中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

第848話 生存者バイアスにご用心

2019年10月09日 | コンサルティング

「99人以下の中小企業の社員が辞めずにイキイキ働くようになる」を実現する人材育成社です。

ある大企業で若手社員の離職率がいっこうに減らないので、人事部は悩んだ末に若手社員を対象にした「従業員満足度調査」を行い不満の原因を調査しました。その結果1位は「給料が安い」、2位は「福利厚生が貧弱」でした。

人事部はさっそく給与制度を大胆に変更し、若手社員の給与水準を業界平均より少し上にしました。また、借上げ社宅制度を作り、保養所やジムなどの福利厚生施設の利用契約を行いました。

その結果、確かに離職率は減りました。ただし、ほんのわずかです。

これは一種の「生存者バイアス」を示す一例です。

生存者バイアスとは「何らかの選択過程を通過できた人・物にのみを基準として判断を行い、通過できなかった人・物は見えなくなるためそれを見逃してしまうという誤謬(Wikipedia)」です。

わかりやすい例は画像に示された飛行機の損傷部分の図です。第二次世界大戦中、戦闘を行って帰還してきた飛行機の被弾箇所(敵の弾を浴びた部分)が赤い点で示されています。

これを見ると、赤い点の部分を集中的に補強すれば、戦闘機の生還率も高くなるように思えます。

しかし、答えは逆です。赤い点の部分の補強はしなくても良いのです。

なぜならば、「生還した飛行機」は赤い点「以外」の部分はほとんど被弾していないからです。つまり、「赤い点以外の部分に被弾した飛行機」は帰ってこなかった、すなわち撃墜されてしまったわけです。

たしかによく見るとプロペラやエンジン部分、先端部分に赤い点はほとんどありません。エンジンや先端部分(兵士が乗っているところ)に弾を浴びたら墜落してしまいますから、帰って来ることはできません。

先ほどの企業も同じです。結局「なんだかんだ言っても辞めていない社員」の意見を取り入れて、退職した若手社員の話を全く聞いていなかったということです。

人事部長の「辞めて行った奴の意見なんか聞いてもしょうがないだろう。去る者は追わずだよ。今いる連中の不満を解消することだ。」という言葉がそれを表しています。

一方、(サンプル数は少ないのですが)当社による退職した若手社員へのインタビューによれば、退職理由は「職場の人間関係」がほとんどでした。

給与や福利厚生の改善よりも、会社の雰囲気や上司と部下の関係をしっかり調べ、時間をかけて会社の風土を変えていくことが若手社員の離職を減らす方策だったわけです。

この会社の人事部長は、新しいコンサルタントを雇って再度「従業員満足度調査」を行うとのこと。やれやれ、です。

皆さんの会社ではこんなバイアス(間違った思い込み)が起きないようご注意ください。

参考:生存者バイアス - Wikipedia

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