米国務省は24日、日本での新型コロナウイルスの感染状況を理由に、日本への渡航警戒レベルを4段階で最高の「渡航中止勧告」(レベル4)に引き上げた。これまでは「渡航を再検討」(レベル3)だった。
レベル4が当面維持される事態となれば、7月23日に開会式を迎える東京五輪に米国選手団を派遣するかどうかの判断に影響する可能性がある。東京と大阪で24日、自衛隊による新型コロナワクチンの大規模接種が始まったが、菅義偉政権はこれ以上の感染拡大を阻止できるのか。米国や世界の信用を取り戻して、東京五輪・パラリンピックを無事開催できるのか。
◇ 国務省の勧告は、米疾病対策センター(CDC)が24日新たに公表した、新型コロナに関する世界各国・地域の感染レベルを評価する旅行健康情報(THNs)に基づく措置。
CDCは「日本の現状では、旅行者がワクチン接種を完了していたとしても、(伝染力が高い)新型コロナの変異種に感染し、自ら拡散させる危険がある」と指摘し、「日本への渡航を全面的に避けるべきだ」と警告した。
国務省は昨年3月、全世界への渡航中止勧告を発表し、8月に国・地域別に評価する方式に変更。日本は「レベル3」に引き下げられ、これまで評価を据え置かれていた。
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が続くなか、菅首相とジョー・バイデン米大統領は先月16日、米ワシントンのホワイトハウスで対面による日米首脳会談を行った。公表された共同声明には、以下のように記されていた。
《バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅首相の努力を支持する。両首脳は、東京大会に向けて練習に励み、オリンピック精神を最も良く受け継ぐ形で競技に参加する日米両国の選手たちを誇りに思う旨表明した》
米国オリンピック・パラリンピック委員会は24日、米国務省による警戒レベル引き上げを受け、「東京五輪への同国代表の出場に影響はない」とする声明を出した。
一連の米国の対応をどう見るべきか。
元厚生労働省医系技官の木村盛世氏(感染症疫学)は「渡航中止勧告は厳しい措置だ」といい、続けた。
「米国務省もCDCも、日本が欧米と比較しても感染者や死者数が少ないことや、変異株は感染力が高くても致死率が高くないことも承知しているはずだ。今回の措置は、日本も『米国への渡航中止勧告』を出しているため、その解除を求めた可能性も考えられる。ともかく、米国選手団が参加できなくなれば、五輪開催は厳しいのではないか」という。
そのうえで、日本側の問題点にも目を向ける。
木村氏は「欧米諸国が『ポスト・コロナ』といわれるなか、海外は日本の緊急事態宣言の実態を知らない。まるで『戒厳令』が敷かれているイメージで見ている。宣言発令ばかりに気をとられて、『指定感染症のレベルを下げる』『病床確保や広域搬送など医療体制の整備』などが後手に回ったツケが回ってきたのではないか。日本は海外への安全性アピールもあいまいだ。毅然とした態度で実態を説明するしかない」と語った。
スポーツライターの小林信也氏も「(渡航中止勧告は)厳しい判断で、東京五輪の開催に影響がまったくないとは思えない。ただ、選手以外の行動を管理することが難しいことを考えれば、世論が心配する『来日人数の減少』を可能な限り実現できる材料とも考えられる。前提として、国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府、東京都は現在、開催の方向で動いている。五輪の規約にも、中止は戦争や著しく安全でない場合、開催国に瑕疵(かし)がある場合に可能であり、IOCはいずれも当てはまらないと考えている。
開催には、どれだけ世論を納得させることが課題となる」と指摘した。
東京五輪・パラリンピックのコロナ対策は、大会組織委員会が4月末公表した感染対策「プレーブック(第2版)」に記されている。選手だけでなく海外の報道陣も含め、一般人との接触を徹底的に避ける「バブル方式」を採用する。
選手らは出国する96時間以内に2度の検査を義務付け、陰性証明書の提出を求める。選手村に入る際に加え、滞在中は毎日検査を実施。移動は空港到着時から公共交通機関の利用を禁じ、専用車両を使う。街中の飲食店も利用不可だ。これらが国内外に十分伝わっていないことが問題だ。
東京五輪を前にして、英国コーンウォールで来月11~13日、先進7カ国(G7)首脳会談が開催される。米国の対応を外交的にどう見るか、菅首相はどう対処すべきか。
米国事情に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「ワクチン接種率の低い日本の渡航警戒レベルを引き上げる判断は、変異株の懸念もあるため、当然といえる。ただ、すでに東京五輪は『海外からの観客を入れない』との判断が下されており、影響はないように思える。来月にはG7があるが、国際社会で渡航警戒レベルについて言及すれば、かえって世界に懸念を発信することになる。
米国の判断を尊重する程度がよいのだろう。米国も同盟国である日本の考えは理解している。日本はワクチン接種率の低さによって、世界がどのような目を向けているのかということを反省材料にすればよい」と指摘した。