yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

山 短編11 ショウサイドストーリー4

2015-09-29 15:29:30 | 短編





その人に向けて



手を振る。



その人の視線はまっすぐにこちらを見ている。



視線は間違いなく重なっている。



でも



その人はじっと見つめたまま、その手はピクリとも動かない。












「……」



あの時。



自分の事を知ってると答えた。


そして毎朝、二人の視線は嫌ってほど交差している。


気づいていないはずはない。


でも。


どんなに毎朝手を振っても


その人はニコリともせず、ただまっすぐな視線を


向けてくるだけ。







そして


そのまっすぐに向けられる視線に


どうしようもなく惹かれている自分がいた。








彼女に怪訝な顔をされながらも


手を振り返してはくれないその人に向けて


毎朝手を振る。




不思議な


それはとても不思議な感覚だった。





そうこうしているうちにその彼女とは


思いの比重が変わってきたことに気づかれてしまったのだろう


別れてしまった。







そしてその人とは
毎朝、登校時に出会うだけだった。
建物も別で登下校の時間も違う。


移動教室でも会わない。
学食でも会わない。
校庭でも学習室でも図書室でもあわない。


何度か用もないのにその人のいる教室の前を通った。
でも、いなかったり、いても誰かと一緒にいたり。


そう言えばいつも一緒にいるのは同じやつだ。


その人と同じ位の背格好の男。
多分その人のことが好きなんだろう。
そのクラスに行ってその人を探すと
必ずそいつが先に気づいて睨んでくる。


でも懲りずに文系側の建物を歩いていた。


そしてその日も。


その日はいろいろやることがあって遅くなってしまった。
廊下はシーンとしている。
もう誰もいないだろうな。
そう思いながらその教室の前を通った。


「……」


いた!


その人がいつもと同じ場所で窓から外を見ていた。


それに、珍しく一人だ。


めったにないこのチャンス。


どうしようかとその姿を見つめていたら、こちらを振り向いた。


「……」

「……」


視線が合う。
どうしよう?


こんなに毎日会いたくて
用もないのにうろうろしていたはずなのに。
いざそのチャンスが訪れると躊躇して何も言えない。
しかも毎日手ぇ振ってるのにシカトされちゃってるしな。


「やっと一人のとこに会えた」

「……」


そう思いながらも思い切って話しかけた。
その人が無言のまま何で?って顔で見つめてくる。


「いつも意味ないのに、この部屋の前通って狙ってたんだ」

「……狙ってた?」


正直にそう言うとその人が戸惑いの表情を浮かべた。
まあ当たり前だよね。
そんなこと言われたって意味わかんないよね。


「ふふっ意味わかんないって顔している」

「……」


そう思いながらそう言うと
その人が困ったような顔をして俯いた。


「……ね?」

「……」


そう言うと俯いていた顔をゆっくり上げる。
うつむいた顔も真正面に見える顔も、何だかとてもきれいだ。


「ずっとあなたのことが気になっていたんだ」

「……」


そう思いながら思い切って言うと
その人がびっくりしたような表情を浮かべる。


「なーんて言ったら困るよね?」

「……」


だからすぐにそう言って誤魔化して
ごめんと言ってその場を去った。









バカだバカだバカだ。 
何やってるんだろ?


バカだバカだバカだ
バカだバカだスキだ。


「……」


スキ?


好き?


