yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

山 短編6 オオノ先生と僕 

2016-05-31 16:22:20 | 短編






遅くなりました。
2年前に書いた話の続編です。
書いているうちにどんどん長くなってしまって。
読みにくいかな? 









夕焼けに染まった空


アンティークの時計


太陽が沈む海


お気に入りのアクセサリー


美しく紅葉した木々


青空に浮かぶ富士山


ジョブズ氏が造り上げたこだわりのもの


桜の花が舞い散る並木


真冬の夜空


都会の夜景


誰もまだ足を踏み入れていない雪面






昔から




美しい風景や綺麗なものが好きだった。






それはもう



物心がつくかつかないかくらいの



小さい時から。













幼稚園の時、みんなが好きだったのは
もも組のアヤカちゃんだった。
でも自分だけは違った。


アヤカちゃんは明るくて可愛らしい
誰からも愛されるタイプで人気だったけど
自分が好きだったのはさくら組のユリ先生だった。
みんなは、えーって言ったけど
みんなはまだユリ先生の美しさに気付いて
いないだけなんだ。


幼稚園では花を見るのが好きだった。
園庭の周りには様々な花が植えられていて
季節ごとに綺麗な花を咲かせた。


その花々を見るのが好きだった。
そして秋になると園庭の中心にある銀杏の木が
紅葉して綺麗な色に姿を変えた。
その銀杏の木を眺めるのが好きだった。
そして冬に近づくにつれ紅葉した綺麗な葉が
一枚一枚と落ちてきてそれを集めて並べていた。


砂場ではみんなで色々なものを作った。
山をつくったりだんごをつくったり。
そのうち大きい山が出来上がってそこから道を作ったり
水を流して遊んだ。


みんなきゃっきゃいいながら
水道から水を運んでは流す。
その横で自分だけはどれだけ綺麗なお団子が作れるか
一人で挑戦しているような園児だった。


出来上がったお団子はまんまるだった。
最後にはご丁寧にサラサラの砂までかけて
その団子を一つづつ綺麗に並べては
満足げにそれを眺めて喜んでいた。
そんな子供だった。


とは言っても。


気付くといつの間にかその団子は
他の園児たちの手によって


『コウちゃんの作った団子、固くてすげえまんまる』


と、小さな山の道の上からコロコロと転がされ
パカッと割れてしまうのだけど。


まんまるの綺麗なおだんご。
綺麗な花。
綺麗な葉。
綺麗なユリ先生。


美しいものが昔から好きだった。















先生の事を知ったのは


3年に進級した始業式の日だった。




何気なく廊下を歩いていたら
まだHRが終わっていないクラスがあって
何気なくその教室を見る。
そこには新しく赴任してきたという先生がいた。


そういえば3年に新しい先生が入ったと言ってたっけ。
そんな事思いながら通り過ぎた。




翌日からはすぐに通常通りの生活が始まった。
授業も始まり、そしてその新任の先生も
自分の教室に教えに来るようになった。


現国の先生。


国語の授業。


歴史とか数学は学ぶべき事がはっきりしていて
好きだったけど国語は何をどう学べばいいのか
いまいちよくわからなくて好きではなかった。


眠たくなる気持ちを堪えながら、ぼんやりと黒板を見る。
新しい先生。
新しい授業。


そういえばさっき何か言いながら
先生が黒板に向かって書いていたなと
黒板を見るとそこには綺麗な字が書かれていた。


あの先生が書いたのか。
って当たり前か。
でもその黒板に書かれた字と先生が
何だか一致しないような気がした。


ぼんやりと眺めていると
先生がまた黒板に向かって字を書きはじめた。


「……」


違う。


字だけが美しいのではない。


そのチョークを持つ手が指が綺麗なのだ。
一本一本の指が細くて長くて爪まで
綺麗な形をしている。
男の人でこんな綺麗な手見たことがなかった。


美しく指先まで綺麗な手。


そして手や指だけではない。


少し捲り上げられたシャツから見える腕もまた
程よく筋肉がついていて綺麗なのだ。


でも今まで男の人に対して綺麗という
感想を持ったことなんてない。
気のせいだろうと頭を振った。






でも。


見るとやっぱり手が、指が、腕が
美しいのだ。


その手を


その指を


その腕を


そしてその手から書かれる黒板の美しい字を見つめた。


「……」


そしてその手を


その指を


その腕を見るたびに


なぜか胸がドキドキした。











そして授業を受けながら先生の事を見つめる。
先生の髪の毛は少し長めで横の髪の毛を軽く後ろに流している。
そして前髪は自然な感じに分けられていて
目に少し前髪がかかっていた。


目は少したれ目で優しい顔立ちをしている。
鼻筋は綺麗に通っていて唇の形もよく
凄く目立つ訳ではないけど綺麗な顔立ちをしていた。


そしてワイシャツのボタンは少し開けられていて
そこからは、少しだけ肌とそして首筋が見えた。


それを見てまた胸がドキドキした。


って何でだろう?


