yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

いつか 【特別な日】

2017-10-09 09:57:00 | いつか







今日は、特別な日。





鐘の音が鳴る。



会場中に響いていた高い歓声が一気にシンと静まり返り
静寂の中へと包み込まれていく。


そして。


その人が光の中から現れた瞬間。


全身に鳥肌が立つのが分かった。


そこにいる人すべてがペンライトを振る事も声を出すことも忘れ、
見入り、そして聞き入りその世界へと入っていく。


それは考えられない位の高速の動きを魅せるダンス。


そしてあのダンスをしながらのCD音源とはまた違う歌声。
という事はまさかあの動きをしながら歌っているという事か。


重心を低く保っていて決して軸がぶれる事のないそのダンス。
あれだけのターンをしても、ジャンプをしても
上半身も下半身も一定を保ったまま。


一つのダンスにどれだけのステップに加え
身体中のありとあらゆる動きが入り込んでいるのか。
そしてあれだけの高速のステップを踏みながらも
手や足の先まで神経が行き届いている美しいダンス。


なぜあんな高速の動きをしながら歌い踊る事ができるのか。
声量もあるのだろうか。訓練をしてきているのもだろうか。
高音で響き渡る歌声は澄んでいてとてもあのダンスを踊りながら
歌っているとは思えない。


そしていつも見せる顔とはまた違う、色気と艶やかさを含んだ綺麗な顔。
CDを聞いていた時だけでは想像できなかった、その美しくも激しいダンス。
照明だけの演出がかえって、効果的でかつ神々しく見えるほどの神秘的なその姿。


ダンスの事は知らないけど、どれほど凄いダンスを踊っているのかわかる。
歌の事はわからないけど、あれだけのダンスをしながらも
音程に乱れがなく高音をのびやかに、そして
切なく情感込めて歌い上げているのかが分かる。


凄い、凄すぎる。


もう完全にアイドルという枠を超えている。






そして。


その振り付け全てを自分でしているというその驚くべきダンス。
どこでカウントを取ってどのリズムからそのダンスが生まれるのか、
もはやわからない。


そのセンスと才能。


やっぱり天才だと思う。




そして。




驚くべき事に、




彼の背中には羽が生えているらしかった。




それはムービングステージというのだろうか。
透明の動くステージがだんだんと自分に近づいてくる。
智のマイクを通さない歌声が聞こえる。
それをドキドキしながら見つめる。


確かにその人はそこにいる。


ゆっくりと自分の真上を通り過ぎる。
その人の踊っている姿が真下から見える。
それなのに不思議な事にその人の足音がしない。


他のバックダンサーの子達がダンスをしている時は確かにする足音。
でもあれだけのダンスを魅せながら。
高速のステップ、ターン、高いジャンプのあるダンスをしているにも拘らず
智の時は音がしない。


それは、まるで無重力のダンス。


そう。


彼の背中には見えない羽が生えている。







そして。



智が真上を通り過ぎる時。



俺の存在に気付いた智が、その美しい顔でふっと笑った。






そして、その瞬間。




周りの女の子たちが、キャーと高い歓声を上げた。











家に帰ってからも一人、酒を飲みながら夢心地だった。
ふわふわしていていつまでもいつまでも
現実世界には戻ってこれないような、そんな状態。


それはコンサート映像をテレビ画面で見ていた世界とはまるで違う。


智の魅せる圧倒的なステージ。
そして何万といる観客の歓声。
こんな世界があっただなんて知らなかった。
こんなにも素晴らしい世界があっただなんて知らなかった。


智のステージが終わった後も
いつまでもいつまでもその胸の高鳴りは残っていて
自分自身を高揚させる。


初めて見た智のステージ。


そして智という存在。


今夜は興奮してとても眠られそうもない。






そう思っていたのに。



そんな状態だったのに。



今。



俺の前には智がいる。
会いに来ちゃったと言って無邪気に笑っている智がいる。


あの智が。


さっきまであれだけの大きなステージで見事なパフォーマンスを披露し
何万といるファンの子達を魅了し離さなかった智が目の前にいる。


とても信じられない。


確かに智はこの家よりも何倍もいい所に住んでいるにもかかわらず
この家がなぜか好きらしく何度も遊びに来ていた。


でもこのタイミングで。


この瞬間に。


あの智が。


何という状況。


まだ身体の中にも頭の中にも、智のステージの余韻が残っていて
胸はドキドキして収まる気配を知らないのに。


それなのに。


アリーナに翔くんがいてびっくりしたぁと言いながら
ニコッと笑って抱きついてくる智がいる。


あの智が。


自分の胸に顔をうずめぎゅっと抱きついてくる。
その状態にどうしていいのかわからずただ立ち尽くしていると
智がどうしたのって顔をして見上げた。


何という現実。


考えられない位の才能と人気を目の当たりにしてきた自分に。
まだ現実世界に戻ってこれず夢か幻を見ているような気分でいる自分に
何の躊躇いもなく抱きつき真っ直ぐな視線で見つめてくる。


