yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

山 短編8 (シェアハウス) その後4

2016-03-31 17:35:20 | 短編





遅くなりました。
風邪をひいたり花粉症だったりで
近いうちにと言っていたのですが
あっという間に一か月が過ぎてしまいました。
書けない時はどうにもダメですね。
すみません。









兄ちゃんと大野さんが一緒に暮らし始めて


もうすぐ2年がたつ。


二人の住むシェアハウスは


とても居心地がよくて大好きな空間だ。


兄ちゃんと一緒に暮らしている大野さんは


男の人だけど綺麗と言う言葉がぴったりで


目が合うとドキドキしてしまう。


そんな大野さんと兄ちゃんの間には


見えない絆のようなものが感じられて


何だかちょっと妬けてしまうけど


ここの空間も大野さんのことも大好きで


兄ちゃんに嫌がられてもウザがられても


毎週のようにこの場所にきていた。




大好きな人。


大好きな場所。




ここに来ればそれがずっとあるものだと思っていた。




そう。




あの時まではこの大好きな空間が




なくなってしまうなんて




思いもしなかった。
















春休みに入った日曜の午後
父さんが兄ちゃんを家に呼び出した。
こんなことは今までなかったので何だろうと思いながら
陰からこっそりと様子をうかがう。


父さんの機嫌はあまりよくないようだ。
その父さんの顔を見ているだけでも
何を言われるのだろうとこちらまでドキドキしてしまう。


兄ちゃんも何を言われるのだろうと
緊張しながら父さんの顔を見つめている。
父さんは兄ちゃんを正面のソファに座らせると
ゆっくりと口を開いた。











「……!」


って、今、もしかして家に戻って来なさいって言った?
嘘だろと思いながら二人の会話に耳をすます。


兄ちゃんは、何で今更そんな事を言うのかとか
せっかく慣れてきて上手くやってるのにとか
一生懸命訴えてるようだけど父さんは
一切聞く耳を持たないようだ。


そして父さんは兄ちゃんの顔をじっと見たと思ったら
兄ちゃんたちの暮らすシェアハウスが
最近たまり場と化していているのではないかと言った。


そしてそのせいで日常生活が乱れることや
大学生活にも影響が出てくることが
心配なのだと言った。


たまり場?
大学生活に影響?


確かに最近あのシェアハウスには兄ちゃんの友達が
毎週のようにやってきて盛り上がっている……気がする。
それが父さんに伝わってしまって
シェアハウスを解消するように言われてしまっているのだろうか。


兄ちゃんは何とか弁明し継続させてもらえるように
頼んでいるみたいだったけど父さんは
兄ちゃんに春休み中にシェアハウスは解消し
家に戻ってくるようにと告げそこで話は終わってしまった。


兄ちゃんは悔しさからかじっと前を見つめたまま
ぐっとこぶしを握り締めていた。







この家では父さんの意見はいつでも絶対だ。


父さんがこうと決めた事には皆それに従わなくてはならない。
という事は、あのシェアハウスが
なくなってしまうってことなのだろうか。


そしたらもう大野さんには会えないって事?
そんなの嫌だ。


いや、違う。大野さんに会う事は出来る。
でもあのシェアハウスでの大野さんに
会えなくなってしまうのが嫌なのだ。


シェアハウスでの大野さんは綺麗で優しくて
いつもソファでのんびりとくつろいでいて
話しかけると、なあに?と言って優しく微笑んでくれる。


リビングで勉強をしていて分からなくなると
俺なんかより翔くんに聞けばいいのにと言いながらも
一生懸命一緒に考えてくれる。


優しい日差しが差し込むあの部屋の中で
まったりとしながら一緒に飲み物を飲んだり食べたり
ソファに並んで座りながらゆっくりテレビを見たり
時には一緒にテレビゲームをしてくれたり
そんなシェアハウスで見る大野さんが好きだった。


そして何よりも


兄ちゃんと大野さんの2人の間に流れる
優しくほんわかした空気に一緒に包まれ
自分までゆったりとした気分になれるのが
すごく好きだった。


その空間がなくなってしまう?


そんなの絶対嫌だ。













「兄ちゃん」


父さんとの話が終えシェアハウスに帰ろうとする
兄ちゃんを呼び止めた。
兄ちゃんはぐったりとしていて顔色が悪い。


「俺、あの場所がなくなっちゃうだなんて嫌だ」

「俺だってヤダよ」

「でも、どうするの?」

「どうするって…」


この家では父さんの意見がいつだって絶対だ。
父さんがシェアハウスを解消し家に戻って来いと
言われたのならそれに従うしかない。
そんなことわかってる。
でも嫌なんだ。


「何とかしてよ」


思わず兄ちゃんにそうつぶやいた。











「おかえり」


家に帰ると智くんがリビングのソファに座って
お帰りと言ってにっこりと笑って迎えてくれる。


いつもの風景。


いつもの智くん。


「ただいま」

「……」


だからいつもと同じように答えたはずなのに
智くんが何かを感じたのかじっと見つめてくる。


何でもないふりをしたのに
いつものようにふるまったつもりなのに
バレてしまったのだろうか心配そうな顔をしている。


「何か言われた?」

「……ううん」


本当は智くんに告げなくてはいけないのだ。
この春休み中にシェアハウスを解消し
自宅に戻らなくてはいけなくなったと。


智くんの顔を見るといつものように智くんが優しく見つめ返す。
そんな事言えるわけなかった。
智くんは何か言いたそうな顔をしていたけど
そっかと言ってそのまま何も言わなかった。












手を洗い着替えをしリビングに戻るとソファに座った。


静かな時間が流れていく。


この時間が大好きだ。


お互いがお互いの気配を感じながら一緒に過ごす時間。
一緒に何かをするわけでもない
一緒にテレビを見て笑ったりするわけでもない
一緒にゲームをする訳でもない。


ただ同じ空間にいてお互いがお互いの気配を感じながら
課題をやったり好きなことをしながら静かな時間が流れていく。
この時間がたまらなく好きだ。


その生活が終わる?