相手は先生で男。


でもなぜか胸がドキドキしていた。


背はそんなに大きくないけど
均整の取れた綺麗な身体。
顔に似合わない美しい字を書く綺麗な男。


先生の顔を見るたびに


なぜか胸はドキドキしていた。











「せんせー彼女とかいんの?」

「え~?」

「……って、もしかして結婚してるとか?」

「してねえよ」


数週間がたち、先生に気軽に話しかけられるようになった。
先生はいつもクールで何を言っても何を聞いても
あっさりとかわされてしまう。


自分以外にも先生に興味を持つものは男女問わず
たくさんいたけどみな同様だった。


どんなに授業中じっと見つめても
先生をつかまえてガンガン話しかけても
先生はポーカーフェイスで変わらない。


何だか寂しかった。


でも。


時折見せる目を伏せた綺麗な顔
たまにだけど見せる笑った時の可愛らしい顔
生徒たちを注意する時の凛とした美しい顔
そんな先生の顔を見るたびにいつもドキドキした。


先生は、先生だし、ましてや男だし
自分自身、綺麗な彼女もいる。


でも。


やっぱり先生の授業を受けていると
自然とその美しい手に目がいく。
目がそらせない。
先生の美しい顔を見つめた。









「せんせー今度先生の家に遊びに行きたい」

「は?」

「だって先生がどんなとこ住んでるのか見てみたい。ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ」

「何でぇ? どこに住んでいるかだけでも」

「ダメ」


先生はそう言って、ふふって笑う。
いつも笑って、はぐらかされて
ごまかされて先生の事が全く分からない。



そんな毎日。















「コウキー行くよー」

「え~俺もいかなきゃダメ?」

「今日はおじいちゃんの大事な三回忌法要の日なんだから
行くにきまってるでしょ?」

「そうだけどさぁ、俺、受験生」

「何言ってんの、どうせそのまま持ち上がりなんだから」

「どうせって」

「ほらコウキもおじいちゃんの事も
おじいちゃんのお家も大好きだったでしょ?」

「……」


確かにじいちゃんもじいちゃんの家も大好きだった。



けど。



内部進学が決まっているとはいえ受験生だし
じいちゃんの三回忌とはいえやっぱりメンドクサイ。
なんて事思ったら罰当たりかな。


そうこう言いながら出席した三回忌法要は昼過ぎには終わり
両親や集まった親戚の方々の食事会が始まろうとしていた。
この食事会という名の宴会が長いんだよね。
昔の思い出話をしたり誰々がどこに入学しただの就職しただの
自分がいなくたって全然問題はないだろう。


ちょっと出てくると言って雨が降る中、傘をさして外に出た。








じいちゃんの暮らしていたこの街。


大好きで休みのたびに遊びに来ていた。
山も海もあって一歩裏に入るとそこは別世界。
とても静かで瀟洒で美しい建物が並ぶ。


その中をゆっくりと歩いていく。


瀟洒な家の庭には丹精込められ育てられた草木があって
色とりどりに咲いた花が道行く人々を楽しませている。


とても静かで美しい街。


この街が大好きだ。


そして


じいちゃんの家に来るといつもくるこの場所。


紫陽花で有名なこの場所は
今の時期、毎年大勢の人が訪れる。


色鮮やかに様々な色の紫陽花が咲き乱れていて
そして少し高台にあるその場所からは
海とそして綺麗な街並みが見える絶好のロケーションだ。


いつもは観光客で溢れかけるその場所も
今日は雨が降っているせいかそんなに人も多くなくて
ゆっくりとこの場所を堪能することができた。


色鮮やかな紫陽花。


雨に濡れて花がますます生き生きと輝いている。
一歩一歩と歩きながらその紫陽花たちを眺める。
とても綺麗だ。


来ている人たちもみんな紫陽花に夢中だ。
写真を撮ったり
眺めたり
その前で記念撮影をしたり


友達同士だったり
カップルだったり
家族連れだったり


それぞれ雨の中でも綺麗に咲き乱れる
紫陽花を思い思いに楽しんでいる。









その中をゆっくりと歩き風景を眺め
そして紫陽花を見ていると
男の二人組とすれ違った。


男同士で雨の中、こんな場所に珍しいなと思いながら
その姿を目で何気なく追った。


一人はとても綺麗な茶色の髪の毛をしている。
人目を惹く端正な顔だちは華やかでとても目立つ
かなりのイケメンだ。


そしてもう一人は。


もう一人は少しそのイケメンの男より小柄で顔は…


って、大野先生?


