ありふれた日常 part31(ZERO×選挙2014)

「……」


テレビをつけると、そこには疲れを全く感じさせない
キャスターとしての顔があった。


ずっと一緒にいたのに、そこにいるのは別の人。
こんなに疲れているのに
そして同じように疲れているはずなのに
いや、それ以上に移動や考えられないくらいの膨大な下調べや取材など
心身共に疲れきっているはずなのに微塵も感じさせないその姿。


その姿を見つめた。





その人は


育ちがよくて
頭が良くて
アイドルを続けながらも学業に厳しい高校に通い
そして日本でも屈指の名門大学をストレートで卒業した。
とてもタフで
優しくて
そして端正な顔立ちをした
かっこいい人。





自分には、とてもありえない状況の中でも


全く物怖じせず対等に話をし


その存在感を知らしめる。




その姿を見て


いつかその人は


遠い、遠い存在になって


自分の事なんて


忘れてしまうんじゃないだろうかと


そう思った。















「……！」

「ふふっ凄く驚いた顔してる」


zeroが終わって智くんの家を訪れると
智くんが凄くびっくりした顔で見つめてきた。


「だって、今日約束してなかったよね?」

「そうなんだけど、あんなメール貰ったらね」

「え?　いつものメールでしょ」

「そうなんだけど、なんとなく気になってさ」


凄く、凄く、たまになんだけど
身体を気遣う文面と労いの言葉が入ったメール。
選挙特番が終わった後に見たら入ってたんだよね。


「……」

「……どうしたの?」


智くんが座っている隣に座りそう言うと、悪いなって顔をして
気まずそうな表情になった。
多分疲れているのに、ここにこさせてしまったという罪悪感なんだろう。
そんなこと感じる必要はないのに、ね。
意外と気遣いやの智くんはとても気にする。


「ごめん。翔くん、凄く忙しいのに」

「それはお互い様でしょ?」

「全然違うよ。あの後選挙特番もあって今日もzeroがあったし」

「まあね。でもそうは言っても俺が来たくて来てるだけなんだけどね」

「……」


そう言うと智くんは何も言わずまっすぐな視線で見つめた。


「いや、違うか。俺がどうしても智くんの顔が見たくて、きてるだけか」

「……」


そう言うと、やっぱり何か言いたげな顔をして見つめてくる。


「……ん?」

「選挙特番も今日のzeroも見たよ」

「ふふっありがと」


智くんはドラマとかバラエティとかはあまり見ないけど
なぜかこういう報道番組は、わりと見てくれているんだよね。


「……」

「……?」

「あれ見て、翔くんは……」

「……ん?　変だった?　なんかおかしなこと言ってた?」


智くんは黙って暫く考えるような顔をすると
一つ一つ言葉を選びながらポツリポツリと話し出す。


「違くて。逆」

「逆?」

「そう。将来、翔くんは、国を動かしていく方の立場の人に
なっていくんじゃないかって思ったんだよね」

「ええぇ?」


国を動かしていく方の立場のヒト??
って、何だかすごいこと言い出したね?


「いや、まだ、俺、嵐でいたいよ」

「今はね。でもいつか。もっともっと先の話だろうけど」


智くんって意外と何も考えてないようで
結構先の先のことまで考えている人なんだよね。
でも、まさかそんな先の事まで考えていたとは。
しかも何だか凄いこと言ってるし。


「そん時は、きっと俺の事なんて忘れちゃうんだろうなって」

「いやいやいや、そんなこと全然考えてないし」

「全然?」


そう言うと智くんは意外そうな顔をした。
そんな意外なことかな。


「いや、まあ、もし仮にだよ。
仮に、そう言う方の道に進んだとしても
俺が智くんを忘れる事なんて絶対ないよ」

「……そうかな?」

「そうだよ。それは間違いない」

「……」

「だってさ中学ん時からずっとあなたの事を見てきて
家族よりも長い時間一緒にいるわけでしょ。忘れるわけない」

「……そっかな」

「そうだよ」


それに、ずっと自分にとっては特別な存在で大切な人なのに
忘れてしまうなんて絶対にない。
でも、きっとそんな大きな存在であるって事を
智くん自身が一番わかってないんだよね。


