yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

12月24日誕生日 天然&山

2015-12-22 21:08:20 | 山 誕生日









すみません。またまた妄想が。
次回は元に戻ります。









楽屋に戻ると、なぜか二人がぎゅっと抱き合っていた。


「ちょっ、二人とも何してんの?」


楽屋の中には二人しかおらず
相葉ちゃんは、やべって表情で気まずそうな顔をして
智くんはえへへって顔をして、にこって笑った。


「何してたの?」


その笑った顔、可愛いんだけどね。
でも、ここは楽屋。誰に見られるかもわからない。
相葉ちゃんに問いただすようにそう言った。


「いや、だってさ。だってだよ」

「だって、ナニっ?」


イライラしているのが伝わったのか
相葉ちゃんは必死な顔で答える。


「だって翔ちゃんも見たでしょ、おおちゃんの企画」

「見たよ?」

「だったら、わかるでしょ?」

「イヤ、全然」


それとこれと一体どんな関係が?
二人が抱き合ってる意味が全然わかんない。








「全然って、翔ちゃんヒドイっ」

「ヒドイって」


そう思いながらそう言うとヒドイと言う。
やっぱり意味わかんない。
智くんを見ると、智くんは肩をくいっとあげた。


「そりゃあ世間的にはクリスマスかも知れないけど
もっと大事なことがあるでしょう?」

「もっと大事な事って?」


相葉ちゃんが必死な顔で、もっと大事なことがあると訴えてくる。


「もう、相葉さんのお誕生日でしょう?」

「知ってるよ」


相葉ちゃんはえへんって感じで言うけど
一体何年一緒にいると思ってんの?
しかも、自分で相葉さんのお誕生日とか言っちゃってるし。


「だったらここは相葉さんへのお誕生日企画でしょう?」

「……は?」

「だってだよ? 6月、ニノの誕生日です。
おおちゃんは、丹精込めて世界に一つしかないカップを作りました」

「ああ、そう言えば、そうだったね」


相葉ちゃんはそう言って嬉々と語りだした。


「8月、松潤の誕生日です。
おおちゃんは心を込めて世界に一つしかない帽子を作りました。
ですよね?」

「まぁね」


まったく。ですよね? とか言ってる場合じゃねえんだけど。


「12月です。相葉さんのお誕生日です。
ってきたら、何作ってくれたんだろうって思うでしょう?」

「まあ」


確かにニノの誕生日と松潤の誕生日ときたから
このまま相葉ちゃん、そして自分と何か来るのかなとは
思ってはいたけどね。









「そしたら、あんな企画ですよ」

「あんな企画て」

「だってさ、だってだよ? 翔ちゃんだったらどう?」

「どうって?」

「6月、8月、12月とお誕生日の企画があって
おおちゃんに世界で一つだけのものを作ってもらってるのに
翔ちゃんのだけなかったら?」

「そりゃあ、寂しいだろうけど……」

「そうでしょう?
だから、それをおおちゃんに訴えたら、
俺のせいじゃねえしとか言うし」


智くんは相葉ちゃんの話を聞きながらえへへって感じで笑っている。
もう、この人は。でもまあ確かに智くんのせいじゃないけどね。


「まあ、ね」

「そしたら、あの星の飾り物あげるっていうんだよ?」

「星の飾り物?」


って、あの紙で作った?
ちょっと笑いそうになった。
でも相葉ちゃんがきって目をして見てくるから笑いをこらえる。






「おおちゃんたら、ひどいでしょ?
だから星の飾り物なんてイヤって言ったら、
じゃあオレンジのキャンドルとスノードームも
つけてあげるなんて言うしさ」


相変わらず智くんはえへへって顔をして笑っている。
もう本当にこの人は。


「おっいいじゃん。世界に一つのもの」

「よくないでしょ~。
だったら、翔ちゃんにあの星の飾りとオレンジのキャンドルと
スノードームはお譲りしますからね」

「あ、いやそれはちょっと」

「ほらね? だから今日のところはハグで勘弁してあげるって言ったの」

「は?」


意味わかんねえ~。全然ほらね、じゃないし。
色々突っ込みどころが満載過ぎる。


「だっておおちゃんとハグすると、何だか幸せな気分になるんだもん」


そう思っていたら幸せな気分になれるとか言ってるし。
やっぱり意味わかんねえぇ。
けどそれを伝えたところで無駄な気がする。
相変わらず智くんは可愛らしく笑って見ているだけだし。


「とにかくこんな誰が入ってもおかしくない場所で
そんなことしちゃいけません。智くんも気を付けてよ」

「はぁい」


だから仕方なくそう言って二人に注意すると
智くんはにこって笑って返事をした。


可愛いんだけどね。








仕事が終わって久々にまったりと二人で過ごす時間。


「でもさ、ほんとにあのプレゼント企画二人で終わっちゃうのかな?」

「ん~わかんない」


ソファにもたれながらテレビを眺めつつ
ゆっくりとした時間が流れていく。


「そしたら俺も寂しいかも」

「そう?」


そういうと智くんはやっぱり意外そうな顔をする。
本当にこの人は。


「そりゃそうだよ。だってやっぱり智くんが作った世界で一つのものって貴重だもん」

「そんな事ねえよ」

「そんな事あるよ」


にのや松潤が世界で一つのものを作ってもらえてて
凄く羨ましく感じていた。
だから自分の時は何を作ってもらえるんだろうと
ひそかに期待していた。


そう思いながらその可愛らしい顔を見ると
んふふっと照れくさそうに笑う。
その顔を見つめながら絶対にディレクターさんに
お願いしようと心に決め不思議そうに見ている智くんの
その可愛らしい唇にちゅっとキスをした。
