あの智が。


何という恍惚。








そんな状況の中。


智は、もう、来てるなら来てるって言ってよね~びっくりしちゃったじゃん
なんて言いながら可愛らしく口を膨らましている。


「……」


夢の世界なのか現実の世界なのか、もはやわからない。


さっきまでステージで見ていた智が
今、目の前にいて一緒に酒を飲んでいる。


今まで何度も一緒に過ごしてきたけど、今日は特別。


緊張して何を話していいのかも
どうふるまったらいいのかもわからない。


目の前の智の後ろには何万といるファンの姿とペンライトが見える。
智の手を見ると指の先まで神経の行き届いた美しいダンスを思い出す。


耳を澄ますと先ほどまで聞いていた智の透き通るような歌声と
ファンの子の歓声が聞こえる。
智の顔を見るとキラキラしたステージが見える。


やっぱり、無理。







そう、思っていたのに。


「今日の翔くん、ヘン」


と言って、いい感じに酔った智がじっと見つめてきたかと思ったら
俺の両肩に手をおいて押し倒してくる。


顔の上にはあの時と同じ智の顔。


あの智が。


息をすることさえ忘れ、ただ見つめる事しかできない。
智がふっと笑って、ゆっくりと身体を傾け俺の額にちゅっとキスを落とす。
そこから身体中に電流が走るのが分かった。


でも智は気にする事なくそのまま頬に、首に、鎖骨、指先にとキスを落としていく。
もう、身体も心も智に完全に支配されたまま。
ただ、受け入れる。


身体中が痺れている。


智は一通りキスをすると、またじっと見つめてくる。
でも何もできず、何と言っていいのかわからず口をパクパクさせていると
じっと見つめていた智が妖艶な顔でまたふっと笑った。


そしてゆっくりと身体をまた傾けてきて、今度は唇にチュッとキスを落とした。


もう何も考えられない。
考えることができない。


だからもう、俺は考える事を放棄した。


目の前には愛すべき美しい人がいる。


芸能人だとか、ファンの子とか、大きな舞台とか、
背中に羽が生えてるとか関係ない。
一人の自分の愛する人がここにいる。


そう思いながら身体を反転し智を下に押し倒す。
目が合うと智が嬉しそうにくすっと笑った。
その顔に、好きだと言ってキスをする。


もう何も考えられない。
だからもう何も考えない。


智の腕が背中に回ってくる。
身体中にまた電流が走ったのがわかった。
そしてそのままお互い求めあうようにきつく抱きしめあう。


唇を重ねると智の唇が小さく開く。


あの智と。


何という現実。


何という恍惚。


その状態にめまいを覚えながら、
その中に舌を差し入れると深く角度を変え何度も抱き合いキスをした。










ベッドの中。


背中を向けている智の肩甲骨を指でなぞると智がなあにって顔で振り向いた。


「いや、どこに羽が生えてんのかなって」


そう言うと智は生えてるわけないじゃんって顔をしてくすっと笑って
そのまま身体をこちら側に向けた。


「今日の翔くんやっぱり、ヘン」


そして、そう言ってまたくすくす笑った。





智はきっと気付いていない。


今回初めて目の当たりにしてどれだけ圧倒され
そしてどれだけの才能を感じさせられたか。


多分それはあれだけのステージを魅せておきながら
自分では大したことではないと思っているのもあるのだろう。
そしてあれだけの才能を魅せておきながらも
まだまだだと思っている部分もあるのだろう。


あの圧巻で圧倒的なステージは智が何年も積み重ねてきた
努力の集大成のはずなのに、それを感じさせない智。


でもそういう謙虚で自然体の智がやっぱり好きなんだと思う。




そして智はきっと知らない。


初めて参戦した智のコンサートは、
自分にとって一生忘れない特別な日となったことを。


そしてそんな日に。


智と会ってこうして一緒に過ごしていることが
どれだけ自分にとってとても大きな出来事で、
特別な日となったかということを。







「愛している」と言うと、智が嬉しそうに小さくうなずく。




そしてその華奢な身体を抱きしめ、またその唇にちゅっとキスをする。




そう。




これは特別な時間。




そして今日は、特別な日。


いつか part10 完

2017-08-21 21:27:50 | いつか









「うわー懐かしい。凄い昔の雑誌まである」


智は何だか嬉しそうだ。


そして俺はというと。
心臓が今にも飛び出してしまうのではないかと思うほど
凄くドキドキしている。


「うん、ブックオフでね」


雑誌に写っている本人が。
その人が雑誌を見ながら話をしている。


「ブックオフ?」


智が何それ?って顔をする。
可愛いんだけどね。


でも何だか本人を目の前にしてやっぱり恥ずかしさを隠せない。


「うん。今は売ってない昔の雑誌とかも置いてあってね…」


智の事を知りたくて来る日も来る日もあちこちの古本屋を巡っていた。


「ふうん」


そんな事を知らない智は、懐かしそうに昔の雑誌を見ている。








そして。








雑誌をぱらぱらと見ていた智の手が


ある1ページで止まった。





それは二宮さんと二人で楽しそうに写っているページだった。





一瞬、泣きそうな顔になって


でも、


ふと我に返って、慌てて俺に何でもないと笑顔を見せる。


「うわあ、CDやDVDもたくさんある」


そして誤魔化すようにそう言った。


「うん、それもさ通常版は手にいられても限定版とかはなかなか手に入れられないんだよね」

「そうなの?」

「そう。でもそれにしか入ってない曲とかもあってさ、
だからどうしても手に入れたくてヤフオクで落としたりして…」


だから気付かなかったふりをして話をする。








「ヤフオク?」

「うん」


プレミアがついちゃって、もの凄い世界になっちゃってる事を
智は当事者なのに知らないんだろうなぁと思いながら
それを手に入れた日の事を思い出す。


「うわっうちわもある」

「ああそれもね色々と手を尽くしてね。何か他のグッズとかも毎回違うんだね…」


今までアイドルとかに興味なかったから全然知らない世界だったけど
本当に凄い世界なんだね…。
これを手に入れるのにどれだけの苦労したか。
しかも不思議と色々欲しくなって止まらなくなる恐ろしい世界だし…。