「でも、まあ、今日来てよかったよ」

「……?」


智くんは何で?って顔をして不思議そうに見つめる。


「だって、智くんが、何でかわかんないけど
そう思って不安に感じてたんなら、きてよかった」

「そっか、ごめんね。翔くん。めちゃくちゃ忙しいのに」


智くんは申し訳ないって顔をする。
そんな顔する必要なんてないのにね。


「いや、忙しい時こその、智の存在だよ」

「ふふっなんだそりゃ。でも、来てくれてありがと」

「いや、俺こそ、智くんの顔を見て疲れも吹っ飛んだよ。
それに、さ……」

「……?」

「俺って、愛されてんなって」


そう言いながら自然と顔がにやけてしまうのを
なんとか抑えながらそういった。
なんか、ちょっと嬉しかったんだよね。


「……へ?」

「へ?　じゃないでしょう?
だって今、言ってたでしょ、俺に忘れられちゃうんじゃないかって」

「そうだっけ」

「そうだったけじゃないでしょ。って、まあいいや。
智くん、好きだよ。最初会った時からずっと気になる存在で
思いがけず一緒のグループでデビューする事になって。
それでずっと一緒にいるけどずっと好き」

「ふふっ俺も翔くんのこと、やっぱり好き」

「やっぱりってなんだよ」

「やっぱキャスターの翔くんかっこいいもん」

「……」

「……ん?」

「なんか複雑な気分なんですケド」

「え?　そう?」

「うん、でも、まあいっか」

「今日、来てくれてありがと。
なんだか翔くんが遠くに行っちゃった気がしたけど
こうやって翔くんを感じられて嬉しい」


そう言って智くんは背中に腕を回しぎゅっと抱きついてくる。
本当にこういうところがかわいらしい人なんだよね。
ずっとそれまで一緒にいたのにね。


でもこういうところが、惹きつけて離さないところでもあるのかな?
自分は結構自由にやっていて、こっちはいつも
ヒヤヒヤドキドキしているというのにね。
でもそういうところもひっくるめて全部が好きなんだよね。


そう思いながら両手を背中に回しぎゅっと力を込めると
智くんが、なあにって顔をして上を向いた。
目線が合う。
そのままその可愛らしい顔をじっと見つめると
智くんもじっと見つめてくる。


「どこにも行かないし、智から、もう離れられっこないよ」


そう
心も
身体も。


そう思いながら顔にかかった前髪をかき分け
ちゅっと額にキスをすると
背中に回された腕にぎゅっと力が込められる。


「そうでしょ?」

「……うん」


お互いに見つめ合い、そうでしょ?　って聞くと
智くんが照れくさそうに小さくこくりと頷いた。


「智くん、好きだよ」


そして顔を近づけていくと
その可愛らしい唇にちゅっとキスをした。

山 短編10

[色々途中のものがあったりしますが。それに誕生日モノも。。何でもOKな方のみ↓]









何もない休日。


彼女とは喧嘩をしていて、もう3週間あっていない。


“このまま自然消滅かな?”


そんな事を思いながら部屋で一人


鬱々としているのも嫌になってきて外にでた。







もう、こちらから連絡する気もないし


彼女からももう連絡はこないだろう。


でも、それでいい。


彼女の機嫌を取るのもめんどくさいし


プライドの高い彼女に合わせるのも疲れた。


そんな事を思いながらあてもなくブラブラ川沿いを歩く。


ふと、川の方が気になり目をやると、川岸に木で出来た桶が


引っかかっているのが見えた。







木で出来た桶?


それはよく温泉旅館のお風呂なんかで見るような
木の桶だった。


なぜ、こんなところに?


そう思いながら近づいていくと
その中に何か動くものが見えた。


猫か、それとも犬?


