4人は本丸ではない
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日本全国を震撼させた連続強盗事件の指示役「ルフィ」とみられる渡辺優樹(38歳)、小島智信(45歳)、今村磨人(38歳)、藤田聖也(38歳)の4人の容疑者がフィリピンから強制送還されてから2週間が経とうとしている。
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捜査の現場は日本に移った。この4人に対しては、特殊詐欺の窃盗容疑で警視庁の取調べが続いている。実をいうと、捜査関係者は、この4人は「本丸」ではないとして、こう証言した。
「事前に示し合わせたかのように、4人は黙秘している。ただしまったく何もしゃべらないというわけではなく、こちらが事実関係を突き付けると『そうではない、こうだ』などと反論する容疑者もいる。
窃盗などで再逮捕をくり返し、最後は狛江市の強盗殺人容疑での立件となるだろう。4人とも暴力団員でもないし、そこまで結束は固いものではないから、誰か1人がしゃべりだせば他も崩れていく。やがて『黒幕』の存在も明らかになるはずだ」
連続強盗事件で、4人の容疑者のさらに上に、指示を出していた「黒幕」がいるという見立てをしているのだ。
その黒幕とは誰か。現在、捜査線上に浮上しているのは、指定暴力団の六代目山口組関係者である。「現代ビジネス」は、その実名を具体的に掴んだ。
現在「黒幕」として浮上しているのは、RとYという2人の日本人だ。とりわけフィリピンで名が通っているのは、Rだ。
2002年の日本人殺害事件で浮上
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Rは、フィリピン・マニラの繫華街でラーメン店などを経営している。時に別名を名乗ることもあり、本名は判然としない。
現在50歳代前半、フィリピン人の女性と結婚しているようで、すでに当地に20年近く在住しているが、「日本人絡みの事件があれば、真っ先に名前が出るのがR」と地元で言われるほどの「悪党」だという。
実際、警察庁の関係者によれば、これまでもフィリピンで凶悪事件が起きると、たびたびRの名前が浮上している。
2002年12月6日、現地でカラオケ店などを経営している日本人男性Aさんが殺害された。当時のフィリピンでの報道によれば、事件は以下のようなものだった。深夜に飲食店から出てきたAさん(当時43歳)に何者かが45口径のけん銃を発射し、Aさんと店の警備員に銃弾が命中した。Aさんは病院に運ばれたが死亡した。発砲した犯人は、もう一人の共犯者が運転するバイクで逃走したという。
Aさんの一族は、日本では、コンピュータなどの機械部品工場を長く経営しており、フィリピンでも工場や飲食店など、広く事業を展開していた。Aさんをよく知るマニラの日本料理店オーナーがこう証言する。
「Aさんは、日本にあるフィリピン人パブ向けに女性を派遣する仕事もしていました。その過程でトラブルがあったのか、ある時、マニラの日本人街でAさんを中傷する日本語の文書がばらまかれました。殺害されたのはその数ヶ月後のことですが、今も犯人は逮捕されていないのです」
当時、この事件に関与した人物として噂されていたのが、件のRだったという。
1億円の現金がマニラ空港で見つかった
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「Aさんは当時、フィリピン人の若い女性と交際しており、女性は子供を妊娠していたはずですが、AさんとRが女性絡みの商売でなにかもめごとが起こった。そこでRがAさんを中傷する怪文書をばらまいたという噂でした。 Rはフィリピンに来るまえは、日本の山口組関係者だったそうで、実際Rがマニラで経営していた飲食店には、そのスジの人物がよく訪れていた。