※増田俊也(1965年生まれ。北海道大学中退。愛知県旭丘高校から七帝柔道に憧れて北大に入学。4年の夏の七帝戦を最後に引退し大学中退。北海タイムス社記者に。2年後に中日新聞に移る。中日在職中の2006年に「シャトゥーン ヒグマの森」で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。2013年、北大時代の青春を描いた自伝的小説「七帝柔道記」で山田風太郎賞最終候補。2016年春、四半世紀務めた中日新聞社を早期退職し、本格的な作家生活に入った)
●史上初かも 新聞社整理部が舞台
全国紙の採用試験に落ち、北海道の地方紙・北海タイムスになんとか入社した早大教育学部卒の主人公。当然、出稿記者志望だったが、配属先はまさかの整理部。同期たちは「掃除やってる部署みたい」「整理整頓の係と思われちゃう」「カッコ悪いんだよな」とボロボロにけなし、新聞社の中では地味なセクションと嫌われていた。このまま整理部に据え置かれたくない主人公は毎日スーツを着て通い、社会部記者への異動をアピールするが…。出版社の謳い文句は「会社の愛し方、教えます――ダメ社員の奮闘を描く、共感度120%の熱血青春小説!」。
最近ファンになった益田ミリさんの本を図書館で探していると、「ま行」の棚に「北海タイムス物語」なんてタイトルの本を見つけた。作者は増田俊也さん。知らないなぁと略歴を確認すると北海タイムス、中日新聞に勤めていたらしい。何となく面白そうだなと読んでみたら大当たり。100年の歴史を持つ北海タイムスの1998年(平成10年)9月2日の休刊への道を描いたものではなく、自分が現役時代に長く所属した整理部のお話だった。
久しぶりに「倍尺」という言葉に出会ったよ。二十数年ぶり? 実在の新聞社が舞台だが、出稿部門ではなく整理部にスポットライトを当てた小説なんてこれまであったっけ? 史上初じゃね? 1段が15倍、2段は中段(なかだん)があるから31倍と教えられ、「じゃ3段は?」と聞かれ「46倍」と答えると「おまえ計算ができないのか」と怒られる。「あとで倍尺よくみて覚えとけ」。いや、懐かしい(^o^)
おまけに描かれている時代は平成2年(1990年)。自分もまさにこの時代に整理部にいた。鉛活字が完全に消え、各社とも完全CTS移行への途中段階だったが、全国紙にはすでにスーパーコンピュータで大組しているところもあった。朝日のネルソン! あったねぇ、これも懐かしい。しかし、この作品に出てくる北海タイムスはその前段階で、記事、写真、凸版を印画紙で出し、台紙に糊で貼り付けていく「切り貼り」での大組。記事は棒で出力され、大組担当の製作がカッターで切って流したり、たたんだりしていくやり方だった。「文字を斜めに流したり、見出しを斜めにしたり、いろんなことが簡単にできる。だからスポーツ新聞も見出しの部分はあえてこのシステムでやっているんだ」と編集局次長兼整理部長に言わせている(最後の部分はちょっと違うと思うが)。そして、整理の面担は倍尺に加え、ハサミとカッターを持って製作現場へ走っていくなんてあると、思わず笑ってしまう。なんでそんなに詳しいの? でも、自分にとってはこの時代が一番面白く、楽しかったねぇ。新聞を作っているという手応えがあった。
新聞整理の醍醐味がとってもよく分かる作品(^o^) バイブルとまでは言わないが、副読本にしてもいいかもね。組み版がすべてコンピュータになっても価値判断、見出し、レイアウトの基本は変わらない。
ちなみに表紙のイラストは、早刷りを持ってきたスーツ姿の主人公を、Gパンでサンダル履きの整理部先輩が倍尺を振り上げ「おせーぞ」と怒鳴る、昭和なシーンかな(^_^;
|Trackback()
|
|