そして実家に戻って家族と一緒に暮らす?


智くんがいない生活にはたして自分は耐えられるのだろうか。










夜になるとそろそろ寝よっかと言っていつものように
簡単にかたずけをして二階に行く準備をする。


いつもと変わらない光景。


いつもと変わらない智くん。


でも。


ベッドに入るといつものように智くんが
一緒に入ってきて猫みたいにくっついて眠る。


いつの頃からだっただろうか。


最初の頃は緊張して身体が触れないようにと
気を遣いながら寝ていたから全身がカチコチになって
起きたら身体中が痛かった。


でも今では身体が触れても自分のではない寝息が聞こえても
それが当たり前になってしまってなくてはならないものになっている。










「……お父さんに何か言われた?」

「……え?」


そんな事を思っていたら智くんが上を見つめたまま
静かにそう聞いてきた。


「今日帰ってきてからずっと暗い顔しているから」

「……」

「もしかして家に帰って来いって言われた?」

「……!」

「やっぱそうじゃないかと思った」

「……え?」

「俺も考えていた事だったから」


驚いて何も言えないでいたら
智くんが天井を見つめたままそう言った。










「いつまでも厚意に甘えていたままじゃ
いけないんじゃないかって思ってたんだよね」


そう言って顔をこちら側に向ける。
その顔は何か決意したような顔をしていた。


「つい翔くんとの生活が楽しくって幸せで
先延ばし先延ばししてきちゃったんだけど
ここは翔くんのお父さんとお母さんのご厚意で
できていた生活なんだよね。
だから甘えたままじゃだめだったんだよね」


智くんの楽しくって幸せという言葉に
胸がジンと熱くなる。


でも。


でも、違うのだと。



「甘えるって言ってもここのお金はずっと
お姉さんが毎月払ってくれてるんだよ」

「そうなの?」

「そう、うちの親はいいと言ったらしいんだけど
海外暮らしの時はもちろんお姉さんが帰国してからは
毎月毎月自宅までわざわざ持ってきてくれてるって」

「そうなんだ」

「だから父としては余計俺の友達が入り浸って
智くんに迷惑がかかってしまっているんじゃないかって
申し訳ないみたいで、それで…」


そう言うと智くんはそんなの全然気にしてないのにねと言って笑った。


そうなのだ。
こうなってしまった根源は自身のせいなのだ。
自分がちゃんとしなかったせいでこうして
智くんにまで迷惑がかかってしまっている。


「俺はずっとここで智くんと一緒に暮らしたいと思ってる」

「……」

「いや別にここでじゃなくってもいい。
智くんとこのままずっと一緒に暮らしていきたい」

「……」


智くんが何も言わずじっと見つめてくる。
思わず自分自身の言ってしまった言葉に恥ずかしくなって
赤面していると智くんが目を見つめたまま
ゆっくりと手を伸ばしてきた。
そしてゆっくり優しく頬に触れると俺もだよと言ってふふって笑った。













いつものようにベッドに一緒に入って
おやすみと言ってその可愛らしい唇にキスをする。


そしてお互い天井を見ながら話をしていると
だんだん智くんの返事が緩やかになってきて
静かな寝息が聞こえ始めてくる。


その静かな寝息を聞きながら
自分自身も深い深い眠りへと落ちていく。
そんな毎日。


そんな智くんとの生活を失いたくない。









智くんが両手で頬を包み込んできて
智くんの方から唇を重ねてくる。


唇が、顔が、身体が熱くなる。
唇が重なって、智くんの存在を感じて
愛おしくて切なくて泣きそうになる。


唇がゆっくり離れる。
唇に智くんの唇の余韻が残る。


失いたくない
智くんも
智くんとの一緒に過ごすこの時間も
この場所も。


そう思いながら角度を変え今度は自分からキスをする。
お互いがお互いを求めあって
そして何度もキスを繰り返す。


きつく抱きしめ合って
見つめ合って
またキスを交わして


もう智くんと一緒でない生活なんて
考えられなくなってしまっている。








そうだ。父に伝えよう。
たとえ聞いてくれなくても頼んでみよう、何度でも。
何で最初から諦めてしまっていたのだろう。
この生活を失わないために、絶対諦めない。


智くんにその思いが伝わったのか
翔くんに任せるからと言って背中に腕を回してきて
顔をうずめぎゅっと抱きついてきた。
だから大丈夫だからと、そう言って
その華奢な身体をきつく抱きしめ返した。








それから。


何度も実家に帰り父に頼んだ。


父の表情は相変わらず固い。


そう、この人はいつだってこうと決めたことは
曲げない人なのだ。
だからうんと首を縦に振らないのは百も承知だ。


でも。


毎日父が帰ってくる時間に実家に帰り
父に話をした。


今までの生活を改め二度とあの場所で飲み会はしないと。
そして以前から言われていた院への進学をし
そして取っておいた方が言われていた
資格も必ず取ると約束した。


父の意見はいつだってこの家では絶対で
家族みんながそれに従ってきた。


だから多分父の意見をきかなかったのは
この時が初めてだったと思う。


でもこれだけは譲れない。






あまりにもしつこく頼んだせいか


必死さが伝わったせいなのか


とうとう父が


半年の期限付きで折れた。











「お帰り」


いつもの風景。


いつものように智くんがそう言って迎えてくれる。


「うまくいった」

「ホント?」

「半年の期限付きだけど」

「半年…」


そう言うと智くんの顔が曇った。


「いや半年で結果を出せって意味」

「前期の成績とか?」

「そう。だからこれから死ぬもの狂いで頑張る」

「そっか。大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。それに親父も一緒に暮らせって言ったり
帰ってこいって言ったりさすがに自分でも
勝手すぎると思ったんじゃねえの
意外とあっさり引き下がってくれたから」

「ふふっあんなに毎日通ってあっさり?」


智くんがクスクス笑う。


「あの親父にしてはあっさりのほうだよ」

「翔くんのお父さんって頑固?」

「そう昭和の頑固おやじ」


その頑固親父を納得させるため
そしてこの生活が続くためだったらトップにだってなる。
何も言わせないくらいの状況をつくってやる。


「でもここでの宴会はできなくなってしまうけどね」


そう言うと智くんは俺はいいけど相葉ちゃんは
泣いちゃうかも知れないねと言った。
でもここは仕方がない。
みんな言えば絶対わかってくれる。









「こんにちは~」

「って、何またお前来てんだよ」

「なに~?」

「なに~? じゃねえよあの兄ちゃんの
必死な訴えを聞いてなかったのかよ」

「へ?」

「へ? じゃねえよ。もうここでは遊ばないの」

「でも俺は弟だし勉強しに来てるわけだから関係ないもん」

「は? って何ニコニコ笑ってんだよ」

「だって嬉しいんだもん」

「……?」


知らないでしょ?


