※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。17年「ゲームの王国」が日本SF大賞。本作で第168回直木賞受賞)
●ノンフィクションかと思った
国家とはすなわち地図、そして世界の狭すぎる住める土地を求めて拳、すなわち戦争が起こる。桃源郷と言われた満洲の架空の町・李家鎮(リージャジエン、後に仙桃城=シエンタオチヨン)の興亡を舞台に、日露戦争5年前の1899年から満州国創設、支那事変、満州国滅亡を経て終戦10年後の1955年までを描く、600ページ超の壮大な日本人、ロシア人、中国人らの群像劇。
最初は中国読みの名称が頭に入らずページが進まない。貸し出し期間の2週間で読破できるか不安に思っていたが、登場人物がほぼ出そろったあたりからがぜん面白くなり、寒さで出歩けないこともあって一気にページが進んだ。史実と虚構が絶妙に入り交じっており、空想歴史小説であることを知っていなければノンフィクションかと思ってしまうほど。8ページにもわたる膨大な参考文献が真実味を増し、作品を重厚なものにしている。
図書館予約殺到でかなり待って読み始めた途端、直木賞受賞のニュースが飛び込んできた。選考委員の宮部みゆきさんも「謎解きあり、アクションあり、うんちくもある満漢全席のような小説。こんな大風呂敷を広げられる作家はほかにいない」と絶賛している。こういうSFもあるんだ。
中国史をおさらいし、登場人物の相関図でも作りながらもう一度じっくり読みたいが、直木賞受賞で予約者は100人以上まで膨れあがっているので断念。
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