マニラでヤクザの店といえば、Rの飲食店のことだった」(前出・日本料理店のオーナー) その後も、マニラの日本料理店の乗っ取りに関与したり、日本へ金を密輸して消費税の還元を受ける、出会い系サイトに日本語の上手なフィリピン人女性を「サクラ」にして男性をおびき出し恐喝するなどそんな「商売」をしているという。 マニラでRの名前が再びクローズアップされたのは、昨年2月1日のことだった。2人の日本人が、成田発のフィリピン航空便でマニラ空港に到着した際、1億円を超す現金が発見され、摘発された。この2人の日本人は現金の「運び屋」とみられた。 「2人に現金を運ばせたのが、Rだと聞きました。Rはインターネットカジノならぬ『インターネット闘鶏』を運営して、『日本のかけ金と儲けを回収するためにカネを運ばせた』と周囲に関与を明かしていた。しかし、闘鶏でそんな儲かるわけがない」(前出・日本料理店のオーナー) ではこの現金の出所はなにか? そう、今回の「ルフィ」集団の強盗の儲けではないかと捜査当局は見ているのだ。 4人の容疑者はもともと、フィリピンの事情に詳しいわけではない。フィリピンと日本を結んで、振り込め詐欺や連続強盗事件の犯行に及ぶにも、コネクションが必要だ。そこで頼ったのが、Rだとみられている。
日本の暴力団に流れた資金
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2011年5月、今回の「ルフィ」グループの渡辺容疑者と小島容疑者はフィリピン当局に身柄拘束されているが、その時、一緒にいたのが、Kという人物だ。とりわけ、このKはRと深い関係を築いていたという。
今回の事件では、渡辺容疑者らがいるビクタン収容所から、強盗殺人事件への指示が出ていたとされる。だが、おカネは誰が運んだのか、誰が具体的な指示をしたのか。先に触れた2人の日本人がフィリピンに1億円あまりを運んだのも、その手引きにRが関係していたのではないかとされる所以だ。
警察庁では、ルフィの強盗団の被害総額は60億円と発表したが、実際にはその倍近い100億円程度ではないかともみられる。そのカネは、結局どこへ流れ込んだのか? 捜査関係者が明かす。
「すでに警視庁はフィリピンでも捜査しているが、4人の容疑者は、そこまで大きなカネを手にしている形跡がない。
Rの親族は、六代目山口組の山健組傘下の組長で、R自身も過去に日本で何度か逮捕されている。Rらを通じて日本の暴力団に流れた可能性もある」
繰り返すまでもなく、渡辺容疑者の振り込め詐欺については、2019年11月にフィリピン・マニラの廃ホテルでかけ子など36人の日本人が拘束され、日本に強制送還され、全員が有罪判決を受けている。
2020年2月、警視庁は渡辺容疑者らの犯行グループからカネを受け取ったとして、六代目山口組傘下の福島連合(本部・北海道)の組員を組織犯罪処罰法で逮捕し、事務所に家宅捜索に入っている。
「渡辺容疑者は、札幌のすすきのの繫華街で客引きをしていた時に暴力団とつながりができた。いわば『周辺者』のような位置づけだ。小島容疑者は準構成員で、犯行グループと暴力団、なかでも六代目山口組は深い関係にあるとみている。また全国各地で渡辺容疑者が関与した強盗事件で逮捕した容疑者の携帯電話の解析から、指定暴力団稲川会の関係者の痕跡が疑われており、強制捜査も視野に入れている」(捜査関係者)
元山口組顧問弁護士で、現在はYouTubeで「山之内幸夫チャンネル」を手掛ける、山之内幸夫氏がこう語る。
「捜査線にRらの名前が出ていることは間違いなさそうだ。Rは徳島県出身で、父親が暴力団の元組長とも聞く。渡辺容疑者ら4人の背後に黒幕として暴力団がいたのかどうか。暴力団側がみかじめ料のようにカネをとっていたことは十分にありうる。
しかし、振り込め詐欺や強盗となれば、いまや使用者責任で組長の責任が問われる時代で、暴力団が直接犯行に加わっているとは考えにくい。
黒幕まで広げて捜査するのかどうかは、警察の意向によって大きく変わってくるだろうが、その手柄を自慢したいと思えば、黒幕に切れ込んでくることもありうる」 黒幕の摘発はあるのか。