ここが俺にとってもどんなに大切で重要な場所なのかって。
兄ちゃんと大野さんがここで暮らせるようになって
どんなに嬉しいか兄ちゃんわかってないでしょ?


そのために俺だって父ちゃんに散々訴えたんだよ?
せっかく慣れてきたのにかわいそうだとか
家を離れてすごく優しくて頼もしくなったとか
勉強も見てくれるようになって成績が上がったとか
掃除や洗濯も料理もちゃんとしてるって。


「って、何、お前智くんの手ぇ握ってんだよ」

「大野さん、兄ちゃんが出ていかされたら
俺が一緒に暮らしてあげる」

「は? 何言ってんだよ、何で俺が出ていかされるんだよ?
しかも何でお前が一緒に暮らすんだよ」

「いいじゃん」

「よくねえよ。もうお前帰れよ」

「今来たばっかでしょ~」


兄ちゃんは知らないだろうけど父さんに
散々兄ちゃんの事を褒め倒してここで暮らせるよう
応戦してたんだぞ。


大野さんが俺たち二人の言い合ってる姿を
おかしそうにクスクス笑いながら見ている。


その大野さんの笑った顔を見て何だか嬉しくなる。


大野さんが好き。


大野さんの笑った顔が好き。


でもそれより何より二人の間に流れる


優しくて甘い雰囲気の中に一緒にいるのが好き。


二人のシェアハウスが続いてよかった。









ベッドに入ると智くんが見つめてくる。


「……ん?」

「やっぱここで翔くんと暮らせることになってよかったなって」

「ふふっ俺もだよ。
でもさ、今思うと親父ははめを外しすぎるなよって
くぎを刺しただけだったのかなって思うんだよな」

「そうなの?」

「うん、あんなにあっさり引き下がったし。
親父にとって智くんは大切な人の息子さんだから
大事にしろって言いたかったんじゃないかなって思うんだよね」

「んふふっそんなもんですか? 
全然あっさりには見えませんでしたけど」

「ふふっそんなもんです。あれでも」


そう言ってお互い顔を見合わせながら笑った。








身体を起こし上から智くんを見つめる。


下にいる智くんと目が合う。


「智くん好き」

「俺も、好き」


二人でいつものように


お互い言いあって


見つめあって


笑いあって


そして




キスをした。










おわり。

山 短編8 (シェアハウス) その後3

2016-02-16 22:08:00 | 短編





2014年にかいた話の続編です。


ここには色々な山がいて


リアルの2人であったり
高校生だったり
大学生だったり
高校生と教師だったり
会社員と高校生だったり


なので少しわかり辛いかも? と
ちょっと不安でもありますが。。






山 短編8 その後3







ここは二人だけのシェアハウス。









穏やかで


ゆっくりした時間が


静かに流れている。








はずだった。






なのに






なぜだかここの家には人が集まってくる。








「翔ちゃーん、ビールおかわり」

「翔くん、俺もお願い」

「翔さん、俺も~」

「は? 俺は居酒屋の店員か?」


席を立とうと思った瞬間。
待ってましたとばかりに次々に注文してくるから
そう文句を言って仕方なく飲み物を取りに
冷蔵庫へと向かった。


この家に暮らし始めて2年。
ここは智くんと二人だけのシェアハウス。


でも。


この二人のシェアハウスには
なぜだか次々と人が集まってくる。


弟の修也。
中学から一緒の新美。
そして、この3人だ。


いや、もしかしたらここに住んでいる事を
口止めしているからこれだけですんでいるだけで
もし知られてしまったら、もっとたくさんの人が
集まってくるのかも知れない。









「ここは居心地がいいね~」


飲み物をテーブルに持っていくと
相葉ちゃんが嬉しそうにそう言った。


「そうですね、部屋の大きさも丁度いいですし」


ニノはその言葉にうんうんと頷き答える。


「確かに、やけに落ち着くんだよなぁ」


そして松潤はソファに寄りかかりながら
グラスを傾けそうつぶやいた。


このゆったりとくつろいでいる三人の姿を見つめながら
彼らがこの家に遊びに来るようになったのは
いつ頃からだっただろうかとふと思った。






「何だかここに住みたくなっちゃった~」

「いいですね。みんなで一緒にここに住みますか?」

「そうだな、それも楽しそうだな」


三人はやけにリラックスしていて飲みながら
口々に言いたいことを言っている。
って言うか、今みんなで一緒に住むとか
楽しそうだとか言ってなかった?


