yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

17   vol 4

2012-12-04 16:27:24 | 日記


「あの2年ん時一緒だった吉田と佐藤って憶えてる?
あいつら結婚したんだってよ」
「まじか、はええな」
そんな他愛もない話したりするのが無性に楽しくて
それから時間が合うときはしょっちゅう一緒に飲みに行って話をした。


多分それは話をすることが目的というよりその人に会うことが
一番の目的のような感じだった。
そしてその人も嫌がらず時間が合う時は付き合ってくれた。
そして何回かあっているうちにだんだんお互いの家で飲むようにもなり
また下の名前で呼び合うようにもなっていった。


「結構あの時のこと憶えているんだね」
不思議と彼は高校時代一緒だった2年弱の事を
憶えていた。


その言葉に意外そうな顔を見せる。
「いやだって、あの時…色々大変…だったでしょ?」
衝撃的なことがありすぎてあまり当時のことは
記憶には残ってはいないだろうと思っていた。


「ああ、知ってたんだ。
まあ、あんな時期外れになんて、何かあると思うよね」
納得したように頷く。
「うん、まあね…。
あ、ごめん、話たくはないよね?」
本当は話を聞いてその苦しみを少しでも軽減してあげたら
と思ったが、自分からは聞いてはいけない話だと思った。


「ううん、大丈夫だよ」
まだあれから数年しか経っていないのに
気丈に振舞う彼が無性に愛おしかった。


「本当に?」
「まあ、あれから5年…6年か、経つからね。
大丈夫っていうか。
こう日々はすごく辛いことや悲しいことがあっても
淡々と自然に流れていくもんなんだなって」
まだ数年しか経っていないのに穏やかにそう言って話す彼は
凄く強い人だと思った。


あの時君は17歳だったんだよね。
まだ17だった。17の君には重すぎる出来事だったと思う。
そしてオレは何もしてあげることができなかった。
というより何ををしてあげたらいいかさえわからなかった。


「だけど正直言って最初の3ヶ月くらいは記憶ないんだけどね」
そう言って無邪気な顔で笑う。
「そうか…そうだよね。」
17歳から君が抱えてきたこと。
これからも背負って生きていかなければならないこと。
何かしてあげられることはないのかなと思う。


「あの…おじいちゃんおばあちゃんは元気なの?」
たしか祖父母に引き取られたと聞いていた。
「うん、元気元気。正月も行ってきたんだよ」
そう嬉しそうに話す。
「でも…」
そう言ったかと思うと急に表情が暗くなる。


「その頃は自分のことしか考えられなくて
頭の中真っ白なくせに
何でこのまま東京にいられないんだろうとか、
なんであそこに住まなきゃいけないんだろうとか、
もうほんと訳わかんないことばっかり考えてた。」
そうポツリポツリと静かに話す。


「じいちゃん達も実の息子達がいなくなっちゃったわけだから
本当は凄く辛かったと思うんだけどね。
でもオレを一生懸命守ろう守ろうとしてくれていたんだなあって
じいちゃんの家出てから気がついたんだ…」
そう言ったかと思うと涙が一つこぼれ落ちた。


その華奢な身体に自分では想像できないくらいの
悲しみと苦しみを背負ってきたんだと思うと
胸が締め付けられる思いがした。
と、同時に不謹慎かもしれないがその顔が凄く綺麗だと思った。


気づくと肩に手をやりその唇に自分の唇を合わせていた。


びっくりして涙も引っ込んだのか放心状態になってしまっているその人に
何と言っていいか分からず
「今まで頑張ってきたご褒美……なんちゃって。
…ごめんなさい」
ボーゼンと見つめ、何でって顔をしているその人に
おちゃらけて。で、直ぐに謝った。

「んふっ」
少しの沈黙のあと、思いがけずその人が笑う声が聞こえた。
「え?」
なんでそんな事をしたのかと、怒られると思っていたので
びっくりして思わず顔を見つめる。


