パソコンの用語というのは厄介なものである。そもそもパソコンを難しいという人の多くは、元来、英語であり、直訳じみた翻訳語に恐怖心を抱くものである。日常、よく使われている言葉でさえ意味合いが違って来て、たまに面食らうことがあるものだ。その一例が、「コピー」である。
コピーができません!
電話の場合、ぼくはファイルなどのコピーができないのと受け止めるのだが、受話器の向こうでは、
印刷ができません!
という意味のことが多い。マシンを前にして喋ると簡単に通じ合うことが、送話器と受話器の間では異なった絵柄が頭に浮かぶのである。あのK画伯にして、サポートの人から
窓を開けて
と言われてマシンの向こうの出窓をあけてしまったという逸話があるほどである。
あるご婦人のパソコン・ショップでの実話であるのだが、まだ湯気が立つほど新しい。「USBフラッシュメモリ」を購入しようとしているのだが、その名前がなかなか出てこない。そこで思いあまって、若い店員さんにこう尋ねた。
パソコンの、コンなの、ください
その時の、コンなのという仕種が問題なのだが、左手の親指と人指し指をUの字形にしておいて、右手の人指し指をそのUにズッポリ突っ込んだのだそうだ。ショップのスタッフは、
ハイ、これですね
と、すかさずUSBメモリの売り場まで導いてくれた。
ほらね、通じるじゃん!
かなりキワドく、危ういジェスチャではあるまいか。
目的の商品をレジー場で清算する頃になって、当のご本人、流石に顔を赤らめたという。日頃、慎みのない素振りは微塵も見せない、清楚でおしとやかな奥様である。それを知るぼくには馬鹿ウケで、しばしの間笑いが止まらなかった。
穏やかな初冬の一日、こんな日にはジャズの「AUTUMN LEAVES」がよく似合う。シャンソンの、いわゆる「枯れ葉よ~」と歌うそれである。アルバムは、「隣のヒットマン」サントラ盤。スクリーンにも登場した、ザ・チャーリー・ビドル・トリオの演奏、特にチャーリー・ビドルのベースがいい。さらに、彼の娘だと思う、奥方だったら許せない、ステファニー・ビドルの枯れて、渋みの冴えるヴォーカルがうっとりさせる。大音量で鳴らしたくなる誘惑を必死で抑えている。