先生がなぜこんなところに?


どういうこと?


二人は何?


兄弟?


親戚?


友達?




頭の中でフル回転で考える。


違う。


兄弟でも親戚でも友達でもない。


きっとそれ以上の関係だ。


茶髪で目がくりくりした端正な顔をした
美しい男が先生の顔を見つめては
凄く嬉しそうに笑っている。
そしてそれを優しい眼差しで慈しむように見つめる先生の顔。
今まで先生がこんな表情をしているのを見たことない。


自分と同じくらいのその男は
先生の事がすごく好きなんだろう。
嬉しさを隠し切れない顔をしている。


先生の顔を見つめては嬉しそうに目を細め
先生と目が合うと嬉しそうに笑う。


そして先生もまたその姿を見て優しく笑う。


それは兄弟でも友達でもない。




その二人の姿を



いつまでも



いつまでも見ていた。











「ああ~やっぱ俺、先生の事、閉じ込めておきたい」

「また言ってるし」


そう言って、先生は呆れた顔をする。


「だってこれ全部ラブレターでしょ?」

「あ、こら、勝手にみんなよ」

「だってぇ何枚もある」


だから、ヤなんだよね。高校なんて。
先生は全然自覚がないし。
ほっとくとあっちからもこっちからも手が出てきそうで心配すぎる。


「もう、先生はさ、研究室とかに入った方がいいんじゃない?」

「は?」

「あ、でもまてよ。研究室内でも先生を狙うやついるかも知れないし。
いやでも学校よりは全然ましじゃね?
絶対数が違うもん。研究室はたかだか数名だろうし
高校なんて何百人、いや下手すると千越え? 
うわぁイヤすぎる」

「何ぶつくさ言ってんだよ?」


何も知らない先生はそう言って笑う。


「だって、心配なんだもん。
こないだだって紫陽花見てる時じっと見てる人いたんだよ?
先生は全然気付いていなかったけど」

「それはお前見てたんじゃねえの? 目立つし」


やっぱり何も知らない先生は先生はそう言って笑う。


「違う。先生の事、切なそうな目で見ていた。
だから知り合いなのかと思ったけど見てるだけだったし」

「マジで? 学校関係者かな」

「大丈夫大丈夫。もう俺大学生なんだし」

「そういう問題?」

「そういう問題」

「……」

「……ね、それより先生キスして」


そう言うと先生が突然何を言い出すのだろうって顔をして見る。
でも先生は知らないでしょ?
どんなに俺が毎日心配しているか。
本当は先生の事冗談じゃなく閉じ込めておきたいんだよ?
でもそんな事できるわけないし。


だから。







「先生」

「……」


先生を見つめると先生が仕方ないなって顔をして
頬にゆっくりと手を伸ばしてくる。


そして先生の顔がゆっくりと自分の方に近づいてきた。


先生をそのままじっと見つめてると先生が手を瞼にかけ
優しく目を閉じさせる。
それに逆らうことなくゆっくり目を閉じると
先生の唇がゆっくりと自分の唇に重なった。


先生だ。


先生の唇だ。


そう思った瞬間。


その唇の気配はなくなった。


これで終わり?


何だか寂しくて物足りなくて
先生を見つめると
先生はその美しい顔でふっと笑った。


先生はいつも大人の余裕でずるい。


そう思いながら先生にギュッと抱きついた。
抱きついていると先生の腕もゆっくり伸びてきて
ぎゅっと包み込むように抱きしめてくれる。


心臓がドキドキしていた。


先生が好き。


好き好き好き。


心の中で何回も訴えながら力いっぱい抱きつくと
先生もぎゅっと力をこめ抱きしめてくれる。


そしてゆっくりと力を弱めると先生の顔を見つめた。
目と目が合う。
先生がふっと笑った。


何だろうと思いながら先生を見ていたら
先生の唇がゆっくりと自分に降りてくる。
先生からキスをしてくれた。


そのキスはいつもとは違う
舌を絡ませる激しくて深いキス。


先生が好き

先生が好き


先生は角度を変え何度もキスをしてくれる。


心配だって思いが先生に伝わったのかな?