智くんが、珍しくぎゅっと抱きついてくる


「どうしたの?」

「もし周りの人がみんな否定しても、俺は翔くんを支持するから」


顔をあげまっすぐな視線でそう言った。


「へ?」


突然何を言い出すのかとその顔を見つめる。
あっもしかしてあの発言での影響を気にしている?
全然平気なのにな。


でも。


でも、もしこれが自分ではなくほかのメンバーだったら。
自分ではなくメンバーが何か言われる事の方が自分には辛い気がする。
自分の事はいくら言われても平気なくせにね。
そう思いながら胸に顔をうずめぎゅっと抱きついてくる智くんを見つめた。


ああ、もしかしたら智くんも同じ気持ちなのかな?


「嬉しいよ、ありがと。俺も同じだよ」


そう思いながらぎゅっぎゅっと抱きついてくる
その身体を抱きしめ返す。
そう言えば相葉ちゃんがハグすると幸せな気分になるって言ってたな。


うん、確かに。


その身体を抱きしめると、そのほのかに香ってくる智くんの存在に
包まれて幸せな気分になってくる。


「わかってくれる人がいてくれたら、それだけで十分」


その言葉に顔を上にあげた。


「その中に智くんがいるなんて、最高」


そう言うと、その可愛らしい唇にちゅっとキスをした。
そしてその身体をぎゅっと抱きしめると
智くんもまたぎゅうぅと背中にまわしている手に力を込めた。




ALL or NOTHING Ver.1.02 7

2015-12-17 15:47:00 | ALL or NOTHING Ver.1







何で、この人と一緒にいるのだろう。



友達でも何でもないのに。



何で、この人と一緒に病院の待合室で待っているのだろう。



名前も知らない人なのに。






その人の顔を見ると、その人はふふっと優しく笑った。








高校に入った時、お父さんができた。







お父さんは、厳しいながらも優しく思いやりのある人で
3人慣れないながらもお互い協力し合いながら
それなりにうまくやっていた。




でも、世の中にはよくあることだ。



お父さんとお母さんとの間に赤ちゃんが生まれて、生活は一変した。









お父さんは、自動車メーカーに勤務し
ずっと東京近郊の勤務地を回っていたらしい。
でも、赤ちゃんが生まれたと同時に少し離れた場所に
勤務場所が変わった。


お母さんは、赤ちゃんが生まれたばかりという事もあって
一緒についていくことも考えていたようだったけど
東京に家を建てたばかりだったことや学校のことなどもあって
お父さん以外は東京に残る事になった。


そのためお父さんは、平日は会社の寮で暮らし
金曜日は早めに仕事を切り上げ夕方遅くに自宅に戻ってきて
日曜には寮に戻るという生活が始まった。











赤ちゃんは友梨佳と名づけられた。
友梨佳は目がくりくりとした可愛らしい赤ちゃんだった。
初婚であるお父さんの初めての自分の子供。
やっぱり自分の子供は格別なのだろう。


その友梨佳を見る眼差し
そしてお父さんとお母さんに包まれている友梨佳を見ていると
自分がそこにいるのが場違いな気がした。


3人だけの幸せ家族に見える。
3人を見ていると、自分だけ違うようで疎外感を感じた。


お父さんもお母さんも、自分に対する接し方が変わったわけではない。
だから被害妄想だと思われるかもしれない。
考え過ぎだと言われるかもしれない。


でも。


やっぱりその中で自分だけが違うと感じてしまう。
どうしてもその中に入っていく事ができない。








金曜日。


お父さんが帰ってくる日。


家族水入らずで過ごすその初日の日は
どうしても疎外感を強く感じて、その場にはいたくなかった。
何だかそこには、自分の居場所はないような気がした。


どうしたらいいのか悩んでいたら、相葉ちゃんが
自分の知り合いの店で過ごせばいいと言ってくれた。


その店は、未成年は入ってはいけない場所だったけど
相葉ちゃんの親の知り合いであるというその店のオーナーが
特別に許可してくれて、入れてもらえる事になった。


オーナーはなぜか、君は見栄えもするし
ダンスも上手だと聞いてるから、たまに踊って盛り上げてくれればいいから。
と、嘘とも冗談ともつかないような事を言って、料金も取らず入れてくれた。


そこは、音楽が常に鳴り響き、人も溢れんばかりにたくさんいて
自分にはにぎやか過ぎる場所だったけど
でも、家での自分の疎外感を思ったらここにいるのが
何十倍もましのような気がした。


ここでは自分の事なんて誰も気にしない。
その場のノリで踊って飲み物を飲んでおしゃべりをする。
それでよかった。


そして何よりも、お母さんさんもお父さんも何も言わなかった。
家族水入らずで過ごす時間。
いなくてかえって丁度いいと思われているのかなと思うと、悲しかった。


自分で避けているくせに何も言われないことが、寂しかった。
そして居場所はここしかないのかも知れないと思い
毎週のようにここに通い朝になると家に帰った。













そんな風に過ごしていたある日。
一人の視線を感じるようになった。
踊っていてもぼーっとフロアを眺めていても感じる
そのまっすぐに向けられる視線。


誰だろう?


