44. 英語表現をみがく (豊田昌倫著 1991年9月発行)
『 ケンブリッジ大学のC・K・オグデンが、1930年発表した「ベイシック英語」(Basic English)によると、
名詞 ― { 絵画語(200)、一般語(400)}
形容詞 ― { 特質語(100)、反対語(50)}
作用語 ― 動詞(16)
その他 ― { 助動詞(2)、前置詞(23)、冠詞・代名詞(15)、副詞その他(44)}
ベイシック英語は、840語で、コミュニケーション可能だとした。絵画語とは、絵に描くことが可能な名詞、一般語とは、絵にかけない動作名詞などである。
動詞は、次の16語である。
come, go, put, take, give, get, make, keep,
let, do, say, see, send, be, seem, have の16である。
その理由としては、enter は come in、return は come back、look は give a look のように[基本動詞+副詞]あるいは[基本動詞+名詞]でその代用がされる。
名詞は、600語で70%を占め、名詞だけでも最小限のコミュニケーションは可能であるが、言語表現のパワーは、動詞であり、基本動詞を理解することは、かなり難しい。 』
『 デクスターの「ニコラス・クインの静かな世界」から get の使い方
"Is he here?"
"In the Interview Room. I've got a rough statement from him, but it'll need a bit of brushing up before he signs it.
You'll want to see him, I suppose?"
Yes, but that can wait. Got a car ready?"
「その男はここにいるのかね」「取調べ室にいます。おおまかな供述書はとってありますが、署名させる前にすこし手なおしが必要です。その男の顔を見たいでしょ」
「そうだ、だがそれはあとまわしでもいい。車を用意してあるかね」 』
『 BBC放送の日本語部長を務める、トレヴァー・レゲット氏は、Behind the Blue Eyes と題するエッセイのなかでつぎのように述べている。
私の知っている中国人は、わずか500語しか知らないが、空を指差し、自分があたかも太陽の熱で溶けつつあるアイスクリームのような身振りをして "Sun...hot...me...ice-cream!..."(太陽……熱い……私……アイスクリーム!……)という。
これに対して、何万という英語の単語や古典的な表現を知っている日本の教授は、明確に発言しようと苦心して長い沈黙のあげく、"The weather lately has been oppressively sultry."(昨今の天候は抑圧的に蒸し暑し)と述べる。
そういえば「人と話す」の意味で I conversed with an American student のようにいう。これは形式ばった表現で、I talked with an American student のほうが自然な英語である。 』
『 英語がブリテン島に現れたのは、紀元5世紀ごろ、ゲルマン民族の一派、アングロサクソン人がブリテン島に到来した。
彼らの話していた言語は古英語(Old English)と呼ばれ、語彙および文法は、現在の英語よりむしろドイツ語に近い。
8世紀に入ってヴァイキングとも呼ばれるデーン人が来寇し、アングロサクソン民族と融合し、日常的な語彙を英語に注入する。
gate(門)、fellow(仲間)、law(法律)、hasband(主人)、ski(スキー)などの卑近な語が多く、基本動詞の call (呼ぶ)および take(取る)もヴァイキングの遺産であった。
英語の語彙に関してもっとも大きな変化は、1066年のノルマン人のイングランド侵入によってもたらされた。
フランスの北端、ノルマンディーに居住していたノルマン人が王位継承権を求めてイングランドと戦い、ついに征服したのが「ノルマン人の制服」と呼ばれる政治的な事件である。
約1150年から1500年までの英語を中英語(Middle English)と呼ぶが、この時期の英語の特徴はフランス語からの大幅な借用である。
本来語 外来語
服屋 seamer talor
深い deep profound
友愛 friendship amity
1500年以降現在にいたる英語を近代英語(modern English)と呼ぶが、語彙の面での近代英語の特徴は、ラテン語の借用である。
近代英語の初期はちょうどイギリスに於ける、ルネッサンスの時代にあたる。ルネッサンスは re(再)、naissance(誕生)の意味。つまりルネッサンスとはギリシャ・ローマの古典文化への関心の再生である。
その結果、この時代に於いてはおびただしい数の古典語、とくにラテン語の単語が英語に取り入れられた。
サクソン語 フランス語 ラテン語
問う ask inquire interrogate
始める begin commence initiate
終える end finish terminate
昇る rise mount ascend
英語ではこうした語彙の3部構造がしばしば認められる。このように外来語にはフランス語に加えて、ルネッサンスの時期にラテン語が英語に入り、英語の語彙に一段と光彩を加えたのである。 』
『 中学校の英語の教科書の不規則動詞リストには67の動詞があるが、その中で2音節以上のものは4例にすぎず、残りはいずれも単音節である。
そしてそのほとんどは古英語の時代から用いられてきた本来語である。これらの不規則動詞は、いずれも「基本的な動作ないし行為」といえる。
人間の生存を維持するための基本的な行為といいかえても良い。
ただし、この場合の人間は現在の文明社会にいきる人というよりも、英語の祖先である古英語がはなされていた紀元5,6世紀ころを考えるべきである 』
『 例えば「見る」は、一語動詞では、Look であるが名詞構文では、give a look 「電話をする」は、一語動詞では、call であるが名詞構文では、give a call となる。
Well, what do you say that I give you a call on Monday?
(では、月曜日にお電話いたしましょうか)
英語では、品詞の転換がごく自由であるところから、動詞を名詞に変えて新しい名詞構文が生み出されてきた。
read → have(take) a read
think → have a think のように表現される。
"I want you to have a think about it before next week.