「ねぇ、翔ちゃんはどう?」

「どうって…」

「いいんじゃない?」

「いいねぇ」


その言葉に、困惑していると
二人がそれはいいアイデアだと言わんばかりに
代わりに答える。


「あっそうだ。俺、いい事思いついちゃった。
あのね、表を作るの」

「表?」


相葉ちゃんの言葉に二人が興味津々な顔をして聞く。


「そう。ほら松潤は料理が得意だけど毎日だと
嫌になっちゃうかも知れないでしょう?」

「まあ、そうだなあ」


相葉ちゃんがウキウキした顔で話すと
松潤がうーんと考えながら答えた。


「だからね、お掃除当番、ゴミ出し当番、買い物当番、
料理当番、洗濯当番って書いた表を作るの」


そして相葉ちゃんの説明に二人がうんうんと真剣な顔で聞いている。


「ほら、小学生の時なかった?
まあるい表に各自の名前が書いてあって
その中に各当番の箇所が書いてあるの」

「あ~あったね」


そして話はどんどん進んでいく。


「それで毎日それが回転していくんでしょ?」

「そ~それ」

「そうだな、それだったら平等だしな」

「いいかもしれませんね」

「ね、翔ちゃん?」


三人で盛り上がってっけど
全然、ね、翔ちゃんじゃねえから。









「何、勝手に決めてんだよ?
っていうか一体どこに寝るんだよ?」

「どこにって上に二つ部屋があるでしょう?
だから俺はおおちゃんと一緒の部屋で寝て
にのと松潤が翔ちゃんの部屋で寝るの」

「は?」


相葉ちゃんは智くんを見て嬉しそうにそう言った。
って、やっぱり勝手に決めてるし。


「勝手に決めてんじゃありませんよ。
大野さんの部屋はワタクシと二人で」

「何でよ?」


そう文句を言おうかと思ったらニノが先に
相葉ちゃんに文句を言った。
っていうか、ニノも勝手に決めてるし~。


「だってあなたと大野さんと一緒にしたら危険でしょ?」

「危険って何よ?」

「危険は危険て事ですよ。だから安全なワタクシと」

「いやいやそれを言ったらニノの方が危険でしょう~?」

「何で俺が危険なのよ? 俺は紳士よ?」


二人がやいのやいの言い合っている中
智くんは楽しそうにクスクス笑いながら見ている。
かわいいんだけどね。
でも呑気に聞いてるけど話の当事者だってことを
本人ははたしてわかっているのだろうか。


「どこがよ? 今だっておおちゃんの膝の上に置いているのは何?」

「手ですけど、何か問題でも?」


何ですと!?
いつもニノが智くんのお隣に座りたがる理由が
わかったような気がした。


「大いにあるでしょっ。それにニノと一緒の部屋にしたら
おおちゃん襲われちゃいそうっていうか食べられちゃう」

「失礼なっ。そんな事する訳ないでしょう? 俺は紳士なんだから」


そんな不安をよそに智くんは2人のやり取りを
んふふって可愛らしく笑いながら見ている。
可愛いんだけど、心配過ぎる。
そう思いながら智くんを見つめた。







「いやいや、そこは間をとって俺が大野さんと一緒の部屋で」

「何で松潤が間なのよ?」

「そうですよ、しかもこういう一番紳士っぽいやつが一番危険なんですから」

「一番危険ってなんだよ?」

「もう、何、ありもしねえことで言い合ってんだよ」


二人が言い合っていたかと思ったら
松潤までそう言って参戦してくる。


「え~ありもしないって、みんなで住んだら毎日楽しそうなのに」

「そうですよね~」


二人ががっかりした顔でそう言う。


「何なら俺、当番関係なく毎日メシ作るぜ」

「もう、ダメに決まってるでしょ?」

「え~でもおおちゃんはいい話だと思わない?」

「ふふっ」


松潤までそんな事を言ってくるからダメだと言うと
相葉ちゃんが諦めきれずに智くんに聞いている。


「ほら翔ちゃん、おおちゃんはいいって」

「言ってねえから」

「もっ翔ちゃん冷たい」

「冷たいじゃねえから」


まったくもう。
どいつもこいつも。







「だってさ、なんか楽しいんだもん。
久々にみんなと会えてこうしてまた集まって」

「そうだよな」


相葉ちゃんが急にしんみりとなってそう言うと
松潤がお酒を飲みながらそうだと同意する。


「俺ら中学校ぐらいまではよく遊んでたけど
あんま遊ばなくなっちゃったもんな」


ニノもしみじみとそう言った。
確かに高校になってからこの4人であまり遊ばなくなっていた。


「だからさ、こうして再会して
こんな風にみんなで会うようになって何だか嬉しいの」

「確かにな」

「そうですね。俺らは翔ちゃんと違って
付属であがんなかったから大学もバラバラですし」

「そうそう。でもたまたま俺と相葉ちゃんがばったり会ってね
ニノや翔くんはどうしてるかなって話になって」

「そう。で、翔ちゃんがここでシェアハウスしてるって聞いて
それでここに集まるようになったんだよね。
これって運命じゃない?」


そうだった。ここでシェアハウスをしていると
三人が家族から聞いて遊びに来たのが始まりだった。
それからみんなの都合が合うとここにきて
智くんもまじえてみんなで飲んだり食べたりが
恒例になったんだっけ。


「だって、嬉しいんだもん。松潤がおつまみ作ってくれて
みんなで食べて飲んでわいわいして」

「確かに、こんな日が毎日だったら楽しそうだな」


二人が嬉しそうに言った。


「そんなの毎日だったら飽きるよ」


確かにみんなと暮らしたら最初は楽しいかもしれない。
でも、毎日となるとそれは生活になる。


「翔さんは大野さんと毎日一緒にいて
この生活に飽きているんですか?」

「……え?」

「大野さんはどう?」


ニノが突然そんな事を聞いてくるから
答えられないでいると
智くんにも同じ質問をする。


「んふふっどうかな?」


それを智くんはそう言って、んふふっと笑って
誤魔化したようにみえた。










「はぁ~やっと帰ったね」

「んふふっ。やっとって」

「やっとだよ~みんな全然帰りたがらないんだもん」

「確かに相葉ちゃんなんて帰りたくないって
泣いてたもんね~」

「ふふっそうそう。可愛いんだけどね」


3人が帰るとそう言って二人で笑った。




あの日。
父から突然智くんと一緒に暮らすように言われて
最初は戸惑いがあった。
でもお互い趣味も性格も何もかもが違うけど
一緒にいる事が自然で
今となっては一緒に暮らしている事が
当たり前の様になっている。


でも。


智くんはどうなのだろうか。
この生活をどう思っているのだろうか。
もしかして飽きているのだろうか。
ニノに聞かれて智くんが誤魔化すように
どうかなと言っていたのがずっと気になっていた。