「何だか俺のめちゃめちゃファンの人みたい」


そんな事を思っていたら智がそう言っておかしそうにくすくす笑った。


「うん、多分重症」

「んふふっ」

「ひいたでしょ?」

「ううんひかない。びっくりしたけど」


智が嬉しそうに言う。


「でも分かったでしょ? 俺がどれだけあなたにはまっているか」

「んふふっ」


その言葉に智は可愛らしく笑った。


「だから信じられなかった。っていうか今でも信じられない」


そんな人が家にいて一緒に本人のものを見てるだなんて。


そして今さらながらその状態を考えると何だか無性に恥ずかしくなって
顔が赤くなっているのが自分でもわかった。










でも。


ずっと会いたいと願っていた
でももうテレビでしかその姿を見ることはないだろうと思っていた。
だからもう後悔はしたくはなかった。


「今も手ぇ震えてるよ」

「え~うそ」


いつも画面や雑誌で見ていたその人が目の前にいて
一緒に話をしているという現実に、どうにかなってしまいそうだ。


「ほら」

「んふふっ信じた」


そう言って震える手を差し出すと、智は可愛らしくそう言って笑った。


でもやっぱり信じられない。
こうして再び出会えたこと。
こうして話をしていること。


そして自分の家に智がいて、こうして一緒に智のものを見ていること。









それなのに。









「……」

「……」


智がまたあの時と同じように何か言いたそうな顔で見つめてくる。


その美しい顔に心が持っていかれそうになる。
自分自身歯止めがきかなそうになる。


だけど。


あの時と同じ視線。
あの時は気付かないふりをした。


意気地がなくて、自分自身が怖くて。
何でもないふりをして、それで智と会えなくなってしまった。


だから。


もう二度とそんな思いはしたくない。







手は相変わらず震えている。
心臓はバクバク言って今にも飛び出しそうな勢いだ。


目の前にはずっと画面や雑誌で見ていた智の綺麗な顔がある。
頭の中には大きくきらびやかな舞台で堂々と歌って踊る智の姿と
何万といるファンの子のキャーという歓声が聞こえる。


そして数え切れない位の無数のペンライトの美しい光。


その透き通るような綺麗な歌声に聞き惚れていた。
キレのある美くも圧倒的なダンスに見惚れて
何度も何度も飽きることなくその映像を見ていた。


そして智という存在に夢中になっていた。










その智の肩を優しく掴み、そのままその身体を押し倒す。


自分の下には智の華奢な身体と綺麗な顔があって


真っ直ぐなまなざしで見つめてくる。


ドキドキが止まらない。


あの智が自分に組み敷かれている。


そう思うだけで心臓はドキドキと鳴りやまない。










夢中で何度も見ていたその智が自分の下にいて、


瞬きもせず、じっと見つめてくる。


「好き だ」


掠れる声でそう言って


智の手首を両手で掴んだままゆっくりと顔を近づけていく。


智の視線を痛いほど感じる。


ドキドキが止まらない。








遠くて、手の届く存在ではないと


簡単には触れてはいけない存在だと思いながらも


どうにかなってしまいたいと思いと


どうにでもなれという気持ち。


もう、立ち止まれない。


立ち止まらない。


そのまま角度をつけ自分の唇を智の唇に近づけていく。


智の綺麗な目がゆっくりと閉じられる。


そして唇が智の唇に軽く触れた。


ドキドキが止まらない。


あの智とキスをしている。


あの画面で何度も見ていた智と。


心臓はバクバク言っていつまでもいつまでも鳴りやまない。










「俺も、好き」


唇をゆっくり離し視線が合うと、智がそう言ってくすっと笑った。


あの智が。


俺も好きだと言った。


もう現実か夢かさえわからない。


ただ心臓の音が煩いくらいにバクバクと音を立てている。


智を見ると、智がゆっくりと腕を伸ばしてきて


背中に手を回しそのまま智の方へと身体を引き寄せられる。









そして智の口が小さく開いたかと思うと


そのまま導かれるように唇を重ねる。


頭が、身体が、カッと熱くなる。


そのキスはさっきの触れるだけのキスとは違う。


智に求められるように舌を差し入れると絡ませあい深いキスをする。


もう何も考えられない。









さっきまでずっと頭の中で鳴り響いていたたくさんの歓声と


何万と見えていた美しいペンライトの光はすっかり消えて


頭の中は、真っ白になる。


そして、夢中で智を求めた。


















智が高台にあるこの場所から街並みを眺めている。
その姿を見ながらやっぱり芸能人だと。
オーラがあって凄く綺麗だなと思う。


「俺、ここから見える景色好き」

「うん、俺も好き」


智がこちらを見るとそう言ってにこっと笑った。
笑った顔はやっぱり可愛いなと思う。






「……二宮さんって どんな人だったの?」

「うーん、犬?」

「やっぱ、犬か」

「んふふっ。んとねぇ犬みたいにいつもまとわりついてきて
笑いかけるととしっぽふって凄く嬉しそうにするの。
でもいざっていう時は俺の事を全力で守ってくれて」

「そっか。本当に智の事が好きだったんだな」

「んふふっ」


そう言うと可愛らしく笑う。


「じゃあこれからは俺が番犬の様に智くんの事を守るよ」

「翔くんが、番犬?」


智が意外そうな顔をする。
そんな意外な事かな?