いつもは、ねだってもなかなかしてくれない
激しくて深いキスを
今日は先生からしてくれる。


先生が好き

先生が大好き


本当は先生の事閉じ込めておきたいけど
そんなことできないから
今だけは自分の中に閉じ込めさせて。
そう思いながら何度も見つめあって
そして深いキスをした。











あの日。



たくさんの紫陽花の咲く丘に先生がいた。



紫陽花に囲まれている先生は



紫陽花にとけ込んでいてとても綺麗だった。







「先生?」

「うん?」


先生をつかまえいつものように話しかける。


「俺もね、あの日あの場所にいたんだよ?」

「……」


そういうと先生がびっくりした顔をした。


「すごく紫陽花綺麗だったね?」

「……そうだね」

「それに一緒にいた人も凄く綺麗な人だったね。
先生の恋人でしょ?」

「え?」


先生が驚いた顔をする。


「ふふっ大丈夫。
俺、誰にも言わないから」





あの日。


雨の中紫陽花に囲まれている二人が凄く綺麗だったから
男の人が先生を見る眼差しも
先生が愛おしそうにに見るまなざしも凄く綺麗だったから
先生の事ちょっと好きになりかけていたけど
内緒にしていてあげる。




だって


昔から


幼稚園の時から


綺麗なものが好きだった。



男のくせにって言われながらも
園庭に咲く花が好きだったし
園庭の中央にあった銀杏の木も
そしてその葉も大好きだった。





雨に濡れた紫陽花がキラキラしていて凄く綺麗だった。
でもそれ以上に紫陽花に囲まれた先生たち二人が
傘を差しながら歩いている姿が
絵みたいに凄く綺麗だったから
宝物みたいにしまっておいてあげる。


先生の事が好きだったけど
先生の事が凄く好きだったけど
幼稚園の時、川で拾った綺麗な石を宝箱の中に入れた時みたいに
心の宝箱の中にしまっておいてあげる。





そう心の中で思いながら



二人だけの秘密ね



とそう言って



先生に向かってウィンクした。











another 5 完

2016-05-17 15:19:30 | another







If


もしも、あなたがこの世界にいなかったら







大野さんが自分の部屋の窓から外を眺めている。







何でこんなことになったんだっけ。


ああ、そうだ。


あの時。


大野さんの絵を見たくて


大野さんの描いた絵が欲しくて


食い入るように見つめていたら


大野さんが突然目の前に現れて


本当に欲しくて買っているのかと


同情で購入するのはやめてほしいと


そう言われたんだった。





だから、違う、と言って


大野さんの絵が好きだから


大野さんの事がずっと好きだったから


だから欲しくて買っているのだと


そう言ったら


大野さんはその綺麗な顔でふっと笑って


そして少し考えるような顔をした。





そして


今から自分の家に行っていいかと聞いてきた。


今から?


自分の家に大野さんが来る?


突然のその言葉にびっくりしながらも
答えは一つしかなかった。
そしてタクシーに乗りそのまま自分の部屋へとやってきた。


なぜ突然大野さんがそんな事を言い出したのか
なんてわからない。


ただ。


大野さんと一緒にいられる
大野さんと話ができる
大野さんの顔が見れる


それだけで、嬉しかった。







大野さんは部屋に入ると
すごいマンションだね、と言ってふふっと笑った。
そして夜景が見える窓の方にゆっくりと歩いていく。
そして窓から外を眺めた。


その横顔はとても美しくて可憐で


やっぱり


自分はこの人の事が好きなんだと


そう思った。


大野さんは外をしばらく眺め
そしてゆっくりとこちらを振り返った。
そして目が合うと世界が違う、と
小さく言ってふふっと笑った。


世界が違う?


世界が違うってどういう意味だろうと
大野さんの顔を見つめていると
今の翔くんと俺とでは住む世界が違いすぎるよね、と
大野さんはそう言ってまたその綺麗な顔で
小さくふふっと笑った。


「今の俺の生活はね、バイトして絵を描いて
お金がたまったら外国に行って。
で、お金が無くなったら戻ってきて
絵を描いてバイトしてっていう毎日なの。
今も、そして今後もそれは変わらないと思う」

「……」


やっぱり意味が分からなくて何も言えないでいると
大野さんがゆっくりと語りかけるように話し出した。


「だから国民的アイドルスターで
こんな凄いところに暮らせる翔くんとは全然違う」

「……」


その口調は穏やかだったけど
強い意志を持った表情をしていた。


それを伝えるためだけにここに来たのだろうか。
その事を身をもって知らしめるために。


わざわざ?


