔くんなしじゃダメだった」


唇が離れると智くんがそう言ってくすっと笑った。


そうか。


智くんも同じ思いだったんだ。









ベッドの中でニューヨークでの話やここでの暮らしをお互い話す。


そのうちだんだんと智くんの返事がゆっくりになってきて
静かな寝息が聞こえてくる。


その寝息の音を聞きながら自分もだんだんと眠気が襲ってくる。


あんなに眠れなかったのに。


まるで魔法にかかったみたいに目を閉じると
すぐにでも深い眠りへと落ちていきそうな予感。


それを感じながら、ああやっぱりこの気配がないとダメなのだと。
この寝息を聞きながらじゃないと眠れないのだと。
そう思いながらもだんだんとその智くんの寝息を子守歌に深い眠りの中へと入っていく。










「このまま目覚めないんじゃないかと思って心配しちゃった」


カーテンから差し込む光を感じ目が覚めると
隣には智くんがいてそう言ってニコッと笑った。


ああ、智くんが帰ってきたんだと実感する。


「ってもう昼?」


時間を確認するともうすっかりお昼を回っていた。


「よく眠れた?」

「うん」


その言葉に智くんは安心したような顔を見せそして目が合うとお互いクスっと笑った。
そしてそのまままたベッドの中でキスをする。


キスをしながらやっぱり自分には智くんがいないとダメなのだと思った。









「愛してる」

「うん、俺も」


そしてそう言ってお互いの体温を感じ合う。
もう智くんがいないとダメになってしまったこの身体。


だからこれからもずっと一緒に生きていく。
一緒に同じ景色を見て
同じものを感じて生きていく。


もしかしたら父はその事を見抜いていたのかな。
だから言っても無駄だと何も言わなかったのかな。


孫の顔とか見せてあげられなくて申し訳ない気持ちもあるけど
でも智くんと生きて行きたい。
智くんと生きていくことが何よりも幸せだからずっと一緒いる。


ずっと一緒に生きていく。





だって智くんがいないといつもその姿を探してしまう。


その姿を感じていないと不眠症になってしまう。


だからこれからも一緒に生きていく。







「下に行こっか?」


「うん」


いつもタイミングが同じだと思っていた。


起きる時間も。


寝る時間も。


食べる時間も。


掃除する時間も。


でもそれはタイミングが同じというよりも
智くんが合わせてくれてくれていたっていうのもあるのかな?


「コーヒー飲む?」

「うん。じゃあ俺はパン焼く」

「ふふっありがと」


テーブルの上にはホカホカのトーストとあったかいコーヒーとサラダ。


もともと食べ物の好みが似ていたっていうのもあるけど
パン好きの智くんに俺の好みも合ってきたっていうのもあるのかな?







目の前には智くんの可愛らしい顔。



うん、やっぱり、この生活がいい。








だからずっと一緒にいる。





ずっと、智くんと一緒に生きていく。




だって智くんがいないといつもその姿を探してしまうから。




隣で智くんが一緒に眠っていないと不眠症になってしまうから。




だからずっと智くんと一緒に生きていく。