「うん、さしあたって俺はシェパードってとこかな?」

「え~?」


そう言うと智はえーと言っておかしそうにクスクス笑った。


「変かな?」

「うんだってシェパードっていうより、リスみたいなんだもん」


だから心配になってそう聞くと智は平然とそう答える。


「り、リス?」

「うん、ひまわりの種とか口いっぱい頬張ってるイメージ」


そう言ってくすくす笑っている。
可愛いんだけどね。


でもひまわりの種をほおばってるって。


「それってハムスターじゃね?」

「んふふそうなの? でもそんな感じ」


そう言いながらいつまでもおかしそうに笑っている。


「そっか、リスとかハムスターか」


その智の可愛さについつられて笑ってしまう。


「うん」

「まじか」

「うん」

「そっか」

「うん」


ま、いいか。
リスでもハムスターでも。


「あまり頼りにならないかもしれないけど、俺が代わりに智くんの事守るよ」


その言葉に智がえ? って顔で見る。


「俺が二宮さんの代わりにずっと守る」


そう言うと智がじっと見つめた。







そしていつか。









いつか、あなたの心の底にある傷が癒えますように。


いつか心から笑える日が来ますように。


そのふとした瞬間に見せる悲しげな視線が癒える日がきますように。


俺がずっと祈っているから。


俺がずっと見守っているから。


だから。


もう、悲しい出来事を忘れるためにと知らない人と
酔いつぶれるまで飲むなんて危ないことしないで。


自分をそんなに責めないで。


そう思いながらその身体を引き寄せ優しく抱きしめる。










この霊園のはずれにはちょっとした広場があって


高台にあるこの場所からは綺麗な街並みが一望できる。


芝生があって


大きな木があって


その大きな木はまるでお墓で眠る人たちと


眼下に広がる街の人たちを見守っているようだ。


そこから街を眺めていると気持ちのいい風が流れる。


上を見上げると青空が広がっていて


大きな木の間から木漏れ日から差し込む。


そしてそこには智くんの綺麗な顔があって


風が吹くと柔らかそうな茶色い髪をさらさらと揺らす。


その目にかかってしまった前髪を優しく手で払うと


智がありがとと言って微笑む。


最初見た時と変わらず儚くて美しくて


でも凛とした強さも感じられる。










その街並みが見渡せる大きな木の下で





「好きだよ」と






そう、智に言って






大きな木の影に隠れるようにそっとキスをした。









これでおしまいです。
4年越しになってしまって本当にすみません💦

いつか part9 

2017-08-21 16:17:30 | いつか







智がそう言って真っ直ぐな視線で見る。


その視線に、ドキッとして吸い込まれそうになる。


そのちょっとした瞬間でさえ


惹きつけられ、惑わされ、


その圧倒的な美しさに


やっぱり芸能人なんだと、実感する。









視線も合わない。


会話もない。




俺とは一切口なんてききませんって顔をして


ずっとツーンとそっぽを向かれていた。




沈黙の空気が重たくて、息苦しくて


そのまま地の底まで沈んでいきそうだと思われたその空気は、


自分が去らない限り永遠に続くものだと思っていた。









「それは、相葉さんが智くんの事を凄く心配して、俺に連絡をくれて…」

「……え?」


その言葉に智が何で?って顔で不思議そうに見つめ
俺の言葉に耳を傾けた。


その瞬間。


少しだけ空気が変わったような気がした。


「それで俺から頼んで相葉さんと会って話をすることになったんだ」

「……どういう事?」


その綺麗で真っ直ぐな視線にまた吸い込まれそうになる。
でも智が疑問に思うのも当たり前の事だと思った。


相葉さんと会ったのはあの時の一回だけだ。
だから自分自身相葉さんが連絡をくれた時凄く驚いた。


なのに。


自分から会って話がしたいと言って相葉さんに会った。


計算ずくと思われてもいい。
打算的だとののしられてもいい。


でも、最大のチャンスだと思った。


会えるはずなんてないと
会える資格なんてないと


心の中でそう思いながらも
どんな方法を使ってでも智に会いたかった。


だから。


相葉さんと会った。










「でも俺はそれで智くんに会えて嬉しかった」


そう言うと、なぜか智はあからさまにむっとした顔をした。


少し話をしてくれただけでもすごく嬉しかったのに
空気がほんの少しだけでも変わったのが嬉しかったのに
智の考えていることがわからない。


どうすればいい?
何といったらいい?