夜も更けもう寝ようかとどちらからともなく言って
2階に上がりベッドに一緒に入る。
そして二人で同じベッドに並ぶように横になった。


「……ね?」

「ん?」

「智くんはここでの生活に飽きた?」

「……え?」


毎朝、一緒に起きて
朝ご飯を一緒に作って、食べて
大学がある日は大学に行って
バイトのある日はバイトに行って
休みの日は家にいる日もあるけど
一緒に買い物に行ったり出かけたりもする。


そして家に帰ってくると
一緒にご飯を作って、食べて
食後はリビングでお互い好きなことをしながら過ごして
夜になったら一緒にベッドに入って眠る。


こうやって誰かしらが遊びに来る事はあっても
基本は単調で変わらない。


「んふふっ飽きないよ」


智くんが不思議そうな顔をしてそう言った。


「ほんと?」

「うん、翔くんは?」

「俺も飽きない。何でだろうね?」

「う~ん。もうそれが生活の一部になっちゃってるからかな?」


智くんがうーんと考えながら答える。


そう、確かにこの生活が自分たちの生活の一部になってしまっている。
でもだからってつまらないとか飽きたとかいうのではない。









「智くん、好き」

「俺も、好きだよ」


身体を起こしその綺麗な顔を見つめた。
智くんもじっと見つめてくる。
そのままゆっくり顔を近づけていって
その唇にちゅっと触れるだけのキスをした。


キスも飽きることはない。
いつもドキドキして
顔が、身体がかっと熱くなる。


毎日一緒のベッドに入って眠ることも
智くんの静かな寝息の中に深い眠りに落ちっていくことも
夜中にふと目が覚めて隣を見ると智くんがいてほっと安心することも
それが生活の一部になっている。


いや、違う。
生活の一部なんてもんじゃない
生活の全てになっている。


毎日キスしていてもキスをしたくなる。
毎日その身体を抱きしめていても抱きしめたくなる。
もう、自分の中で智くんなしの生活なんて考えられなくなっている。


「智くんとずっと一緒にいたい」

「うん、俺も」


智くんのその綺麗な顔を見つめながらつぶやいた。


何でだろう?
飽きるどころかますますその思いは強くなる。
もっと一緒にいたい
キスをしたい
抱きしめたいと。


でも、そう思う事に本当は理由なんてないのかも知れない。











「あ~あいつら本気でここに住もうと思ってそうで怖い」

「怖いって」


そう言うと智くんは可愛らしくくすくす笑う。


「結構本気っぽいんだよなぁ」

「んふふっまあそれはそれで楽しそうだけどね~」

「え~やだよ」


今だって修也やら新美やらあいつらやら
入れ代わり立ち代わり来てんのに
これ以上二人の時間を邪魔されたくない。


「でも、それは翔くんの人徳じゃない?」

「違う違う」

「そうかなあ?」


そう智くんは言うけど違う。
みんな智くん目当てなのだ。
修也や新美はもちろん相葉ちゃんもニノも松潤も。


智くんは人を惹きつける何かを持っていると思う。
もっと一緒にいたいと思わせる何かがある。
現に自分がそうだったからわかる。


「智くん、好き」

「俺も好きだよ」

「ふふっありがと」


そう言って、キスをした。


そう、智くんが好きだ。
だからたくさんキスをしよう。
好きだからぎゅっと抱きしめ合って
そしてお互いの体温を感じ合おう。


そうだ。単純な事なのだ。
好きだから、ずっと一緒にいる。
好きだから、ずっと一緒にいたい。


智くんを見つめた。
智くんもじっと見つめてくる。
智くんの額に、頬に、唇にとキスをおとした。






唇がゆっくりと離れて


お互い見つめ合う


その身体をきつく抱きしめて


また見つめ合って


そして


唇と唇を重ねて


深いキスをする。






好きだとつぶやいて


その身体をぎゅっと抱きしめ


その額にちゅっとキスをして


おやすみと言う。





すでに深い眠りに入ってしまった


智くんに愛していると


頬にキスをして


その綺麗な寝顔を見つめる。





そして


その規則正しく奏でる寝息を聞きながら


ゆっくりと瞼を閉じて


そのまま深い深い眠りへと


堕ちていく。









それが、智くんとの日常。











山 短編11 ショウサイドストーリー5 完

2015-10-06 18:27:23 | 短編




視線は間違いなく重なっている。


その人の視線を感じながら


『好きだ』 と


そう、つぶやいたら


その人の表情が一瞬、変わった気がした。








いつもクールに向けられる視線。


視線が重なっても


手を振っても


それは変わらなかったはずなのに


今は、どこかちょっと違う。


ちょっとびっくりしたような


ちょっと慌てているような


そんな表情で、なんで?って顔をして見つめてくる。







その視線を、そのままそらす事なく見つめた。


そしてその次の日も、そのまた次の日も


毎日、視線が重なるとその人に向け


その人の視線を感じながら






『好きだ』 と







つぶやいた。















普通の学校生活。


普通に毎日高校に通って
普通に勉強して
普通に友達がいて
普通に彼女がいる。


そんな普通の毎日。


高校に入学してから。


そして高校を卒業するまで。


いや、大学でも。


彼女や友達の顔ぶれは変わったとしても


それは、ずっと変わらないと思っていた。





でも、その人に会って





変わった。












坂を登っていく。


あともう少し。


そう思いながら、視線をあげる。


その人と目が合った。


視線は重なっている。


視線が重なったまま、その人に向けて


『好きだ』 とつぶやく。


「……」


「……」


そのまま見つめていたら、その人の姿がぱっと消えた。


「……?」


どうしたんだろう?