「いやほんと高校時代の翔と全く違うから。
高校時代はそんな事言う人じゃなかったし
ましてやこんな事する人じゃなかったからホント信じらんない」
そう言っておかしそうにクスクス笑う。


「オレってどれだけのイメージなんだよ?」
「んー。怖い人、仏頂面で冗談なんて言わない人」
そう言って笑いあった。


「まじか、最悪なイメージだな」
想像はできていたけどいざ本人の口から聞くとちょっと落ち込む。
「だから今こうやってるのが何か信じられない。
だけど…」
「うん?」
「怖かったけど優しさがあった」
気づいてたんだ?それだけで胸がカーっと熱くなる。


「…ずっと好きだったんだ」
その言葉に堪えきれず気がつくと告白してた。
「多分、あの時、初めて見た時から。」
その人はびっくりして何も言えずボーゼンとしている。


「だからずっと気持ちがバレないように。あれは照れ隠しだったんだ」
黙ったまま聞いているだけのその人に思いをぶちまける。
「そうだったんだ。
だからたくさん助けてくれたりしてくれてたのか…
そうなんだ。全然気が付かなかった。」

「でもオレも…オレも翔のこと好きだよ」

「まじでか」
思いがけず出るその人の言葉に胸が踊った。


「多分、今思うと高校の時から。
助けてくれるのが嬉しかったし
見つめられるとドキドキしたし。
3年になってクラスが離れて寂しかったし。
だから今こうやって会えてしかも一緒にいられるのが凄く嬉しかった」


そう言ってにっこり笑う顔がすごく可愛くて
「もう一度ちゃんとしたキスしていい?」
気付いたら言葉が出てた。


「う…うん。いいよ」
その人は恥ずかしそうに答える。




「ずっと好きだった」

そう言ってその華奢な身体をきつくきつく抱きしめた。

そしてゆっくりと唇を近づけ6年分の思いを込めてキスをした。

17   vol 3

2012-11-20 19:33:00 | 日記

借りた傘をみつめながら考える。

その人は傘は捨てていいと言ったけどやっぱり返すことにした。



その人はいつも困っている時に助けてくれる存在ではあったけど、
それだけで用がない限りは話したりすることもなく
単なるクラスメートの一人、という感じだった。

また助けてもらったお礼に、と話しかけても
そっけない態度を取られる事が多かったので
どう接していいのか戸惑うところもあった。


またその人の視線も気になっていた。
なぜか視線を感じてそちらを見るとその人がいる。
でも振り向いた瞬間にはその人は別の方を見ているので
確証はなかったが何となく見られているという実感があった。


それが何の意味をしめすのか分からなくて戸惑いばかりがおそう。
助けてくれたり優しくしてくれるけど、そっけない態度をとられる。
気づくと視線を感じる。
どうその人と接していいのか分からなかった。



でも借りた傘は返さなくちゃいけないと思い
一人になったところを
見はからって勇気を出してその人に話しかける。


「あの、櫻井くん」
急に後ろから話しかけたせいかビクッと背中が動く。
「あ、何?」
その人は振り向いたかと思うとぶっきらぼうにそう答えた。


この人のこういうところにいつも戸惑う。
優しくしてくれるけど言葉使いは決して優しいとは言えない。
だからどう話しかけていいのか分からなくてついおどおどし
ながら話してしまう。
「あの…傘、ありがとう」
そう言って傘を差し出した。


その人はびっくりしたような戸惑ったような表情で
見つめる。
そして傘の方に視線を移したかと思ったら手が伸びてきた。
そして傘を当然掴むのかと思ったらなぜか傘ではなく
傘を差し出したその手首を掴んだ。


「…?」
あまりの出来事に何も言えずただその握られた自分の手首を
見つめる。
その手は何故か手首を強く掴んだままだった。

暫くその握られた自分の手首をボーゼンと眺めていたが
「あのう…?」
そう言って自分より少し背の高い彼の顔を見上げた。
視線が合う。


その目は何故か切ないような愛おしいような目をしていた。
この人の自分を見るこういう表情にいつも戸惑う。
どうしていいのかわからなくなって
何も言えなくなって手首を握られた状態のまま見つめ合う。