その美しくて、氷のように冷たい視線に
どうしたらいいかわからず、口を開けずにいると、
また沈黙が続いた。


智がまたツーンと横を向く。


そして。


皮肉なことに


そんな顔もでさえもやっぱり綺麗で惹かれた。








何がそんなに智を怒らせているのか。


それは。


もしかして


もしかしたら。


いや、相手はトップアイドルだ。


うぬぼれるんじゃない。


そう、自分自身を戒める。


でも。


もしかして。


もしかしたら、と、思った。










「ずっとあなたに会いたかった」

「……」


ずっと伝えたかった言葉。
その言葉にツーンと横を向いていた智がちらっとこちらを見る。


「会いたくてたまらなかったけど、どうしても会えなかった」

「……」


ずっと。


勇気がなくて伝えられなかった言葉。
意気地がなくて移せなかった行動。


「あなたの事が気になって気になって、仕事でもつまらないミスばかりしていた」

「……」


相手は芸能人だからと
トップアイドルだからと
そう自分自身に言い訳してあんなに会いたかったくせに、
何もできなかった。


「だからあなたにどうしても会いたくて、相葉さんと会った」

「……どういう 意味?」


智がそう言ってじっと見つめてくる。
その視線に、また引き込まれ惑わされ、そして心臓がぞくぞくとなる。


「だって、あなたはトップアイドルだから…」

「知ってた の?」


その言葉に智の瞳がゆらゆらと揺れた。


そう。


あの時。


最初に自己紹介した時。


知らないふりをした。


「最初は知らなかった」

「……」

「けど、偶然雑誌であなたを見て、芸能人であることを知って、それで愕然とした」


でも芸能人だと知った後も、どうしても忘れられなくて
何度も何度もあの出会えたあの場所に通っていた。


「……それは、嫌悪感 って事?」

「まさか!」


智の言葉に驚く。


智の出ているDVDや雑誌を買いまくって
何度も何度も歌やダンスや芝居を見ていた。


でも。


その智が思いもしない言葉に驚くと共に
もしかしたら芸能人であることで
そういう思いをしてきたのだろうかとも思った。












「だったら、何 で…」

「……え?」


その言葉に智が小さく訴えるように言う。


「だって、おれがキスしても、全然何でもない顔していたじゃん」

「それは…」


あなたと再び会えた時
あなたと食事ができた時
あなたが家に来てくれた時


信じられない位、夢のような時間だった。


「……」

「あなたの事を雲の上の人だと思っていたから。
だからあまりにもびっくりし過ぎて…」

「……雲の 上の人?」

「そう、だって芸能人だし、才能だって凄いし、ファンの子だってたくさんいるし…」


そんな人と普通のサラリーマンである自分が
話をしたって事だけでも信じられないのに
その人がとまさか一緒に食事をして、そして…


やっぱり信じられなかった。


「じゃあ何で、あの日俺に何もしなかったの」


智がそう責めるように言った。







そうか。







だから、か。









「それは俺が意気地がなかったから…」

「……」


智が責めるような視線で見てくる。


「それに自分が抑えられなくなったら怖いっていうのもあったし…」

「……抑えられないって?」

「その…智くんに対する思いとか…」

「……」


その上目づかいで見つめてくる静かな視線に
吸い込まれそうになる。


「智くんに対しての行動とか…」

「……行動?」

「うん」

「……」

「って、俺何言ってんだろ」


そう言いながら思わず恥ずかしくなってしまって
自分自身でも顔が真っ赤になったのが分かった。


「……」

「……」

「別に 抑えなくてもいいのに」


お互い何も言わないまま顔を見合わせる。


そして智がクスっと笑ってそう言った。


その表情にやっと笑顔が見れた事に対する嬉しさと、照れくささが入り混じる。









って言うか、今、抑えなくてもいいって言った?








「いやでも凄い人だし」

「凄い人?」

「そう。踊ってる時とか歌っている姿とかファンの子の数も凄いし。
そんな人と一緒にいられるだけでも奇跡っていうか」

「奇跡って大袈裟~」


あまり自覚はないのかそう言って智はくすくす笑う。


「だからなんていうか手が届かない存在っていうか
簡単に触れてはいけない存在というか…」


そして本当は今でもそう思っている。


「言ってる意味がよくわかんないけど…」

「ごめん」


やっぱり自分の立場をわかっていない智は
戸惑いながらそう言って困った顔をする。


「よくわかんないけど…でも翔くんは俺に全然興味がないんだと思ってた」

「いや、むしろ逆で…」

「……逆?」

「もう家の中、智くんだらけで凄い事になってて…」

「俺だらけ?」


その言葉に智がやっぱり困惑した表情を浮かべる。
まあそんな事聞かされて当たり前だろう。


「うん、だからあの日家に来るって言った時も
玄関の外でちょっと待っててもらったでしょ?
それはその状態を見られるのが恥ずかしくて隠すためだったんだ」


「ほんと?」

「うん、本当」


智が信じられないって顔で見る。


「だったらホントかどうか確かめたい」

「へ?」

「翔くんの家に行って確かめてみたい」


そしてウキウキした表情をしたかと思ったら


そんな事を言い出した。


可愛いんだけどね。


でも、家に来る?


智が、確かめに来る?


「ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど…」

「けど?」


やっぱり本人を目の前にして恥ずかしいっていうか。


「ひかない?」

「大丈夫」

「ただのファンだよ?」

「それがホントかどうか確かめたい」



智は無邪気にそう言ってウキウキした表情を浮かべた。


こんな風に話してくれるようになってくれて


凄く嬉しいし、


その顔凄く可愛いんだけどね。




そう思いながらも動揺を隠せない俺がいた。








いつか part8 & 雑記

2017-08-04 17:08:05 | いつか







「危なかしくて見てらんなかったです」




相葉さんが悲痛な面持ちで小さくつぶやいた。





「……」


その言葉にまた何とも言えない気持ちになる。


事務所に入ってからずっと仲が良かったという二人。
その仲間が辛い出来事を忘れるためとは言え
知らない人と毎晩のように酔いつぶれていたら
心配でたまらなかっただろう。


「でも…」

「……」


相葉さんは少し考えるような顔をして言った。


「でも、櫻井さんは何か違うような気がしたんですよね」

「違う?」


確か電話でも自分と会ってから笑顔が見られるようになったとか
俺の話をしていたとか言っていた。


だから。


どうしても相葉さんと話がしたかった。
どういう意味なのか聞きたかった。


「自分でもよくわからないんですけどね」


相葉さんはそう言うと、照れくさそうに笑った。












「あ、そうだ大ちゃん呼びましょうよ?」

「え?」

「俺、仲直りして欲しいんですよね~」

「え?」


仲がいいという二人。


相葉さんの言動。


まるっきり期待していなかったと言ったら
それは噓になる。


でも。


仲直りと言っても、
そもそもそれ程の仲でもないし、立場も全然違う。
会えたのも数えるほどだ。


でもだからこそ、智に会いたかった。


だから、相葉さんと会いたかった。


計算ずくと思われてもいい。
打算的だとののしられてもいい。
相葉さんと会って話がしたかった。








毎日。


その姿をテレビを見ていた。
雑誌を見て、DVDを見て、
智の演じる役柄に入り込んだ。
そして智の綺麗で流れるようなダンスに見惚れ
智の透き通るような歌声に聞き惚れた。