そうだ。


あの人のことが、好きだ。


なんでどうしようもなく気になって仕方ないのか


わかった。














ゆっくり坂を上る


もう少し。


いつもの場所まで来ると視線をゆっくりあげる。


視線が重なった。


視線が重なったままゆっくり近づいていく。


ずっと視線は重なったままだ。


その人は、相変わらずニコリともせずただまっすぐな視線を向けてくる。






立ち止まってその人を見つめた。




間違いなく視線は重なっている。







その人の視線を感じたまま





その人に向けて







『好きだ』 と









そう、つぶやいた。















今、この状況の中で


ここを続けるのは内容的に少し厳しい気がしています。。


ただ、短編11は完成させアップします。







山 短編11 ショウサイドストーリー3

2015-09-09 18:18:44 | 短編






「櫻井」

「……」

「櫻井」

「はい?」

「もう終わったのかね?」

「あ~終わりました」

「じゃあ休んでいるとこ悪いが職員室に行って
資料をとってきてくれないか?」








この日は、授業に入る前に小テストがあった。


でもそのテストに出された範囲は自分の中で一番得意な分野で
すでに見直しまで終わりぼんやり考え事をしていた。


そこに目をつけられたのかなんなのか
先生が授業で使う資料を忘れたから
今から取って来いという。


って、冗談じゃねえよ。


めんどくせえよ。


しかも職員室って文系側じゃん。


反対側じゃん。


自分で忘れたもの位、自分でとってこいってんだよね。







……なんて、


言えるはずもなく


はいわかりました、と席を立った。










職員室は文系クラス側の建物にある。


文系クラスと自分たちがいる理数系クラスとは
部活などで一緒にならない限り
あまり交流がない。


移動教室などは共有だがすべて一階にあるため
なんとなくお互い移動の時は
一階を使って反対側の建物に移動するのが主だった。


でもその日は授業中だしと
2階の渡り廊下から渡って行くことにした。


もしかしたらあの人の姿が見えるかもしれない。


少しだけ、心の中で


そう思った。







いつもは下から見上げるだけの、その人の顔。


教室で勉強している姿はどんな感じだろう?


窓から外を眺める姿ではない


いつもとは違う、その姿。


ちょっとだけ、興味があった。


渡り廊下を抜け文系クラス側の廊下をゆっくり歩く。









いつもと違う風景。


ドキドキする。


もうすぐあの人のいるクラスだ。


左側の一番端のクラス。


「……」


って、静かだし。


誰もいねえ。


クラスの扉は両方とも開けられたままで


中はシーンとしていた。


移動教室だろうか?










「……!」


一人いた!


誰もいないと思ったその教室の中。


一人の人影が見えた。




あの後ろ姿。




間違えない。


いつも下からしか見たことがなかったけどわかる。


それがその人だと。


いつもその人が立ってる場所に
オオノ サトシ その人がいた。


って、また窓から外見てるし。
よっぽど好きなんだな。
そう思って、思わず笑いそうになった。


しばらくその姿を廊下から眺めていたが
一向に動く気配がない。


どうしよう?


このまま何もなかったように素通りする?


頭の中でぐるぐる考える。





いつも視線が合っていた。


その視線がなんなのかずっと気になっていた。


でもそう思っていたのは自分だけかも知れない。


もしかしたら実は違うところを見ていたって


可能性もある。


そんな思いが頭をよぎり


ドキドキが止まらない。







こんなこと初めて。


そう言えば自分から声をかけるって
今までなかった。


友達とはいつもどちらからともなく
自然に仲良くなっていったし
女の子に関して言えばいつも声をかけてもらうばかりで
自分から声をかけたことはなかった。





でも。


その真っ直ぐに向けられる視線。


その美しい顔。


その存在。


ずっと興味があった。






勇気を出してそっと教室の中に入る。


その人はこちらに気づく気配がない。


驚かせないように。


わざと歩く音を立ててゆっくり近づいていく。


絶対気づいているはずなのに。


その人の視線は窓の外に注がれたまま。








「……」


どうしよう?


このまま戻った方がいいのだろうか?


そんな事を思いながらどうしたらいいものかと


立ち止まって考えていると


その人が突然ぱっとこちらに振り向いた。





「……!」


目が合う。


その人はびっくりした表情を見せる。


当たり前だ。
授業の真っ最中に他のクラスの男がいたら
びっくりするだろう。


「ホントここから外眺めんの好きだね?」


そのまま驚いて呆然と立ち尽くしているその人に
思い切って話しかけ
そして怖がらせないようにそっと優しく微笑んだ。


って、怖がらせないっていうのも変だけど。


でも一度も話したことがないやつから
突然話しかけられたらびっくりするよね。
しかもこんな茶髪でピアスなんかしちゃってるし。


そう思いながらその人を見ると
その人はなんで?って顔をしたまま見つめてくる。
当たり前か。
ええと。こう言う時何て言えばいいんだっけ?


「いや、たまたま荻市に頼まれて通りがかったら
姿が見えたから。
って言っても俺のこと知らねえか」


どっちだ?


どうでる?