何で?


何のために?


頭が混乱して何も言えない。


大野さんの顔を見ると
大野さんが真っ直ぐに見つめ返す。








「前にあった時に言ったでしょ?
後ろなんて振り返らなくていいんだって。
俺の事なんて忘れ去っちゃっていいんだよ」

「……」


大野さんが自分の心の中を読んだみたいに
静かにそう言った。


「なのに、こんなに俺の絵まで買い揃えて」

「……」


大野さんはそう言いながら
部屋に飾られている大野さん自身が描いた絵を見つめた。


「ダメ なの?
大野さんの絵を買うことも
大野さんの事を好きでいることも」


大野さんが真っ直ぐ見つめたまま静かにうなずく。


「……何 で?」

「……」


自分とどうこうなってほしいとか思っている訳じゃない。


ただ。


「ただただ思っているだけでもダメなの?」

「翔くんには前だけを向いていてもらいたいから」


大野さんが静かな口調で言う。


「……じゃあニノは?」

「ニノ?」


大野さんがなぜそこで突然ニノの話が出てくるのだろうと
不思議そうな顔をする。


「あなたがいないのならデビューする意味なんてないと
そう言って辞めたニノみたいに俺も辞めていたらよかった。
俺だってニノと同じだったから。
そしたら住む世界が違うとも言われなかったし
ニノみたいにずっと気にしてくれた?」


自分でも支離滅裂で何を言ってるのかわからない。


「……翔くん、泣いてばっかだね。
って泣かせているのは俺か」


大野さんが苦笑いをしながらそう言う。


「だったら、アラシを辞めたらいいの」

「何言ってんだよ、辞めれるはずなんてないだろ」


大野さんが強い口調で言った。
バカなことを言っているのは自分でもわかっている。
そんな事が今更できないことも。




あの日。


あの時。


もうプロジェクトは進みだしていた。
もう後戻りはできなかった。
頑張って歯を食いしばってここまで来た。
忙しい中、大学も言われた通り4年で卒業し
必死にここまで走ってきた。


何がダメだった?


何がいけなかった?


無我夢中で突っ走ってきてやっとここまでたどり着いて
そしてずっと会いたいと願っていた大野さんに出会えたと思ったら
住む世界が違うと言われて
絵を買うことも
好きでいることも
何もかも全て否定されてどうすればいい?




自分のやってきたことは何だった?




やってきたことはすべて無駄 だった?




涙があふれては流れ




あふれては流れ




そして、目の前が真っ白になっていく。

















「……く ん」

「……」

「しょく ん」


遠くから大野さんの声が聞こえてくる。


違う。


「翔 くん?」


大野さんじゃない。
智くんだ。


目をゆっくり開けるとそこには
心配そうにのぞき込む智くんの顔があった。


今までのは、全て 夢?