でも。





やっと智と出会えたのに、会えなくなった。
キスをしてくれたのに、何事もなかったようなふりをした。
何か言いたげな顔をしていたのに、何も聞かなかった。
連絡を取ろうと思えばとれたのに、連絡しなかった。


全ては自分のせいだ。





だけど今はトップアイドルである智に会いたくてたまらない。


雑誌を見れば、表紙を彩り、CDを出せば毎回トップを飾る。
コンサートチケットは毎回激戦で、個展は抽選で海外でもなかなか入れない。
演技やダンスや歌、そして芸術的面でも才能を評価され
考えられない位、たくさんのファンがいる。
そして毎日CMやドラマやバラエティなど映らない日はないくらいテレビに出ている。


その智に。


忙しくないはずなんてない。


会えるはずなんてない。


会える資格なんて、ない。




でも。











「あ、おおちゃん? 今大丈夫?」


しばらくスマホを耳を傾けていた相葉さんが話し出す。
相手が智だと思うだけでドキドキが止まらない。


「うんうん今飲んでるの…そうそう、いつものとこ」


会話の行方を祈るような気持で見つめた。





その時間は長い時間のようにも短い時間のようにも感じられた。


ただ心臓はずっと煩いくらいにドキドキしていた。


何度も水を飲んで、心臓を落ち着かせる。





「……!」


きた!


その智のきた気配に変な汗が出て、緊張が走る。


手が震え、意識が遠のくのを感じる。


じっとその先を見つめた。


ゆっくりと開く。







智だ。


あれ程会いたかった智がいる。


智と視線が合う。


あのいつも会いたいと願っていた智が
いつも画面で見ていたその智が目の前にいる。
相変わらず美しくて、そして凛とした佇まいの智。
何と話せばいいのだろうか。
あまりの緊張に吐いてしまいそうだ。


でも。


そう思ったのは一瞬だった。


智と視線が合った瞬間、その視線はすぐに外された。


そして智は明らかに自分を見てむっとしていた。






そうだった。


だから自分から連絡が取れなかった。


会いたいけど自分から会う自信がなかった。







「ほらほらおおちゃん、そんなとこ突っ立てないで座って」

「だって、聞いてねえし」

「まあまあ、いいじゃないの」

「よくねえよ。何で相葉ちゃんがこの人と一緒にいるの?」


この人、か。


その言葉にガーンとハンマーで頭を叩かれたような気がした。


「それには深い訳が」

「何だよ深い訳って」


こんなに会いたかった人なのに。
ずっと会いたいと願っていた人なのに。
明らかに自分のせいで機嫌が悪くなっている。







トップアイドルのこの人と。


一緒に話をして、一緒に歩いて、食事をした。
そして一瞬だけ、ふれるだけのキスをした。
そして一緒にお墓参りをして、
自分の家に一緒に行ってお酒を一緒に飲んだ。


それがすべて夢か幻だったんじゃないかと思うほどの
その冷たい視線に時が止まったような気がした。








「後でゆっくり話すからさ~。ほらほら挨拶して? ね、櫻井さんも」


智は席には着いたものの無言でそっぽを向いている。


「こん ばんは」

「……」


どうしたらいいのだろう。
会いたくて会いたくて、やっと会えたのに
この状況が悲しい。


「あの…久しぶり だね」

「……」

「ほら、大ちゃん、久しぶりだねって」

「……」


相葉さんも必死にフォローしてくれるけど
智は何を話しかけてもツーンと横を向いたままだ。


「……」

「……」


どうしたらいいのだろう。


残念だけど。


会えて凄く嬉しかったけど。


これ以上一緒にいるのは諦めなくてはいけないのかもしれないと思った。


智は明らかに自分がいる事に怒っている。


「俺、帰ります」

「え? 何で何で?」


相葉さんが驚いたように聞く。


「何でって…」


こんな空気で相葉さんだって板挟みになって辛いだろう。
帰るしかないと思った。


「帰りたいって言ってんだから帰れば?」


智がやっと口を開いたと思ったら冷たくそう言い放つ。


やっぱり怒っている。
その言葉にまた頭をハンマーで殴られた気がした。


「もう大ちゃんたら。ごめんね、普段はこんな事言う子じゃないんだけど…」

「いつもこんなだもん」

「嘘」


相葉さんが困り果てているのがありありとわかった。


「じゃあ、30分だけ。これ飲んだら、帰ります」


すぐに帰るのも相葉さんを困らせてしまうだけのような気がして
そう言うと相葉さんが少しだけほっとしたような表情を浮かべた。
でも智はその言葉にもツーンと横を向いていた。










