嵐を、嵐さんたちを好きでよかった。
それはいつものダンスとは全く違う動き。
身体の動かし方、体幹のバランス、力の入れ方、動くタイミング
関節の動き、そして身体全体の可動域、姿勢、体勢、手の動き足の動き
そして歩き方、糸が突然緩められた時の倒れ方、その状態からの起き上がり方…
それは今まで培ってきたものがまるで通用しないダンス。
『めちゃくちゃあの人凄い怒っていたね』
だからその言葉一つをとってもどれだけ苦労したかが分かる。
『(汗で)つむじのチョイ下までぬれてた』
その言葉にどれだけ大変だったかが分かる。
映像にはフラットの状態から心電図のような波形が映し出される。
それは無の状態から生の状態になったことを事を指し示すのか。
意思がなくまさに人形の状態で操られていた状態から
やがて自分の意思を持ちながらも意志とは無関係に操られる状態へと変化し
そして自らの意思で動き出し操られていた糸を断ち切るまでの事を現すものなのか。
これを見ていると、松潤が生で糸を垂らしていたらもっと臨場感があったのに
という言う言葉の意味がよく分かる。
そして無音の状態にして見てみると智くんの動きがより深く強く伝わり人形感が増す。
『ほんと人形だよ』
ニノが言った。
そう、その身体の動き、そして関節の動きは、
まるで意志を持たない人形が誰かに糸で操られ動かされているような動きだ。
糸で操られ引っ張られているかのように、意志とは関係なく立ち上げられる。
そして引っ張られている部分だけで身体の体勢が決まりそしてそこから動きへと変わる。
そう、それはまるで操り人形。
自分の意思とは無関係に動かされ立ち上がされ歩かされ踊らされる。
そして意志を持たない、いや意志を持っていないように見える智くんの腕は
動かされるたびにまるで人形の様に関節より先が動いた反動で揺れる。
そして意志を持たない状態からだんだんと意志持った状態へと変化していくのを
意志を持たない操り人形から意志を持った操り人形へと変わっていくのを表現していく。
『あの状態で立てんのかなって毎回思う』
智くんはあっけらかんとそう言っていたけど
あの姿勢からのあの立ち上がり方。
見ているだけでもどれだけ大変かが分かる。
どこがどうなっているのかさえもはや理解できないほど
どこに力が入ってどうやって立ち上がっているのかわからない。
『難しいの? パペット。 難しそうに見えるけど、難しいの? やってみたら意外と、なの?』
でも智くんの場合。
あまりにもあっけらかんとしたその物言いに時々わからなくなる時がある。
だからニノは聞きたかったのだと思う。
身体能力が高く大抵の事を何でもない事の様に器用にこなしてしまう智くんにとって
そのパペットダンスと言われるものはどうだったのか。
智くんにとって難しい事だったのかそうではなかったのか。
大変だったのかそうでもなかったのか。
でも、智くんは難しいとも難しくないとも、
そして大変だともそうでもないとも直接的に答える事はない。
だから本当の事は誰もわからない。
ニノとはいつも一緒にステージの下からその姿を見ていた。
そして尊敬と憧れと羨望の眼差しと、そして少しの心配を感じながら
じっと智くんを見つめるニノを見ていた。
『何、あれ俺見てんの? 何だ言ってよ、もっと応援したのに』
そう言って少し照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑うニノ。
その顔を見ながらまだ昔から変わらずこの人にとって
智くんの存在は特別な存在なんだと思う。
『このつなぐかかった時凄かったよね、初日。出てきてるだけなのにすげえキャーって』
それは直前に智くんのパフォーマンスがあったからこその言葉。
観客が息をのみ見つめていた智くんのステージの後だからこそのその言葉。
その言葉一つが大きな意味を現す。
『この時のリーダー汗だくだもんな。もうこの辺までぬれてるからね』
そしてあれだけのパフォーマンスを。
それでなくても夜の影から始まりバズりナイトそしてこのパペットダンス
そしてつなぐ、抱擁、お気に召すまま、Bittersweeet、GUTS!、Doors
とMCまでハードに歌い踊りパフォーマンスし続けるのだ。
『ここずっとふざけていたもんね』
だからニノはいつものコンサートとは比べ物にならない位
尋常じゃないくらいの汗をかいている智くんを心配しながらいつも見ていたのだと思う。
だからあの時いつもふざけていたとは言っていたけど
それは声をかけずには、構わずにはいられなかった状態だったのだと思う。
「また見てんの?」
風呂から出てきた智くんが頭をふきながらソファに座った。
「だってさ今回の凄くね?」
「ん?」
「何つーか自分で出てて言うのもあれだけど、壮大っつうか、まあ松潤がすげえんだろうけど」
「んふふっ。昔から凄いステージの才能とセンスを発揮するよね~」
「うん、それにみんなのパフォーマンスも何度見ても飽きない」
「んふふっ翔くん相変わらず嵐好きね~」
そう言うとおかしそうにクスクス笑う。
「そうなんだよね~なんでだろ~?」
確かに嵐の事が好きだ。
しかも不思議な事に年々自分の中での嵐の存在が、そしてメンバーの存在が
大きく大切なものになっている気がする。
「いいじゃん。それに割とみんなそうじゃない?」
「そーかなー?」
「うんそうだよ。それに翔くんは偉いよ」
「へ?」
「この嵐会だってさ俺みたいなやつだけだったら、ただひたすら食べて飲んで見てるだけだよ?」
「ふふっ」
「だから翔くんがいてよかったって凄く思ったもん」
そう言って笑ってるけど。
でも、今見てる嵐会もすでに3回見てるんだよね。
っていうか大きな声では言えないけど本編の智くんのなんて多分引かれるほど見てる。
パペットダンスはもちろん、バズりNIGHTはめちゃくちゃ女の子みたいで可愛いし。
何だあれ?ほんとあの年であの可愛さ信じられない。衣装も似合っているし。
そもそもオタクの状態でも可愛いってどういう事?