「翔くん、大丈夫?」


智くんが心配そうな顔で見つめている。
その顔はいつもの智くんの顔で
さっきまでの智くんの顔とは違う。


「……いや、俺8年分の夢見てたわ」

「8年分? 長くね?」

「ホントすげー長かった」


智くんはそう言ってくすくす笑う。
いつもの智くんだ。
その表情にほっとする。


全て夢だったのか。
とてもリアルで怖い夢。


何であんな夢を見たのだろう。


昨日はお互い珍しく朝ゆっくりだからと
酒を飲んだ後目覚ましもかけずに寝た事を思い出す。


「しかも、すげえうなされてたよ? 涙も」


智くんはそう言って、んふふっと笑う。
慌てて涙をぬぐいながら、ああ、いつもの智くんだと
そう、実感した。


「だって、智くんが酷いんだもん」

「俺ぇ?」

「そう。でも、夢だったからいーや」

「え~何? 何? 聞かせて?」

「いや、夢の話だし」

「翔くんがこんなうなされて、涙を流すなんて
よっぽどの事じゃない? 
俺がどんな酷いことを翔くんにしたか聞きたい」

「え~」


こちらの気持ちとは裏腹に智くんがワクワクした顔で言う。


可愛いんだけどね。


でもこの顔じゃ話すまで許してはくれないんだろうな。


そう思いながら時計を見るとまだ出る時間まで余裕があったので
仕方なく夢であった8年分の話を始めた。










「何か、わかる」

「わかる?」


話が終わると智くんは少し考えるような顔をして
分かるといった。


「だって、今のこの状況でもそう思うもん」

「こんなに長く同じメンバーでやってきてるのに?」


そんな事を言うなんて思わなかったから
びっくりして問い返す。


「うん、だって翔くんと俺とは全然違うもん。
翔くんはちゃんと大学も出てキャスターをやったり
毎日凄く勉強もしていてしっかりしているし」

「でも、智くんには俺にはない才能がたくさんあるでしょ?」

「それでも、やっぱ違うもん。
そう言えばこないだだって、なんかのテストで満点だったんでしょ?
もうそういうのが信じらんないんだよね~
頭の中どうなってんの?」


そう言って口を尖らす。
その顔もかわいいんだけどね。


「ああ、あれ。何かね、そうだったみたいだね」

「ああいうのを目の当たりにするたびに
俺とは違いすぎるって思うもん」


この人はいつもどこかコンプレックスが抜けないままでいる。
こんなに才能にあふれていてダンスも歌も素晴らしくて
ずっとジュニアの頃から憧れているのは変わらないのに、ね。


「でも、ごめんね。翔くんを苦しめちゃって」


そんなことを思っていたら智くんが
そう言ってやさしく頬に手をふれた。


「いや、智くんは全然悪くないんだけどね
俺が勝手に夢見ただけだし」


「でも辛い思いしたんでしょ、ごめんね」

「いやいや夢の話にそんな謝られると」


そんなに謝られるとちょっと困惑してしまう。


「翔くんだってこないだ夢の中で嫌なことをされたって言ってた女の子に
謝ってたでしょ?」

「でもあれは番組の話だし」

「それと一緒。だから、ごめんね」


そう言ってふんわりと包み込むように抱きしめてくる。
だから思いっきりぎゅうぎゅうとその華奢な身体に抱きついた。


夢の中の智くんにはとてもそんな事できなかった。


見えない大きな壁があって
智くんの視線がどこか冷めてて
智くんなのに智くんじゃなくて


そもそも何であんな夢を見たんだろう?


ここ最近続けて智くんが辞めたかったっていう話を聞く
機会があったからだろうか。
それがどこか頭に残っていたせいだろうか。


でも、ニノは? 
ニノは何なんだろう。
どこかニノに対しては智くんと二人の関係に
嫉妬していたのだろうか。


こんなに一緒にいるのにね。


そんなことを思いながら自分自身に苦笑いをしていると
智くんの方から顔を近づけてきてちゅっとキスをしてくる。


「でも、もし、翔くんが嵐にいなかったら、俺が泣いちゃう」


そして唇からゆっくりと離れるとそう言ってクスリと笑った。


自分が嵐のメンバーでなかったら智くんが泣く?
そんなことあるだろうか。
でもその言葉だけでも嬉しい。


「俺も智くんが嵐にいなかったら泣いてるよ」

「まあ、でもそんな生活も憧れるけどね~」


そう言って、んふふっと笑う。


「いやいや、困ります」

「そうですか?」

「当たり前です」


ずっと智くんと一緒にやってきて
智くんなしの嵐なんて考えられないのにね。
あの主旋律をつかさどる歌声、圧倒的なダンスパフォーマンス
バラエティ番組での存在感。
智くんもニノもいない嵐なんて嵐じゃない。
5人だから嵐なのにね。


智くんを見ると、クスクスと笑っている。


いつもの智くんだ。


今までずっと苦楽を共にし、一緒にやってきた智くんだ。


家族以上に一緒に過ごし強い絆で結ばれている嵐のオオノサトシだ。


「智くんが嵐で本当によかった」


そう言ってちゅっとその唇にキスをした。
唇が離れると智くんがいつものように
ちょっと照れくさそうに、んふふっと笑った。


その頬を包み込みながら、好きだ、とそう言って
ゆっくり顔を近づけていって
そして深いキスをして
そしてまたぎゅっと抱きしめあった。


顔を少し離しお互いの鼻をくっつける。
智くんがくすっと笑う。
そのまま額にちゅっとキスをして
頬に唇に首筋にとキスをして
そしてその綺麗な手の甲にちゅっとキスを落とす。


智くんがどうしたの? って顔で見る。
だから8年分の思いだよって言ってまた頬にちゅっとキスをした。


そしてゆっくりと智くんをベッドに押し倒し上から
その綺麗な顔を見つめる。
智くんが照れくさそうに目を伏せるから
その唇にむかってゆっくりと顔を近づけ
ちゅっとキスをする。