ここは自由で誰が何をしても気にしない場所のはず。
そう思いながらその視線の先を見ると
一人の男性の姿があった。


端正な顔立ちのその男。
男の自分から見ても、かっこよくてモテそうな顔立ちをしている。
そのせいか、いつみても綺麗な女の人に話しかけられていた。


自分の事なんて見てなくていいから、話しかけられた女の人と
話したり踊ったりしていればいいのに。
そう思ったけど、その人はいつも女の人の誘いを
適当にあしらっている感じで、飲み物を飲みながらただこっちを見ていた。


じっと見つめてくる、その視線。


その大きな目で見つめられていると、未成年のくせに
何でここにいるのだと責められているような気がして嫌だった。


だからトイレで一緒になった時に何で見るのかと聞いた。
その人は高校生なのにいつもここにいるから
気になって見てしまうのだと言った。

















この日は、朝から体調が悪かった。
だるくて熱っぽくて、ふらふらした。


でも、家に帰ったらいつもいないくせにどうしているのかと
思われるんじゃないかとか
やっぱりお父さんが帰ってきたらその三人の姿に
疎外感を感じてしまうんじゃないかとか思って、家には帰らなかった。


頭がぼーっとしている。
身体はふらふらしていた。
ぼんやりとフロアを眺めると、相葉ちゃんが楽しそうに踊っていた。


暫くしたら、体調もよくなってくるだろう。
そう楽観的に考えていたら、体調はどんどん悪くなってくる。
ゾクゾクしてきて唇が震える。


何だこれ?


目が回る。どうしようもなく寒くて、そして気分が悪い。


どうしよう。


そう思った瞬間。


腕をつかまれた。


『……!』

『具合悪いんだろ?』


その掴まれた腕の先を見ると、その人だった。
身体中がゾクゾクして仕方がない。
どうしようもなく気分が悪くて、どうしようどうしようと
それだけしか頭になくて、答えられない。


ただ、その人が必死に相葉ちゃんに何か言ってるのが分かった。
そして二人がかりで抱えられ車に乗せられた。
寒くてどうしようもなくて身体がガタガタ震えていると
その人が自分の上着を脱ぎ、かぶせてくれた。


そして知らない場所で降り、知らない部屋に入り
知らないベッドに寝かされた。
寒くて身体がガタガタ震える。


その人が大丈夫だからと言って布団をかけてくれた。
その布団の温かさに何だかほっとした。
暫く寒気に襲われていると思ったら、
今度はなぜか身体が妙にカーッと熱くなってくる。


熱くて熱くてのどがカラカラに乾いて、もう限界だと目を開けた瞬間。
その人が、身体を支えて起き上がらせてくれて、水を飲ませてくれた。
水は冷たくて気持ちがよかった。
のどが潤い安心して、また目を閉じた。


でも、身体の熱はおさまらず何度か同じようにのどがカラカラに渇いて
目を覚ますと、その人がその都度起き上がらせて水を飲ませてくれた。
そのうち汗が出てきて着ていた服が汗で濡れてきた。


どうしようもなく気持ち悪くなって、重たい目を開ける。
そしたらその人が、その濡れた服を脱がせ
汗を拭き新しいシャツを着せてくれた。


「……」


なぜ、この人は自分のためにこんな事をしているのだろうと思った。














いつも一人だった。


小学校の低学年の頃から、風邪をひいても熱が出ても
学校を休んだ日は、いつも昼間は一人で過ごしていた。


お父さんが亡くなってからお母さんは
生活するために必死で働いていた。
仕事を休むわけにもいかず、いつも水や着替えやタオルを
枕元に置くと仕事に向かった。


でも、それは仕方がない事だってわかっていたし
休めないこともわかっていたから何とも思わなかった。
ただ、何度もごめんねと言いながら後を引かれる思いで仕事に行く
お母さんに申し訳ない気持ちしかなかった。


だから、一人でも大丈夫だからと。
ちゃんと薬も水も飲むし、汗をかいたら着替えるからと
そう言って、布団の中から仕事に行くお母さんを見送った。


そして、のどが渇くとだるい身体を起こし一人で水を飲んだ。
そして汗をかくと、その重い身体を起こし一人で着替えた。






悲しかったけど、それが、ずっと当たり前だった。






寂しかったけど、それが、ずっと普通の事だった。

































金曜日。


その場所に行くと、どこからともなく智が駆け寄ってきた。
もう、すっかり体調はいいみたいだな。
そう思いながらその顔を眺めていたら
智が、これと言って紙袋を差し出してきた。


「……?」


何だろうとその紙袋を見ると、その中には
綺麗に洗濯されアイロンがかけられた服と
箱に入った高級そうなお菓子。
診察時にかかったお金、そして商品券が入っていた。


どうすんだよこれ?