生きたまま木の桶に入れて流したのだろうか。
酷いことをする奴もいるもんだな。
そう思いながら木の桶の中を覗いた。


違う。
犬でも猫でもない。
洋服を着ている……人形?
何だか分からずにその物体を見つめていたら
またもぞもぞと動きだした。


動いた！


そのまま見つめていたら、ひょこっと
人間らしい顔をしたものが出てきた。


「うわっ」


姿かたちは人間そのものだけど
それは体長が20センチ位しかなかった。


うわぁ、ありえない。


最近仕事が忙しくて心身共に疲れているとは思っていたけど
こんなものを見るほどに疲れていたとは。
これはもう、このまま幻を見たと思ってスルーして帰ろう。
そう思いながら、もときた道に戻ろうとする。


「ちょっと、待ってよ」


うわぁあ、喋った。


って、いや、ホント疲れてんな。
声まで聞こえるとは。
もう本当に帰って寝てしまおう。


「おい、ムシすんなよ」

「……」


そう思い帰ろうとしたら
何だかさっきから妙に話しかけられてるし……。


「お前だよ」

「……オレ?」

「そうだよ、お前」


って、何だかこの人(って人かどうかよくわかんないけど。小さいし)
さっきからちょっと偉そうじゃない?


「何か、用ですか?」

「ちょっとこの状況見てわかんない?　助けてよ」

「……」


……やっぱりちょっと偉そうなんですけど。
この、おかしな状況はひとまず置いといて
なんだか少しムカついてきた。


「それが人にモノを頼む時の言い方?」

「……スミマセン。助けてください」


ムッとしながらも答えると、その人はちょっと神妙な
顔になってそう言って頼んでくる。
まぁ、別に助けなくてもいいんだけどね～。


「え～どうしよっかなぁ」

「おまえぇ」

「わかったよ、しょうがないなぁ」


そう思いながら、どうしよっかなあなんて言ったら
今度はその小さい人の方がむっとした顔をしたので
仕方なく木の桶ごと川から出して抱えた。


あ～あ、何だか変なものに関わっちゃったな。
どうしようコレ。
川から出してやったし、このまんま置いて帰ってもいいのかな?


「じゃあ、俺はこれで」

「おいっ、待ってよ」


そんな事を思いながら、木の桶ごと川から少し離れたところに置いて
立ち去ろうとしたら、今度は必死な顔で頼んでくる。


「……」

「助けて下さい。お願いします」


振り返ると木の桶の中で呆然と立ち
泣きそうな顔しているその人の(人というにはかなりちっちゃいけど)
姿があった。











「じゃあ、昨日までは普通の人間の大きさだったってこと?」
(まぁ普通の人間の大きさっていうのもおかしな表現だけど)

「そうなんだよねえ」


余りにも泣きそうな顔をしているその人の顔を見て
情にほだされ、仕方なく家に連れて帰ることになってしまったその人を
木の桶に入れたまま、他の人に見つからないようにして歩く。


そしてその帰りの道中、その人は驚くべきことを口にした。
でも、そんな驚くべき状態であるにも関わらず
なぜかその人は平然としていた。


一体どういう神経してんだよ。


普通だったら、急にこんな大きさになって
川に流されていたら不安で仕方がないだろう。
そんな事を思いながらその姿を見つめた。


「へえ、ここが翔くんの家?」

「そう、ここで一人暮らししてるんだ」


家に着くと智は木の桶に入ったまま部屋を
キョロキョロと見回した。


「散らかってんねぇ」

「うるせえな。俺は別にいいんですけど?」

「スミマセン。お世話になります」

「よろしい」





そんな事を言い合いながら体長20センチくらいの智との


奇妙な同居生活が、突然始まった。









「なあ、ホントにこれしかなかったのかよ?」

「いや、もっとひらひらのウエディングドレスみたいのもあったけど
そっちのほうが良かった?」


智はおもちゃ屋で買ってきた青いドレスを渋々着て
むすっとした顔をしている。
思わずその姿を見てぶっと吹き出しそうになるのを
こらえながら答える。


「いいわけねえだろ」

「ふふっ、じゃあそれでいいじゃん。似合ってるよ。
それに明日の朝には、いつもの服も乾いてるよ」

「……」


ここに智が来て数日。
智の身体は相変わらず20センチ位しかない。
一寸法師かよっ
(いや一寸法師はお椀に入ってた位だから、もっとちっちゃいか。
って、今はそんな事を言ってる場合ではない)


