「とても面白いと思いながら読んだ本のはずなのに、数か月後には読んだことは覚えていてもあまり中身を思い出せない、また、数日前に衝撃的な内容だと思いながら読んだ新聞記事のはずなのに、内容をはっきり覚えていない」
こういう経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。私自身、最近は以前にもましてこのようなことがよくあります。年齢のせいもあるのかもしれませんが、体の不調をはじめとして、全てを年のせいにしてしまっては何の解決にもならないのは言うまでもありません。
学生時代には、よく周囲の大人から復習の重要性を言われてきましたが、授業の内容ならともかく、読んだ本の内容や新聞記事をいちいち復習するということは、現実的ではありません。
でも時々、本の内容にしろ、テレビや新聞等で見聞きした話であっても、それがはっきり記憶に残ることがあります。それは一体どういう時なのかを思い返してみると、その内容を他者に説明していた時なのです。一所懸命、人に内容や感想などを説明すると、それにともなって鮮明に記憶に残るように感じています。
では、なぜ説明をすると記憶に残るのでしょうか?
私たちは、他者に話をする時に自然に要点を伝えたり、相手にわかってもらいやすい表現をしていますが、それらを短時間のうちに工夫することによって、同時に内容が整理され自分自身の理解が深まり、それにともなって記憶の定着度が高まるように感じています。
弊社が担当する研修では、テーマによって内容を3回程度のステップに分けて行うことがあります。1回目と2回目の間、2回目と3回目の間にインターバルを入れるのですが、このインターバルの間に研修テーマについて実際に職場で実践してもらい、うまくいったところ、いかなかったところを確認して、どうすればうまくできるようになるのかを考えてもらってから、次のステップにのぞんでもらうのです。
インターバルの期間はテーマや目的によって異なり、2週間程度だったり長い時には1年くらいあけることもあります。このインターバルを設けることによって、上記のように講義の内容や演習によって練習したことを現場で試すことができますから、それにともなって理解自体も深まることになるのだと思うのです。
また、このインターバルの際には知識のみならずテーマに関するスキルを使いこなせるようになるという大きなメリットがありますので、インターバルを設けて研修テーマをきちんと実践するということは非常に大きな効果があると思っています。
一方、インターバルの際に何もしないと1回目の研修の内容をすっかり忘れてしまうことも多く、その状態で次のステップの研修にのぞんでも実践している人との間に大きな差ができてしまうことは言うまでもありません。
インターバルの際に何もしなかった人にその理由を尋ねてみると、「仕事が忙しく、なかなかやれなくて・・・あっという間に2回目になってしまい、1回目の内容を全く忘れてしまった」ということが多いのですが、それではせっかくインターバルを設けた意味がないことになってしまうのです。
そこで弊社では、最近は研修で「研修の内容を他者に説明をしてください」とお願いしています。3分~5分程度の時間で研修内容を説明しようとすると、まずは要点をまとめなければなりませんから内容の整理ができます。また、他者に伝えるためには自分が内容をきちんと理解していなければなりませんから、そのための復習も必要になるかもしれませんので、そうなれば研修内容の理解力が上がり、きちんと記憶に残ることは間違いなしだからです。
「いきなり説明するのは難しいな」と感じる方は、まずは研修が終わって職場に戻ったり家に帰った際に、同僚や家族に「今日の研修は大よそこんな内容だった」と話してみることからはじめ、だんだんと細かく話していくこともいいかもしれません。それを続けることで、きっと理解と記憶が上がったと感じられると思います。
(人材育成社)