そう思いながら服以外は受け取れないと智に返そうとするが
智は俺が怒られるからと絶対に受け取らない。
途方にくれながらその紙袋を見つめた。









でも。


あんな状況でも帰れないってどういう家庭環境なのだと
陰惨な家庭状況を心配していたが少なくともこれを見る限りでは
ちゃんとした家庭環境で、しかも親子間にコミュニケーションが
あるっていう事かも知れないと、ちょっとほっとした自分もいた。


そして智を見ると、智が何か言いたげな顔をしている。


「……ん?」

「……あの、ありがとうございました」

「いえいえ。元気になられたみたいで、よかったです」

「……」


そう小さな声で智が言ったから、そう言葉を返した。
でも、智はまだ何か言いたげな顔をしてもじもじしている。


「……?」

「……あの名前、名前を聞いてなくて」

「ああ、名前? ショウだよ、サクライ ショウ」


さては親に名前でも聞かれたんだろうな。
そう思いながら、ついその姿に笑みが浮かぶ。
そのもじもじしながら聞いてくる姿が可愛かった。


でも、智の方は渡すものを渡し聞くことを聞いたら
満足したみたいで、じゃあと言ったかと思うと
さっさと走って行ってしまった。


その残された紙袋をぼんやりと見つめていたら
その一部始終を見ていた吉田さんが興味津々に近づいてきた。
ああ、先週も質問攻めにあって大変で、やっと逃れられたと思ったのに。


「吉田さん、あそこに綺麗な人がいますよ。
俺から声かけてきますから待ってて下さい」

「おっいいねぇ」


そう思いながら誤魔化すように言うと
吉田さんはそう言って笑った。









そして。






その時から







智が、変わった。





ALL or NOTHING Ver.1.02 6

2015-12-11 18:30:40 | ALL or NOTHING Ver.1





昔から面倒見がいいと言われていた。


それは多分もともとの性格もあるだろうし


3人兄弟の一番上という事も影響しているのかも知れない。







両親はとにかく忙しい人達で


学生時代は仕事でいない両親に代わって


よく妹や弟の面倒を見ていた。


そして弟が熱を出した時などは付きっきりで看病し


薬を飲ませ、水分を与え、氷枕を交換し


汗をかいたらタオルで拭いて着替えさせた。


そしてそれは学校でも変わる事はなく


成績表には、友達や下級生の面倒をよく見ていると


いつも書かれていた。








でも。



それは友人や家族。そして近しい人や下級生に対してだけで



まさか名前も知らない人の面倒をみる事になるなんて





夢にも思わなかった。












いや、違う。



あの少年だったからだ。



あれが智じゃなかったら、そんな事はしない。



絶対に、しない。












少年が


智が自分のベッドで眠っている。
その顔は色が白くまた鼻筋が通っていてとても綺麗だ。
そしてその柔らかそうな薄茶色の髪の毛がとてもよく似合っている。


そのすやすやと安心しきったような顔をして眠っている智の顔を見つめた。


汗をかいてすっきりしたのだろうか、穏やかな顔をしている。
熱も完全に下がったようだ。
このまま熱が上がったりしなければ、恐らくインフルエンザではなく
一過性のもので症状はこのまま落ち着くだろう。


そう思いながらその綺麗な顔を見続ける。


最初に見た時も綺麗な顔をしているなと思ったけど


その寝顔もまた綺麗だ。


頬は淡い薔薇色に姿を変えている。


思わず、その頬に手を伸ばしかけた。











でも、と


その伸ばした手を止める。


何だか触れてはいけないような気がして、その手を引っ込めた。


今までベッドに寝かしたり、身体を拭いたり


着替えさせたり散々触ってきたくせにな。


その前にも智の手を引っ張って歩いたこともあった。


そんな事を思いながら、何を今更、と自分自身の手を見つめ苦笑いをする。


でもそれもこれも無我夢中だからできた事だとも思う。





今はもう




その髪さえも触れる事はできない。




いつも見ていたその姿。




今はもう、触れる事なんてとてもできない。










ずっと見ていたその顔。


その少年が静かな寝息を立て、相変わらず安心しきったような顔で


すやすやと眠っている。







そして


その顔をいつまでも飽きることなく眺めていたが


いつしかその規則正しく奏でるその寝息に


深い深い眠りへと誘いこまれそのまま堕ちていった。















何かに触れられたような気がして目を覚ますと
智が困り果てた顔で見つめていた。
いつの間にか眠っていたらしい。


「……」

「……」


お互い無言のまま見つめあう。


「……」

「……!」


そして智が自分のベッドにいることに驚愕した。


自分でした事なのにな。
智を連れて帰って散々世話をしてきたくせに
なぜ今更驚愕しているのかと自分自身に苦笑いをする。


そして時計を見るとすでに3時を回ったところだった。
太陽は西へと傾き始めている。
智を一晩中看病していたせいかそのまま自分も一緒に寝てしまった。


「起きたんだ? 体調は大丈夫?」


そう智に話しかける。智は明らかに戸惑っていた。
まあ、起きたら自分の部屋ではないところにいたのだ。無理はない。
それでも智は戸惑いながら小さく大丈夫だと頷いた。
智の顔色は随分とよくなっている。


その顔をぼんやり眺めていたら
智は、ごめんなさいと小さな声で謝った。
意識は朦朧としていたようだったが、自分がされたことはわかっているのだろう。
どうしていいのかわからず泣きそうな顔をしていた。
そう言えば高校生だったな。


「いいんだよ。俺が勝手にやった事だし。
それよりもご両親に連絡しておいた方がいい。
きっと心配している」


「心配なんてしなぃ……」


そう言うと智はますます聞き取れないくらい小さな声で
心配なんてしないと首を振った。


心配しない?