智はあまり自分のことを話したがらないので
家族の事や今までどんな生活をしていたのかも全くわからない。
みんな連絡が取れなくなって心配しているんじゃないかと
思って聞いてみるけど大丈夫だと答えるだけで、
あまり気にしてないようだった。


そしていつまでここにいるかも、ずっとこの大きさなのかも
さっぱり見当がつかないけど服が一着だけというのは
洗濯の時とか寝る時とか色々不便だろうと思って
おもちゃ屋で智の大きさに合う人形の服を買ってきたのだ。
(まぁ、ちょっと遊んじゃったけど)










普段、智は床で寝ると間違って踏んじゃいそうなので
ベッドの端の方にタオルを掛布団代わりにして寝ている。


その姿を見つめた。


よく眠ってるなぁ。
突然こんな大きさになって不安とかないのかな。
それとも強がっているだけ?
ここに来る前の智の事が何一つわからない。


智は、どこの誰で、一体何者なのだろう?


そっと、かけてあるタオルをどけて眠っているその姿を見つめた。


智はくるぶしまであるブルーのドレスを着て寝ていて
まるでお姫様の人形みたいだった。
思わずその姿を見て、またぶっと吹き出しそうになる。
ってそうさせたのは俺なんだけどね～。


ドレス着てる智は寝ているにも関わらず
眉間にシワを寄せてもともと困っているような眉をしてるけど
ますます困ったような顔になって眠っていた。


「……」


やっぱり急にこんな状態になって辛いのかな?
当たり前か。
しかもこんなドレスまで着せられて可愛そうだったかな?
ドレスの横にもうちょっとカジュアルな服装のも売ってたから
(つってもそっちも女の子用だけど)今度はそっちを買ってくるか。


そんな事を思いながら眉間にシワを寄せながら
眠っている智を見つめた。


「……」


まるで人間の言葉を話す小動物なんだよなぁ。


そう言えば昔読んだあれ。
白雪姫だっけ?


毒りんごを食べさせられて仮死状態にさせられた白雪姫が
王子がキスしたら生き返ったとかいう話。
それ以外にも眠らされていたお姫様が、王子様とキスして目覚めたとか
そんな話もあったよね?


だったらもしかして


キスしたら生き返るじゃないけど


元の姿に戻ったりして。


……なんてね。


智は、相変わらずちっちゃい身体のまま


すうすうと眠っている。






もしかして


もしかしてだけど。


でも、ありえるかも知れない。


もしかして


だけど。


そう思いながらその顔をじっと見つめる。


そして


ゆっくりゆっくりと顔を近づけていく。
そして智の口のあたりに唇をそっとおしあてた。
そして、少し離れてその眠っている智の顔を見つめる。


「……」


やっぱ、そんな事あるわけねえよな。


うん。


って


ええぇええ?


なってるよ。


大きく、大きく。


うわっドレスも破けちゃったよ。


大きく、大きく、なって


智は普通の人間の大きさになった。


つっても、こんな状況なのに全くこの男は起きないって


どういう神経してんだよ。


「お～い。元の大きさに戻ってますよ～」

「……」


……起きないし。
それにしてもどうすんだよ、これ。
着ていたものが破れてしまって何も着ていない
状態になってしまった智の身体に慌てて布団をかけ
どうしようかと悩む。