「え~ 櫻井さん東京出身? 大ちゃんと一緒だね。俺は千葉なんだよ~」


何て話をしながら相葉さんが必死に盛り上げてくれている。


でも智の方はというと一向に来た時の態度と変わらない。


視線も合わない。
会話もしない。


それが悲しかった。





「ごめん、ちょっと」


そんな中、相葉さんにマネージャーさんからだろうか、連絡が入った。


「……」

「……」


席を外し二人きりになってしまった空間は
何だか酷く空気が重苦しい。


「……」

「……」


沈黙が続く。
空気が重くて、苦しい。


「……」

「……」

「ごめん、今マネから連絡があって、ちょっとトラブルで戻らなくちゃいけなくなっちゃった」

「ええ?」


電話を終えた相葉さんがそう言って慌てて戻ってきた。
そんな事を言ったら智一人になってしまう。










かと言って。


この雰囲気じゃ智と相談することさえできない。


智を見るとわれ関せずって顔をして飲んでいる。


どうしようか。


でも毎日、知らない人にも話かけて、酔いつぶれるまで飲んでいたと言う智を
この状況でとても一人置いて帰ることはできないと思った。


とは言っても話もしてくれない智とどうしたらいいのか。


頭の中でぐるぐると考える。


「どうする?」


相葉さんが心配そうに聞く。
まあこの空気を感じて心配になるのも当たり前だろう。


「もしまだ二人飲むなら、ここは俺の付けでいいからいて?」


相葉さんも智の事が気がかりなのだろう。
心配そうな顔でそう言った。


でも仕事なら仕方のない事だ。
ここは大丈夫だと、智を一人放って行くことはないと。
何とかするから大丈夫だと、そう言って急ぐ相葉さんを仕事場に向かわせた。











「……」

「……」

「……」

「……」


とはいっても重い空気が軽くなる訳でもなく。
二人きりの空間、長い沈黙が続く。


目の前には智。


あれ程会いたかった智が目の前にいる。
とてもそんな事を味わっている雰囲気じゃないけど。


でも、トップアイドルで、ものすごい数のファンがいて、
大きいステージをいつも一人で満席にしている。
その中で一際光り輝きながら歌い踊っていた智がいる。


その智は、相変わらず、むすっとしていて
一切俺とは口なんて聞きませんって顔をして
ぐびぐびと酒を飲んでいる。


嬉しさと、悲しさと、戸惑い。
胸の高鳴りと、不安。
色々な思いが交差する。


「……」

「……」


でも。


なぜかこんな重い空間なのに。
智はたいしてというか、全く楽しそうに見えないのに、
不思議と帰ろうという気はないみたいだった。


「……」

「……」


どうしようか。


「……」

「……」


重い空気の中、必死に考える。


「俺がいて…」

「……」


智が、何? って顔で見る。
その視線にドキッとする。
そしてやっぱり綺麗だなと思った。


「俺が突然いてびっくりしたでしょ?」

「……」

「驚かせてしまってごめん」


その視線を感じドキドキしながらとりあえず今の状況を謝った。


「……」

「……」


でも、また沈黙。


「……」

「……」


どうしたらいいのだろうか。









「…何で二人一緒にいたの?」


もうダメかも知れないと、帰った方が智にとってもいいのかも知れないと


そう諦めかけたその瞬間。




智が口を開いた。










~雑記~


以前、お話でなくても、と言って下さったので色々と。
興味がない方はスルーで。


今、世間は忍びの国で一色なのですが、、、アユハピコンの話です。


今アユハピコンを見ながらこれを書いているのですが
Daylightってすごくコン映えする曲だなって思ってて。
普段聞いていてもいい曲なんですけども、
コンサートで映える曲だなと思いながら見ています。


あの翔さんが智さんを見つめて微笑むのもとてもいいのですが
何といってもあの曲の感触がいい。って今さらかも知れませんが。
アユハピコンを見て大好きになった曲です。


そしてコンサートと言えば、今書いている舞台が丁度
初ドーム位の話なのですが一番私がはまっていた頃の話です。
で、その頃溢れる思いをファンブログに書いてて
そこからスライドして今に至っているのですが
やっぱり一番はまっていた時期の話が多いのかな?と思います。


全然関係ありませんが、あの頃は番組の終わりとかに
コンの電話予約受付の宣伝があったりして
今ではとても考えられない時代だったなあなんて。
ほんとに雑記でした。

いつか part7

2017-07-20 22:05:40 | いつか







2013年に書いていた話の続きです。


今? とも、


今さら? とも、自分でも思います。


でも、続きが読みたいと言って下さった事、
そして私自身の中で完結しないままになっていたことが
ずっとずっと気になっていたのです。


4年越しの完結編です。すみません。。


リーマン翔くんとアイドル智くんのお話です。












相葉さんは約束した場所にすぐに来てくれた。


そこは智と初めて話をして


そして、初めて食事をした場所。





あの時。





あの時は、毎日智に逢いたくて必死だった。


何度も智を見かけた場所に通って、街の中でも智の姿を探していた。


でも全然会えなくて。


で、やっと会えたと思ったら、それは雑誌の中だった。


そこで初めて智が芸能人だという事を知って、愕然とした。





それでもやっぱり逢いたくて、その姿を見たくて
智の出ている出演番組を毎日のようにチェックして、
そして雑誌を買った。
智の出演しているドラマのDVDを買いそろえ
コンサートBDを買い、動画を探す毎日。


コンサートBDなんて何度見たかわからないくらい見て
そしてネットや本で智の情報を集めまくった。





だからあの雨の日。


あの場所で再び智に会う事が出来た時。


逢えるなんて夢にも思わなかったから


凄く嬉しくて思わず涙が出そうだった。







雨の中の智は儚くて綺麗だった。


儚い中にも凛とした美しさがあってそこだけ空気が違って見える。
そしてやっぱり芸能人なんだなと、そう感じてしまうほど
簡単には話しかけられないようなオーラを放っていた。


でも、このチャンスを逃す手はなかった。
ここで声をかけなければもう一生会えないかもしれないと思い
勇気を振り絞って智に近づいた。


雨で濡れている智は、よりいっそう儚く綺麗に見えた。
そしてハンカチを渡すとありがとうと言って
その綺麗な手で受け取ってくれた。


ハンカチを受け取ってくれたこと、
そして笑顔を向けたくれたことが嬉しかった。
綺麗で可愛らしい智にますます惹かれていった。
そしてその後、信じられないことに
ハンカチのお礼だと言って智から食事に誘ってくれた。