こんな高熱まで出しても家に帰らない子供を心配しない
親なんているのだろうか。


でも家にいても寂しくて街に出てきてしまうという
子供がいるというのも聞いたことがある。
智ももしかしたら、そういう類なのだろうか。


だとしたらこんな状態で帰すのはかえって心配な気もする。
そんなこちらの思いをよそに智はもう大丈夫だから帰るといって
ベッドから起き上がり身支度を整え始めた。











「大丈夫?」


もう熱は下がったようだがあれからそんなに時間がたった訳でもない。
家がどこかもわからないし親が心配しないという言葉も気になった。
それでも智は大丈夫だと、頷く。


「そう。まぁインフルエンザじゃなかったらいいけど」

「……インフルエンザ?」


インフルエンザとの言葉に智の表情が変わった。


「インフルエンザって、インフルエンザ?」

「まぁ、多分もう熱も出てないみたいだから大丈夫だとは思うけど」

「……」


智が真剣な顔をしている。


「いや、丁度去年俺がインフルエンザになった時の症状と似てたから
ちょっと心配になってさ」

「インフルエンザって赤ちゃんにうつったら大変?」

「……?」


唐突に智がそんな事を聞いてくる。
なぜそこで、赤ちゃん? 意味わかんない。
そう思いながらも智の顔は必死だ。


「まあ赤ちゃんは抵抗力も弱いし重症化しやすいだろうから
インフルエンザがうつったら大変なんじゃない?」


そう言うと、智がどうしようと不安そうな顔をした。
あまりの不安げな様子にどうしたのかと智を見つめる。


「……うちに赤ちゃんがいるから」

「……は? 君の?」

「違う。母ちゃんの」


驚いて思わず智の事かと思い聞いたら
智がむっとした顔で違うと答える。


「ああ、びっくりした。お母さんのか。
それって妹か弟って事だよね? 随分年が離れているんだね」


そういうと智は俺は違うからと首を振った。
違うってどういうこと? 
意味がよくわからなかったが、智があまりにも不安そうに訴えてくるため
それ以上は聞く事ができなかった。


「そしたら近くに病院があるから調べて貰えばいいんじゃない?
そこ土曜だけど午後もやってるし」

「病院で調べればわかるの?」

「そう、鼻から綿棒みたいの入れて調べるんだけどすぐにわかるよ。
俺も去年インフルエンザになったとき調べて分かったんだ」


智が必死な顔で聞いてくるから簡単に説明した。
まあ確かに家に赤ちゃんがいたら不安だろう。
どうしようと智が悩んでいる。


「まあ、調べる時期が悪いと正しく出ない可能性もあるみたいなんだけど
でも心配だったら検査する価値はあるんじゃない?」


あまりにも心配そうな顔をしていたからそう言うと
これ以上迷惑をかけれないと思ったのだろう
やっぱりいいと首を振ってうつむいた。


「言ったろ君の事がほっとけないし、何かあったら手が出るって。
それに君のためにするのはなぜか嫌じゃないんだよ」


そう智に言った。
智は俯いていた顔をあげる。
そしてその言葉にまた嬉しそうな表情をしたような気がした。


「心配なら行って見よう?」


そう後押しするように言うと、智が小さく頷いた。




ALL or NOTHING Ver.1.02 5

2015-12-04 16:52:00 | ALL or NOTHING Ver.1







「櫻井は何が楽しくてここにきているんだろうね?」

「……はい?」

「いや、最初無理やりここに来させた俺が言うのもなんだけどさ
何か不思議だなぁって思って」

「……え?」

「女の子と楽しんでる訳でも、踊ってストレス発散させてるって訳でも
酒や音楽を満喫しているって訳でもないじゃん?」

「……」

「そもそもこういう場所好きじゃないっしょ?
それなのになんでいるんだろうなぁってさ。
それとも何か他に目的があんのかなぁって」

「……」



そう吉田さんは不思議そうに言うと、ふふっと笑った。











そう。




確かにこういう場所は好きじゃない。


大学時代に何回か来たこともあったけど


付き合いできただけだ。





でも今は



自分自身の意思で、ここにきている。



ここにくる人達とは違う目的で。





そう。



あの少年を見るために。









あれからもずっと少年の事を見ていた。


むっとした顔をされながらも


目が合うとぷいっと顔を背けられても。


その綺麗な顔。


ダンスを踊る姿。


話しているところ。


飲み物を飲んでいるところ。


ぼんやりしている姿。くつろいでいる姿。





嫌がられても


文句言いたそうな顔で見られても


ずっと見ていた。








だから、すぐに気が付いた。









少年のちょっとした異変。





「……」


って、我ながら重症だなと思う。


どれだけあの少年の事を見ているのかと。


そして、どれだけあの少年の事を気にしているのかと。


何だこの気持ち?