Draft out a few ideas.
Nothing too detealed.
Just the outline."
(「来週までによく考えておいてほしいんだ。アイデアをかき出しておきたまえ。とくにくわしくなくてもよい。およそその輪郭だけでいいから」) (コリン・デクスター「ニコラス・クインの静かな世界」)
現代の英語にはこのように1語動詞を分析的に名詞中心の構文で表現することが多いい。現代英語の述部は[変化語+不変化語]で構成される傾向にある。
例えば、He is reading. He was reading.
They are reading. They were reading.
She will run. She would run.
I do sing. He does sing.
I did sing. They did sing.
こうした[変化語+不変化語]は経済的なパターンである。このパターンの変化語は、is, do, give, make, will, may などの基本的な動詞あるいは助動詞であり、その変化はきわめて単純である。
have a think についてみれば、[変化語(have)+不変化語(a think)]となり、主語と時制で変化するのは基本動詞の have のみである。 』
『 外国人による日本語のスピーチコンテストを聞いていると、思わず「うまい!」と声をあげたくなるような人がいる。
自然な日本語を話せるには少なくとも2つの条件があることに気がつく。それは、日本語のリズム感をマスターすること、およびつなぎのことばをつかいこなせること、の2点である。
まずリズムについては、英語とかドイツ語のリズムで日本語を話せば、たとえば、「高田馬場」は「タカッダノバーバ」となる。
日本語式に各音節に均等な強勢を与えて「タカダノババ」といえる人は囲碁将棋にたとえれば、初段の力は十分にあるといってよい。
もう一つの条件はつなぎのことば、「つまり」「というのは」「ご存知のように」といった表現を使いこなせる人は、たとえ語の途中でつまったとしても、ごく自然に耳に入ってくる。
英語におけるつなぎの表現としては、Well(さて)、as matter of fact〈実は)、in fact(実際)、actually(実際には)、to tell the truth(本当のところ)、to be honest(正直なはなし)、come to think of it(考えてみれば)、after all(結局)などがあげられる。
これに加えて、主語と動詞を含む文のかたちをとった重要なつなぎ表現として、I mean(つまり)、you see(だって)、you know(ですよ)がある。
これらは文法的には「コメント節」(comment clause)と呼ばれ、自然な会話によく用いられる。 』
『 "I was foolish enough to marry at eighteen, Inspector.
I'm sure you had much more sense than that."
"Me? Oh yes, em no, I mean. I'm not married myself, you see."
Their eyes held again for a brief second and Morse sensed
he could be living dangerously.
(「私、18歳で結婚するなんて本当にばかでしたわ、警部。あなたは分別をお持ちなので、そんなことはなさらなかったでしょう」
「私ですか? ええ、その、ええと、いいえ。私は結婚してないんですよ」二人の目はふたたび一瞬相手をとらえ、モースは危険な道が迫ってくるのを感じた〉
(コリン・デクスター「ニコレス・クインの静かな世界」)
いつもは明確なことばづかいをするモース警部の "Oh yes, em no, I mean."は、思わず答えに窮して逡巡するモースの姿を読者に思い浮かべさせるようだ。 』
『 I have to leave you now. I'm going to that coner and turn.
You must stay in the car and drive away.
Promise not to watch me go beyond the corner.
(もうお別れしなければなりません。私はあの向こうの角で曲がります。あなたは車の中にいて、そのまま行ってください。私が角を曲がって行くところを見ないと約束してください。)
1953年の製作でオードリー・ヘップバーンがアメリカ映画にはじめて主演した「ローマの休日」の場面である。
束の間の自由を満喫した王女アンが、グレゴリー・ペックの扮する新聞記者の車で送られて、夜遅く大使館に帰る場面である。 』
『 日本の大学では講義が主たる授業の形式とされているが、イギリスでは講義、演習、それにテュートリアルが3本柱と考えられてきた。
テュートリアル(tutorial)とは個人指導のことで、原則として学生は1~2週間に1度、自分のチューター(tutor(指導教授))の教えをうける。
この指導は1対1のインタビュー形式をとり、学生があらかじめ用意した小論文をめぐって討論することになる。
昔話になるが、私はロンドン大学のユニヴァーシティー・コレッジで、ランドルフ・クヮーク教授の個人指導を受ける機会にめぐまれた。
論文の内容はもちろんのこと、とくに外国人の私の場合は、英語の発音、読み方から書き方におよぶ指導はきびしさをきわめるものがある。
しかし、約1時間におよぶテュートリアルのあとで、先生に入れていただくティーの味は格別に香り高く感じられた。
最初の試練が何とか無事に終わってお礼を述べた時の、
It's a pleasure.
(どういたしまして)というクヮーク教授のことばは、今なお忘れがたい。
Thank you (very much).(ありがとうございます)に対する「どういたしまして」を意味する応答としては、アメリカ英語の You're welcome. およびイギリス英語の Not at all. あるいは Don't mention it. がよく知られている。
最近ではイギリスでも You're welcome. ともいうが、主流は Not at all. と考えてよい。
しかし、おすすめしたいのは It's a pleasure. という表現。
Not at all. とか Don't mention it. が「いいえ、どういたしまして」「お礼にはおよびません」のように、相手の感謝の気持を否定文で打ち消そうとする、いわば「消極的」表現であるのに対し、It's a pleasure. は「私のほうこそ楽しかったですよ」と自分の態度を打ち出す「積極的」表現である。(第45回)
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