そう思った瞬間。


昇降口からその人がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。


そして目の前までくると真正面に立った。









「……」

「……」

「……なんて」

「……」

「何て言ったの?」


慌てて走ってきたのだろう。
その人は顔を真っ赤にして
はぁはぁと息を弾ませながらそう言った。









いつもその人の顔を見るとドキドキしていた。
その人と視線が合うと胸が高鳴り苦しいくらいだった。


そして初めて話せた時はドキドキして嬉しくて
自分自身どうにかなってしまいそうだった。


そしてドキドキしながらその人に向けて、手を振った。


でも今は。


自分でもびっくりするくらい
心が穏やかで、落ち着いている。


何て言ったの? とのその人の言葉に


「オオノ サトシが好きだ」 


そう、その人の目を見つめながら答える。


「……うそだ」

「うそ」

「……」

「……好きだってだけ」


よほど急いで走ってきたのだろう。
まだ、その人ははぁはぁと息を切らしながら
大きく目見開いた。


「……なんで?」

「なんでって好きに理由なんてないでしょ」

「なんで?」

「やっぱ伝えたいなって思っただけ」

「なんで?」

「なんでしか言わねえし」

「……」


その人がびっくりした表情を浮かべながら、なんで? なんで?
と聞いてくる。
その可愛らしい姿に思わず笑みが浮かんだ。


「返事は? OK?」

「……」


そういうと、その人がこくりと頷いた。


そう。


あの自分にまっすぐ向けられる視線。









もしかして





もしかしたらって思ってた。






「だと思った。
じゃ明日から8時10分北口な」
















電車を降りる。
時計を見ると8時5分だ。
約束の時間まであと5分。


他の生徒たちが次々に改札口に向かって歩いていく。


本当に来るだろうか?


そんなことを思いながらゆっくり改札口に向かう。


いた!


北口を出たすぐのところにその人が背を向け立っていた。


ゆっくり近づいていく。


もう、ほかの生徒たちは学校に向かって歩いていて


人影はまばらだ。


優しくポンと肩をたたくとびくっと肩を震わせた。


そんなに驚くことかな?


「待った?」


そう話しかけるとその人は、ううんと首を振った。


「じゃ、いこっか」


そう言ってあまり人もいなくなった


坂道を二人、肩を並べ歩き出した。






……って。
今になってドキドキしてきた。
多分顔は真っ赤になっている。


なんで今まで全然平気だったのが自分でも信じられないくらい
ドキドキが止まらない。
緊張して声を出そうにも震えてとてもじゃないけど
話出せそうもない。


その人が何かを察したのか不思議そうにこちらを見る。


慌ててなんでもない、なんでもないとごまかした。


それにしても、なんだ? このとんでもなく緊張するシチュエーション。


自分で言った事とはいえ
それに今までの彼女とは普通に何でもないことのようにしてきた事とはいえ
なぜか無性に緊張してきてドキドキが止まらない。


何を話していいかも
どんな顔で話かけたらいいのかももはやわからない。


緊張して、ドキドキが止まらない。


その緊張感が伝わってしまったのか
それとも何も話してこないのを不審に思ったのか
智くんが恐る恐る話しかけてきた。


「……あの、さ」

「あ、はい、何でしょうか?」


緊張して思わず変な敬語になってしまった。
それが妙におかしかったのか智くんが可愛らしい顔で
クスクス笑っている。


あ~かわいい。


それを見て、一瞬緊張の糸がほぐれたような気がした。


そう言えば今までクールな顔と
びっくりした顔しか見てなかった。










坂を一歩一歩緊張しながら登っていく。
隣を見るとその人がいる。


ずっと見上げたその先にあった綺麗な顔が
今はすぐ横にあって、一緒に並んで坂を登っている。
それを思い出すだけでまた緊張してきた。


智くんがどうしたの?って顔で見つめて
そして目が合うとくすっと笑う。


あ~やっぱりカワイイ。


そして、もうすぐいつもの場所。
急な上り坂がだんだん穏やかになって
目の前には校舎と校門が見えてくる。


いつもの癖で上を見上げた。


そこにはあたりまえだけど、誰もいなくて……


誰もいなくて…


イター!


いるしー!


なぜあいつがー!


そこにはいつも智くんと一緒にいた智くんと同じくらいの背格好の男。
そいつがきっと睨みつけていて目があった瞬間
背筋が凍りついた。


何も知らない智くんは
どうしたのって顔でこれまた愛くるしい顔で見つめてくる。


慌ててなんでもない、なんでもないと首を振ると
変なのと言って、んふふって可愛らしく笑った。


もぅ可愛すぎるから。












そんな風に始まった朝の二人の登校は
徐々にお互いに慣れてきて
少しずつ話もできるようになってきた。


お互い自分の事を話したり、連絡先を交換したり。
帰りに一緒に帰れるときは一緒に帰ったり。








そして








この日は委員会の仕事があり教室で待っててもらっていた。
なんとかそれを頑張って終わらせ智くんが待っている教室へと急ぐ。


もう下校時間はとっくに過ぎている。
学校内はシーンと静まり返っていた。
遠く校庭のほうからは野球部だろうか。
下校時間を特別に免除されている野球部の
カキーンとボールの打ち返す音だけが聞こえてくる。


それを聞きながら智くんの待つ教室に行くと
智くんはやっぱり窓から外を見ていた。
その姿に静かに近づいていく。



綺麗だな。


その夕焼けに染まった窓からは
いつも登ってきている坂といつも使っている駅。
そして線路、それに並行して走る国道。
その奥には海岸。
その向こうには果てしなく続く海が見えている。