あのいつもテレビで見ていた智と
雑誌やCMで見ていた智と、
DVDが擦り切れて壊れるんじゃないかと思うくらい見ていた智と
一緒にいられるという現実に、自分自身どうにかなってしまいそうだった。


そして一緒に話をして
傘に一緒に入りながら歩いて
タクシーに乗った。
まるで夢の中にいるような気分だった。


店につくと一緒に食事をして、お互い名前を言い合って、話をした。


そしてその時に初めて相葉さんとも出会った。


もっともその時はただただ圧倒されてしまって
相葉さんとはろくに話もしなかったけど。


そしてその相葉さんがぶちゅっと智の頬にキスをした。


一瞬何が起こったのかわからず驚いていたら


その帰り際。


智からちゅっと唇にキスをされた。




信じられなかった。




でもそれは、ほんの一瞬の出来事だった。


その後、驚いている自分とは反対に智は何でもないような顔をしていたから
現実じゃないような、夢のような、そんな不思議な気分だった。
でもその時の触れた唇の余韻はいつまでもいつまでも残っていた。











そしてしばらくたってから智から連絡が来て、
また信じられない事に会えることになった。


そして一緒にお墓参りをした。


そして。


その後、なぜか自分の家に智が来るという話になった。


あの智が自分の家にくる。


トップアイドルで、テレビにも雑誌にもバンバン出ていて
あんな大きなステージでコンサートまでしている
あの智が、なぜか俺の家に来るという。


とても信じられなかったけど嬉しかった。










でも、それも一瞬だった。


あの日。


あの時。


智は何か言いたそうな顔を何度もしていた。
でも、何も言わなかった。
俺もそれに気づいていた。
でも何も言わなかった。
いや、言えなかった。


すいよせられるような眼差しに、その唇に、
もし何か言われたらと思うと
自分の抑えが効かなくなるんじゃないかと怖かった。


そして結局。


何も言えないまま智は帰ってしまった。
そしてあの時の智は何だか怒っているような感じだった。


だから自分からは連絡ができなかった。
本当はもっと逢いたかったし、話もしたかった。


でも、と。
テレビやCMなどにバンバン出ているトップアイドルである智に
自分のようなものが連絡していいのか。
ましてや、あの日の智の怒ったような視線。
それを思うとどうしても自分からは連絡できなかった。
そして智からも全く連絡はこなかった。


もう二度と逢えないかもしれない。


そう思うだけで胸が苦しかった。


仕事でも小さなミスを振り返す。


こんな事は初めてだった。






毎日。


智の事を考えて、


智の事を画面から見ていた。









そんな時にかかってきた、一本の相葉さんからの電話。


そして。


その内容。


だから、どうしても。


どうしても相葉さんと会って話がしたかった。









「忙しいのに無理言ってすみません」

「気にしないで下さい」


急なお願いにも相葉さんは嫌な顔もせずそう言ってくれた。
相葉さんだって智と負けず劣らずトップを走るアイドルだ。


それなのに。


やっぱりいいやつだなと思った。


「で、会って話っていうのは…」


相葉さんが遠慮がちに聞いてくる。


「あの…」

「……?」

「あの、智く、大野さんの事を聞かせて欲しいのです」

「え?」


そう言うと相葉さんは不思議そうな表情を浮かべた。


それもそうだろう。今の時代、ネットを使えば何でも調べられる。
ましてや芸能人である智の事だ。
誕生日からデビュー年月日、家族構成から出演番組まで
いくらでも調べようと思えば調べられた。


でも聞きたいことはそんな事ではなかった。


「智くんが色々あったって言っていましたよね?」

「……」

「……それって二宮さんの事ですか?」

「……」


その言葉に相葉さんが大きく目を見開いた。









「俺、大野さんから聞いたんです。大野さんと二宮さんの事…」

「……」


相葉さんの表情が一瞬変わったような気がした。


「二人は恋人になるはずだったと言っていました」

「……」


同じ事務所で仲が良かったという二人。


「……」

「……」


相葉さんが黙ったまま見つめる。


「俺ら…俺ら、3人は同じ事務所でした」


そして意を決したように口を開いた。


「ニノは初めて事務所に入った時から大ちゃんの事が大好きで凄く慕っていました」


そう言えばいつも尊敬する先輩のところに
智の名前をいつも書いていたというのを
どこかで読んだ気がする。


「だから俺はずっとあこがれの先輩と後輩の関係だと思っていたんですけど…
でも違ったみたいです」

「……」

「ニノは大ちゃんの事が大好きで大好きで、
毎日のように自分の思いを伝えていたらしいです。
で、ようやく気持ちが通じてっていう時に…」

「……」


そういう事か。


智が恋人になるはずだった人と言ったのは
そういう事だったのかと思う。









「大ちゃんは凄く自分の事を責めていました」

「でもそれは…」

「ニノは、仕事を終えて、大ちゃんの家に向かう途中だったんです」

「……」


その言葉に。


何も言えない。
何とも言えない気持ちになる。


「だから大ちゃんは何でこんな日に約束したんだって。
何で自分がニノの家に先に行って待っていなかったんだって、
凄く自分を責めました」

「でもそれは…」

「そう、結果論です」

「……」

「でも大ちゃんは自分が許せなくて、自分の事を責めて責めて…
食事も摂れなくなってガリガリに痩せていきました」

「……」


やっぱり何も言えない。
何とも言えない気持ちになる。


「でも仕事は待ってはくれないし、ファンの子達もいる。
だから毎日、まるで忘れるように色んな人に声かけては
酔いつぶれるまで飲んでいました」




その言葉に、


相葉さんに初めて会った時の言動を思い出した。