つっても起きないものはしょうがない。
朝には起きるだろうから、このまま寝てしまおう。


とはいっても隣に何も着てない男の人が寝てて気にならなくはないけど。
かといって布団はほかにないし。
寝てるのに無理やり服着せるのも大変そうだ。


いいや、やっぱりこのまま寝てしまおう。


そうは言っても、気にならないわけはない。


これまでも溺れるといけないからって一緒に風呂に入ったりしてたけど
その時は小動物と一緒にいる感じで何にも感じなかった。
けど普通の大きさになった智の身体は
程よく筋肉がついていて綺麗な身体をしていて……


って、何を考えているんだろ。
もう寝よう寝てしまおう。
そう思いながら智の首のところまで布団を掛けると
反対側を向いて目を閉じた。


「……」


そうは言っても、ドキドキが収まらないよ～。
眠れないよ～。
こんな状況アリエナイヨ～。
何も考えず眠るなんて無理、無理。










「うわぁあ」


そんな風に思っていたのに、いつの間にか眠ってしまったらしい。
突然大きな声がして目が覚めると横には何も着てない
智がびっくりした表情でベッドに座っていた。


……ああ、そうだったっけ。


昨日試しにキスしたら元の姿に戻るかなって、やってみたら
ほんとに元に戻ったんだっけ。
そんな事を思いながら、ぼんやりとその姿を見つめた。


「うわっなんで俺裸?」


そう言って智はシーツに身体を巻きつけている。


「あれ?しかもいつも見る景色と違う。
って、元の大きさに戻ったのか。
なんでだろ?　しかも何も着てねえし」

「……元の大きさに戻ったからドレスは破けちゃったんだよ。
しかも、もともと着てた服はなぜか普通の大きさに戻ってるし」


そう言って服がかかっているところを指さすと
智はなんで～って言いながらシーツを巻いたまま取りに行った。


「智って……」

「なんだよ?　どうせ元の大きさに戻っても小さいとか言いたいんだろ」

「いや、そんな事……」


まぁ確かにそんなに大きい訳ではないけど
智の全体的な雰囲気には丁度いい感じだった。
でもそれより小さかった時には気付かなかったけど
智って……


「なに?」

「イヤ、何だかちょっと、さ」


20センチ位の時は小動物みたいにしか思ってなかったけど
元の大きさに戻った智を目の前にすると
何だか妙に照れくさい。


でもそれは智の方もそう思ったみたいで
照れくさそうな表情を浮かべていた。













「じゃ、今まで世話になったな」

「ホントに行くの?」

「この姿に戻ったのに、ここにいるのもおかしな話でしょ?」

「それはそうだけど……」


でも何だかあっさりしすぎじゃない?


「俺さ、ホントはあの日電車を上から見てたんだ。
派遣も切られて、貯金も無いし。家賃とかどうしようって。
何かなんも考えられなくなっちゃって、このまま落ちたら楽になんのかなって」

「……え?」


あまりにも名残惜しそうにしていたせいなのか
智は今まで自分の事を何一つ話そうとはしなかったのに
突然そんな事を話しだす。


「いや、別に飛び込もうとか本気で考えてたわけじゃないんだけど、ね。
ちょっと考えることに疲れすぎてたのかな。
急にふわって意識がなくなって、で、気づいたら
川の中で変な入れ物の中にいたんだ。なぜかちっちゃくなって」

「……」

「な～んて言っても信じらんないよね。俺も訳わかんないもん」


そう言って智はえへへって笑った。
でも実際目の当たりにしているからそれが嘘じゃないってことは
わかっている。


「でもさ、あの大きさのままだったら、もうどうにもお手上げだけど
元の大きさに戻った時、どうやったって生きていけるじゃないかって
わかったんだよね」

「……うん」

「翔くん、今まで面倒見てくれて本当にありがとう」


智はそう言ってすっきりした笑顔を見せる。


「でも、だったらここにいればいいじゃん」

「え?」


そう言うと智は意味が分かんないって顔をして見つめてくる。


「なんか智と一緒に暮らしたの凄く楽しかったし
この生活が急になくなっちゃうと少し寂しいっていうか。
だからさ新しい仕事が決まってお金が貯まるまで
ここにいればいいじゃん」