そして横を向くと夕焼けに染まった智くんの横顔が見えて
とても綺麗だった。


それをぼーっと見つめていたら智くんが気づいたみたいで


「終わったんだ?」


と、言ってにこって笑った。









「ここから見える景色、綺麗だね?」

「うん」

「俺たちのほうは反対向きだから山と校庭だよ。
もう、雲泥の差ひでえよな」

「そっか。文系選んでよかったぁ」


そう文句を言うと、智くんはクスクスと可愛らしく笑う。


教室には夕焼けが差し込んでいて
机や椅子。
そして智くんの綺麗な顔を
赤く染めている。


遠くから野球部の練習している声が聞こえていて
建物内はシーンと静まり返っている。


「綺麗だね」

「……うん?」


そう言うと景色の事だと思ったのか
不思議そうな顔をしたままうんと答える。


「智くんが」

「俺が?」


なので智の事だよって言うと
ますます不思議そうな顔をした。


「そう」

「翔くんがでしょ?」

「……は?」

「その髪の色も翔くんに似合ってるし
ピアスもネックレスも似合ってて綺麗」

「あ、ありがと」


まさかそんなこと思っているとも思わなかったし
言われるとは思ってはいなかったので
しどろもどろに答える。


「ずっと綺麗だなって思って見てたんだもん」

「俺を?」

「うん」


なんだか恥ずかしくなってきて
自分でも顔が真っ赤になっているのが分かった。


それを見たのか智くんが、んふふとおかしそうに笑った。

















そう。


ずっと窓からその人の事を見ていた。


薄く染められた茶色い髪。
無造作に開けられたワイシャツからは
きらきらと光ったネックレスが顔をのぞかせている。


左耳に見えるピアス。
その端正で綺麗な顔。


何だか無性にまぶしくて
恥ずかしくて目が合うと思わず俯いた。


翔くんの手が自分に向かってゆっくりと伸びてくる。


そして両手が優しく頬に触れる。
その人をゆっくり見上げると優しくて綺麗なその顔で
じっと見つめてくる。


視線が重なった。


その綺麗な顔が角度をつけ
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


胸がドキドキしている。





そして






その人の唇と自分の唇が



ゆっくりと重なった。





そう言えば前に夢でそんな夢を見たことがあった。




でも。





その頬に触れられる手の感触。
その重ねられた唇の感触。


夢じゃない。


ゆっくり唇が離されるとその人が見つめる。


思わず恥ずかしくなって俯いた。


その人が照れくさそうに笑ったような気がした。





そしてもう一度視線が重なると



ゆっくりその綺麗な顔を近づけてきて






ちゅっと唇にキスをした。














これで、おしまいです。


ありがとうございました!












山 短編11 ショウサイドストーリー4

2015-09-29 15:29:30 | 短編





その人に向けて



手を振る。



その人の視線はまっすぐにこちらを見ている。



視線は間違いなく重なっている。



でも



その人はじっと見つめたまま、その手はピクリとも動かない。












「……」



あの時。



自分の事を知ってると答えた。


そして毎朝、二人の視線は嫌ってほど交差している。


気づいていないはずはない。


でも。


どんなに毎朝手を振っても


その人はニコリともせず、ただまっすぐな視線を


向けてくるだけ。







そして


そのまっすぐに向けられる視線に


どうしようもなく惹かれている自分がいた。








彼女に怪訝な顔をされながらも


手を振り返してはくれないその人に向けて


毎朝手を振る。




不思議な


それはとても不思議な感覚だった。





そうこうしているうちにその彼女とは


思いの比重が変わってきたことに気づかれてしまったのだろう


別れてしまった。







そしてその人とは
毎朝、登校時に出会うだけだった。
建物も別で登下校の時間も違う。


移動教室でも会わない。
学食でも会わない。
校庭でも学習室でも図書室でもあわない。


何度か用もないのにその人のいる教室の前を通った。
でも、いなかったり、いても誰かと一緒にいたり。


そう言えばいつも一緒にいるのは同じやつだ。


その人と同じ位の背格好の男。
多分その人のことが好きなんだろう。
そのクラスに行ってその人を探すと
必ずそいつが先に気づいて睨んでくる。


でも懲りずに文系側の建物を歩いていた。


そしてその日も。


その日はいろいろやることがあって遅くなってしまった。
廊下はシーンとしている。
もう誰もいないだろうな。
そう思いながらその教室の前を通った。


「……」


いた!


その人がいつもと同じ場所で窓から外を見ていた。


それに、珍しく一人だ。


めったにないこのチャンス。


どうしようかとその姿を見つめていたら、こちらを振り向いた。


「……」

「……」


視線が合う。
どうしよう?


こんなに毎日会いたくて
用もないのにうろうろしていたはずなのに。
いざそのチャンスが訪れると躊躇して何も言えない。
しかも毎日手ぇ振ってるのにシカトされちゃってるしな。


「やっと一人のとこに会えた」

「……」


そう思いながらも思い切って話しかけた。
その人が無言のまま何で?って顔で見つめてくる。


「いつも意味ないのに、この部屋の前通って狙ってたんだ」

「……狙ってた?」


正直にそう言うとその人が戸惑いの表情を浮かべた。
まあ当たり前だよね。
そんなこと言われたって意味わかんないよね。


「ふふっ意味わかんないって顔している」

「……」


そう思いながらそう言うと
その人が困ったような顔をして俯いた。


「……ね?」

「……」


そう言うと俯いていた顔をゆっくり上げる。
うつむいた顔も真正面に見える顔も、何だかとてもきれいだ。


「ずっとあなたのことが気になっていたんだ」

「……」


そう思いながら思い切って言うと
その人がびっくりしたような表情を浮かべる。


「なーんて言ったら困るよね?」

「……」


だからすぐにそう言って誤魔化して
ごめんと言ってその場を去った。









バカだバカだバカだ。 
何やってるんだろ?


バカだバカだバカだ
バカだバカだスキだ。


「……」


スキ?


好き?


