「ね、また俺にも絵描いてよ」
仕事を終えいつものようにリビングのソファで
まったりしている智くんにそう話しかける。
「えー? 翔くんにはハタチの誕生日の時に描いて贈ったじゃん」
智くんはソファに寝っ転がったまま不満そうに答えた。
確かに描いてもらったけど…。
でもアレって、俺の要素がないような?
名前は入っていたけど。
いや、貰ったのはもの凄く嬉しいし
今でも特別な宝物だし大切に飾っているけど。
「でも、かめに描いた絵はかめそっくりなんでしょ?」
後輩に贈った絵は何ヶ月もかけてその後輩の写真を
見ながら描いた絵だという。
後輩ソックリの大きな水彩画。
“自分にもそういう絵も描いて欲しい”
「まあね」
智くんはそう言って何でもない事のように答えた。
でもその絵を描いた時、何ヶ月もその彼の写真を見ながら描いていたから
しまいには彼女みたいな感覚になっていたと聞いている。
そういう状態も、そういう絵を描いてもらえるのも
何だか凄く羨ましいんですけど。
「俺にもそういう絵、描いて?」
そう思いながらおねだりしてみる。
「うーん。そのうちね」
こちらの気持ちを知ってか知らずか智くんはあっさりそう答える。
「さては、そう言って軽く流す気でしょ?」
智くんの考えていることは丸分かりなんだよね。
「……。」
智くんはびっくりして言葉が出ないって顔をする。
「ふふっ。何で分かったのって顔してる」
収録の時もそう言ってたし、何よりずっと一緒にいるから分かるんだよね〜。
「えへへ、まあね。」
……認めちゃってるし。
「でもほんと時間のある時でいいから。ね?」
まあ、いつになるか分からないけど
取り敢えずお願いだけはしておこうと思ってそう言っておいた。
「そう言えば、翔くんかめとデートしてたんだって?」
智くんは突然思い出したようにそう言う。
「え? ああ昔ね。大昔」
そう言えば同じ収録でそんな話もしたっけ、と思いながら答える。
「聞いてない」
智くんはちょっと怒ったようにそう言った。
「え? もしかして怒ってる? それって嫉妬…とか?」
嬉しくなってそう言うと
「する訳ないじゃん、バカじゃないの?」
そう言ってツーンと横を向いてしまう。
「じゃあ何で機嫌悪いの?」
ますます嬉しくなって調子に乗ってそう言うと
「悪くなんてねえよ。何言ってんの。もう二度と絵なんて描いてあげない」
そうな事を言い出すから慌てて謝った。
「翔くんキライ」
そう言ったかと思うと智くんはぐるりと身体を動かし
ソファの背もたれの方を向いてしまう。
「ごめんってば。お願いだからこっち向いて?
嫌いとか絵描かないなんて言わないで?」
肩に手をやってこちら側に戻そうとするが
背もたれにしがみついたまま動こうとしない。
「イヤッ」
「イヤッて。 ね、お願いだから機嫌直して? 何でもするから」
肩に手をかけたままそう言って謝ると智くんの身体がゆっくりと動いた。
「何でも?」
智くんは振り向くとニヤリと小悪魔のように笑う。
「いや、まあ」
「何でもって言ったよね?」
相変わらず小悪魔みたいな顔して嬉しそうにそう言った。
「言ったけど…、例えば何?」
「うーん。今はちょっと考えつかないや。考えとく」
覚悟しててねって顔をしたかと思ったら
顔がゆっくり近づいてきてちゅっと唇にキスをする。
顔を見ると智くんはえへへって感じで笑う。
“もう可愛すぎるから”
怒ってたんじゃなかったの?
そう思いながらその唇にキスをすると
その動きに合わせて軽く口が開かれる。
そのまま深い深いキスをする。
“やっぱりこの人にはかなわないや”
そう思いながら唇をゆっくり離すと目と目が合う。
そのまま角度を変えながら触れるだけのキスをする。
“まあ、絵を描いてもらえなくても、こうしていられるだけで十分か”
その綺麗な顔を見ると、ん?って顔をして真っ直ぐな目で見つめられる。
「智くん、好きだよ」
そう言ってその身体をぎゅっと抱きしめた。