自分でもよくわからない。









でも。



いつもと違うその少年の様子。



それが無性に気になった。





顔がどことなく紅潮していて、いつもよりもぼーっとしているように見える。
そして、いつもより目が潤んでいるような気がする。


気のせいなのだろうか。
そんな事を思いながら見つめる


やっぱりおかしい。
あの感じ。


あいつ、もしかして熱があんじゃねえの?


何こんな時にまでここにきてんだよ。
別に楽しそうに過ごしているわけでもないのに
全く帰る気配もねえし。


そう思いながらその少年の事を見つめた。











「……」


間違えない、やっぱり熱があるみたいだ。
ふらふらしているし顔も赤くなってきている。


何で帰らねえんだよ、あいつ。


どう見ても楽しくてここにいたくてたまらないからいる
という感じでもないのに、ここにいる理由がどうしてもわからない。


かと言って熱があるみたいだから帰りなさいとも言えない。
少年の顔は知ってても所詮は他人。
友達でも仲間でもない。
まして名前さえも知らない。




でも。




あのほんのり紅潮しているその顔。
どうしても気になって、その姿が目に入る。


体調もあまり良くないのだろうか。
辛そうな表情をしている。
何でそんな思いまでしてここにいるのかやっぱり分からない。


前にここにいるべきじゃないといった時
何も知らないくせに、と少年は泣きそうな顔をしていた。


その事と何か関係があるのだろうか。









何も知らない女性たちが相変わらずひっきりなしに話しかけて
一緒に踊ろうと言ってくる。
でもとてもそんな気になんてなれない。


そして少年を見ると、やっぱり様子がおかしい。


おせっかいだと何だと言われても
こんなところにいないで早く家に帰った方がいいと
その腕をつかみ少年を説得したい衝動にかられる。


でも、そんな事を言ったところで反発し嫌われるだけだろう。
どうしようか。


その具合の悪そうな少年の事を見つめた。


いつもは遠くからそっと眺めるだけだったけど
だんだん具合が悪そうになっていく少年の姿に
いてもたってもいられず思わず近づいていった。


少年はいつもは、むっとした顔をして睨んで来るのに
今日はその元気もないようで自分の存在に気付いても
ぼんやりこちらを見ただけだった。


やっぱり具合が悪いのだろう。


近くにはいつもの高校生の友達も一緒にいた。







そうこうしているうちに少年の顔が見る見るうちに
悪くなってきて、唇の色が真っ青に変わっていくのが分かった。


やばい!


ふらふらしていて今にも倒れそうなその少年の腕を掴んだ。


「具合悪いんでしょ?」


そう少年に言った。
いつもだったらここで関係ないだのなんだの文句を言われるところだ。
でも返事はなく少年の顔を見ると、唇が紫色になってきて震えていた。


やばい。多分熱が出る前の兆候だ!


高校生の友達がどうしたのかと近寄ってきた。


「具合悪いみたいだ。早く家に帰らせた方がいい」


そう、その少年の友達に告げた。
でもその友達は、無理だと首を振る。


「何で?」

「おおちゃん、今家に帰れないと思います」


帰れない?
帰れないってどういうこと?
意味わかんない。


「でもこのままだと間違いなく熱が上がる。
一刻も早く布団に寝かせた方がいい」

「でも……」


少年の友達がどうしたらいいのかと戸惑っている。
そうこうしている時に少年の身体がガタガタ震え出し
寒いと言い出した。


「一刻も早く帰らせて寝かさないと。この子の連絡先は?」


そう聞くと、少年の友達は困った顔で知らないと首を振る。
どうしたらいいのだろうか。


「……うちに」

「……」

「取り敢えずうちで寝かせよう。
寒気がきているから早く布団で寝かしてあげないと」


とっさにそう口走った。


少年の友達が、でも、と悩んでいる。


確かに知人でもない自分のところに来るのは不安だろう。
でもこのままここにいさせるわけにもいかない。
少年の唇は真っ青だ。


「心配だったら君もうちに来たらいい。
ここから駅2つ分だからそんなに遠くはない。このままタクシーで行こう」

「でも……」


明らかに戸惑っている様子だった。
まあそうなるのは仕方がない。でもそんな事を言っている暇はなかった。
少年の顔が真っ青になり全身に震えがきていた。


「どうする?
この子の家にも君の所に連れていくわけにもいかないんだろう?
この子とはちょっとした顔見知りだから心配しなくていい。
悪いようにはしない」


そう少年の友達に告げた。


何の事情があるのかはわからないが
この子は家に帰れないという。


そして友達もここにいるってことは
その子の家に行くって訳にもいかないって事なんだろう。
もう自分の家に連れていくしかない。そう思った。


少年の友達は少年の様子を見て、自分ではどうすることもできないと分かったのだろう。
わかりました一緒に行きますと言って、荷物を取りに走っていった。












すぐにタクシーを捕まえ家へと向かう。


少年は寒い寒いと震えている。
多分これからどんどん熱が上がってくるのだろう。
上着を脱ぎ少年にかぶせ一刻も早く家にと願う。


少年の友達も心配そうに見守っている。



「……」



それにしても。


この時期のこの症状。
もしかしたらインフルエンザか?
自分自身一昨年の丁度この時期にインフルエンザにかかり
大変な目にあった事を思い出す。


あの時、最初はぼーっとして身体が熱いなっと思っていたのに
だんだん寒くなってきてしまいにはガタガタ震えが来て
そのあとに40度くらいまで熱が上がった。
熱だけならまだしも頭痛と身体の節々の痛みで辛い思いをした。