8年分の思いがあふれて止まらない。
どんなに見つめてもキスをしても抱きしめあっても
まだ全然足りない。


その綺麗な肩をむき出しにすると
がぶりと優しく噛みついた。


智くんが何? って顔をする。


足りない足りない足りない。


そう思っていたら智くんがゆっくりと起き上がって
反対に自身がベッドに押し倒される。
そして智くんがまたがってきたと思ったら
クスリと妖艶に笑った。


そして自分の思いを知ったかのように
今度は智くんの方からぎゅっと抱きついてきた。
そしてしばらくそのままでいたかと思ったら
ゆっくり身体を離し、目が合うとまたくすっと笑って
そして唇に唇を重ねる。


そして智くんの方から舌を絡ませてくる。
その動きに無我夢中でついていく。
何度も角度を変えお互いに求め合って
抱きしめあって



そしてやっと



自分の中の8年分の思いが



消化されていくのを



感じた。














おわり。



次回は、リクエスト頂いた話をアップ予定です♪



another 4

2016-05-07 21:56:00 | another







この人は本当に人の懐に入るのが上手な人だと思う。





昔から好きな人に対しては


とても甘え上手で人懐っこくて


いつの間にか仲良くなっている。


そんな人だった。





そして


それは大野さんに対しても例外ではなく


大野さんがいなくなる前の時も


そして今回も


とても8年ぶりに会ったとは思えない程


ニノは大野さんの懐の中にすっと入り込んだ。





二人の間には


8年の年月を感じさせないほど


和やかで穏やかな時間が流れている。


自分の時とはまるで違うその二人の空気感に


少しだけ嫉妬した。


そしてニノは


自分がどうしても聞きたくても聞けなかった事を


難なく大野さんから聞き出す。


その事にまた嫉妬した。







でも。







大野さんは事務所を辞めてから
世界各地を旅していたという。
それはもちろん8年間ずっとではなく


絵を描いて
ものを作って
バイトをして
お金が貯まると
また海外に行って
絵を描いて
物を造って
バイトして。


そして


時々仲間数人と場所を借りて
個展を開いて
創り上げたものを
披露して
売って
海外に行って
創作活動に励んで
それを形にして
世に出して。



そんな8年間だったらしい。


それを聞いて


大野さんらしいな、と思った。






でもその個展を開いている場所は
まだまだだから、と
教えてもらうことはできなかった。
そしてニノの元気な姿が見れて安心したと
満足そうにそう言うとまた目の前からいなくなった。