「……え?」


智がこれ以上迷惑をかけたくないんだろう。
躊躇っているのがわかった。


「そうだよ、そうしなよ。
それにさ、元に戻ったのって俺がキスしたせいだと思うんだよね」

「え?　キス?」


そう言うと智は意外そうな顔をした。
まぁ、当たり前だよね。眠ってたし。おとぎ話みたいな話だし。


「そう。俺、寝てる智にキスしたんだ。お試しな感じで」

「お試しってなんだよ」


智は意味がわかんないって顔をしてクスクス笑う。


「よくほら、王子様のキスでお姫様が目覚めるとかあんじゃん。
そんな感じでちょっとやってみたら、本当に元に戻ったんだ」

「え?　そう　なの?」

「そう。だからさ、もし智がまた小さくなっても
俺が戻してあげられるじゃん。
だからさ、暫くもう大丈夫だって確信できるまで、ここにいなよ」

「……」

「っていうか、俺がいてほしいの」


なんかわかんないけど、大きくなった智にドキドキしてしょうがない。
小さかった時は全然そんなこと思わなかったのに。


小さかった時はただのちっこい手くらいにしか思ってなかったのに
大きくなったらその綺麗な手にドキっとする。


顔だって、その時はちっこい顔としか思ってなかったけど
まつげが長くて鼻筋が綺麗で小さな口で
こんなに可愛いらしい顔をしていたんだと、その顔を見るたびにドキドキする。


小さかった時は一緒に風呂に入ってても気付かなかったけど
余分な肉がなくてほどほどに綺麗な筋肉のついた
綺麗な身体でドキドキするし。


その一つ一つを感じるたびににドキドキするんだ。


そして、そのドキドキする理由が何故だか知りたいんだ。


だからこのまま、さよならなんてしたくない。







「ね、もう一回キスしてみよっか?」

「へ?」


そんな事を思っていたら智が突然そう言った。


「試しに」

「試しに?」

「そう。もう小さくなったりしないか」

「でも、もし、またちっちゃくなったら?」

「そんな時は、またキスして大きくしてくれんでしょ?」

「え、まあ」

「んふふっ」


そう言うと智は可愛らしい顔で、んふふって笑う。


「じゃあ、やってみよっか?」

「やってみよっか」


意を決しそう言うと、智もやってみよっかって
いたずらっ子みたいな顔をしてそう言う。


でも、そうは言ってもちっちゃかった時と全く違って
その可愛らしい顔を目の前にすると
ドキドキがとまらない。


智はなぜかわからないけどワクワクした目で
見つめてくる。
この男は、もう。
そう思いながら智の両肩に手を置いた。
そして角度をつけて顔を近づけていく。


そしてそのままゆっくりと唇に唇をそっと押し当て
触れるだけのキスをちゅっとする。
智は唇が離れると自分の手を見たり顔を触ってきたりして
小さくなってないか確かめている


「んふふっ大丈夫みたい」


そう言って可愛らしく笑った。


ああ～ダメだ。
可愛すぎる。


「ごめん」

そう言って智の頭を抱え込み角度を付け今度は
反対側から少し強引にキスをする。


「びっくりした～」

「ごめん、つい」

「あまりにもびっくりして、またちっちゃくなっちゃうかと思った」


突然少し強引気味にキスをしたせいか、智はびっくりした～って言って
また可愛らしくクスクス笑う。
やっぱり可愛すぎる。
ちっちゃかった時は全然なんとも思わなかったのに。


それに、もしまたちっちゃくなっちゃったら
何度でも俺が元に戻すけどけどね。
そう思いながら至近距離でその可愛らしい顔を見つめる。


「ちっちゃくなったら俺が元に戻すから、必ず」

「うん」

「だから、ここに　いて」

「……うん」


そう言って唇でその可愛らしい唇を塞ぐ。
智の唇がゆっくり遠慮がちに小さく開けられる。
そしてそのまま舌を差し入れ深いキスをした。