緊張で心臓が張り裂けそうな思いでその人を見ると
その人は首を横に振った。


その姿にほっと胸をなで下ろす。


「知ってた? 嬉しいよ。
俺も毎朝見かけてたからつい知ってる人の気分になっちゃってさ。
急に話しかけてごめん。じゃ」


そう思いながら一方的にその人に告げ
その場を去った。










緊張して自分自身なんて言ったか覚えていない。
ドキドキが止まらない。
でも話せたことがすごく嬉しくて
そしてその人の事を思い出すと
顔が、身体が、かっと熱くなる。


一方的に話しただけだけど
でも今も心臓がどきどきして止まらない。


そしてあの綺麗な顔。


びっくりした顔は可愛らしくて
ちょっと伏せがちにした顔は儚くて壊れそうで
守ってあげたくなる感じで。


って。


男の人相手なのにそんな事思うなんて
変かもしれない。








華奢な身体。


でも、それだけじゃない。


アクロバットが得意なだけあって


腕も身体もほどよく筋肉のついた


綺麗な身体をしていた。


それを思い出すだけで


自分の心臓はどうにかなってしまったのではないかと思うほど


ドキドキが止まらない。






そう言えば


声聞いていなかった。


でもまあいいや。


これから仲良くなれれば。


そう思いながら自分自身がどこか心が


ワクワクしているのを感じながら


職員室に向かった。






そして、その日から


普通の高校生活だと思っていた毎日が


普通の日常だと思っていた毎日が


自分の中で大きく


大きく


変わった事を感じていた。















ゆっくり坂を上がっていく。


もう少し。


そう思いながら


ゆっくり顔を上げる。


いつもの場所には


やっぱりその人がいて


視線が重なる。





思い切って


その人に向け





手を振った。










山 短編11 ショウサイドストーリー2

2015-09-01 17:10:01 | 短編





その人の名前はわりとすぐに判明した。


というか


自分だけが知らなかっただけで


この学校ではかなりの有名人だったらしい。




入学時より


やけに美形のヤツが文系にいると。


しかも芸術的な分野に優れていて


小、中学校時代は絵画や書道で何度も入選したことがあると。


そして運動神経も抜群で


中でも器械体操を得意としておりバク宙、バク転はおろか


体操部のヤツでも難しいとされる側宙ができると


もっぱらの噂だった。










って。


絵画で入賞?


書道? 


器械体操? っていうか側宙ってナニ?


絵画←幼少期に絵を習っていたがその成果は??


側宙←バク宙バク転どころか側転もかなり怪しい。


書道←字で褒められたことが一度たりともない。






しかも





有名人というだけあって


みんな登校時


窓際にその人が立っていることを知っていた。







「あれはオアシスだよな~」

「そうそう、ご褒美っていうかさ~」

「あの地獄坂を登りきった後にあの顔を見るとホッとすんだよな」

「俺なんて毎朝あの顔見たいがために頑張ってる」


皆口々に好き勝手な事を言っている。


……って。


オアシス? ご褒美?


なんだそれ?


っていうか、知らなかったのは自分だけ?


何だか微妙にショックなんですけど。


「櫻井はミナちゃんに夢中だったから」

「そうそう毎日仲良く通ってたしね~」

「あ、今はユナちゃんか」


もうどっちでもいいよ。
しかも全然夢中じゃねえし。
まぁその存在に気づいていなかったのは確かだけど。






「しかもあの遠くを眺めている姿がまたいいんだよね~」

「そうそう、真っ直ぐ遠くを見つめるだけの視線が
何だか妙に神々しいんだよね」

「そうなんだよねぇ。こちらには一切視線を向けないのがまた
孤高の人っぽいんだよね」

「……」


どういうこと?


遠くを見てるだけ?


一切こちらには視線を向けない?


でも確かに視線は間違いなく自身に向けられていた。


しかもそれ以前にもずっと視線は感じていた。


そして視線が重なった。









みんながまだワイワイ盛り上がっている中


ひとり


顔が、身体が、カッと熱くなるのを感じた。


そして


その日から


普通の毎日が


普通の何気ない


高校生活が





変わったのが



わかった。








電車を降りるとすぐに目の前には坂がある。
短い距離だけどかなり坂がキツイ。


登っていくとそれはだんだん緩やかな坂に変わり
後ろを振り向くと下には乗ってきた電車の線路、駅
その奥には国道、そしてその奥には海岸、そして海が見える。


海の奥には水平線が見えて空と繋がっている。
空はどこまでも青くて高台にあるせいか遮るものが何もなく
とてつもなく大きい。


その景色を見てふうと大きく息を吸った。
そしてまた視線を戻し緩やかになった坂を
ゆっくりと上がっていく。


そして視線をゆっくりと上げていくと
いつもの場所にはその人がいて、視線が重なった。
視線が合う。


お互いわかっているはずなのに
やあっと挨拶をするわけでもなく
にこっと笑い合うでもなく
ただ視線が重なり合ったまま
無言で見つめ合う。








その真っ直ぐに向けられる視線に


そしてその美しい顔に


夢中になった。






ゆっくりすすんでいます。

またまた短かったかな? すみません。

ちょっとずつでもアップしていいのか悩みます。