そして大野さんと会ってもうひとつ分かったことがある。


あの日。


8年ぶりに会えたあの日。


あの日は珍しく絵が売れたので
いつもは飲まないような所で祝杯をあげようと
一人で飲んでいたという。




絵が売れたからいつもは飲まないような所で祝杯


その言葉がいつまでも頭に残った。







そして少ない情報からあらゆる手段を駆使し
その場所を突き止める。
そしてスケジュールの合間を見つけその場所に行った。


やっと見つけ出したその場所。
その場所に一歩また一歩と足を踏み入れる。
独特の空気を感じた。


その中に人はまばらにしかいなくて
まだ世に名が知られていない作家さんたちの作品が
たくさん展示されていた。


その中に大野さんの絵があった。
その絵の前に立つ。
絵を見つめていたら8年分の思いがこみあげてきて
涙が出そうになった。


何でここまでこの人のことを思うのか。
自分でもわからない。


ただ。


昔からこの人の描く絵が好きだった。
そして描いている姿を見るのが好きだった。


デビュー前はよく大野さんが絵を描いていると
ずっとそばに座ってその絵を見ていた。
そしてその描いている姿を飽きることなく
ずっと眺めていた。






そこには大野さんの作品が5点ほど飾られていた。
大野さんらしい絵。
本当は全部欲しい。


でもそれだと他の人の目にさらされることがなくなってしまい
大野さんのチャンスを潰すことになってしまうかもしれない。
そう思い1枚だけ選ぶ事にした。


じっくり眺めて


考えて


見つめて


悩んで


慎重に慎重に選ぶ。






そしてその後も個展が開かれていることを知ると
必ずその場所を突き止め訪れ1枚だけ購入し
そして8年ぶりに偶然会ったあの場所を訪れた。


大野さんに会えることはなかったけど
部屋に大野さんの造り上げていったものが
一点、また一点と増えていった。


そして今日もその場所を訪れる。


大野さんの描いた絵を


見つめて


悩んで


考えて


眺めて


一つだけ作品を選ぶ。


どのくらいの時間そうしていただろうか。


はっと後ろに気配がして後ろを振り向くと
大野さんが立っていた。


「……」

「翔くんだったんだね?」


驚いて何も言えないでいると
大野さんが静かにそう言った。


「……」

「不思議だったんだよね」


どういう意味だろうと見つめると
大野さんがゆっくり話し出した。


「あれから個展を開くたびになぜか確実に売れる」

「……」

「何でだろうってずっと不思議だった。
けど、翔くんだったんだね」

「……」


何といって答えればいいのかわからず
その静かに語りかける美しい顔を見つめる事しかできない。


「……買っては ダメ だった?」

「ダメなんて言ってない。
ただ本当に欲しくて買ってるのか疑問なだけ」

「……」


大野さんが静かにそう言う。
そんなの本当に欲しいからに決まってる。
でもそう言いたくても声が出ない。


「同情で買うならやめて欲しい」


その顔はなんだか怒っているみたいだった。
もしかして大野さんは勘違いしているのだろうか。


違うのに。


ただあなたの描いた絵だったから
あなたの絵がずっと好きだったから
あなたの事がずっと好きだったから


欲しかった。


大野さんが真っ直ぐな視線で見つめてくる。












大野さんが窓から外を眺めている。






真正面に見える東京タワーを見つめて


立ち並ぶ高層の建物を眺めて


煌びやかな街を見下ろして


その横顔はとても綺麗だ。


東京の街はキラキラと瞬いている。


ここは高層マンションの最上階にある自分の部屋の中。


大野さんが外の景色からゆっくりと視線を外し振り返った。


そして小さく微笑む。


その綺麗な顔に目が離せない。


そして世界が違う、と言ってふふっと笑った。


世界が違うって? と、意味かわからなくて聞き返すと


今の俺と翔くんでは住む世界が違すぎるよね、と


そう言って、またその綺麗な顔を向け


そして微笑んだ。







次回ラストです~。












セカムズで嵐。というか、山。




社長は、そのまま大野さん。
秘書は翔くんで、運転手さんは相葉ちゃん。
みさきは、そのままはるさん。
松潤は三浦で、ライバル会社社長はニノちゃん。


翔くんはまんまできる秘書。
相葉ちゃんは、優しくてお茶目で大野社長とは
犬を飼う話で盛り上がったり何かと気が合う。


みさきは、新入社員としてはいって来たばっかりで
まだ恋愛とか全く眼中にない。
松潤は軽そうに見えて意外と鋭く周りの状況をよく見ている。
ニノちゃんは、仕事はできるが恋に対しては全然ダメな
大野さんの事を見て密かに面白がって楽しんでいる。


大野社長は新入社員で入ったみさきにある日一目ぼれ。
翔くんと相葉ちゃんは、大野社長の恋を知り
恋が成就するよう日々叱咤激励しながらも応援していた。


一方、ニノちゃんはその恋の行方を楽しみつつも
常日頃からこのできる秘書、翔くんの事を
高く評価し興味を持っていた。
そこで翔くんを呼び出す。


そしてその中で優秀な秘書であると確信するとともに
大野社長の事をただの社長としてだけではなく
一人の人間として深く思っていることを感じ取る。
ニノちゃんはますますそんな翔くんのことが
気になり一緒に働きたいと思うようになる。


その話を耳にした大野社長はふと考える。
才能やセンス、そして経営能力でここまで会社を大きくしてきたけど
それは決して自分自身の力だけではなかったのではないかと。


翔くんが事前に根回しし事が運びやすいようにしてくれ
また秒単位でのスケジュールを一寸のくるいもなく
管理をしてくれていたおかげなのではないかと。
そして今まで当たり前のようにずっとそばにいて
見守ってくれたがそれは決して
当たり前の事ではなかったのではないかと。


一方、そんな事は露とも知らない翔くんは相変わらず
大野社長の恋を見守り協力を続けている。
しかし翔くんの心の中にもやもやする感情が
生まれてきていることに気付き始める。


うまくいきそうになるにつれそのもやもやは
だんだんと大きくなってくる。
翔くんはこのままでは大野社長に迷惑がかかってしまうと思い
ニノちゃんのところに行く事を考えた方が
いいのかと思い悩みはじめ…



山だとこんな感じかな~? と。