そうだ。


あの人のことが、好きだ。


なんでどうしようもなく気になって仕方ないのか


わかった。














ゆっくり坂を上る


もう少し。


いつもの場所まで来ると視線をゆっくりあげる。


視線が重なった。


視線が重なったままゆっくり近づいていく。


ずっと視線は重なったままだ。


その人は、相変わらずニコリともせずただまっすぐな視線を向けてくる。






立ち止まってその人を見つめた。




間違いなく視線は重なっている。







その人の視線を感じたまま





その人に向けて







『好きだ』 と









そう、つぶやいた。















今、この状況の中で


ここを続けるのは内容的に少し厳しい気がしています。。


ただ、短編11は完成させアップします。







山 短編11 ショウサイドストーリー3

2015-09-09 18:18:44 | 短編






「櫻井」

「……」

「櫻井」

「はい?」

「もう終わったのかね?」

「あ~終わりました」

「じゃあ休んでいるとこ悪いが職員室に行って
資料をとってきてくれないか?」








この日は、授業に入る前に小テストがあった。


でもそのテストに出された範囲は自分の中で一番得意な分野で
すでに見直しまで終わりぼんやり考え事をしていた。


そこに目をつけられたのかなんなのか
先生が授業で使う資料を忘れたから
今から取って来いという。


って、冗談じゃねえよ。


めんどくせえよ。


しかも職員室って文系側じゃん。


反対側じゃん。


自分で忘れたもの位、自分でとってこいってんだよね。







……なんて、


言えるはずもなく


はいわかりました、と席を立った。










職員室は文系クラス側の建物にある。


文系クラスと自分たちがいる理数系クラスとは
部活などで一緒にならない限り
あまり交流がない。


移動教室などは共有だがすべて一階にあるため
なんとなくお互い移動の時は
一階を使って反対側の建物に移動するのが主だった。


でもその日は授業中だしと
2階の渡り廊下から渡って行くことにした。


もしかしたらあの人の姿が見えるかもしれない。


少しだけ、心の中で


そう思った。







いつもは下から見上げるだけの、その人の顔。


教室で勉強している姿はどんな感じだろう?


窓から外を眺める姿ではない


いつもとは違う、その姿。


ちょっとだけ、興味があった。


渡り廊下を抜け文系クラス側の廊下をゆっくり歩く。









いつもと違う風景。


ドキドキする。


もうすぐあの人のいるクラスだ。


左側の一番端のクラス。


「……」


って、静かだし。


誰もいねえ。


クラスの扉は両方とも開けられたままで


中はシーンとしていた。


移動教室だろうか?










「……!」


一人いた!


誰もいないと思ったその教室の中。


一人の人影が見えた。




あの後ろ姿。




間違えない。


いつも下からしか見たことがなかったけどわかる。


それがその人だと。


いつもその人が立ってる場所に
オオノ サトシ その人がいた。


って、また窓から外見てるし。
よっぽど好きなんだな。
そう思って、思わず笑いそうになった。


しばらくその姿を廊下から眺めていたが
一向に動く気配がない。


どうしよう?


このまま何もなかったように素通りする?


頭の中でぐるぐる考える。





いつも視線が合っていた。


その視線がなんなのかずっと気になっていた。


でもそう思っていたのは自分だけかも知れない。


もしかしたら実は違うところを見ていたって


可能性もある。


そんな思いが頭をよぎり


ドキドキが止まらない。







こんなこと初めて。


そう言えば自分から声をかけるって
今までなかった。


友達とはいつもどちらからともなく
自然に仲良くなっていったし
女の子に関して言えばいつも声をかけてもらうばかりで
自分から声をかけたことはなかった。





でも。


その真っ直ぐに向けられる視線。


その美しい顔。


その存在。


ずっと興味があった。






勇気を出してそっと教室の中に入る。


その人はこちらに気づく気配がない。


驚かせないように。


わざと歩く音を立ててゆっくり近づいていく。


絶対気づいているはずなのに。


その人の視線は窓の外に注がれたまま。








「……」


どうしよう?


このまま戻った方がいいのだろうか?


そんな事を思いながらどうしたらいいものかと


立ち止まって考えていると


その人が突然ぱっとこちらに振り向いた。





「……!」


目が合う。


その人はびっくりした表情を見せる。


当たり前だ。
授業の真っ最中に他のクラスの男がいたら
びっくりするだろう。


「ホントここから外眺めんの好きだね?」


そのまま驚いて呆然と立ち尽くしているその人に
思い切って話しかけ
そして怖がらせないようにそっと優しく微笑んだ。


って、怖がらせないっていうのも変だけど。


でも一度も話したことがないやつから
突然話しかけられたらびっくりするよね。
しかもこんな茶髪でピアスなんかしちゃってるし。


そう思いながらその人を見ると
その人はなんで?って顔をしたまま見つめてくる。
当たり前か。
ええと。こう言う時何て言えばいいんだっけ?


「いや、たまたま荻市に頼まれて通りがかったら
姿が見えたから。
って言っても俺のこと知らねえか」


どっちだ?


どうでる?


緊張で心臓が張り裂けそうな思いでその人を見ると
その人は首を横に振った。


その姿にほっと胸をなで下ろす。


「知ってた? 嬉しいよ。
俺も毎朝見かけてたからつい知ってる人の気分になっちゃってさ。
急に話しかけてごめん。じゃ」


そう思いながら一方的にその人に告げ
その場を去った。










緊張して自分自身なんて言ったか覚えていない。
ドキドキが止まらない。
でも話せたことがすごく嬉しくて
そしてその人の事を思い出すと
顔が、身体が、かっと熱くなる。


一方的に話しただけだけど
でも今も心臓がどきどきして止まらない。


そしてあの綺麗な顔。


びっくりした顔は可愛らしくて
ちょっと伏せがちにした顔は儚くて壊れそうで
守ってあげたくなる感じで。


って。


男の人相手なのにそんな事思うなんて
変かもしれない。








華奢な身体。


でも、それだけじゃない。


アクロバットが得意なだけあって


腕も身体もほどよく筋肉のついた


綺麗な身体をしていた。


それを思い出すだけで


自分の心臓はどうにかなってしまったのではないかと思うほど


ドキドキが止まらない。






そう言えば


声聞いていなかった。


でもまあいいや。


これから仲良くなれれば。


そう思いながら自分自身がどこか心が


ワクワクしているのを感じながら


職員室に向かった。






そして、その日から


普通の高校生活だと思っていた毎日が


普通の日常だと思っていた毎日が


自分の中で大きく


大きく


変わった事を感じていた。















ゆっくり坂を上がっていく。


もう少し。


そう思いながら


ゆっくり顔を上げる。


いつもの場所には


やっぱりその人がいて


視線が重なる。





思い切って


その人に向け





手を振った。