「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「上司の役職定年が延長されなければ、退職しようとは考えなかったです」
これは、ある企業に20年以上勤務し、監督職として働いていたAさんが自らの退職を決断した際に、その理由として私に語ってくれた言葉です。私はAさんが勤める企業の研修を以前から担当させていただいていたため、Aさんとは何度かお会いしたことがありました。Aさんの研修中の発言や研修に取り組む姿勢を見ていて、前向きに仕事に取り組む人であると同時にリーダーシップもある人ではないかと考えていましたので、将来が楽しみな逸材だと感じていました。
そのAさんが冒頭のように今回、退職を決断したということなのです。話によると、Aさんは自分たちの世代が管理職になったら「今よりも、もっとよい会社にしたい」と考えていたとのことで、彼なりの夢があったとのことです。そしてそれを実現するためには、監督職よりさらに大きな権限が必要となることから、早く管理職になってプラスの影響力を発揮したいと考えていたそうです。しかし、この度会社が役職定年の廃止を決めたため、上の世代が会社に残っている以上、会社を変えていくのは簡単なことではないと判断して、退職の決断に至ったとのことでした。
近年、役職定年制を廃止する企業が増えています。パーソル総合研究所の役職定年制導入の有無などについてのヒアリング調査によると、役職定年制の制度があるとした企業は31%、新設した企業は13%、反対に制度廃止が16%、廃止予定が13%、制度なしが28%とのことです。(2024年7月15日 朝日新聞 朝刊)
調査から見えてきたのは、今後も役職定年を廃止する企業は増える傾向にあり、その割合は約6割になるとのことです。役職定年を廃止する理由には、給与が下がることによる役職者の仕事に対するモチベーションの低下、管理職の不足、また労働人口の減少により若手を採用することが難しくなっていることから、労働力の補足などがあると言われています。こうした状況の中では、役職者のこれまでの経験により培われた様々なノウハウを維持できることは、組織とって魅力があることは確かだと思います。
しかし同時に、組織には定期的に人が入れ替わることで次の世代が育つという面や、それによる活性化が期待できるという面があります。先述のAさんの例ように、役職定年の廃止によって組織の新陳代謝が阻まれることになり、人事が硬直化してしまう結果になってしまうことや、次世代を担う人材のモチベーションが低下してしまうなどの弊害が生じる可能性があることも、また事実です。
人件費の抑制や組織の活性化などを目的に始まった役職定年制度ですが、人手不足やモチベーションの低下をはじめとする現在の状況は、制度の導入当初の想定を超えるものになり、企業などでは様々な試行錯誤をしながら、そのバランスを探っている状況だと思います。
今後、役職定年制度がどのように推移していくのかは今の時点では定かではありません。仮になくしていくような流れであるにしても、単純に以前と同じ形に戻すのではなく、どのような形が一番合っているのか、それぞれの企業にはさらなる工夫が求められるのではないかと考えています。
前述の新聞記事でも、各社様々な取組みを既に行っているとのことであり、今後どのような形にまとまっていくのか、引き続き注視していきたいと考えています。