でもその手は手首を掴んだまま離してくれそうもない。
誰かに見られても変に思われてしまうだけだろう、
そう思ってもう一度勇気を出して話しかける。
「櫻井くん、手…」
その言葉に急に我に返ったようで慌てて手首にあった手を離した。


そして慌てて傘に持ち替えたかと思うと
「ごめん。間違えた。
傘捨ててよかったのに」
そう言ったかと思うと傘を掴んで走って行ってしまった。


何が起こったのか訳が分からずボーゼンとして
ただその人が走っていくその姿を見送った。
そしてふと自分のその握られていた手首を見ると
少し赤くなっていた。

なぜその人がそんな事をしたのか分からなかったけど
それからもその人が助けてくれる事には変わらず
また特別親しくなることもなく日々は過ぎていったので
ただ単に考え事をしていて間違えたんだなと思うようにした。


ただ相変わらずその人の視線を感じる日々は続いていた。

それは自分でも不思議と嫌なものではなかった。
















走りながら胸がドキドキして止まらなかった。
自分でもどうしてそんなことをしてしまったのか分からない。

ただ話しかけられたその顔があまりにも美しくて見とれてたら
男の手とは思えない細い綺麗な手が差し伸べられてきた。


無意識にその手首を握っていた。


櫻井くん、と名前を言われてその時初めて我に返った。
そして自分のしていることに気づいて
慌てて手を離し間違えたとごまかしたが
絶対に変だと思われただろう。

そう思うと穴を掘ってその中に自分を入れてしまいたい気分だった。


どうしてあんなにその人が気になるのか

どうして何とかしてあげたくなるのか

どうして訳もなく見つめてしまうのか


自分の気持ちに気付いてしまった。





いや、とっくのとうに気がついてはいたが

気づかないふりをしていただけだ。


初めてその人を見たその瞬間から


好きだった。



だから気づかれないように必死になってわざとそっけない態度をとったり
ぶっきらぼうに接したりした。


でも気持ちを伝えることは、
辛い状況にあるその人には酷すぎるような気がしたし
困らせるだけだと思いしまっておく事にした。

















そして僕たちは3年になった。

クラスも変わり学校にも慣れてきたその人を
助けるという事はその頃にはなくなっていた。

ただ、その人を見かけると胸がきゅっと締め付けられる感じが
ずっと続いていた。


でもそんな気持ちもだんだん受験という波が

自分自身を巻き込んでいっていつしか忘れさせていった。









そして風の噂でその人は東京に戻るという事を聞いた。

自分は地元の大学に行くのが決まっていたので

もう会うこともないのかなと漠然と思いながら

その時は過ごしていた。





























大学を卒業し東京に就職したオレは忙しいながらも
充実した日々を送っていた。

そしてその頃にはすっかりその人を好きだった事を忘れていた。



でもある日この大都会の真ん中で出会ってしまった。



一瞬すれ違っただけだったけどすぐにその人だと分かった。

その人は小柄な人だったけど一際美しくて人目を引いた。


そして気が付いたら話しかけていた。

「あの失礼ですが…。
高校の時一緒だった大野くんですか?」
その人は振り返ると、びっくりした表情で見つめる。

「あ…っ」
少しの間の後、どうやら思い出したみたいだった。

「突然話しかけてごめんなさい。
高校の時一緒だった櫻井です。
覚えてないかもしれないけど。。」
あの時の君はきっとそれどころじゃなかっただろう。
それに仲のいい友達って訳でもなかったし。


そう思いながらも、そう話しかけると思いがけず
「覚えてるよ。サクライ ショウくんでしょ?」
そう言ったかと思うとふにゃんと笑った。
そのあまりの可愛さにクラクラとしながらも
「そう。覚えていてくれたんだあ、嬉しいなあ。」
そう言って何とか冷静になろうと努力しつつ、そう話しかける。