薬を飲んで症状は楽になったけど2日間高熱が続いて
しんどかった事を覚えている。


インフルじゃなければいいが。


そう願いながらも、こんな状態でも家に帰ることができないなんて
どういうことなんだろうかと考える。


そして、もし自分が気付かなかったらこの少年は
一体どうなっていたのだろうとも思った。










部屋に着くとすぐに少年をベッドに寝かせた。
寒い寒いと訴えてくるから暖房をつけ布団を2重にかける。
友達も心配そうに様子をうかがっている。


身体はどんなに暖房をつけても布団をかぶせてもガタガタ震えている。
本当は家にいた方がどんなにか安心して眠れるだろうに
そう思うとその少年が不憫に思えた。


その苦しそうに眠る少年の顔を見つめた。


相変わらず綺麗な顔をしているが身体が辛いのだろう。
少年は苦悶の表情を浮かべている。


まだ高校生。
親が必要な時期だ。
なのに家に帰れないってどんな事情があるっていうのだろう。


辛そうにベッドに寝ている少年の顔を見つめた。








しばらくして身体の震えがおさまってきたと思ったら
今度は少年の顔がどんどん紅潮してきた。


ああ、熱が上がるんだな。


そう自身の経験からわかった。
この後ガンガンに高い熱が出て身体中が痛くなって
しんどくなってくるはずだ。
汗もたくさんかくし体力も消耗する。


どうしよう。


取り敢えず水分だけはマメに取らせて、着替えとタオルを準備しておくか。


両親にも連絡をしておいた方がいいのだろうが
少年の友達もわからないというし
症状が落ち着いたら本人に聞くしかない。






って名前も知らない高校生相手に何やってるんだろうな。


少年や少年の友達まで家に連れてきて。
ベッドに寝かせて。
着替えやタオルを準備して。
こうして看病までしている。


名前さえ知らない少年に。


自分でもその行動におかしくなってきた。


少年の友達を見ると、疲れたのかベッドの横で寝てしまっている。
まだ高校生だもんな。


そう思いながらその身体の上にブランケットをかけ
ふっとため息をついた。









朝になると少年の友達は帰らなくてはいけないと言って
智の事よろしくお願いしますと帰って行った。


この少年、智って言うんだな。


その時初めて名前が分かった。


残された少年と二人。
少年は、あの後2回大汗をかいたので
その都度身体を拭き着替えさせた。


今はすうすうと安心したように寝息を立て眠っている。
たくさん汗をかいたせいか熱は落ち着いてきたようだ。


インフルじゃなかったのだろうか。
このまま熱が落ち着いていればよいけど。
そう思いながらその寝顔を見つめた。









って本当に自分は何しているんだろうかと思う。


あの時、今にも倒れそうな少年を二人がかりで抱え
吉田さんに先に帰るからよろしくと告げ
そしてタクシーをつかまえ必死に二人で部屋まで運んだ。


そして上着を脱がしベッドに寝かしつけた。
少年はよっぽど体調が悪く、また意識も朦朧としていたのだろう
言われるがままにベッドに横になった。


布団を2重にかけ暖房をつけ時々目が覚めると水飲ませた。
そして大汗をかくと着ていた服を脱がしその身体を拭き
そして新しいシャツに着替えさせた。


弟がいたので慣れない事ではなかったが
とにかく無我夢中だった。










そして、今。


やっと我に返る。


「……!」


あの少年が自分のベッドに寝ている!


