あの人に会いたくて、何度も通う。
街でもその姿を追い求める。
“重症だな”
自分自身に苦笑いした。
でもそう簡単に会えるはずもなく、もう無理だと諦めかけていた
その時。
一目だけでも、という思いは
思いがけない形で実現する。
それは雑誌だった。
たまたま会社の隣のデスクのやつが
雑誌を開きっぱなしにして休憩に行ったので
何気なくその雑誌に目をやるとあの人が写っていたのだ。
「……」
「どうかした?」
あまりの衝撃に絶句していると
戻ってきた同僚が不思議そうに話し掛けてくる。
「……これ」
「ああ、最近よくテレビに出てくるようになったよね〜」
何とか声を絞り出すと
何も知らない同僚はそう言って笑う。
テレビ?
芸能人?
だからあんなに綺麗で惹きつけるものを持っていたのか。
信じられないという気持ちと納得する気持ちが交差する。
「どうかした?」
あまりにも呆然としていたせいか
同僚が心配そうに聞いてきた。
「……いや、何でもない」
でもそう答えるのが精一杯だった。
その日は同僚の誘いも断りすぐに家に帰った。
あの人のことが知りたい。
今すぐ知りたい。
どんな小さなことでもいいから知りたい。
片っ端からネットで情報を集めた。
そしてその人がオオノ サトシという名前である事。
自分よりも随分年下に感じていたが実際は一つ年上な事。
そして大手芸能事務所に14歳から入所している事。
歌手、そして俳優として活躍していることを知った。
“アイドルだったんだ”
確かに最近はニュース位しか見ない日々が続いていて
芸能関係に疎くなってたがまさか芸能人だったとは。
気がつかない、気にも留めてないって事は恐ろしい事だと思う。
これだけ街でも家でも情報が溢れかえっているのに全然気が付かなかった。
せっかく出会えたと思ったのにまさか芸能人だったなんて。
その人の事が分かった嬉しさと、その現実に落胆で目の前が真っ暗になった。
テレビで見るその人は実物で見かけた彼と同じように
ほんわかした雰囲気を持っていた。
そしてその人が出しているコンサートDVDを買いまくった。
そして改めて見るその人の存在感に衝撃を受ける。
とても同じ人間とは思えない動き、ダンス。
そして透き通るような綺麗な声。
“才能の塊じゃないか”
あのお墓で出会った時も打ち抜かれたが
DVDを見た時の衝撃はそれ以上だった。
その圧倒的な美しさ、しなやかな身体、そしてダンス。
どれをとってもアイドルという枠から外れている。
そしてダンスや歌ばかりではなく
俳優としても活躍する彼はまさに役者そのものだった。
役を完璧に掴んでいて別人になりきっている。
そして絵などの芸術的才能もあるようで個展を開いたこともあるという。
どれだけ才能を持ってるんだろう。
そんな事を思いながら毎晩その人のDVDを見つめた。
“とんでもない人だったんだな”
そうビール片手に独り言のように呟いた。
その日から毎日テレビやラジオの出演番組のチェックをしてDVDの予約をして、
その人の載っている雑誌を購入して、コンサートDVDや主演作品のドラマのDVDを見てと
すっかりファンの一人として日常生活を送るようになった。
そしていつかその人とまた偶然出会えるかもしれないと
少しだけ期待しながら今までほとんどしなかった
お墓参りに暇さえあれば通った。
そして、ある雨の日。
そこにその人がいた。