苗字だけでなくフルネームで覚えていてくれたなんて
それだけで嬉しくて舞い踊りたい気持ちを抑えながら
「あ、ごめんね。急に話しかけてしまって。
今、大丈夫だった?
もしよかったらだけどどこか入らない?」
このままで終わってしまうのがどうしても
嫌で慌ててそう提案した。


店に入るとその美しい顔で見つめられる。
「あの俺の顔になんかついてる?あ、老けたか?」
あまりに見つめられるから恥ずかしくなってそうおどけると
「ううん、顔は変わらないけど雰囲気が随分変わったなあ
って思って」
そう言って、んふふっと笑う。


「え?」
その言葉に少し動揺した。
「だってあの頃…。
ちょっと怖かったし。
話しかけづらい雰囲気を醸し出していたし
だからこうやって普通に話しているのが何だか凄く変な感じ」
こちらの動揺とは関係なくそう話を続ける。


「ああ、あの頃は…」
好きだったから。それをごまかすために必死だったから…
という言葉を飲み込む。
「あの頃は?」
その人は不思議そうな顔で聞く。


「いや、
いやなんでもない、多分いきがってただけ。訳わかんないけど」
本当は好きだったけど
ごまかすためのひそかな戦いだったんだけどね
と言う言葉は心の中にしまっておいた。


「それにしても懐かしいよねえ
これからも逢えるかな?」
これからも逢いたい。そう思ってそう話しかけると
少し怪訝そうな顔になった。


「いや、ごめん、調子に乗りすぎちゃったかな?
おれ地元から離れてきたばかりで寂しくって
だから知ってる人がいると嬉しくって。」
黙っているその人に慌ててそう言ってごまかすと
納得したようにいいよ、とふにゃんと笑った。







それから。
その日からあの頃の気もちがまたふつふつと吹き出してきて
止まらなくなってきている自分に気がついた。

いや、あれからまた一段と綺麗になっている姿を見て
あの時以上に気持ちが強くなってきている自分に気がついてしまった。

17   vol 2

2012-11-11 16:14:29 | 日記
季節外れの転校生は


物静かで自分から率先してしゃべるタイプでは


決してなかったけど


なぜか人を惹きつけるものを持っていて


いつもクラスメートに囲まれていた。



その人が転校生としてクラスに来てから
クラスメートは皆その人の持つ
その不思議な雰囲気に魅了されていた。

それはその人の身ににおこった出来事に対しての同情、とか
東京からきた、とか
そういうのとは一切関係なく
その人の持つ独特な空気感と存在感のせいだったと思う。

そして自分も決して例外ではなく
初めてその人を見た時から
ずっと惹かれていた。

初めてその人を見た瞬間からなぜか目が離せない。



そんな自分の気持ちに戸惑いながら
あえてその人と距離を置く。
だけど困っているときは助けたい
何とかしてやりたいという思いが常にあり
その人にあまり気づかれないようさりげなく助けてきた。




そして、あの日。


その日、珍しくその人は朝いなかった。
そこに教師の休みのための教科変更の連絡と
教室の移動の話があった。

その移動教室からは校門が見える場所だったので
その人が来るかもしれないと思って
ずっと見ていた。

そしたらその人は来た。


理由をつけて慌てて教室に戻ると誰もいない教室でその人は
ボーゼンとしていた。
自分の気配に気づいたのか後ろを振り返り
「ああ、びっくりした」
とあまりびっくりした風でもなく綺麗な顔でそう言った。

その顔があまりにも綺麗で何も言えなくなって
見惚れていると
「今の時間って確か古文だったよね」
その人は反応がない事を気にする風でもなく
ふにゃんと笑ったかと思うと続けてそう言った。

その同性とは言えあまりの可愛さにクラっとしながらも
「古文のセンコー急に休みになったから移動になった。こっち」
そう自分の気持ちを押し殺して
何でもないふりをしてそう言って前を歩いた。
そうでもしないと顔が真っ赤になったのが
バレてしまうと思った。


