太極拳繋がりで知り合った田中智子さんが主宰する「朗読の会 心音」の公演があり、ちょうど太極拳の教室は夏休み、久しぶりに予定なしになった土曜日の午後、鎌倉生涯学習センターまで。
猛暑が続く今年の夏、この日は気温が低く、風も涼しく気持ちの良い日になった。
週末は途方もなく混雑する鎌倉駅も、普段の休日よりは人が少なくて、鎌倉の駅前は湘南の風が心地よい。
今日のプログラムは、「池の中の王様」と、「いしぶみー広島二中一年生全滅の記録−」。
“全滅”の文字が胸を突くが、このグループのコンセプトでもある「忘れてはいけないこと」を思えば、苦しくても考えなくてはならない問題だ。
まずは田中さんの門下生による朗読(劇?)「池の中の王様」。
池の中で生まれた100匹ほどのオタマジャクシの中に1匹だけ、問題意識の高いコがいて、そのコが自分の周りのあらゆるものに「何故?」「どうして?」を発しながら、やがて手足が出て来てカエルになっていく・・・・目を閉じているとラジオドラマを聴くような感じ。
門下生の皆さんが交替で読んでいくのだが(ナレーションというか物語を進行する人、オタマジャクシのコを読む人、途中で出会う大人?や虫たちを読む人など声色を替えて本を読む)、読む人の声の高低や質で、スッと気持ちに入ってくるシーンもあれば、ちょっと抵抗を感じる声もあり。。。でも、皆さん声がよく通って、聞きやすい。声を出すことをやってないなぁ〜(教室で指導している時は大声出す時もあるが)、と感じる日頃、とてもいい刺激になったのであります。
メインは、「いしぶみー広島二中一年生全滅の記録−」。
広島で、原爆投下にあった広島二中一年生達のその日を、後日、生き残った人達や両親の証言を集めた、広島テレビ放送原作による記録の朗読である。
日記や、最後に残した言葉や死ぬ間際の様子(「“海ゆかば〜”をやっとでる声で口ずさんだ子もいると。そんな歌、歌わなくていいンだよっ!」、焼けただれた死体が重なる中から自分の子どもを探し出し、なんとか家に連れ帰るも結局は焼けただれた身体のまま手当する手段もなく、眼の前で子どもは死んでいくその惨さ。。。(お母さんの手記をそれぞれが読んでいく)
最後に主宰者の田中さんが一人一人の名前を読み上げるのだが、死者数では実感できない“死”が、名前を読むことで一人一人の存在が浮き上がる・・・なるほど、名前と実体は一致していると胸を打たれる。
ステージ上に映写される写真を見ていると、中学生たちの性格が想像できるようで、“生きていた命が一瞬にして消える(!)”という衝撃、寂謬感。。。
名前を聞きながら、切なく哀れで涙が出て来たが、一方で、怒りも沸々。
「どうしてこんなことになったの?!」、「誰が、この戦争を始めたの?!」、「子ども達を捲き込んで、正しい情報を隠して戦争を突き進めたのは誰?!」。。。。ほとんど、「責任者出て来い!!」って気分であります。
以前に一度聴いたことがある朗読は、一人の読み手が静かに淡々と読み聞かせる内容であったが(それはそれで読み手の語り口が素晴らしく美しかった)、今回のように、ラジオドラマを聴くような構成は初めてでもあり、テーマも合わせて心に深く残った。
鎌倉だし、陽気もいいし、帰りにネットで評判の鎌倉生涯学習センターのソフトクリームを食べて来よう!くらいの気分で行ったのだが、でも、そんな軽い気持ちで行ってもいいと思った。悲愴感があっては長くは続かない。記憶にとどめておいて、何かの時にかつてこんなことがあったことを思い出せば、今やらねばならないことも判断できる。
まさに「忘れてはいけないこと」があることを、「忘れてはいけない」—それは判断する、という物差しを捨てることになると思うのだ。