そして夜の影はダンスは相変わらずキレキレでめちゃくちゃカッコいいし。
しかもジュニアの前で軽く踊って見せているだけも
凄くなめらかさとしなやかさがあってカッコいいんだよね。
あれだけ見ているだけでも本当にダンスの上手な人って違うなってわかるもん。
それ以外でもダンスはどれもやっぱり見惚れるし歌を聞くとやっぱり聞き惚れるし。
それにUBも見るし、Song for youもそれ以外も見る。
ってどんだけ自分は智くんや嵐の事が好きなのだと思う。
でも。
そんな中でもあのパペットダンスはやっぱり特別だ、と思う。
『やっぱり教えてくれた先生のようにはならない。細かい事が』
そう智くんが苦笑いを浮かべながら言っていたあのパペットダンス。
『あれ毎回不安になる。ホントいけんのかな? あの体勢からホントいけんのかなって』
そう言いながらも完璧にパペットと化し座った状態から操り人形の様に立ち上がっていた。
でもあんな高い身体能力とバランス力と体幹がしっかりしている智くんをもってしても
そう言わせる難易度の高いパペットダンス。
でもあんなに凄い事をやり遂げているのに。
それでなくても歌もダンスも誰よりも長けているのに。
なんでいつもそんなに控えめなのかといつも思っていた。
もともと多くを語る人ではない。
でも。
『めちゃくちゃ凄く怒っていた』
そんな状態から、どれだけの練習を重ねあの状態まで持っていったというのか。
確かに凄い人だけど最初から何でもできてしまえるスーパーマンじゃない。
努力をする天才なだけだ。
先生がめちゃくちゃ怒っていたというその状態からずっと見てきたから。
その状態からずっと知ってるから。
「やっぱ、かなわねえな」
「え?」
でも決して難しいとか大変だったと言わない。
でも陰でどれだけ努力を重ねてきたかだなんて
あの先生の言動を見てきたからわかる。
決して天才だからできてしまえたことではないという事を知っている。
努力をしてのあのパフォーマンスがあるってことをわかっている。
でもそんな事を微塵も感じさせないその言動と姿。
だからこそ多くを語らないこの人に、みんな色々と聞きたくなってしまうのだろうか。
話しかけたくなってしまうのだろうか。
色々と構いたくなってしまうのだろうか。
そりゃあ、おいでおいでと指でちょいちょいとなんてされたら
松潤じゃなくてもあんな嬉しそうな顔にもなってしまうよねと思う。
そしてなぜか。
この人と一緒だという事を不思議とみんなに伝えたくなってしまうものなのだろうか。
相葉ちゃんにしてもニノにしても松潤にしても、そして自分も例外ではなく
智くんと一緒だったことや一緒に何かをしていたというようなことを口々に話し出す。
本当に不思議な人。
「好き」
そう言ってその身体を抱きしめると、優しいあなたは
そのまま何事もなかったかのようにすっと受け入れてくれる。
好きが溢れだして止まらなくなると、その思いを瞬時に察知し
そして受け止めてくれてぎゅっと力を入れ抱きしめ返してくれる。
一緒にこんなに過ごしていてもやっぱりあなたはいつも自分の前を歩いている。
憧れと尊敬の羨望の眼差しで見ているのは、ニノだけではなく自分の同じなのだと思う。
そんな事を思いながら軽く抱きしめていた腕の力を弱めると智くんが、ん?って顔で見る。
その可愛らしい顔を見つめながら
唇に少しだけ躊躇いながらちゅっと触れるだけのキスをした。
「遠慮なんてしなくていいのに」
唇が離れると、智くんが肩に手を押し当て突然がばっと俺をソファに押し倒してきた。
びっくりして上を見あげると智くんと目が合って智くんがにっと笑う。
そして遠慮はいらないんだよとばかりにそう言ってクスッと笑うと
そのまま覆いかぶさるように唇をふさがれ深いキスをしてくる。
だからそれに応じるように舌を絡め背中に腕を回す。
「するわけねーだろ」
そして唇が離れると今度はお返しにとそのままその華奢な身体を反転させた。
そして今度は下になった智くんを見つめると目が合ってお互いにっと笑う。
そのまま智くんの両方の手首を耳の横で押さえると
照れくささを隠すようにするわけねーだろとそう言って
唇を重ねキスをすると、そのまま飽きる事無く求めた。