ただそれだけの出来事なのに胸がドキドキした。
その人が気になって仕方がない。
だけど親しくなるとこの気持ちがどうなってしまうのかが
怖くてわざとそっけない態度をとる。




そしてあの雨の日。


あの日何やら担任に頼まれごとをされているなと思い
わざと帰り支度をゆっくりしていたら
その人は帰る準備をせず
残って何かをするようだった。

気にはなったが教室に残る理由もなく
帰ることにした。

家に帰りボーとしていると雲行きが怪しくなってきた。
きっと傘なんて持ってきてないだろう
そう思うといてもたってもいられず
自宅のそばにある学校に傘を持って戻る。


下駄箱を確認するとまだ学校にいるようだった。
そうしているうちにどんどん空は暗くなってくる。

下駄箱から少し離れたところで待っていると
その人は現れた。
急な雨にボーゼンとしているようだった。

そのまま雨の中駆け出して行きそうだったので
慌ててその人のもとに行く。
そして傘を差し出した。


その人は急に現れた自分と傘を差し出された事に戸惑って
いるようだった。

そして一本しかない傘に
「櫻井くんはどうするの」
その時、自分の名前をその人の口から聞いた瞬間。
時が止まったように思った。

何も言えなくなる。
何とかその人が不審に思われないよう
家が近いから大丈夫だと、使い終わたっら捨てていいと

それだけを何とか告げて

走り出していた。

17   vol 1

2012-11-05 22:48:43 | 日記
季節外れの転校生は


守ってあげたいと思わせるような儚さと


そしてとても美しい容姿をしていた。


噂では両親を事故で亡くしたため祖父母のいる


この町にきたとの事だった。




子供の頃から何度か遊びに来ていたこの町に
突然住むことになった。


それは突然起こった不幸な出来事に対し
それを非常に心配した祖父母が
高校を卒業するまではなんとか自分達の元に、
という強い思いがありそれを受け入れこの町にきたのだ。


それから数ヶ月。
その出来事のショックの大きさと
そして突然訪れた新しい環境、人間関係に
とにかく慣れる事に必死でその間の記憶はほとんど、ない。


だけど、ようやくその出来事を自分の中に受け入れ
そして学校にも慣れてきて
周りが見えてくるようになってきた頃
一人のクラスメートがいつもさりげなく
自分を助けてくれていることに気がついた。

それは最初、気のせいかもとか、思い過ごしかもと思った。
でも、それはそうではないと確信する出来事がいくつもあった。



その人は髪の毛を明るくし耳にピアスを開けていて
とても目立つ存在だった。
そして頭がとてもいい人で、いつも学年でトップを争っていた。
顔もよく、いかにもモテそうな風貌で女子からも人気があった。
その人を見かけるといつも違う女の子を連れていた。

その人とは特別話をしたりとかはなかったけど
なぜかいつも困っている時にその人がいて
助けてくれる、そんな不思議な存在だった。



ある日、寝坊をしてあわてて教室に駆け込むと
教室内には誰もおらず教室はシーンと静まり返っていた。
この時間って古文じゃなかったっけ?
そう思いながらしばらくボーゼンとしていると
後ろに人の気配を感じる。

振り向くと同じクラスのサクライ ショウ、
その人だった。
「ああ、びっくりした。」
誰もいないと思っていたのに急にその人が
現れたのでびっくりしながらも、そう話しかけると
その人は何も言わずただじっと顔を見つめる。

「…今の時間って確か古文だったよね?」
その人は黙ったままなので続けてそう言うと
「古文のセンコー急に休みになったから移動になった。こっち」
その人はぶっきらぼうにそれだけ言うとスタスタと
前を歩いていってしまった。
「あ、待って」
そう言って、その後ろを慌ててついていく。


追いかけながら、前を歩くその人の茶色く綺麗な髪の毛を見つめ
今まで誰がどうとか考えた事も考える余裕さえもなかったけど
この人はこんな風にいつも困っている時に何故か現れて
さりげなく助けてくれている、そう思った。