自分でやった事とはいえ、とても信じられない。


いつも見ていた少年がここにいて


自分のベッドですやすや眠っている。


ただ早く寝かせなければと


それだけの思いで必死だったとはいえ










あの少年が





智が








自分のベッドで眠っている。


ALL or NOTHING Ver.1.02 4

2015-12-01 17:24:00 | ALL or NOTHING Ver.1








少年へと手を差し出し



その顔を見つめた。



胸が高鳴り、ドキドキがとまらない。



至近距離で見るその綺麗な顔。



そのまっすぐ見つめられる視線に



また



ドキドキした。









その時間はほんの数秒だったのかも知れない。
けどその時間はとてつもなく長く感じられた。


少年は無言のままこちらを見る。
その意図は全く読めない。



ただ。



その向けられる顔は美しく
綺麗な男の顔を好む人だったら間違いなく惹かれるだろうと
そう思いながらその顔を見つめる。


そして


その美しい少年の顔を見ながら大丈夫だと、頷いた。
それを少年がどう捉えたかはわからない。


でも、その瞬間。
少年の手が、ゆっくりと動いた。


「……!」


こちらに向かって手を差し出してくるのが見えた瞬間。
心の中でガッツポーズをした。


そして、すぐにその少年の手を取りぎゅっと握りしめた。


「じゃあ、そういう事なんで失礼」


あっけにとられているその男にそう告げると
少年の手を握ったまま引っ張るように
その場から連れ出した。






握りしめた少年のその手のぬくもりを感じながら
胸はドキドキしていた。


高校生相手に


少年相手に


なぜか


心臓は


ずっと


ずっとドキドキしていた。











人込みをかき分け静かな場所に辿り着くと
ようやくその手を放す。


そしてその少年の顔を見た。


「……」

「……」


お互い無言のまま見つめあう。


「……」

「俺、親戚の子じゃねえけど」


そして少年は親戚の子じゃねえけどと言って
おかしそうにクスクス笑った。


あ、笑った。


その笑顔を見てなぜか嬉しくなった。
こんな状況の中で、ほんの少しだけ
少年が笑っただけなのになぜだか無性に嬉しい。










「まあね。でもあの時はそれしか思いつかなかったんだよ」

「しかも見ないでって言ったのに見てるし」


そして安心したのか少年はそう文句を言ってくる。


さっきまで不安そうな顔をしてたくせに。
そう思いながらもその少年の高校生らしい言動に
つい笑みが浮かんだ。


「危ないからつい見ちゃうんだよ」

「……危ない?」


少年にそう言うと少年は不思議そうな顔をする。


「そうだよ、現に今だって危なかったでしょ。
男だとはいえそういう趣味の人もいるんだから」

「……そういう趣味?」


しかも、全然わかってない。


「そう。男だけど男がいいとかさ。
だから男だからって安心できないんだよ」

「でも、俺は違うもん」


違うもんって。
くそっ。
こんな状況の時に可愛すぎるだろ。


「君は違うかもしれないけど、相手はそうなの」

「断言してるし」


そう思いながらも、クスクス可愛らしく笑う少年を見て
やっぱり可愛いじゃねえかと思ってしまう。


でも、困った事に自分の置かれている立場を全然わかってない。


笑った顔は可愛いんだけどね。


そのあまりにも危機感がなさ過ぎる様子に
無邪気に笑う姿が見れて嬉しかったはずなのに
かえって心配になってくる。











「世の中には色々な大人がいるんだよ。いい大人も悪い大人も」

「……」

「だからこういう場所は特に、何も知らない君みたいな子が来ると危険なんだ」

「……俺、別に平気だけど」

「平気じゃないでしょ。さっきだって泣きそうな顔してたくせに」

「してねえよ」


多分少年は人間の本当の怖さをまだわかっていない。
少年は平気だと言っているけど
それはまだ世の中をわかっていないせいだ。


「だから俺は君の事ほっとけない。
多分これからもどんなに君が嫌がったとしても
俺は君の事を見てしまうと思うし
こういう事があったら手が出てしまうと思う」

「……変なの」


そういうと少年は変なのと言って
少し嬉しそうに笑ったような気がした。







でも。




それは一瞬で。




「とにかく君みたいな子が、いつまでもこんな場所に
こんな時間までいてはいけないんだよ」

「……」


その言葉に穏やかに笑っていた少年の表情が一変した。


「……?」

「何も知らないくせに!
ちょっと助けたからっていい気になって説教なんてしないでよね」


そう言うと走って行ってしまった。


その後ろ姿をぼんやりと眺めながら
また嫌われてしまったと
そう思いながらその姿を見つめた。










でも。


放っておけないといった時。
変なの、と言って少し嬉しそうな表情を見た気がしたが
それも気のせいだったのだろうか。


「……」


自分も数年前まで高校生だったが
少年の心の中が全くわからない。





ただ。


手を伸ばしてくれた時、頼ってくれたんだと思って
すごく嬉しかったんだけどな。


そして手を握って歩いていた時は
他の誰と手を繋いだ時よりもなぜかドキドキして
胸が苦しいくらいだった。


「……」


って、何でだ?


自分でもよくわからない。


ただ、高校生のくせにここに毎週のように出入りしている
あの少年の事が気になる。


そう。



それだけだ。





でも。






『何も知らないくせに』



その言葉を言った時の少年の表情が気になった。
少年は怒った顔とは裏腹にとても悲しい目だった。
凄く寂しそうで一瞬泣いてしまうのではと思い焦った。


あの時代特有の親の存在のうざったさとかで
家に帰りたくないだけだと思っていたが違ったのか。







『何も知らないくせに』



少年はそう言った。



確かに少年の事は何も知らない。



そう。



名前さえも。



ただ高校生である事。



そして高校生のくせに毎週のようにここにきている事。



それだけしか





少年の事は、知らない。















あれから。



変わらず少年は毎週のようにここにきている。



そして目が合うと、むっとした顔で睨んできて



ぷいっと目をそらされる。



それでも懲りずに



その綺麗な顔。



そして美しいダンスを踊る姿。



踊っている時のしなやかなで綺麗な身体。



そして退屈そうにフロアをぼんやり眺めている姿。



いつもの友達や話しかけられた女の子達と雑談している姿。





そんな姿を







ずっと








ずっと見ていた。