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知的財産権:特許は1人じゃ生きていけない

2014年09月07日 | コンサルティング

前回に続き特許をめぐる話題を取り上げます。特許の帰属がすべて企業になってしまうと、発明者である会社員のモチベーションは下がるとします。ならば、その逆を考えてみましょう。

会社員が業務として開発した発明を「すべて会社員の権利にする」とします。この場合、発明に使われた労働時間と設備機材、消耗品、電気・ガス・水道代、さらに出願に関わる費用も会社が全額負担することは合理的でしょうか(会計上、給与扱いになるかもしれません)。もしかすると、上記のような費用一切合財を、会社が社員個人に請求するかもしれません。

「いや、業務で行った発明だから会社が負担するべきでしょう!」という意見もあると思います。しかし、会社が社員個人の(知的)財産の取得にかかる費用を全額無償で提供することはあり得ません(株主が許さないでしょう)。「では、半々で」とか「お互い話し合ってパーセンテージを決めればよい」ということになります。

その際、まったく活用されずに権利期間が過ぎてしまった特許はどうなるのでしょう。会社員は、特許取得にかかった費用のいくらかを負担したあげく、特許による収入が全く得られないことになります。

どれほど革新的な特許であっても、ユーザーのニーズを満たさないものは活用されずにその寿命(20年)を終えることになります。知的財産基本法にもあるように、「産業上の利用可能性があるもの」が価値のある特許です。

さらに肝心なことは「特許は、一人ではいきていけない」 ということです。

特許は企業にとって知的財産権のひとつです。知的財産とは「発明、考案、意匠、著作物など、創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品、営業秘密他、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報(一部省略)」です。

たとえばスマートフォンひとつをとっても、いくつかの知的財産から成り立っているのが分かります。

特許庁ホームページ※「知的財産権制度の概要」”産業財産権”より


 こうした製品は、発明によって生み出された新しい技術が中核になっていることは間違いありません。しかし、「商品」としてユーザーが選択する際に、商標や意匠が決定的な役割を果たすことも少なくありません。

たとえば、デザイナーは意匠という価値を生み出しています。スマートフォンの例に限らず、様々な知的財産が周囲をがっちり固める、いわば「知財チーム」があってはじめて特許が生きてきます。

また、発明を形にする製造部門、製品のイメージを作り出すマーケティング部門、それを売る営業部門など、多くの人の手を経て「商品」となってユーザのもとに届きます。特許によって生み出された「発明」がユーザの「価値」になるまでの道のりは、このようにとても長いのです。

今回の「職務発明の帰属」をめぐる新聞報道は、私にとってあらためて「会社というチーム」の存在をじっくり考えさせてくれる機会となりました。

※ http://www.jpo.go.jp/seido/s_gaiyou/chizai02.htm

(人材育成社)