それは偶然なのかそうでないのかは分からなかったが
そのさりげない優しさにいつも感謝していた。


またある日の放課後、担任の頼まれ事で一人教室に残っていた。
そして夢中になってそれを仕上げ
担任に届けて、いざ帰ろうとしたら
雨が急に降りだしてきた。

その日はとても雨の降るような天気ではなかったので
傘などなくボーゼンと立ち尽くしていると
雨は徐々に激しくなっていく。

仕方ないこのまま帰ろう、そう思って
外に一歩出ようとしたところで
またどこからともなくその人が現れる。
「これ」
そう言って差し出された手には透明のビニール傘。
「え?…これ?」

どういう事かと戸惑って手が出せないでいると
「使っていいから。」
その人は何故か一本しか持っていない傘を無理やり掴ませる。

「…櫻井くんはどうするの?」
その言葉に一瞬驚いたような意外そうな顔をする。
「…?」
その思ってもみない反応に言葉が出ないでいると
「俺んちは近いから、それ使って。
捨てるつもりだったから返さなくていいから」
そう言い終わるか終わらないかのうちに
その人は雨の中を走って行ってしまった。

君が好き 2

2012-10-10 01:13:54 | 日記
初めてその場に訪れた時、その人を見本にダンスを踊りなさいと言われた。


だからダンスがとても上手な人なんだろうなと思った。


その時から自分にとって、その人は特別な存在だった。



日々一緒に過ごすたびに好きになっていくこの気持ち。
だけどそんな事伝えたら、その人が困るのはわかりきっているから
だから自分の中にだけにしまっておこうと思ってた。

でもこの惹かれていくこの思いは止まらない。

好きと伝えたらこの人はどんな反応を示すのだろう。
びっくりする?嫌われる?気持ち悪がられる?

きっと優しい人だから自分を傷つけない言葉を一生懸命探すだろう。
そして思い悩むだろう。
だからこの思いは出さずにいよう、そうずっと思ってた。

だけど、誰からも気に入られ好かれるその人を、
みんな確実に好きになっていく。
メンバーも決して例外ではなかった。

それは自分の気持ちとは違うものだったかもしれないけど、
自分の中にある醜い嫉妬心と独占欲が支配して、
たまらない気持ちになる。

そんな気持ちを知ってか知らずか
その人は屈託なく話しかけてくる。
その度にドキドキしたり悩んだり。

その人を見るたびにますます好きになっていく自分がいた。

そんな自分の気持ちがいつしか、どうしようもなくなってきた。
一緒にいればいるだけ好きになる。
苦しくて切なくてどうしようもない。

いつしか、その人をわざと避けてしまうようになった。

勘のいいその人は直ぐに避けられていることを察し、
自分に合わせて距離を保つようになった。
凄く悲しそうな表情をしながら。

傷つけているのはわかっていた。
だけどもう自分自身どうしようもなかった。
一緒にいればいるだけ好きになる。抑えがきかなくなる。
距離を置くしかなかった。

そんな日が何日も続きメンバーにもだんだん気づかれる。
喧嘩したのかと、何かあったのかと心配された。

そうじゃない。
自分が自分の気持ちに折り合いがつけられなくて一方的に避けているだけ。
だけどそんなことはメンバーにもどうしても言えなった。

その人はというと。
理由は分からないけど避けられていると言う事実を理解し距離を置いて
こちらの様子を伺っている感じだった。
そんな事をさせてしまう幼稚な自分が申し訳なかった。
こんな事をしていたら嫌われるだけということも分かっていた。


そんなある日の事、楽屋で二人きりになった。

いつもは離れてお互い様子を伺っているだけだったが
その人は何かを決意したように近づいてきた。
そして意を決したように
「俺、何か悪いことした?」
そう小さな声で、でもはっきりとそう言った。

この人は弱そうに見えるけど実は自分なんかより
よっぽど強い人だと改めて思った。

「……。」
本当は言いたいことや謝りたいことが山ほどあった。
それを言わせてしまったのは自分が未熟なせいだから。
智くんは何一つ悪くない。
そう思うだけで涙が出そうになる。

それはその人も同じようで
理不尽に避けられ多分人生の中でこんなことされたことが
ないだろうと思われるその人にとって、思い悩んだ日々だったのだろう。
涙が出そうなのをこらえているようにみえた。

「ごめん…。
大野くんは悪くない。」

涙を堪えながら何とかそう一言だけ言うのが精一杯だった。
そしてこのいつ誰か入って来るかわからない状況で
これ以上伝えるのは難しかった。

今日の上がり時間は同じだ。
終わってから二人きりで話したいと何とか伝えた。

納得のできない返事しかもらえず、
返事を引き伸ばされる形となり納得はできていないようだったが了承する。

それからは、収録中も上の空でどうしようかとずっとそれだけを考えていた。
言って困らせるだけのことを本当に伝えていいのかどうなのか。
相手を困らせるだけではないのかと。

でもこの状況が何も分からず戸惑っているばかりのその人を
苦しめるだけのような気もした。
















収録も終わりやっと解放される。
いつも使っている個室のある、ある場所に呼び出す。
その人は暗い顔で部屋に入ってきた。

何から話せばいいのかと頭をめぐらせる。
「あの、今までごめんなさい」
とりあえず謝らなくてはと思い謝った。

その人は涙を堪えながら
「何で…。何で、今まで……避けられてたの?」
言葉に詰まりながら何でかと問う。
当然だ。

「ごめん、大野くんは本当に悪くない…オレが…」
いざとなるとどうしてもその後の言葉が続かない。
「……うん」
その人は理不尽な扱いをされたにも関わらず言葉を待っててくれる。
その優しさに泣きそうになる。

「大野くんが……」
意を決し言おうとするがその後の言葉がやっぱりどうしても出ない。
それでもその人は静かに待ち続けてくれる。
「……うん?俺が?」
そして優しく問う。

「大野くんが……好きで…。
凄く好きで…それが辛くて…どうしようもなくて…」
何とか言った。
「……うん?」
顔を見れない。
ただ大野くんの優しい声だけが響く。

「…ごめん。…それでわざと避けてた」
そう言って涙が出てしまいそうなのを堪えながら何とか伝えた。
「……。」
暫く重い沈黙が続く。

「…え?……って事は俺、嫌われてたんじゃなかったの?」
ようやく理解したのかその人は安心したような、
そしてびっくりしたような感じでそう言った。

「嫌い?……いや…むしろ好きすぎて。
で…これ以上好きにならないようにしようと思って…」
もう思いをぶつけてしまおうと思った。

「え?何で好きだからって避けられたの?」
その人は納得ができないようでそう言った。
「…いや…だから好きって。気持ち悪いでしょう?だから…」
嫌われるのを覚悟でそう言った。

「そんな事ないよ」
思いがけずその人ははっきりと否定した。
「いや、大野くんの思ってる好きと多分違う好きだから。」
きっと誤解している。そう思った。

「好きに違う好きとかってあるの?」
不思議そうな顔をしてそう問う。
「いや…だって嬉しくないでしょ」
当たり前だ。自分からそんな言葉を聞いたって困るだけだ。

「そんな事ないよ。
ずっと嫌われたかと思ってたから。本当にどうしようかと思ってた」
その人は意味を分かっているのか分かっていないのか
そんな事を言う。

「いやそうじゃなくって、そういう意味じゃ」
その言葉を言い終わるか終わらないかの時に
頬に手を挟まれ唇にちゅっとされた。

「こういう好き?」
そう言って少し照れくさそうに笑う。
予想外の出来事にびっくりして言葉が出ない。
ただ呆然として頷いた。

「俺も翔くんのこと好きだよ。
だから…お願いだからもう避けないで。」
最後は泣きそうな声だった。
その言葉を聞いてどれだけ自分がその人を傷つけてしまったかと思った。

そしてそう言ったか言わないかのうちにその人の両手が伸びてきて
ふわっと抱きしめられた。